1人と1匹

猫の手はいらない

百八十二話です。



今度の戦闘は彼らです

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「魔神剣……」

先に仕掛けたのは、ローズだ。

ローズの二刀が空へ向かって切り上げられる。

筈だった。

ホームズは、それを右脚で踏みつけるとそのままローズに向かって回し蹴りを放つ。

「──────っ！！」

振り抜かれる蹴りにローズの息が止まる。

ローズは、響く衝撃を堪えると口を開く。

「フォトン！！」

光の球がホームズとローズの間で弾ける。

二人は、それぞれ反対方向に吹き飛ばされた。

「ぐっ！」

ホームズは、岩壁に叩きつけられた。

突然のローズ自身を巻き込んだ不意打ちをホームズは、なんとかして立て直す。

だが、ローズの方が一歩早い。

当然と言えば当然だ。

ホームズにとっては不意打ちでもローズにとっては、不意打ちでもなんでもない。

唯の攻撃の一つだ。

来ると分かっている攻撃を耐えるなんて当然だ。

準備されていて当たり前だ。

二人がそれぞれ正反対に吹き飛ばされたため、距離が出来た。

つまり、

「ウィンドカッター！！」

ここからは、ローズの間合いだ。

ローズから風の刃が、ホームズに向かって襲いかかる。

ホームズは、避ける。

そして、ローズに向かって走り出そうと一歩踏み出す。

「省略！フリーズランサー！！」

しかし、それをローズが許さない。

氷の矢がホームズに向かって放たれた。

ホームズは、足を止める。

「獅子戦哮・焔！」

炎の獅子が氷の矢に喰らいつく。

だが、全てではない。

獅子から逃げ切った氷の矢が、ホームズに襲いかかる。

「っ！紅蓮脚！」

ホームズは、右脚に炎を纏って氷の矢を溶かす。

（ジリ貧だな………)

ヨルはホームズとローズの戦いを眺めながら、そう考えた。

単純にホームズには、遠距離の技がない。

せいぜい石を投げるのが精一杯だ。

そんなホームズに対し、ローズは精霊術がある。

おまけに、成長したローズには、詠唱が極端に短い精霊術がいくつもある。

ホームズが距離を詰めるより早くにローズの精霊術の方が完成してしまう。

「省略！サンダーブレード！！」

「守護方陣！！」

振り下ろされる雷撃の剣を光の陣が受け止める。

迫り来る雷。

徐々に押されるホームズの陣。

「ふんぐおら！！」

ホームズは、さらに地面を強く踏み込み雷を打ち消す。

危機を脱したホームズは、肩で息をしている。

なんとか、ここで踏ん張らなくてはならない。

いつの間にか降っている雨に濡らされながら、ホームズは呼吸を整えようとする。

「ストーンブラスト！」

しかし、それを阻止するかのようにローズの精霊術が完成する。

足下から湧き出る礫にホームズは、吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられた。

「がっ！！」

ホームズの肺にある空気が押し出される。

ローズは、濁りきった黒い瞳でホームズを見下ろす。

「ヨルの力、使ってもいいわよ？」

「だ、そうだが？」

ヨルは、岩壁からホームズにそう返す。

「遠慮しとくよ。意地と障子は、張るものだからね」

ホームズは、そう言ってゆっくりと顔を上げる。

「それより、君はレイア達の方に行っておくれ」

「……………はぁ」

ヨルは、呆れたようにため息を一つ吐くとレイアの方へと歩き出した。

いつもなら文句をタラタラ言うヨルが、ため息一つでホームズの側を離れたことにローズは、怪訝そうに眉をひそめる。

「安心したまえ。ヨルが、おれ達の戦いに関与することはないよ」

ローズの疑問を先回りするようにホームズが、答える。

ローズは、ホームズの事をその暗い瞳で睨みつける。

「……………どういうつもり？負けた時の言い訳なら聞かないわよ」

「君こそ、ヨルのいないおれに負けたらそれこそ言い訳出来ないよ」

ホームズは、馬鹿にしたように笑いながら返す。

ローズの刀を握る手に力が込められる。

（煽って、タイミングをずらす……)

ホームズは、呼吸を整える。

（そして、こっちのタイミングで仕掛ける）

そんなホームズの思惑を他所にローズは、雨粒を確認するように灰色の空を見上げる。

「雨、随分降ってきたわね」

「ん？」

意図が読めず首を傾げるとピキピキという音が、ホームズの足下から聞こえた。

「冷たっ！！」

思わず自分の足下を見るとホームズの足が凍りついていた。

「なっ！？」

「時間稼ぎをしていたのは、貴方だけじゃないわ」

ローズは、刀を下段で十字に合わせる。

冷気は、どんど強くなっていき、雨で湿った空気を、濡れた地面を凍らせていく。

「これを……狙って……」

冷たいを通り越して痛みを感じ始めた両足にホームズは、歯をくいしばる。

「ローズ・クリスティが命じる」

詠唱をしながらも冷気は、溢れ出る。

ホームズは、一度だけこの精霊術を見たことがある。

詠唱こそ違えど、この感じに覚えがある。

「紅蓮脚！！」

足を炎で纏うも溶けた端から凍り始める。

「あの馬鹿を凍らせ………」

ホームズの周りの冷気は、震えるほど冷え切っていた。

「あの馬鹿を捕らえよ！」

ローズの精霊術が完成する。

「アブソリュート！！」

ローズの最後の一節と共にホームズに氷の牢獄が襲いかかる。

「─────っ剛招来！！」

かつて母が使った手を使う。

だが、氷の勢いは、止まらない。

母のようには、行かなかった。

迫り来る氷の檻にホームズは、迫る敗北の予感を噛み潰す。

今の自分にこの状況を打開する方法は、ない。

（だったら…………)

ホームズは、拳を握り締める。

「剛招来と紅蓮脚の応用編！！」

氷の檻が閉じる。

その瞬間、足を纏う炎が剛招来と混ざり合いホームズを包む。

「成長しろ………」

炎の形が少しずつ変わっていく。

「命を賭けて！」

炎は、鳳凰となり羽ばたく。

「鳳凰天駆！」

氷の檻を壊し鳳凰を纏うホームズは、空に舞いがる。

「─────！？」

ローズは、自分の技を再現したホームズに言葉が出ない。

だが、ローズは直ぐに刀を構え直しマナを集める。

経験を武器にホームズ下段で刀を構える。彼女の元に光が集まっていく。

刀の切っ先が、照準を合わせるようにホームズに合わせられる。

そこから、現れるのは光の大砲だ。

「進化しろ………」

ローズに集まる光に対抗するようにホームズが纏う鳳凰も翼を羽ばたかせ、脚をローズにあわせる。

ローズの精霊術も準備が出来た。

「省略！！」

「全てを賭けて！！」

ホームズを纏う鳳凰が更に燃え上り、ローズの前に集まった光はホームズに狙いを定める。

「ディバインストリーク！」

「鳳凰天翔駆！！」

光と炎は、轟音を放ちながらぶつかり合う。

「ハァアアアアアアア！！」

「だぁらああああああ！！」

二人の慟哭が霊山に響き渡る。

ローズからホームズに向かって真っ直ぐ伸びる光の大砲は、ホームズの鳳凰の片翼を僅かに打ち消す。

（私が証明してみせる……！）

ホームズは、歯ぎしりをして更に鳳凰に力を込める。

（友人を救う……そのためにも……）

光におされ、消えかけていた鳳凰の両翼が大きく広がる。

ローズは、更にマナを込める。

（進む潰す勝つ）

（退かない負けない逃げない）

二人は、お互いを睨みつける。

（ （全力でねじ伏せてやる！！））

永遠に続くかのように見える、光と炎のぶつかり合い。

だが、それにもいずれ終わりは訪れる。

ローズの光とホームズの炎は、同時に消え去った。

ローズは、精霊術が破られたことに戸惑う事なく、宙にいるホームズに向かって刀を振るう。

「っ！」

ホームズは、振るわれる刀を足場にして地面に降り立つ。

非常識を使っていないため、危なかっしいが、なんとか着地をした。

そして、ホームズとローズにあった邪魔な距離が消えた。

ローズは、慌てて精霊術を発動させようとする。

だが、ホームズは、ローズから声が出るより先に口ごと顔面を鷲掴みにする。

「壁………」

ホームズは、身体を反転させ遠心力を乗せる。

「………ドン！！」

ローズは、思い切り岩壁に叩きつけられた。

ドンと言う鈍い音が響きわたる。

「──────ッ」

ローズの肺にあった空気が全て飛び出す。

再び距離が出来たとはいえ、詠唱している余裕など何処にもない。

ホームズは、泥濘む地面を踏みつけ、真っ直ぐにローズへと向かっていき、蹴りを放つ。

「ぐっ！」

ローズは、走る激痛を堪えなんとか、かわす。

ローズに交わされたホームズの蹴りは、ローズのギリギリ横に放たれた。

「こんのお！」

ローズは、転がりそして再びホームズと一定の距離をとろうとする。

しかし、それより早くホームズの蹴りがローズに向かって放たれる。

ホームズの蹴りを何とか刀で受けるローズ。

ホームズは、攻撃が不発に終わった事を悟ると直ぐに脚を降ろす。

ローズは、精霊術を発動させようと口を開こうとする。

だが、ホームズは、直様ローズの口元に向かって手を伸ばす。

口に触るなんて表現など生ぬるい。

ホームズの掌をぶつける。

これは、もう張り手の領域だ。

ご丁寧に指輪が当たらぬように気まで配っている。

（………詠唱がっ！！）

ローズは、口元から襲い来る衝撃に目を丸くしながらホームズを見る。

そんなローズに構わずホームズは、構える。

ホームズに精霊術はない。

残念ながらヨルのいないホームズでは、ローズの精霊術を全て打ち消す事は叶わない。

だったら、やるべき事は一つだ。

（精霊術を発動させない！）

ホームズの右手の張り手が再びローズに襲いかかる。

またしてもローズは、精霊術を発動できない。

（くそ……術さえ出来れば………)

ローズは、何とか隙を見てフォトンだけでも発動させようとする。

だが、それでも詠唱のために口を開こうものなら、ホームズの張り手が飛んでくる。

精霊術という遠距離の技があるローズの方が圧倒的に有利だ。

だからこそ、有利な状況に持って行こうとしていた。

対するホームズには霊力野(ゲート)も、精霊術もない。

だが、ホームズにはそれを補って余りあるものがある。

経験という何物にも勝る武器がある。

全てのことにおいて化け物レベルの母といた十六年間。

精霊術を喰らう化け物といた十一年間。

それらの全てを血肉としてホームズは、ローズの精霊術を封じ続ける。

（そうか、ヨルといた経験が今ここで、よりにもよってこのタイミングで発動してるのね……)

そうか精霊術は発動出来なくとも、発動するタイミングなら掴めるのだ。

張り手にローズが怯んだ瞬間ホームズの蹴りが再び襲い来る。

ローズは、ギリっと歯を食い縛るとホームズに向かって刀を振るう。

ホームズは、左手の盾で受け止める。

精霊術を使うタイミングは、もう読まれている。

全てではないにしても、それを探ってる間にホームズの蹴りか張り手を何発ももらう羽目になる。

先ほどから一発一発に全てが乗っているその攻撃を何発も食らって、無事な補償などどこにもない。

「………決めた。精霊術は使わない」

ローズは、弾かれた二刀をくるりと回して構え直す。

「選択肢は、私の方が多い。だからその分出遅れる」

その暗い瞳のままホームズを睨みつける。

「だったら、私はその選択肢を狭める」

自分のアドバンテージを潰してまでローズは、ホームズに挑む。

「そうまでしておれに勝ちたいのかい？」

「忘れたようだからもう一度言ってあげる」

ローズは、刀をホームズに突きつける。

「私が勝って証明してみせる、ガイアス王の正しさを」

ホームズは、左手の盾を構えながら、ローズの切っ先を睨みつける。

「ならば、おれは勝って君を否定しよう」

自分を濡らす雨ももう気にならない。

二人は再び強く踏み込んだ。

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ルイーズには、遠く及びませんがやらなくてはならないのです。




てなわけで、質問コーナー




Q，ルイーズの死をマーロウは知ってるんですか？
A，知ってます。ただし、ローズには教えませんでした。
ホームズが彼女に話すのが筋と考えていたので、何回か忠告しています。
勿論、全部無視していましたが………




では、また百八十三話で( ´ ▽ ` )ﾉ