1人と1匹   作:takoyaki

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五十三話です。





日曜朝八時も次回で最終回………寂しいです……




てなわけで、どうぞ







昨日の風は、昨日で終わり

「………ゼ、エリーゼ!」

ジュードの声でエリーゼは、ようやく我に返る。

ボーッとしている間に、いつの間にか、出口まで来ていたのだ。

「構えておくれ、エリーゼ」

ホームズが、エリーゼに注意を促す。

その言葉にエリーゼは、やっと自分の周りに魔物達がいることに気付く。

魔物達は、いつ飛びかかってきてもおかしくない。

一瞬たりとも気が抜けない。

 

 

 

一同が警戒を強める。

 

 

 

 

「おーい、お前達やめんか!」

 

 

 

 

 

そんな時、野太い男の声が聞こえてくる。

 

 

 

しばらくすると、地響きと共にガタイのいい、ヒゲの生えた大男が飛び降りてきた。

 

アルヴィンは、思わず体制を崩す。

 

 

「すまんな。密猟者を追っていたんだ」

 

 

「ジャオ……!」

ミラは、少し驚いた様に言う。

「ん?お前さん達どうして………」

ジャオは、そこで、ホームズが目に入る。

「ホームズ?!本当にどうしてこんなところに?」

ホームズは、少しの間観察する様に見る。

「………お久しぶりです、ジャオさん」

少し間をあけてホームズは、頭を下げる。

「知り合いだったのか、ホームズ?」

「まあね」

ミラの言葉にホームズは肩を竦めて返す。

「どうして、ジャオさんと?」

ジュードの言葉にホームズは、ため息を一つ吐く。

「……一応、覚えてるとは思うけど、おれ、行商人だよ」

レイアは、ホームズの言葉にポンと手を叩く。

「そっか、お得意様って奴だね」

「そゆこと。ま、他にも商売する時の手続きとか、色々やってもらったんだよ、ね、ジャオさん」

「あ、あぁ、そうだ」

ホームズの確認するかのような言葉にジャオは、少し戸惑いながら、頷く。

その後直ぐに、ジャオは、沈鬱な面持ちになる。

「それよりも、娘っ子……とうとうこの場所に来てしまったのじゃな……」

エリーゼには、何がなんだか分からない。

ジャオは、そんなエリーゼに気付かず、さらに言葉を繋げる。

「覚えておるのだろう?」

しかし、エリーゼは、俯いてしまう。どうやら、記憶に無いようだ。

「エリーゼ、どういう事?」

エリーゼは、無言のままだ。

「ここは、お嬢ちゃんが育った研究所なんだよ」

そんなエリーゼに代わり、アルヴィンが答える。

アルヴィンの答えを聞きジャオが続ける。

「以前侵入者を許してしまっての、その時この場所は、打ち捨てられてしまったのだ」

「侵入者、ねぇ」

ホームズは、意味深に呟きなが、アルヴィンを見る。

アルヴィンは、ため息を吐いて、答える。

「いい勘してんなぁ……そうだよ。増霊極(ブースター)についての調査だったんだ」

アルヴィンの言葉にジャオは、思わずたじろぐ。

「なんと……お前さんじゃったのか」

ジュードは、アルヴィンの言葉に首を傾げる。

増霊極(ブースター)って何なの?」

 

 

 

 

 

「ア・ジュールが開発した、霊力野(ゲート)から、分泌されるマナを増幅させる装置だよ」

そう言って、アルヴィンは、ティポを顎で示す。

「ティポがそうだ。第三世代型だそうだ」

エリーゼは、驚いてティポを見る。

「なるほど、ジャリの精霊術は、そう言うカラクリになっていたのか……」

ヨルは一人で納得している。

分泌されるマナが、増幅されれば、精霊術の威力が、上がるのも頷ける。

「そうなんですか、ティポ……?」

エリーゼの質問にティポは、クルリと一回転してエリーゼに向き直り、口を開く。

『ぼくの名前はティポだねー。よろしくー』

会話が合わず奇妙な感じだ。

そんな一同の気持ちに答える様にジャオが口を開く。

 

 

 

「ティポは、エリーゼの心に反応し、持ち主の考えを言葉にするんじゃ」

ジュードは息を飲む。

「それじゃあ、ティポは、エリーゼの考えを喋ってたってこと?!」

つまり、エリーゼは、ティポと喋っていたよう見えていたが、実際は、独り言を喋っていた様なものなのだ。

「……随分とエグい話だねぇ……」

ホームズは、渋い顔をしている。

自分の考えた言葉しか喋らない実験器具をエリーゼは、友達と思っていたのだ。

(……道化師(ピエロ)もいい所だよ……)

ホームズは、心の内で呟く。

「嘘です!ティポは、ティポが喋っていたんです」

エリーゼは、力の限り否定する。しかし、本人も分かっているのだろう。だからこそ、不安だからこそ、次の言葉を投げかける。

「ティポは、仕掛けがあっても私の友達です……よね」

藁にも縋る思いなのだろう。声が震えている。

『ちがうよー。ぼくはエリーゼの友達なんかじゃないよー』

しかし、返答は、無情なものだった。

「ち、違います!」

『違わないよー。ぼくは、エリーゼの考えている事を喋ってるだけだからー』

エリーゼの否定は、更にティポによって否定される。

 

 

 

『全部、エリーゼの勘違いだったんだよー』

 

 

 

 

「エリーゼ………」

ジュードは、そう言うのが精一杯だった。

肩を落すエリーゼは、憐れそのものだった。

「ヨル、君は気づいていただろう?」

ホームズは、肩に乗っているヨルに問う。

ヨルは一度鼻で笑うと次の言葉を続ける。

「ヌイグルミが喋るなんて、普通では考えられないだろう」

「喋る猫が何を言ってるんだか……」

正確に言えば、猫では無いのだが。

そんなお喋りに構わず、ティポは、ふよふよと浮いてエリーゼの手から離れる。

『教えてよ、おっきなおじさん。ひとりぼっちのエリーゼのお父さんとお母さんはどこにいるのー?』

その質問、エリーゼの最も聞きたかった質問に、ジャオは言いづらそうに顔を顰める。

「それはのう………もう、この世にはおらぬ」

「え……」

折角聞けた答えだが、それは最も聞きたくない答えだった。

 

 

 

 

「お前が四つの時に、野盗に遭いころされたのじゃ」

 

 

ジュード達は、突然の事に言葉が出てこない。

ホームズは、闘技大会の日、エリーゼが両親に会いたいと泣いていた事を思い出していた。

 

 

「もう、会えないんですね……お父さんにもお母さんにも、ティポにも……」

エリーゼは、俯きながら言葉を口にする。

「エリーゼ………」

ジュードは、何とか慰めようとする。

レイアはエリーゼに近づく。

「気を落とさないで、エリーゼ」

しかし、その慰めは、直ぐに振り払われる。

「ジュードやレイアには、ちゃんといるじゃ無いですか!みんな……」

『そんな人達にエリーゼの気持ちがわかるもんかー』

最後のティポの言葉、エリーゼの心の声だろう。

ジュードとレイアは何も言えなくなってしまう。

エリーゼは、叫ぶだけ叫ぶとそのまま走り去ってしまった。

「エリーゼ!」

レイアは、急いで追い掛ける。

ホームズは、隣りにいるローズに声を掛ける。

「ローズ、君も頼むよ………多分レイアが今何を言っても、ね」

ローズは一瞬理解できなかったが、何と無くホームズの言わんとしている事を理解する。

「………分かった」

両親のいるレイアよりも両親のいないローズの方が側にいた方がエリーゼも何かといいのだ。

エリーゼが走り去るのを見届けるとジャオも走り去ろうとする。

 

 

「待て、ジャオ。どうして、エリーゼは、研究所などにいた?」

ミラの言葉にジャオは足を止めて振り返る。

「うむ……連れてこられた……売られた様なものだ」

「売られた?」

ホームズは、眉を顰める。

「うむ。娘っ子の様な孤児を見つけては、研究所に連れてきていた女に………名は……」

ジュードは、頭に人差し指を当てる。

「まさか……イスラ?」

ホームズは、ジュードの言葉に目を丸くする。

「おお、そんな名じゃった」

ジャオは、得心が言った様に頷く。

二人の会話を黙って聞いていたホームズは、思わず目を向く。

「イ………スラ?」

掠れた声を喉から絞り出すように、ホームズは呟く。

「ああ、そう言えば、ホームズは、会ってなかったね、えっと、イスラさんってのはね……」

 

 

 

 

「知ってるよ」

 

 

 

 

ホームズは、説明など不要と言うように感情を込めずに言う。

突然の予想外の言葉にジュードを含めた全員が首を傾げる。

「え……?だって、ホームズ……」

そう、シャン・ドゥに来てから一回もイスラに会っていないし、ホームズの前では話題にも登っていない。

マーロウの所に行っていたり、二手に別れた時、毎度いなかったりとしていたからだ。

だから、ホームズは、イスラの事をはっきりとは、知らない筈なのだ。

「知ってるって言ってるだろう!」

尚も説明を続けようとする、ジュードにホームズは強く言い切った。

ホームズは、手のひらを関節が白くなる程握り締めている。

「ホームズ……?」

ジュードは、ホームズの豹変に驚く。

いや、ジュードだけではない。ミラもアルヴィンもローエンも驚いている。

そんな中、ホームズは、ようやく周りが自分の事を見ているのに気づく。

一瞬だけ、しまったという顔をしたが、直ぐにいつもの表情に戻る。

「あ、いや、ほら、おれって人脈が広いから……」

「ホームズ」

ミラは胡散臭い笑顔で見苦しい弁明をしているホームズに言葉を遮る。

「話せ。全部とは言わない、少しでいい」

ホームズは、ミラの言葉に対していつもの様に誤魔化そうとする。

しかし、ミラのその力強い目に、ホームズは観念したように目を伏せる。

「………おれ、他にもそういう女の子に会ったことがあるんだ、行商の途中でね。いつも寂しいって泣いてた……まあ、施設に引き取られていたけどね。それが本当に辛そうでさぁ………」

「もしかして、エリーゼさんとその子を重ねていますか?」

ローエンは闘技大会の前での出来事を思い出す。

「かもね……あの子に会って以来、どうもガキのメソメソが苦手なんだよね」

ホームズは、そう言うと言葉を区切る。

「その時、色々と合ってさ……売ってる奴がイスラって名前の女だってことを突き止めたんだよ」

そして、言葉を区切り、伏せていた目をジュード達に向ける。

「そっか、君達、彼女に会ってたのか……」

ホームズは、息を吐く様に言う。

「………わしが言えた義理では無いが……頼む、あの娘っ子をこれ以上、一人にせんでやってくれ」

ジャオは、そう言うと密猟者を追って再び姿を消した。

 

 

 

「……ホームズ」

ミラはホームズを呼ぶ。

「きっと、全部ではないだろうが、話してくれて感謝する。辛い思いをさせてしまったか?」

「ま、楽しくはなかったさ」

ホームズは、肩をすくめる。

その返しにミラは何とも言えない顔をする。

そんなミラにホームズは苦笑いをする。

「そんな顔をしないでおくれよ。別に怒ってる訳じゃないんだから」

そういいながら、ホームズは、アホ毛を触る。

「ちょっと、思い出して、情けなくなっただけだから……」

「ホームズ………」

ジュードは、なんて声をかけていいのか分からないようだ。

そんな、ジュードの様子を察して、ホームズはポンチョを翻し、背を向ける。

「さ、エリーゼ達の所に行こう」

「……そうだな」

こうして、一行は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ヨル」

「……なんだ」

ホームズは、少し間を空ける。

自分の知らない所でこんな風に繋がっている事にホームズは、戸惑いを隠せないでいた。

だからこそ、考えてしまう。

こうしていれば、と。

「あの時さ………って、聞いてないね!」

ヨルは、どうでも良さそうに欠伸をしている。

「俺は無駄な事は嫌いなんだ」

「無駄なこと?」

ホームズは、首を傾げる。

「過去の可能性を探すことだ。お前は今まさにそれをしようとしただろう?」

ホームズは、言葉を詰まらせる。

「前にも言ったが、過去の出来事に、もしも何て求めてどうする?何も変わらないだろ」

ヨルは、真っ直ぐに前を見つめる。

「幸せな過去は、希望に、

 

 

辛い過去は、力に、

 

 

 

過去の過ちは、経験に、

 

 

それぐらいの心づもりで行けばいいんだよ。

どんなに嫌がったって、無かった事にはならないんだから」

「………そうだねぇ……」

ホームズは、少し暗い顔をし、無かった事にならない、いや、無かった事にしたい過去の事を考える。

しばらく、思考の中に沈むが、頭を振ってて切り替える。

「今はエリーゼだ」

ホームズは、前を向いて力強く踏み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『背負った過去(荷物)を確認するのは、いいけど、後ろばかり振り返るのは、やめた方がいいよ。

そんな暇があるなら、前を向きたまえ。

でないと、後悔は、増えるばかりだ』

 

 

 

 

 

 

母の言葉を思い出し、ホームズは更に歩みを進めた。

 

 







iPodが、新しくなりました!


これで、サクサク更新できる!………ような気がします。







画質がヤバイです。



凄いですね………最新式。



まあ、更に新しいのが発売らしいですけど………




では、また五十四話で( ´ ▽ ` )ノ

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