1人と1匹   作:takoyaki

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二百二十四話です。



さて、これで最後だよサブイベント!!



てなわけで、どうぞ


始まりの日

「………よう」

「やあ。珍しいね、君がわざわざ来るなんて」

ヨルの言葉にルイーズは、ベッドから半身を起こした状態で答える。

このころルイーズは、一日の殆どをベッドの上で過ごすようになっていた。

「風呂にいるホームズからも離れられる距離が、ここぐらいしかなかったんだよ」

ヨルは、そう言ってルイーズを見る。

肌は白く、かつてヨルに腹パンを食らわせた拳は見る影もない。

「今なら、君でも勝てるかもよ?」

「勝っても得るものが無い。ボロ雑巾引き裂いたって、何にもないだろ」

ルイーズは、面白そうに笑う。

「そりゃあ、そうだねぇ……くくく」

笑った後、ふぅとため息を吐く。

「ルイーズ、お前、あとどれぐらいだ?」

「余命宣告された日から半年ぐらい生きたから、マイナス百八十日ぐらいかねぇ」

「そんな人間が、よくこんな寒いところに来たよな」

「だって、雪が見たかったんだもの仕方ないだろう?」

いけしゃあしゃあというルイーズにヨルは、ため息を吐く。

「お前、本当に人間かよ」

ルイーズは、ニヤリと笑う。

「悪魔に魂を売った人間さ」

「冗談に聞こえないな」

ヨルは、心の底から疲れた表情をする。

「せっかくだし、何か話したいことはないのかい?」

ルイーズの言葉にヨルは、悩む。

それから、長年の疑問を口にする。

「青い花の村を覚えているか?」

「………まあね」

「お前は、あの時、あぁなる事が分かっているようだった。

可能性の一つとして考えていたのではない。

あぁなると、確証を持っていた、違うか?」

「どうしてそう思うんだい?」

「あの場で、お前は一言も信じてるなんて言わなかったからだ。可能性の一つとして考えていたのなら、あの場でそんな言葉の一つや二つ出てきてもいいもんだろ?」

ルイーズは、少し考えてから口を開く。

「あの村の連中はね、自分達が生きるために自分の子供を捨てるような連中だった。だから、ホームズがあんなことを言ってしまえば、それに食いついてしまうことぐらい簡単に想像出来たさ」

ルイーズは、そう言って髪をいじる。

「私はね、別に犠牲ってのは、仕方ないと思っている。

そりゃあ、あるよりないに越したことはない。でも、どうしたって出てしまうものだ。だけれども、」

ルイーズは、ヨルを真っ直ぐに見据える。

「それは、全部『筋の通った犠牲』ならってことに限る」

そう言って言葉を続ける。

「自分達で産んでおいて、それをいらないからと言って殺してしまうなんて、そんな筋の通らないことは認められない」

拳を握り締める。

「清廉潔白でなくたっていい。ただ、筋の通らないことだけは認めることはできない」

ルイーズは、ヨルに笑いかける。

「それが、ルイーズ・ヴォルマーノという女だよ」

黙ってルイーズの話を聞いていたヨルは、その重い口を開く。

「だから、ルイーズ、お前はあの後、ホームズをあの村に連れて行ったんだな」

ルイーズは、辛そうに顔を俯かせるが、それでも頷いた。

「自分の犯した罪を知らずにそのままだなんて、そんな筋の通らないことは認められない。ルイーズとして、そんなことは認められない」

ルイーズは、両手に力を込める。

「今でも、その判断は百点満点だと思ってる。折れることなく曲がることなく、ルイーズの信念を貫き通せたんだもの」

でもねぇ、と言葉を続ける。

「ホームズの母親としては零点だよ」

ルイーズは、俯いたまま言葉を続ける。

「私は、あの時ホームズの生き方が歪むことも全て分かった上で連れて行ったんだ………ルイーズの信念を貫き通すために」

ヨルは口を挟まずにルイーズの告白を聞いている。

「母親なら、ホームズを庇わなければならない時に私は、自分の信念を優先したんだ………」

今のルイーズに叫ぶだけの力はない。

それでも、その言葉には鬼気迫るものがあった。

彼女の信念を理解することの出来るものがいない中、それを貫き通し、そして死んでいく。

間違いなく誰だって彼女を素晴らしいと讃えるだろう。

最後まで貫いた彼女を美しいとさえ、評価するだろう。

だが、彼女自身、ルイーズだけが、それをしない。

いや、出来ない。

ルイーズとしてなら、そんなことはなかっただろう。

だが、彼女はルイーズ・ヴォルマーノであると同時にホームズの母親なのだ。

だからこそ、彼女は、この生き様決して誇りにしない。

忌むべきものとして生きていた。

「どこかで、破綻を起こすことぐらい想像は、出来ていたさ。だから、覚悟もしていた。今更、その生き方を否定するつもりもない。でも………それでも………」

ルイーズは、自分の指にあるピンクの指輪を見る。

「ホームズの母親を名乗る気にはなれないねぇ………」

ルイーズは、とても寂しそうに笑みを浮かべた。

長いルイーズの告白を聞いたヨルは、静かに口を開く。

「………子どもの犯した罪を隠すのが母親の仕事じゃないだろ」

「え?」

「子どもが悪さをしたら、そして、それに気づいていないなら、それに気付かせ、二度とやらないように導くのが親の役目だろ」

ヨルは、そう言ってルイーズを真っ直ぐに正面から見据える。

「その点でいけば、間違いなく、お前はその役目を果たした。二度とホームズは、あんな光景作り出すことはしないだろ」

暗く静かな部屋でヨルは、言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

「お前は、間違いなくルイーズである前にホームズの母親(・・・・・・・)だ。誰が何と言おうとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨルのその言葉を聞いた瞬間、ルイーズは、本当に驚いたように目を丸くする。

「慰めてくれてるのかい?」

「俺は、人間を慰めるほど人間が好きじゃない」

そう告げるとため息を吐く。

「だいたい、事の発端はあの神父だ。生き方歪めたとしたら、彼奴らがだろ」

「……のかな?」

ヨルの現状を分析する言葉をルイーズが遮る。

「あ?」

「私がホームズの母親で、いいのかな?」

「お前以外誰がいるんだ」

ヨルのその言葉にルイーズの瞳から大粒の涙が溢れた。

ヨルは、ぎょっとしたがルイーズは、それに構わず嬉しそうに言葉を続ける。

「ふふ、ありがとうねぇ、ヨル。今日は良く眠れそうだよ」

ルイーズは、そう言うとポンと何かを放り投げる。

「なんだこれ?」

「まあ、時が来れば分かるさ」

そんなことを話しているとがちゃりとドアノブが周り、風呂から出たホームズが部屋に入ってきた。

ルイーズは、慌てて瞳の涙を拭う。

「あ、やっぱりここにいた」

椅子にちょこんと座っているヨルを見てホームズがそう言うとヨルは、つまらなそうにあくびをする。

どうやらルイーズの涙には、気付いていないようだ。

「何だ、もう上がったのか?」

「そういうこと。ほら、もうこんな時間だし、おれたちの部屋に戻るよ」

ホームズは、そう言ってヨルを部屋から連れて行く。

ルイーズは、そんな彼らに優しく微笑む。

「おやすみ。また明日ね」

「うん。おやすみ」

「またな」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨルは、扉を尻尾で開けると忌々しそうに毒突く。

「おい、ルイーズ。ホームズどこだ。あの野郎自分で決めた出発時間に現れな…………」

そう言って目に入ってきた光景にヨルは、言葉を飲む。

それからため息を吐いて、一言だけ呟く。

「………そうだったな」

そこにはあるのは、もぬけの殻となったベッドだけだ。

ルイーズの姿はどこにも無い。

この世のどこにも。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの翌日、ルイーズは目をさます事はなかった。

翌朝、ルイーズはそれこそ付き物でも落ちような安らかな笑顔で眠りについていた。

そこから数日は、あっという間だった。

幸い、墓の場所を元々ガイアス王に用意してもらった為、葬儀は滞りなくすんだ。

葬儀を済ますとホームズは、そのまま黙々と部屋の片付けを済まし、今やこの部屋には何もなかった。

ある筈のものが無い。

いる筈の人間がいない。

聞こえる筈の声が聞こえない。

ヨルは、少しだけうつむくと小さく、本当に小さく鼻で笑う。

「フン………人間の女の言葉なんて信じるもんじゃないな」

また明日という小さな約束を守れなかった人間にヨルは、小さな声で悪態を付くとその部屋から出た。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「ここにいたのか」

屋上についたヨルは、ようやくホームズを見つけた。

「んー?」

ホームズは、屋上の手すりに体を預けながら気だるそうに振り返る。

その目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「お前から提案された出発時間は、過ぎてるぞ」

「あれ?もうそんなに時間経ってたっけ?」

ホームズは、そう言って再びカン・バルクの街並みを見下ろす。

視界に広がるのは、白銀の世界だ。

雪の好きな母親に連れられてここには何度か足も運んだ。

だが、もうここに留まる理由はない。

「……聞き損ねたが、これからどうするつもりだ?」

ヨルの質問にホームズが、指輪を見せる。

それは、ルイーズがいつもはめていあの指輪だった。

「父さんと母さんの故郷に行く」

「エリンピオスにか?でも、どうやって?」

「それを探そうと思う」

ホームズは、迷いなくそう答えた。

「探す?」

ホームズは、紙を見せる。

「ジルニトラの乗員名簿だってさ。これに乗ってる人に聞くが一番だと思うけどねぇ」

ホームズは、そう言って指輪をはめる。

こんなところでそれを行うのが危険な行為である事を知るのは、もう少し後の話だ。

「両親の親戚や知り合いにここでの事を伝えたいし、二人の故郷を息子として見ときたいし、見たことのないものを見たいし、行った事のないところに行きたい」

理由を並べるホームズ。

きっと、どの言葉にも嘘はないが、言っていない言葉もある。

ヨルは、ふぅと、白い息を吐き出す。

「まあ、ここの景色も飽きたし、それがいいかもな」

ヨルは、そう言ってホームズの肩に飛び乗る。

ホームズは、屋上から飛び降り、屋根から屋根へと飛び移りながら地面に着地した。

その瞬間ポンチョが、ふわりと広がる。

「さて、それじゃあ、行ってきます」

ホームズは、そう言うと二度と振り返る事なくカンバルクを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、思えば遠くに来たものだ」

ヨルは、ルイーズの墓前でそう呟く。

最後のリクエストは、ヨルだった。

ルイーズの墓前に行きたいとジュードに言った。

誰の返答もないが、それでもヨルは、そう言わずにはいられなかった。

「………やっぱり、お前は、ルイーズと呼ぶより、ホームズの母親と呼んだ方が相応しいんだろうな」

最後まで、母親であろうと悩み抜いていたその姿をヨルは、あの夜から一度だって忘れたことはない。

「ヨル」

ホームズが離れたところから呼ぶ。

「そろそろ行くよ」

「………あぁ」

ヨルは、そう言うとホームズの肩に飛び乗る。

「お前は、いいのか?」

「別に。ついさっき済ましたし」

「いつの間に………」

ヨルが驚いていると、ホームズは悪戯っぽく笑う。

「内緒。男は秘密があった方が格好いいからね」

「そんな男になれるといいな」

ヨルの思わぬ返しにホームズが目を白黒させていると風が吹き抜ける。

ニヤリとホームズは、笑う。

「なるさ。おれを誰の息子だと思っているんだい?」

ヨルは、その言葉を聞くと楽しそうに笑った。







章の振り返りは、今回はお休みです

最後のお話は、どうしてヨルがあまりホームズの母親の名前を呼ばないのかというお話です。
とある夜の話では、呼んでいたのに……今話す時は、全く呼んでいませんので。
彼なりの敬意と言うところです

ま、そんなわけでやっと回収しました、サブイベント。
残念ながら、原作のサブイベント全ては、網羅出来ませんでした。
エリーゼとローエンの話に触れていないんですが、これ以上は長引かせられないと言うことで泣く泣く切りました。
本当は、もう少し色々やりたかったのですが、これ以上やると最終章前にモチベーション下がって凍結なんてことになりそうなので、ここいらで切り上げました。
書いてて一番楽しかったのは、女装パーティーでしたね。

それはともかく次回から最終章!!



エンジンかけていきます!!



では、また二百二十五話で( ´ ▽ ` )ノ

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