1人と1匹   作:takoyaki

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二百一話です



てなわけで、どうぞ


罪と罪

「………何を言ってるの?」

ホームズの言葉にローズは、呆然としている。

エリーゼとヨルとローエン以外、皆同じような顔だ。

そんな空気に構わずホームズは、首を傾げる。

「何って、おれの瞳の色だろう?生まれた時からこんな色だよ」

「いや、お前の瞳の色は、確かに碧色だったぞ」

ホームズの答えにミラは、そう返す。

「言っていただろう?お前は、瞳の色が碧色だったせいで虐められていたと」

ミラの言葉にホームズは、首を傾げる。

「そんなこと言ってないゼ。おれがいじめられた原因は、霊力野(ゲート)がなかったからだよ」

決定的に会話がかみ合わない。

ホームズに嘘をついている様子はない。

隠し事をしている様子もない。

だからこそ、気味が悪い。

だからこそ、痛々しい。

ジュードは、拳を握る。

「というか、みんなどうしたんだい?たかが(丶丶丶)瞳の色だろう?どうして、そんなに騒ぐんだい?」

レイアは、目を丸くする。

「………どうしちゃったの、ホームズ?」

レイアは、ホームズにとってその瞳の色が、どれだけ大事なものか知っている。

とても大事そうにしているホームズを見ている。

そんなホームズから紡がれたを聞いた瞬間レイアは、言葉を発した本人に詰め寄る。

「言ったじゃん、ホームズ。瞳の色だけが、顔も覚えていないホームズのお父さんとの目に見える唯一の繋がりだって!」

必死の呼びかけにもホームズは、首を傾げるばかりだ。

「言ったけ?」

本気でホームズには、思いたる節がない。

エリーゼが、起こっていることを告げようと口を開く。

だが、それよりも前にヨルが口を開いた。

「ホームズ、お前の瞳の色は碧かった。それは揺るぎのない事実だ」

淡々とヨルは、何の感情も込めずに言い放った。

込められなかった感情の代わりにヨルの伝えたい意図が手に取るように分かる。

ローズが、ヨルに目を向ける。

一歩詰め寄る。

瞳の色を褒められて嬉しそうだったホームズの顔は、今でも覚えている。

「その言い方、ヨルあなた、何か知ってるわね?」

ローズの顔には、怒りの表情がありありと浮かんでいた。

「ローズに、ヨルを責める資格は無いです」

そんなローズをエリーゼは、目険しくさせて睨みつける。

「………ローズに潰された目をヨルが治したんです。代償は、ホームズの瞳が碧かったという記憶です」

エリーゼから語られた事実にローズは、今度こそ固まった。

「え………?」

駆け巡るハミルでの戦いの記憶。

あの時、確かにローズは、ホームズの瞳を切った。

ホームズと再会した時、瞳が金色になっていた事に確かに違和感を覚えた。

だが、それ以上に自分が潰してしまった瞳が戻っていた事に対する安堵の方が大きかった。

だが、そこで安心してはいけなかったのだ。

ミラは、腕を組んでヨルを見る。

「だったら、記憶を無くさず治せばよかったのではないのか?」

「お前、言っている意味わかってんのか?それ、黒匣(ジン)と一緒だぞ?」

ヨルはため息を吐く。

「精霊術を使うのにマナが必要なように潰された目を戻すには、それ相応の代価が必要なんだよ」

ヨルは、そう言って尻尾を揺らめかせる。

「それが、今回はその記憶だっただけの話だ」

ヨルの言葉にレイアは、ホームズに詰め寄る。

「………本当に覚えてないの?」

「うん」

「ローズに碧色の瞳を褒めてもらって嬉しかったことも?!」

「?おれ、ローズに瞳の色を褒められた事なんてないよ」

自分の瞳が碧色だったという事に関する記憶は、全てホームズから消えている。

だから、瞳の色を褒められたという記憶もホームズには、ないのだ。

ローズは、それを聞いた瞬間遂に崩れ落ちた。

「全部………全部、私の…………」

『せい』という言葉は、出てこなかった。

否、口に出すまでもない。

それほどまでにローズが奪ったものは、大きすぎた。

いっそ全ての感情を込めて罵ってくれた方がまだ楽だったかもしれない。

だが、ホームズには碧色の瞳だったという記憶がない。

だから、それに関わる怨嗟の感情がないのだ。

事の成り行きを見守っていたエラリィは、ヨルの方を向く。

「これは、僕のせいか?」

「いいや。こいつら二人が揃って自滅しただけだ」

ヨルの言葉にエラリィは、何となく察したようだ。

ヨルは、そう言って俯くローズと彼女にかける言葉を探すホームズに視線を向ける。

「お互いに向き合わなければならない事だった。それが今で、切っ掛けがお前だっただけだ」

エラリィは、ため息を吐く。

「隠し事をする奴は、どうしてバレないと思うんだろうな」

そう言ってエラリィは、ローズの前に立つ。

「さて、お前、ローズと言ったか」

エラリィの言葉にローズは、顔を上げる様子もない。

そんな事もエラリィにとっては想定通りだったようだ。

エラリィは、ごそごそと白衣を探してホーリーボトルを取り出す。

「僕の調合した特別製だ。それを使えば、対侵入者用機械に見つかる事もない。もちろん制限時間付きだがな。今回みたいにカードを無くした事も想定して念のため作っておいた」

ローズは、それを見て首を傾げる。

意図が読めないのだ。

そんないいものがあるなら、みんなで使ってバランを助けに行けばいいのだ。

エラリィは、ローズが戸惑うのも予想の範囲内だったようだ。

「それを使って元来た道を帰れ」

余りにも淡々と言われローズは、一瞬自分が何を言われたか分からなかった。

「………え?どういう事、ですか?」

ローズは、震える声を何とか抑えようとしていた。

だが、それは残念ながら結果に現れる事はなかった。

「聞いた通りの意味だ。お前は、バランの元へ連れて行かない」

「ちょっと、それは!!」

詰め寄るホームズをエラリィは、ギロリと一瞥する。

「誰も言わないようだから他人の僕が言ってやる。ローズ、今のお前は足手まといだ」

遠慮などない。公平に見て、純粋に戦力外通告をしたのだ。

「自分の犯した過ちに押し潰されているお前に力が出せるとは思えん。そんなお荷物抱えて、バランを助けるなんて無理な話だ」

どこまでも現状を把握したその言葉にローズは、何も反論出来なかった。

「ローズ………」

ホームズの呼びかけにローズは、答えることなく、黙ってホーリーボトルを受け取った。

それがローズの答えだ。

足手まといという言葉にも反論せず、お荷物という評価にも言い返さなかった、ローズの答えだった。

ミラは、そんな成り行きを見守ると思いを振り切るように腕を解いた。

「………エラリィ、案内を頼めるか?」

「あぁ。問題ない」

「ちょっと、本当に置いてくつもりかい!?」

ホームズの言葉には、焦りが見え隠れしていた。

「視力は、戻ったんだ!だから………」

「ごめん、ホームズ」

そんな必死のホームズの言葉をローズが遮る。

「それ以上は、耐えられない………」

そう言った後ローズは、俯いたまま言葉を続ける。

「………行ってきて、ホームズ。そして、バランさんを助けて来て。そのために私たちは…………貴方達は、来たんだもの」

俯くと黒い長髪がカーテンとなりホームズとローズの間を仕切る。

「おい、行くぞ。早くしないと手遅れになる」

ヨルに言われ、ホームズは、ぎゅっと拳を握りしめて扉のボタンをおして外に出た。

そんなホームズに続くように一人二人と、部屋を出て行った。

最初は聞こえていた足音も時間と共に遠ざかっていった。

今なら、聞かれることはない。

「う、う………」

最初は耳を澄まさねば聞こえないほど小さかった嗚咽は、やがて声へと変わっていった。

今なら誰もローズを見ていない。

泣いていても気を使わせることもない。

ローズは、声を上げて泣き出していた。

「何が……恩を返さなきゃいけないだ!ホームズにアレだけの不幸を背負わせて、大事なものを奪い去って置いて、どの面下げてそんな言葉が出せたのよ!!」

ローズの涙は、止まらない。

自分がずっとホームズを見当違いの事で恨み続けていたこと。

そして、ホームズの瞳を潰してしまったこと。

恩を感じている場合ではなかったのだ。

 

 

 

 

────貴方と出会わなければ良かったわ────

 

 

 

 

 

 

 

 

ローズの脳裏に蘇る言葉。

それを思い出した時、ローズは更に泣き出した。

「出会わなければ良かったのは、ホームズの方じゃない…………」

自分のせいでホームズは、大切なものをなくしてしまった。

思い出を全てなくしてしまった。

ローズと出会わなければ、再会しなければこんな事には、ならなかった。

ミラが死んでローズが、落ち込んでいた時、ローズは何をやった?

スープを投げつけ、母親がいると思い暴言を吐き、殺しかけ、視力を奪い、思い出を奪った。

ローズは、自分の刀を睨みつける。

亡き師のマーロウから教えてもらった刀でローズは、大切な人の大切な、それこそ宝物のようなものを奪ってしまった。

これを愚かと呼ばずに何とよぶ。

「私の……………馬鹿ーーーーー!!」

ローズは、そう言って刀を壁に投げつけた。

刀は乾いた音を立てて床に転がった。

ローズは、それに見向きしないでひとしきり泣き続けた。










では、また二百二話で

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