1人と1匹   作:takoyaki

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二十二話です。



ガンガン行こうぜ!

てなわけで、どうぞ!


勝って財布の緒を締めよ

「手加減抜きでいくよ!だから、ホームズも全力できてね」

レイアは肘を伸ばしながら言う。

しっかり準備運動し、元気がいい。

「ああ、はいはい」

逆にホームズは、やる気のなさそうに返事をしている。

「おい、テンション上げていけ。報酬忘れたのか?」

「そうだったね」

ヨルの言葉にホームズはさっきまでまでとは、打って変わって、やる気に満ち溢れた顔をしている。

しかし、

「はあ……せっかくの休日だから、海でも見て静かに過ごそうと思ったのに……」

休日への未練も捨てられない様だ。

「もう少し、年齢にあった休日の過ごし方をしようよ……」

ホームズの年寄り臭い休日の過ごし方に、ジュードは呆れている。

ちなみにジュードは、今回の勝負の審判を務める事になった。

「ふむ。ホームズ対レイアか……なかなか面白い催しだな」

ミラは車椅子に乗って事の成り行きを見守っている。

準備運動を一通りやったレイアは棍を構える。

ホームズも軽く屈伸と、ジャンプをすると、左手の盾を確認し、構える。

2人の様子を確認するとジュードは、右手を上げる。

「それでは、レイア対ホームズ&ヨルの勝負を始めるよ。勝敗は、僕の判断か、どちらかが負けを認めるか、で決まる。異存はないね」

ホームズとレイアはコクリと頷く。

「それでは、一本勝負、始め!」

右手が振り下ろされる。

レイアとホームズは同時に地面を踏み込んだ。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「勝負しようよ。ホームズ」

全てはレイアのこの一言から始まった。

「は?」

突然の言葉に随分とマヌケな声を出して、ホームズは聞き返す。両手には、ぶちぶちと引っこ抜いた草がある。

「ほら、前に言ったじゃん。怪我が治ったら、いつか相手になってって」

「……言ったね。でもさ、『相手になって』じゃなかった?勝負しようじゃなかったよね?」

ホームズは、嫌そうに言う。

「別に一緒の事でしょ」

微妙にニュアンスは違うが、そこをわざわざ言ってもしょうがない。

「というわけで、明日勝負しよう!病み上がりのハンデとして、ヨル君と一緒でいいから」

「あ、明日?!」

「随分と急な話だな……」

肩で聞いていたヨルも面食らっている。

「明日、せっかくの休みなんだけど………」

「じゃあ、ちょうどいいじゃん」

ホームズは、嫌そうな顔をしている。

「マジ?」

レイアは、ホームズが余り乗り気でない事を察し、新たなる切り札を切る。

「わたしと勝負したら、宿代を一泊分タダにするよ」

ピクとホームズの耳が動く。

さらにレイアはたたみかける。

「さらに、ホームズが、わたしに勝ったら……」

「勝ったら?」

「治療費の一割を宿屋ロランドが、負担する」

「何時からやるんだい?」

さっきまでのやる気のなさが嘘のように間髪いれずにレイアに聞き返す。

レイアの言葉にホームズは、清々しい程のテンションの切り替えをしてきた。

ホームズの顔は、かつてない程真面目だ。

もしかしたら、上手くいくかも程度で考えていたレイアは、あまりにも上手く行き過ぎて、逆に引いた。

「明日の午後からとか、どう?」

「いいよ。受けて立つよ」

◇◇◇

 

 

「フン!」

ホームズの上段回し蹴りが、レイアに向かっていく。

その蹴りをレイアは、棍で防ぐ。

「躊躇無く顔を狙ってきたね………さすがホームズ」

「お褒めに預かり光栄だね」

蹴りが不発に終わったホームズは、後ろに下がり距離をとろうとする。

しかし、

「甘いよ」

そうは問屋が降ろさなかった。

レイアは後ろに下がったホームズを追撃する。

「三散華!」

棍の三連撃が、ホームズを襲う。

避けきれない、と判断したホームズは、左手にある盾を構える。

カンカンと乾いた音が、二発響く。

「グゥッ!」

しかし、三発目は防げなかった。

三撃目を腹に食らうと声にならない、声をあげる。ホームズは体制を崩すと、そのまま後ろに転がった。

腹の痛みに耐えながら、ホームズは立ち上がろうとする。

「一気にいくよ。悲壮霊活!クイックネス」

しかし、その隙にレイアは自分の素早さをあげる。そして、勝ち誇った様に笑う。

「やっぱり、サポート系の精霊術は、食べれないんだね。ヨル君」

ホームズとヨルは苦虫を噛み潰した様な顔をしている。

そう、ヨルは攻撃系の精霊術に対しては、無敵もいい所だが、今回の様な場合は、どうしようもないのだ。

レイアはそんなホームズ達を見て考える。

(追撃したい所だったけど……)

ホームズの性格からして、何か企んでいる事は明白だ。

だからこそ、レイアは身体強化に徹したのだ。

 

 

「よりにもよって、スピード強化か……」

レイアのクイックネスを唱え終えるのを見るとホームズは、困った様に呟いた。

攻撃力強化の技なら、ホームズも持っているので、競り合えるのだが、スピード強化の技はない。

つまり、スピードを強化したレイアにホームズはついて行く事が出来ないのだ。

「神様ってのがいるとしたら、随分と意地悪だね」

またしても、苦戦しそうなホームズはため息を一つ吐く。

「来るぞ」

肩に乗っているヨルは、レイアの踏み込みを見る。

レイアはそのまま突っ込んで来る。

さっきのお返し、とばかりにホームズの顔面に向かって棍を横薙ぎにふる。

(速い……!)

ギリギリで、棍を左の盾で防ぐ。

「こんのぉ!」

盾で棍を押し返し、少し隙間をあける。

「ッラァ!」

さらに、腹に蹴りを叩き込む。

「ッツ!」

レイアは後ろに跳ぶ。

何とかタイミングを合わせて後ろに跳び、ダメージを半減させたが、

(それで、この威力……)

レイアは蹴られた腹を触りながら、ホームズの実力に感嘆する。

「油断するなよ、ホームズ。あのムスメ……」

「分かってるさ。あのこ、やっぱりたいした子だよ」

思ったより手応えがなく、ホームズは、釈然としていなかった。

「今ので仕留められなかったのは、痛かったなぁ」

ホームズを上回るスピードで攻撃するレイアに勝つには、一撃一撃を確実に決めていくしかない。

ホームズは今、その貴重な機会(チャンス)を一つ無駄にしたのだ。

「いっちょ、行きますか」

ホームズは両手を握りしめ、腰を落とす。

「剛照来!」

一先ず攻撃力を強化する事にした。

そして、今度はホームズから仕掛けていく。

「瞬迅脚!」

飛び蹴りを放ち、一気に距離を詰める。

レイアはそれをバックステップで躱す。

もちろん、ホームズにとって、躱される事は予想通りだった。

むしろ、これをさせる為に放った様なものである。

しかし……

「伸びろ!」

棍が伸びるのは、予想外だった。

「んなぁ!」

ホームズは目を向いて驚いている。そのせいで、ワンテンポ反応が遅れる。

「兎迅衝!」

盾が間に合わずモロに食らって吹っ飛ぶホームズ。

起き上がろうとするホームズをよそに、レイアは更に精霊術を重ねる。

「これ以上、強化されてたまるか!」

ホームズはそう言うとヨルを掴む。

「おい……まさか……」

「察しが良くて助かる……よォラァ!!」

そして、そのまま詠唱をしているレイアに投げた。

「力を鎧え……バアアアアぁ!」

モロにヨルを顔に食らったレイアは最後まで詠唱をする事が出来なかった。

ホームズは、機会(チャンス)とばかりにレイアへと、距離を詰める。

レイアが気付いた時は、ホームズは、目の前にいた。

「お返しだ、三散華!!」

ホームズの蹴りが、一発入る、二発入る、三発目は棍で防ぐ。しかし、最後の三発目でレイアは吹っ飛んだ。

レイアは、ホームズに蹴られた場所を触る。剛照来の効果で、威力はさっきとは段違いだ。

とはいえ、耐えられない程ではない。

(手加減してるな……)

レイアは察すると同時に、少しむかついてきた。

彼女がしたいのは、真剣勝負だ。

手加減している相手に勝っても、負けても、嬉しくない。

全力の相手に勝つか、負けるか、それをしたいのだ。

しかし、それを指摘しても恐らく、ホームズはのらりくらりと躱すだろう。

(だったら……)

レイアは、棍を構え直すと、ホームズを棍の先で捉える。

(実力(ちから)で示すしかない!)

「瞬迅爪!」

棍と身体がまるで一つになった様に、真っ直ぐ、ホームズに突っ込んできた。

スピード強化されている彼女の瞬迅爪を躱す事は、不可能だ。

そして、食らえば、問答無用で負けが確定する一撃だ。

 

 

 

しかし、そんなピンチにホームズは不敵に笑っている。

 

 

 

そして、右足を上げ、力強く踏み込み、技の名を高らかに告げる。

「守護方陣!」

「!?」

青白い円陣がホームズの周りに展開される。

真っ直ぐに突きに来たレイアは、見事にその陣に引っ掛かり、ダメージを受ける。突きの勢いもどんどん減っていく。

その時、ホームズのにやけ面が思い出された。

(最初から、これが狙いか……)

そう、ホームズとしては、レイアのスピードをどうにかしたかったのだ。足止めをするには、守護方陣程適したものはない。

しかし、それはタイミング良く守護方陣に捉えられた場合である。普通にやっていれば、まず、捕まえる事は出来ない。

そこで、ホームズは挑発をする事にした。挑発で逆上した相手を誘い込む寸法だ。

挑発は何も言葉を投げかけるだけではない。

今回、ホームズの取った手段はまさにそれだ。全力勝負と言っているレイアに、手加減をするという挑発を行ったのだ。

挑発に乗るかどうかは、正直運だった。

レイアの性格上、乗って来る確率は高いが、所詮は確率であって、確実ではない。

しかし、どうやら運はホームズに向いていた様だ。レイアは見事に守護方陣にかかった。

しかし、

「まさか、当たるとは思わなかったよ……」

ホームズの腹にレイアの棍が当たっていた。

守護方陣で、幾らか威力は削いであるが、そうは言ってもノーダメージとはいかない。

ホームズはそれに耐え、レイアの棍を持ち、腰より下におろす。

「剛照来はこの為さ」

そう言うと、ホームズはレイアの棍に踵落としを決める。

 

 

乾いた音が鳴り響き、レイアの棍は真っ二つに折れた。

 

 

「そういえば、レイアの棍……大分ガタがきてるて言ってたね……」

一部始終見守るっていたジュードは、そう呟いた。

そして、判定を下す。

「武器損失により、勝者ホームズ」

ジュードの手がホームズを指す。

ホームズは、一息吐くと腹を抑える。

「………負けた」

レイアは悔しそうだ。間違いなく、始め、いや、終始ホームズを押していた。しかし、最後の最後で油断してしまった。いや、ホームズの策にまんまとはまったのだ。

知らず知らずのうちに挑発に乗ってしまった。これが今回の敗因だ。今後と気を付けていかねばなるまい。

しかし、今はそれよりも……

「棍が折れた〜」

棍の方が先だ。

そろそろ買い換え時とはいえ、自分が今まで使っていたものが、見るも無残な姿になっているのだ。

正直悲しくなってくる。

「おい、ムスメ。約束覚えてるだろうな」

ヨルはそうレイアに話しかける。

「分かってるよ。宿屋の一泊分の料金は無料にするし、治療費の一割はロランドが負担するよ……」

「何を勝手な事を言ってるんですか、レイア」

いつの間にやら、ジュードの隣りにソニアがいた。

「お、お母さん。どうして?」

「僕が呼んだんだよ。随分と勝手な事を言ってたから、本当に大丈夫か聞いてみたんだよ」

見届け人でもあったジュードは呆れながら、言う。

「助かりましたよ。ジュード。おかげて、思わぬ出費をせずに済みそうです」

そう言うと、鬼の様な形相で、レイアを見る。

レイアは既に正座をしている。

「さて、色々言いたい事はありますが、その前に約束の件です」

ソニアは、一旦言葉を区切りホームズの方を見る。そして、もう一度レイアを見る。

「あなたのお金から出しなさい」

「え、え、嘘?!」

「嘘をついてどうなりますか!」

勿論、ホームズの宿泊代も治療費も決して安くはない。

それを全部ではないが自分て払うのだ。

「さて、ここからは、お説教です。しっかり聞きないよ」

そう言ってソニアは、レイアに説教を始めた。

 

 

「帰るとしますか」

「だな」

「あれは、長くなるよ……」

「その前にホームズ」

「なんだい?」

呼び止められたホームズはミラを見る。

「お前は、レイアの棍を弁償するべきだろう」

「………」

「勝負の約束にそれは含まれていなかったが、物を壊したら弁償するのが道理だろう」

「……忌々しい事に一理あるね」

ホームズは嫌そうに、その言葉を口に出す。

命を懸けた戦いならともかく、今回のは、試合。しかも故意に、壊したのだ。

まあ、知らぬ存じぬを貫く手もあるが、宿に止めてもらっている手前、それをやるのも気が引ける。

ホームズは、ちらりと説教を食らっているレイアを一瞥する。

 

「明日にでも弁償するよ」

 

 

 

 

 

後日ホームズは、レイアに宿一泊分と同じ値段の棍を買わされた。

「怒ってる?」

「割と」

ホームズの恐る恐るという問いにレイアは、表情を変えずに言う。

 

 

「……割に合わない」

休日を無駄にしたホームズは、財布覗いてポツリと呟いた。

 

 

 









なんか、完全勝利というものをさせてないですね……


大丈夫、君なら出来るよ!


てなわけで、また、二十三話で( ´ ▽ ` )ノ

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