1人と1匹   作:takoyaki

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二百三十二話です。




てなわけで、どうぞ


猫も喋れば

「勝った………?」

「みたいだねぇ………」

そう呟くと刃が甲高い音を立ててホームズ達の目の前に折れた刀が落ちてきた。

青みがかったそれには、見覚えがある。

「これって、次元刀か?」

ヨルが不思議そうにそれを見ている。

ガイアスの次元刀。

折れたそれがあるという事は?

その問いは、考えるまでもない。

「ぐっ………」

ガイアスは、膝をついていた。

勝敗は、決した。

「マクスウェル!!」

ミラの声が響く。

四大が現れ、クルスニクの槍に精霊術をかける。

ゆっくりとクルスニクの槍は展開されていき、マクスウェルが現れた。

ジュード達の勝利だ。

それを見たローズは、気が抜けたのだろう。

ふらっと力が抜け身体が傾く。

それに気付いたホームズが支えようとするが、ホームズも限界まで身体を酷使しした為、力が入らない。

「あー………だよね」

そのまま二人とも折り重なるようにうつ伏せで倒れた。

「………お」

「重いとかいうんじゃないわよ」

ホームズの言葉を先回りして、ローズが封じる。

「じゃあ、早く退いておくれよ。さっきから、肋骨が当たって痛いんだけど」

「貴方のデリカシーのなさは、ヘビー級よね」

ローズは、ジトっとした目をしながら忌々しそうに言う。

「二人とも、大丈夫………じゃなさそうだね」

「君もね、レイア」

治療しにやって来たレイアにホームズは、そう言葉をかける。

レイアもホームズ達に負けず劣らずボロボロだった。

「私だけじゃないよ」

そう言って指差す先には、傷だらけの面々がいた。

「まあ、当然だよね」

「今回ばかりは、ホームズのことを責められないなぁ……」

そうぼやきながら、レイアは先ずホームズの背中にいるローズに精霊術をかける。

なんとか動けるようにまで回復するとローズは、立ち上がる。

回復したローズを見届けるとレイアは、ホームズにも精霊術をかける。

少しずつ身体が軽くなっていき、ホームズも何とか立ち上がった。

「…………レイア?」

いつまでも立ち上がらないレイアにホームズは、首をかしげる。

「ごめん。今ので使い切っちゃった」

マナを使い、立ち上がる体力も無くなったようだ。

「君ねぇ…………」

ホームズは、呆れて溜息をつく。

「いやあ………あははは」

気まずそうに笑うレイアの口にホームズは、ミックスグミを放り込んだ。

「…………!?」

目を白黒させながらレイアは、ミックスグミを飲み込む。

「ファイザバード沼野では、助けてもらったからね」

「アレは別に私のでも無いけどね」

レイアは、そう言って足に力を込める。

力が少しばかり戻ったレイアは、立ち上がった。

「おっとと……」

まだ、すこしばかり力が入らずよろけるレイア。

そんなレイアをローズが支える。

「ありがとう」

「別に。貴女にかけた迷惑に比べれば大したことないわ」

「…………ハハハ」

乾いた笑いを浮かべるレイアにローズは、溜息を吐く。

「否定しないのね」

「レイアは、嘘が苦手だからね。おれと同じく」

「貴方と違って隠し事も苦手よ」

そんなことを言い合いながら彼らは、ジュード達の元へと歩いて行った。

「お前達の望む未来など、所詮民を苦しめるだけ。例え源霊匣(オリジン)があろうとな」

ガイアスは、ゆっくりと立ち上がる。

「ましてや、二つの世界を一つにしたところで互いが手を取り合うことなど幻想に過ぎない」

間違ってはいない。それが現実ならリーゼ・マクシアで戦争そのものが起こっていない。

「……僕の信じた未来は、甘くて馬鹿なのかもしれない」

そう言ってジュードは、ミラを見る。

「でもミラは、僕を信じてくれた」

「言葉が正しくないよ、ジュード。そこは、ミラ()は、だろう?」

ホームズの言葉にジュードは、笑顔で頷く。

「ミラ達は、信じてくれた。それにガイアス、貴方も」

「それが何だというんだ?」

ジュードは、少しだけ目を伏せる。

「どれだけ強気なことを言っても、僕はここまで来ることがずっと怖かった。僕はまだ弱くてちっぽけな人間だよ」

だけど、と言葉を続け、ガイアスを真っ直ぐ見る。

「僕はいつか強くなる。だから、僕を信じて欲しいんだ」

その言葉を放つジュードの瞳には、かつてのような頼りなさは、ない。

優しい顔つきは変わらず、それでも強い意志が、信念が宿っていた。

「人は強くなろうとするから、誰かのために成長しようともがくから、私たちの未来は想像も出来ない可能性に満ちていると、信じている」

ミラの言葉を聞いてレイアがチラリとローズを見る。

ローズは、目をそらしそうになるがぐっとこらえる。

「ガイアス、お前なら分かっているはずだ」

「認めぬ。お前達の可能性が挫かれた時、俺は再び立ち上がるぞ」

ぐんっと、殺気が再び膨れ上がる。

そんなガイアスにジュードは、ゆっくりと近づき、手を差し出す。

「そうはさせないよ」

柔らかい口調のままはっきりと宣言したジュード。

ガイアスは、認めるしかなかった。

ミラは、ゆっくりとミュゼに近づく。

「立てるか?」

ミラの言葉にゆっくりと目を開けたミュゼは、首を横に振った。

「無理よ。私は、また何も無くなった、また、一人………」

ミラは、そんなミュゼに手を差し出す。

「一人で生きていくのが辛いなら、共に生きよう」

静かに語りかけられたミュゼは、瞳を潤ませながら起き上がり、頷いた。

「決心はついたようだな」

「ああ」

解放されたマクスウェルにミラは頷く。

ホームズが首をかしげる。

「決心?」

ミラは、ふりむき力強く宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

「私は、マクスウェルになる」

 

 

 

 

 

 

 

ミラのその宣言に一行は、息を飲む。

ホームズが首をかしげながらは、マクスウェルを指差す。

「マクスウェルなら、そこにいるじゃあないか」

ヨルは、ホームズの肩で溜息を吐く。

「阿呆。断殻界(シェル)を無くすには、マクスウェルが消えるしかない。

だが、この世界からマクスウェルが消えるわけにはいかないんだよ」

「それの代わりが、ミラってことかい?でも、ミラって人間だろう?精霊になんてなれるのかい?」

ホームズの質問にヨルは、ミラの太ももを尻尾で示す。

そこには、歩くのに必要なジンテクスがなかった。

「ミラは、もう人間ではない。ジンテクスなしで歩けているのが、何よりの証拠だ」

更にヨルは、言葉を続ける。

「あの復活した時だろうな。あの時、人として死んだミラは、精霊として復活した。そんなところだろ」

ホームズは、ヨルの解説を聞きつつ、更に尋ねる。

断殻界(シェル)が消えても世ノ精途(ウルスカーラ)って持つのかい?」

「持たないだろ。このジジイが柱なんだ。両方消えていく」

それから、呆れたようにヨルは、ホームズを見る。

「後な、全部わかりきってることをわざわざ俺に尋ねるな阿呆。現実は変わらん」

ヨルに言われホームズは、ぐっと押し黙る。

断殻界(シェル)のマナを使えば、再び人間として生きることも可能だぞ」

マクスウェルの提案にミラは首を横に振る。

「そうか………精霊達を見守ってくれるか」

ミラは頷いた。

「ミラ!!」

ジュードの叫びが響く。

ミラは、優しく微笑みながら振り返る。

「ジュード。これでお別れだ。思えば私たちは、奇妙な縁だったな。これまでありがとう」

「待って!僕………!」

ジュードは、泣きそうになりながら言葉を続けようとする。

だが、ぐっとこらえて真っ直ぐミラを見据える。

「……ずっと頼りなくてごめんね。でも、これからは大丈夫だから」

ジュードの言葉に頷いてミラは、答える。

「ミラ!!」

エリーゼが普段出さないような大声で、ミラに呼びかける。

だが、胸がいっぱいになってしまい言葉が続かない。

『エリーゼは、ミラが大好きだってさ!もちろん、僕もね』

エリーゼが伝えられない思いは、ティポが伝えた。

「また、会えるんだよね!?」

レイアは、手を握りしめながら尋ねる。

「大丈夫よ。そのための源霊匣(オリジン)なんだから」

ローズは、そう言うとミラを見据える。

「貴女みたいになりたかったけど、もうやめるわ」

ローズは、そう言ってミラを見る。

「私らしく貴女を超えてみせる。だから、またね」

手をひらひらと振った。

「ミラさん。楽しかったですよ、またお会いしましょう」

ローエン、エリーゼ、レイア、ジュードが爽やかに別れを告げる。

「なんだよ、それ!聞いてないぞ!!」

「ま、今回ばかりは、アルヴィンに同意だね」

微妙にみぐさい、アルヴィンとホームズ。ヨルは、肩で溜息を吐く。

「おれはね、君を犠牲にしない方法でエレンピオスに行くと言ったはずだよ。

なのに君から犠牲になること選んじゃあ、ダメだろう?」

「いいや。そんなことは言っていない。お前はあの時、こう言った『ただし、君を殺さない方法に限るよ』と」

ホームズは、記憶の紐を手繰り寄せる。

確かにミラには、『犠牲にしないで』とは言っていない。

ホームズは、不機嫌さを隠そうともせずミラを睨む。

「騙したね?」

「嘘は言っていないぞ。お前が勝手に勘違いしただけだ」

悪戯っぽく笑うミラにホームズは、溜息を吐く。

「………分かったよ。納得してあげる。女の子に嫌われるのも騙されるのもいつものことだ」

別れは辛い。

だが、それでもミラがどうしてその道を選んだか分からないホームズでは、ない。

なら、その顔は間違っている。

仏頂面では、ダメだ。

「ありがとう。時間をくれて。大切に使うよ」

ホームズは、にっこりと優しく笑ってそう言った。

ホームズの言葉にミラは、頷いてヨルの方を向く。

「お前からは、何かないのか、ヨル?」

「俺にそれを期待するのか……」

ヨルは、溜息を吐く。

ジュードに負けず劣らずヨルとミラの巡り合わせもだいぶ奇妙なものだ。

仕組まれた運命とは言え、いつの間にやら行動を共にするようになっていたのだ。

敵対した者とここまで旅をしたのは、ヨルにとっても初めてだった。

「基本死に別れしか経験したことないから分からないんだが、お休みとでも言っておけばいいのか?」

「それ以外だ」

ミラに即答されたヨルは、何かないかと今までの人の言葉を思い出す。

ヨルは、ホームズの方を見る。

「ホームズ、お前の母親の教えの一つ旅立ち編ってあったよな。確か……」

「『いってきますと気合いを入れることを忘れるな』だよ。でもそれがどうしたんだい?」

ヨルは、それを聞くとホームズの肩から飛び降りる。

そして、ミラの前まで行き、お座りの姿勢でミラの目を真っ直ぐ見る。

「ミラ」

ミラは、目の前の黒猫から目を逸らさない。

 

 

 

 

「いってらっしゃい」

 

 

 

 

 

旅を続けるホームズとヨルには、この言葉を使う機会は、ほとんどない。

最初で最後かもしれないその言葉にミラは、目を丸くする。

色々な意味でヨルらしくない。

だが、これ以上はないだろう。

「ああ。いってきます」

ヨルは、優しく微笑んで頷いた。

事の成り行きを見守っていたマクスウェルは、別れが済んだのを見届けるとスゥと光の粒子となって消えていった。

それに答えるように断殻界(シェル)が消えて行く。

世ノ精途(ウルスカーラ)にも光が差し込んでくる。

一行は、その光景を見逃す事のないようただただ息を飲んで見つめていた。

いや、一人だけ俯いていた。

ジュードがその一人に近づき手を握る。

「泣かないで、ミラ」

「…………私は、マクスウェルだ」

そう言って顔を上げる

別れは辛い、それでもこれは、ミラが選んだ道だ。

自分の道に誇りも持てる。

だから、これはきっと気のせいだ。

視界が歪むのも、

なぜか頬を伝う水があるのも、

きっときっと気のせいだ。

「泣いてなんかいない」

ミラは、ぎゅっとジュードの手を握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

断殻界(シェル)は消え、リーゼ・マクシアとエレンピオスは、繋がった。

 

 

 

 

 

 

 

リーゼ・マクシアとエレンピオスを巡る物語は、今ここで幕を下ろした。









では、また二百三十三話で( ´ ▽ ` )ノ

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