1人と1匹   作:takoyaki

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十九話です。




GW特に何もせずに終わりました(−_−;)


棚から黒猫

「実を言うとおれは最初に話した街に3回行っている。1回目は霊力野(ゲート)がないとばれて散々な目にあったねぇ。……これから話すのは2回目に訪れた時の話。女の子に出会い、ヨルに出会った、まさに、人生の転機とも言うべき2回目の話だよ」

 

 

 

 

母さんとしても、何度もこんな場所来たく無かったようだけど、やっぱりそうは言ってられないのが行商人の悲しいところだよね。

おれは確か……7歳だったかな?そう、もう1年経ったんだね、なんて会話をしてたから確かに7歳だ。

おれとしては、もう1年経ったんだから、おれの事は忘れててくれないかな、なんて思ってたんだけど……甘かったね。むしろ、1年と言う歳月を経て小賢しい知恵がついた分、もっとタチが悪くなってたね。

取り敢えず、石とか、物を投げる事を覚えてたね。そして、体も鍛えられていて、逃げる事さえ難しくなってた。

まあ、当たり前と言えば当たり前なんだけど……だってさ、地元の連中の方がさ、その土地の地理に詳しいんだもん。いわゆる、『地の利がある』てやつさ。だからね、隠れてもすぐ見つかっちゃう。

逃げる事も出来ず、隠れる事も出来ず……大変だった。

 

 

そんな時だよ、ヨルと出会ったのはね。

 

 

その時はね、いつもの様に追われていたから、今度は街の外に出たんだ街の中に居ればすぐに捕まっちゃうもの。でもね、奴らはしつこく追いかけてきた。

だから、隠れたんだよ。近くの洞窟にね。その洞窟は一本道でね、出来るだけ奥に隠れたんだ。

 

 

 

そしたらさ、奥にいたんだよ。真っ黒のくせに目の色だけは、らんらんと金色に輝いている黒猫がね。

 

 

その黒猫の周りには柱が五本あってね、そこからそれぞれ鎖が伸びてきていて、ヨルを縛っていたよ。そして、地面には、当時は星って事しか分からなかったけど今なら分かる。あれは、五芒星だね。さっきの五本柱は、それぞれの頂点から伸びていたんだよ。

ちょっとだけ驚いた。でもね、そんな事を気にしている場合じゃなかった。だから、奴らに見つからない様にひたすら息を潜めていた。でも、悪口だけは聞こえるんだよね…大声で言ってた、おれの目の色の事を特にね……

あんまりにも言うもんだから、ついに我慢出来なくなって、奴らに言い返しちゃった。

そしたら……思いのほか、連中激怒しててさ、言った後に後悔したね。結構大声で言ったからさ、居場所がばれたと思ったね。こんな人目につかない場所でのいじめなんて、想像したくもない。

でもね、驚いた事に奴らはおれの声は聞こえたみたいだけど、洞窟の中には入って来なかった。いや、もっと正確に言うなら、洞窟そのものを見つけられていなかったみたいだったんだよ。とても不思議だった。

まあ、その後すぐに説明してくれたけどね、ヨルが。

霊力野(ゲート)に作用して、ここは幻覚を見せる。そういう術式が組んである。これを突破出来るのはそれを物ともしない術者じゃないと無理だ。恐らく奴らはこの洞窟そのものを発見出来ていないだろうな』

そう言うとおれの顔をまじまじと見た。

『……なるほど、相変わらず、人間と言うのは見た目によらないものだな』

… 死ぬ程驚いたね。何たって猫が喋ってんだもん。しかもよく聞く可愛らしい声じゃなくて、おもくそ低い声なんだもん、なにこれ、て奴だよ。……まあ、多分相当うるさかったんだろうね。あ、頷いてる、やっぱり?ゴホンッ、とにかく、ヨルはウンザリした様に話してくれたよ。

『ああ、もう、やかましいな。だから、ガキは嫌いなんだよ。まあ、仕方ないか、これも何かの縁だ。おい、ガキ。そこの要石に触りな、そして、願いを言え。そしたら、俺の力の及ぶ範囲で叶えてやろう。代償は、お前の霊力野から生み出されるマナ、そして、お前の自由だ。願いを叶えたその瞬間から俺はお前に四六時中ずっと取り付き、マナを奪い取ろう』

ヨルはそう告げたよ。おれの目をその金色の目で見据えながらね。

その時、おれは最初、言ってる意味がよく分からなかった。なんてったって、いっぺんに色々な事が起きたからね。混乱しちゃってたんだよ。

そして、それ以上に………認めたくはないけど、あの時のおれはヨルの迫力に呑まれていた。

今じゃ、どうってことないけどね。

しばらくすると、頭も冷えてきて段々働くようになってきた。ヨルの言った事を理解できるまでにね。

おれにとっては、いや、誰にとっても振って湧いた様なチャンスだ。だって、願い事が叶うんだもの。おれは一生懸命どんな願い事をしようか考えた。いじめっ子の撃退?商売繁盛?どれがいいかってね、

そして、自分にとっての一番の願いに気付いた。これしかないと、思った。

 

 

いじめっ子も、商売繁盛よりも、おれは、それよりももっとどうしようもないものを選んだ。

 

おれはゆっくりと、要石に触れて、願いを言った。

 

 

おれの父さんを生き返らせてくれ、てね───

 

死んだ人間には、どうやったって、会うことは出来ない、普通の方法ではね。でも、今目の前に有るのは普通の方法じゃない。

………またと無い機会だった。

霊力野(ゲート)なんて、そもそもない。犠牲になるのはおれの自由のみ。それで母さんの泣き顔を見ずにすむ、そして、おれも父さんと一緒に居られる。だったら、それぐらい我慢しようと、おれの自由ぐらい我慢しようと。

 

 

そう覚悟を決めた。幼い、でも、精一杯のね。決めたんだけど…………

 

 

 

『阿保、そんなの無理に決まってるだろ。話聞いてたか、ガキ。俺の力の及ぶ範囲でって言っただろうが』

 

 

 

あっさり、無理だと言われました。

即答だったよ。おれの葛藤も覚悟も全て吹き飛ばす様に言い放ったからね。

『んな、無理な願い事よりも、今騒がしい連中を殺してくれ、に変更しろそれならできる』

まあ、一瞬迷ったけど首を横に振ったよ。その場のテンションに身を任せると後でひどい目を見ると母さんに教えてもらっからね。

それを見るとヨルは何となく諦めきれないような顔して、おれに要石から離れる様に言った。

洞窟から出ようかと思ったんだけど、外の連中の声が聞こえてね……出るに出られなかった。

だから、奴らが何処かに行くまでしばらくその洞窟にいた。

まあ、その間ずっと、連中を殺すよう願えってヨルは言ってたけど……

それ以降、何かある度にその洞窟に行くようになった。だって、そこに居れば奴らはおれを追って来れないからね。

最初のうちは特に会話はなかったけど、段々と話す様になっていったね。

ヨルは幾つか話してくれた。自分の存在を知っているのは大精霊ぐらいだという事。そして、かつて、此処ら一帯を地獄にした事。そのせいで、人間と大精霊の両方と戦う羽目になった事。結果、負けて封印された事などなど、と言った所かな。

そして、最後にはこう言った。

『俺は、化け物だ。願いを言うならそれぐらいの覚悟を決めるんだな』

馬鹿にしたようにニヤリと笑ってね。

 

◇◇◇◇

 

『何だかあいつら、やたらお前の目の色の事を言ってるな』

そんな風に会話をする様になったある日の事。ヨルはそう言ったんだ。隠れてはいても悪口は常に言われていたからね。ヨルの洞窟の前で。

さすがにヨルも気になったみたいでおれの目を覗き込む。

『なるほど、確かに碧いな』

まあ、特に感想はなかったけどね。その後すぐにこいつはとんでもない事を言ってきた。

『そうだ。お前の目の色を黒くしてやろう。そんなに目の色をからかわれるのが嫌なら、変えた方がいいだろう。

よし、それをお前の願いにしろ。それぐらいの整形なら俺にも出来る』

一瞬フリーズしたけどすぐに何を言われたか理解したよ。

勿論おれは猛反対したさ。この目の色がどれだけ大切かをとにかく力説した。

そんな俺に対してヨルは何だか冷めていたね。

『ふーん、顔も覚えていない人間との繋がりがそんなに大切か……相変わらず、人間ってのはよくわからないな。

ま、どうでもいいが早く願い事を決めてくれ。この先お前以外の奴がここを発見するのを待つのも面倒だからな』

ふぁっと欠伸をしながら、伸びていたね。何だかその言い草に凄く腹が立ったからさ、今度はおれが聞いたんだ。

だったら、君は何が大切だい?てね。

そしたら、これがまた腹立つ様にいうわけだよ。

『お前、阿保か?こんな穴ぐらの中にいて、そんな物ある訳ないだろ。しいて言うなら、命と言ったところか』

とね。もう、本当にどうでも良さそうに言うんだよ。

余りの言い草にポカンとしてたら、ヨルはふと思いついた様に言葉を付け加えたんだ。

『ああ、そうだ別に大切な事ってわけでもないが、封印が解けて、晴れて自由の身になったらあっちこっちを巡ってみたいな……勿論、ここ、えーっと……リーゼマクシアだっけ?を地獄にする道中でな』

……気付いた?そ、今のヨルの欲はこの頃から出来てきていたんだ。……最後にとんでもない一言が付いてきたけどね。

まあ、楽しい会話をしてた訳じゃないけど、それでもおれ達はよく話をした。まあ、そうでもしないと、いじめてる連中が帰るまで暇でしょうがなかったから、と言うのが理由の一つなんだけど……

そんなある日の事だよ。

いつものように、ヨルの洞窟に行こうとしたら、何だか街が騒がしかったんだ。

何だろう?と思って辺りを見回して見ると人だかりが出来てた。

あんまり、ここの街の住人には関わりたくなかったんだけど、それでも……なんて言うのかな?物凄く街の雰囲気がピリピリしていたんだよ。

だから、気になってその人だかりの所に行ったんだよ。そしたら、そこには、命辛々逃げてきた……いつもおれを馬鹿にして、追いかけていた連中がいた。

何があったのか気になったから、その辺にいたキセルを咥えた、大人に聞いたんだ。どうしたのか?てね。そしたら、優しく答えてくれたよ。全然優しくない事をね。

『この馬鹿ガキどもが、魔物の巣にちょっかい出したんだ。そのせいで、怒った魔物どもが今この街を目指して進行中て訳だ。一体何体いるのかなんて考えたくもないけどな……まあ、そう言うわけだ小僧。俺たち大人がそれはどうにかする、一応ガイアス王にも救援を頼んではあるだから、お前もとっとと、避難しろ………て、おい、何処行くんだ?!そっちは……』

最後まで、聞いて居られなかったね。母さんを探そうかと思ったけど、それよりももっと確実な方法をおれは、知っていた。

 

 

 

もう、言うまでもないだろう?

 

 

そう、おれが向かったのは、

 

 

ヨルの洞窟さ。

 

 

 

息を切らして入ってきたおれを見てヨルは少し馬鹿にする様に言った。

『どうした?どっかの馬鹿ガキどもが、魔物の巣にちょっかい出して今ピンチか?』

驚いたね。何せ、見てきた様に言うんだもん。

その疑問にヨル応えてくれたよ。

『お前が、いつもこの辺りで姿を消すから待ち伏せしてやろう、て。とても楽しそうに話していたぞ。そしたら、まあ、運悪く、そこが魔物の巣だった訳だ。取り敢えず、ここに居れば、魔物の群れはしのげるぞ』

おれは聞いた、ヨルに。この魔物の群れから街を守れるか、どうかを。そしたら、事もなげに言ったよ。

『守るなんて生温い。殲滅出来るぞ、俺なら』

それなら、とおれは、要石に手を触れて願いを言おうとした。

けれど、その前にヨルが口を挟んだ。

『まさか、街の連中を守る為に魔物を倒せ何て言うつもりじゃないだろうな。

はっきり言うがお前にそんな義理はないだろう。お前の誇りを侮辱し、辱め、痛めつけて喜んでるような連中だぞ。殺せと願う事はあっても助けろと願う道理はない。聖人君子にでもなるつもりか?』

 

その時、おれは何て応えたか覚えていない。でも、迷わずに即答した事は覚えてる。

 

それと、もう一つ、おれの言葉を聞いたヨルが大笑いした事も。

 

『フフフ、ハハハ、ハーーッハハハハハ!!……良いだろう、気に入ったよ。実に人間らしい理由だ。やはり、人間はそうでなくちゃあ……な。お前の人生を俺に捧げる覚悟あるなら、その要石に手を当てて願え、ホームズ(・・・・)。俺がその願いを叶えてやろう……」

不敵な笑みを浮かべてヨルは言ったよ。

おれは、迷わずに願いを言った。

その瞬間、ヨルを縛っていた鎖は全て千切れさって、柱も消え去った。

そして、ヨルは今までずっと見て来た黒猫の姿じゃ無くなっていた。

何と言うか、虎みたいだった。白虎ていうのがあるなら、黒虎て感じかな。

『さて、殲滅に向かうとするか。おい、ホームズ、お前も背中に乗れ!封印が解かれた以上俺はお前から一定の距離以上離れられん』

そう言うとおれを背中に乗せてそのまま一気に、魔物の群れまで駆け出した。

『しっかり掴まってろよ、そして、喋るな。舌噛み切って死ぬ事になるぞ。』

……いや、本当にその通りだったね。何と言うか、命の危険を感じたよ。

 

 

 

現場に到着すると、何て言うか……酷い様だったね。こんなに魔物っているんだと思ったよ。

同時にあいつら何をやらかせば、こんな事になるんだとも思った。

おれは、恐怖を堪えるのに必死だった。でも、ヨルは、どうやら笑いを堪えるのに必死だったようだね。

『いいねぇ、これは、暴れがいのあるってものだ……』

舌舐めずりしてそう言うと、ヨルは背中におれを乗せて魔物の群れに突っ込んで行った。

 

尻尾を振れば5、6匹は吹き飛ぶ。

 

 

ひとたび、吠えれば魔物は動きを止める。

 

 

そこを問答無用で爪で裂き、牙で食らう。

 

 

魔物が精霊術を使えば、それを食らい、倍にして黒い球を吐き出し魔物達に返す。

戦闘何て言葉はヨルの戦いには足りない。

無双、蹂躙、駆逐、駆除、殲滅……そんな言葉達がピッタリだった。

その様子を見ながら、おれは、ヨルが言っていた事を思い出していたよ。

 

 

俺は、化け物だ───

 

 

なるほどその通りだと思ったね。

あの行動は……化け物そのものだったよ。

大人達が到着する前には、全てのカタが付いていたね。

カタが付くとヨルは見覚えのある黒猫の姿に戻っていたよ。

そして、要求してきた。

『さて、制約通り、お前の霊力野(ゲート)から、マナを絞り取るとしよう。忘れたとは言わせない。』

 

 

……結果はご存知の通り。おれに霊力野(ゲート)はない。だから、ヨルの要求は叶えられる事がなかった。

物凄く怒ってたね。話が違う、騙したな、て爪で引っ掻いてきた。

まあ、でも、おれは、何一つ嘘は付いていない。本当の事を言わなかったら、勝手にヨルが騙された、いや、勘違いしただけだ。

今度はおれが説明してやったよ、出来るだけ丁寧にね。

すると、本当におれの事を忌々しそうに睨んでいたけど、諦めた様に舌打ちをして、おれの肩に乗って言った。

『くそ!まあ、いい。今さら、グダグダ言ってもしょうがない。念の為説明しておく。これからは、お前が殺されると俺も死ぬ事になる。せいぜい、気を付けろ。』

おれは適当に返事をすると、そのまま街に帰って行ったよ。

因みに、おれのいや、ヨルの勇姿(?)は村人達に見られる事は無く、いじめは消えず、ヨルの封印を解放した事により、もう、その術式は消えてしまい、そのせいで隠れる場所もない。

 

 

結局いつもの生活に元通りて訳さ。少しばかり、非日常を過ごしたってそうは変わらないのさ。

いや、少しだけ変わったかな。おれに石が当たらなくなったんだ。

おれに、石を投げると肩にいるヨルに当たるんだよね。それがやだから、ヨルは尻尾で全部弾き飛ばしてた。

みんな、気味悪がっていたよ……一部を除いてね。

1人はさっき話した女の子。俺の目の色を褒めた時に、喋ったんだよ、石を弾くだけじゃなくて。

『珍しい人間もいる物だ。』

てね。

女の子は凄く驚いた様だったけど、直ぐに気を取り直して色々話してきたよ。

まあ、そんな女の子だからこそ、仲良くなれたんだろうけどね。

もう、1人は……おれの母親。

『何で猫が喋ってるんだい?』

そう言ったかと思うとそのままヨルにアイアンクロー決め始めたんだよ。

何かこう、ためらいとか、そんな物なしにいきなり鷲掴みだよ、鷲掴み。

びっくりしたよ。何でそんな事をしたかもちゃんと聞いたよ、勿論訳も聞いた。どうしてこんな事をするの?て。そしたらさ、あの母親、しれっとこう言うんだよ。

『それは君が先に説明すべきだよ。どうしてこんな喋る猫を連れているのか、あの魔物が襲ってくる時お前は何処にいたのか、そして、わたしのピーチパイを食べたのは誰なのか、』

最後に関係ない物があったて?まあ、いいんだよ、そこは。

結果おれは、全部話した。ヨルの事、封印の事、魔物騒動の事、全部ね。

おれの必死の説明に、なるほどと言うとそのまま、ヨルを空中に放り投げて腹にパンチを一発食らわせて吹き飛ばした。

『まあ、安心しておくれ。死にはしない。ただ、数日間腹が痛いだけだよ。息子を助けてくれた恩に報いて、殺そうとした事はそれでチャラにしてあげるよ……て、聞いてないねぇ。』

滅多に剥かない白目を剥いてヨルは倒れていたね。

そんなヨルを母さんは摘み上げるとおれに渡した。

『ほれ、まあ、これから文字通り、死が2人を分かつまでの間柄だ。せいぜい、頑張る事だね。』

………昔は何とも思わなかったけど、今考えると、悪ふざけの塊みたいな言葉だね。何か腹立ってきた。

 

 

ゴホン、とまあ、こうしておれとヨルついでに母さんは出会い、今に至る訳さ。

以上がおれとヨルの出会いの物語、満足してもらえたかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「……何か、色々衝撃的だね」

レイアの第一声はそれだった。

そんなレイアにホームズは肩を竦める。

「まあ、喋る猫との出会いだもの。普通な訳がないよ」

「いや、ホームズのお母さんにも衝撃を受けたんだけど」

出会って、突然喋る猫に腹パン一発を冷静に喰らわせるホームズ母。

「……そう言う人間もいるって事だ」

ヨルは腹を抑えている。

「『死が2人を別かつまで』ね……女の子なら、一度は憧れるセリフ何だけど……それをホームズ達に言うって……」

「達悪いでしょ……いつ思い出しても嫌になるよ」

ホームズもヨルも暗い顔をする。

レイアはそんな彼らを見て考える。

「ヨル君を大笑いさせた言葉って何なの?」

レイアの言葉にホームズは肩を竦める。

「さてね、おれは、覚えていないんだ。ヨルはどうだい?」

話を振られたヨルは耳をピクと動かすと応えた。

「覚えてるぞ。まあ、忘れてるなら思い出さなくていいんじゃないのか?別に死ぬわけじゃないだろ」

ヨルの言い草にホームズは顔を引きつらせている。

「ま、まあ、そうだけどさ。ところで、レイア。締め出されだ時いつも何処で寝たの?」

「ここ、港のベンチ」

事もなげに言うレイアにため息を一つ吐くとホームズは寝る準備を始める。ポンチョを脱いでいる所を見るとポンチョを掛け布団の変わりにしようとしているのだろう。準備が出来ると2つある内の1つを占領して横になった。

そして、1分と経たない内に寝息が聞こえてきた。

「早いね……」

「昔から寝付きだけはいいからな」

「何が悪いの?」

「寝相」

その言葉にレイアは不安そうにベンチで寝ているホームズを見る。

「大丈夫かな……」

「いや」

ヨルは淡々と言う。

レイアは顔を引きつらせながら自分も寝る準備を始めた。

そして、どこか遠くを見つめるヨルが気になったので、レイアは尋ねた。

「昔の事、思い出してるの?」

「まあな」

ヨルはレイア方を向かずに応える。

「ホームズはさ、何て言ったの?願い事を言う時」

レイアはもう一度尋ねた。

そんなレイアにヨルは躊躇わずに教える。

「───────と言った」

「それは……確かに聖人君子じゃ言えない言葉だね」

レイアは少し考え込む様に言った。

「昔はこいつも結構、と言っても今と比べれば程度だが、

『自分の為』と言うのがあった。別にそれは悪い事ではないと俺は思うが」

「今は?」

空を見上げる。

「殺されかけた相手を庇う、自分を殺しかけた相手に手加減する、何かこう、気味が悪い。俺とはまた、種類が違うがこいつはこいつで…………化け物だ」

ヨルはそう吐き捨てる。レイアは少しだけ、首を傾げるとヨルに聞く。

「原因に心当たりは?」

「ある。ついでに言うなら、秘密主義に拍車がかかったのもな」

そう言うとヨルは大欠伸をすると考え込む様に言う。

「まあ、若干7歳で自分の人生捨てるような覚悟をするんだ……まともな訳もないよな」

ヨルは面白そうに笑う。暗い夜に白い牙が光。対象的にレイアは暗い顔をする。

「結局、化け物ってのは、化け物を引き寄せるんだろな」

そう言うと、ヨルは丸くなり寝てしまった。

彼らが静かになると、レイアは横になりながら考える。

ホームズの旅の目的は両親の故郷に行く事。理由は、両親がどんな所で、育ったか見たいから、そして、未知の土地に行って見たいから。それ自体には嘘はないだろう。

しかし、

 

 

「それだけじゃないよね……」

 

 

なにせ、ホームズの十八番(オハコ)は本当の事を言わない事だ。

 

そこまでが限界だった。レイアはそのまま眠りへと落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

そして、季節は移り変わる………

 

 

 

 

三週間後の変節風の吹く頃に………







やーっと一区切り付きました。(イエイ!)
一部完とでも言っておきましょうか
いやー感慨深いです。
今後も気を抜かずに行くので、これからもホームズとヨルの旅を見守っていただけると嬉しいです(^_^)

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