1人と1匹   作:takoyaki

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百六十話です


三連休、そして成人式が今日明日で行われていますね。
もう、一年前。時が過ぎるのは早いです。



それは、そうと遂に百六十話まで来ました。
ちょっと前にこれぐらいで終わるかな〜見たいな話をしていましたが、余裕で超えましたね。
まだまだ終わりは遠いです………


てなわけで、どうぞ





其の捌

「はぁ………毎朝毎朝」

ホームズは、ため息を吐きながらマープルの髪を結んでいる。

最早日課となっている。

因みに今日の髪型はポニーテールだ。

「これもいいですけれど、今日は別の髪型がいいですわ」

「例えば?」

「ついんてーるって知ってます?」

「あぁ、あのエビの味のする奴ね」

「………何の話をしてますの?」

「こっちの話」

ホームズは、そう言うとマープルのポニーテールを解き、二つに髪を分ける。

そして、器用に結び直す。

マープルは、鏡を見て感心している。

「本当、誰にでも特技はあるものですわね」

「…………馬鹿にしてるだろう」

ホームズは、そう言って髪を再びほどく。

「?ホームズ?」

「自分で結んでみたまえ」

ホームズは、そう言って髪留めの紐を渡す。

「いずれ、僕達はここを出て行く。

その時は、自分で髪ぐらい結べるようにならなきゃいけないだろう?」

マープルは、ギュっとホームズから受け取った髪留めの紐を握りしめる。

「分かりましたわ。それと、僕でありませんわ」

マープルは、そう言うと再び髪を結ぼうとする。

しかし、

「ズレてるな」

「姉さんって、結構不器用だよね」

「ふっ………不器用というのは、格好良さを演出するスパイスですわ」

「その言葉がまずカッコ悪いね」

「…………」

マープルは、無言で髪をほどくと再び結び直そうとする。

「ところで、一つお聞きしても?」

「なんだい、コツかい?」

 

 

 

 

 

 

 

「いいえ。あなたは、精霊術を使えますの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、ピタリと動きを止める。

「あなた、ここに来てから一度も精霊術を使っていませんわ」

「どうして、そんなこと聞くんだい?」

マープルは、髪を一つにまとめる。

「普通、年上という存在は、年下より出来ることを自慢する者ですわ。

例えば、釣り。

私より魚を釣る事のできたあなたは、自慢気に魚を見せてきましたわ」

マープルは、キュッとポニーテールを結び直す。

「何故、私に精霊術を見せませんでしたの?」

「単純に、君の方が凄いと思ったんだよ」

「何故ですの?」

「え?」

ホームズは、少し戸惑ったがすぐに肩をすくめる。

霊力野(ゲート)の大きさは、別に大人や子供で決まるもんじゃないだろう?

生まれた時から決まっているものだ」

「質問に答えていませんわね。私が聞いているのは、あなたが精霊術を使わない理由。

霊力野(ゲート)の大きさの話なんてしていませんわ」

その力強い言葉にホームズは、マープルに嵌められたことに気づいた。

「精霊術は、扱い慣れた方が上ですわ。私より長く生きているあなたが、私に劣るはずありませんわ」

マープルは、そこで立ち上がる。

「あなたは、最初から分かっていた。私に精霊術で勝てないことを。

何故か?」

侮っていた。

馬鹿が目立つから忘れていた。

この子は聡いのだ。

いや、油断していた、というのは言い訳だ。

これは、ホームズの力不足だ。

ホームズの実力をマープルが上回っただけの話だ。

「答えは簡単。霊力野(ゲート)が私の方が大きいと知っていたからです。

そして、精霊術というものをよく知らなかったからです」

僅かな言い間違い、そして、行動のヒントを元にマープルは、ホームズに追いつく。

 

 

 

 

 

 

 

「ホームズ、あなたに霊力野(ゲート)は、ありませんわね」

 

 

 

 

 

 

 

結び上がった赤髪のポニーテールがゆらゆらとうごめく。

零では、一をこえることはできない。

ホームズは、パチパチと手を叩く。

「大したものだねぇ……………全部正解だよ」

「私の名前は伊達じゃありませんわ」

「流石。ミス・マープル」

「ホームズにそう言われれば充分ですわ」

ホームズは、軽く肩をすくめる。

「それで、僕にそれを言ってどうするつもりだい?」

マープルは、呆れたようにため息を吐く。

「別にどうも」

それから、マープルは、真っ直ぐホームズを見る。

「私は、あなたとさよならする前にわだかまりを消しておきたかっただけですわ」

そう言って椅子の上に乗りホームズの頬をつねる。

「隠していたのは、過去にそれを理由にいじめにでも合いましたか?」

「正解」

「私にまで隠していたのは、信用していなかったのですか?」

「聞かれなかったから、答えなかっただけだよ」

マープルは、そのままホームズに平手打ちを食らわせた。

「何をするんだい?」

「お仕置きです。こういうつまらない隠し事はなしにしてくださいな」

マープルにキッと睨まれホームズは、ため息を吐く。

「分かったよ…………」

「なら、よろしいですわ」

マープルは、そう言うとそのままゆっくりと椅子から降りる。

「それで、今日は、何をするんだい?」

「あぁ。今日は、私、やることがありますので、ホームズ一人で過ごして下さいな」

「姉さん、何しに来たんだい?」

「さぁ?何でしょう?」

マープルは、面白そうに笑うとスキップしながら、出て行った。

ホームズは、ため息を吐く。

「あの子は、本当にもう……」

ヨルはホームズの肩で尻尾を振る。

「それで?父親のことは、言わないのか?」

「…………言うわけないだろう」

両親のいない人達が集まった孤児院では、泣けない。

そう言っていたマープルが、父親のいないホームズの前で泣けるわけがない。

ホームズは、そう返すとポンチョを羽織る。

「ま、たまには母さんを手伝いに行くかね」

そう言ってホームズは、宿屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、ルイーズが商売をしている広場にやってきた。

しかし、ホームズがつく頃には、ルイーズは、荷物をまとめていた。

「やぁ。少し遅かったね」

ルイーズは、ひらひらと手を振る。

「………もういいのかい?」

「まあね」

ルイーズは、そう答えながら荷物をまとめる手を緩めない。

「さて、ホームズ」

荷物をまとめ終え、ルイーズは、腰に手を当てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日には、出てくから君も用意したまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

ホームズは、わけが分からずポカンとする。

「稼ぎもそこそこ貯まったし、そろそろ次の街に行く頃だろう?」

「いや、けど、そんな急に………」

「別に急じゃないさ。マープルちゃんには、もう話してるしね」

「は?」

ホームズは、更に信じられないという顔をする。

「なんで母さんが言うんだい?」

ルイーズは、そこで更にため息を吐く。

「君は、今までも親しくなった子にいつ出て行くか言わずに出て行ったろう?例えば、ローズちゃんとか」

そう言いながらルイーズは、カバンを背負う。

「あの子にだけは、それをやってはダメだろう?」

その言葉にホームズは、ぐうの音も出ない。

ヨルはホームズの肩で面白そうに笑っている。

「ひどい奴だな。自分の息子も信じられないのか?」

「自分の息子だから、理解してるんだよ」

「そりゃあ、どうも涙が出るほど嬉しいね」

ホームズは、吐き棄てるようにそう言うと、踵を返した。

忌々しいことだが、ルイーズの言うことは正しい。

そんな事ないと声を大にして言いたいが、残念ながらそれを否定できるだけの証拠も確証もホームズには、なかった。

一方的な暴言なら、ともかく、至極まっとうな正論を覆せる力がホームズには、ない。

母親から離れ、ふと気がつくといつもの釣りをする池にいた。

「はぁ〜…………クソ、どうしたもんかなぁ…………」

ホームズは、どっかりと池の側の石に腰を下ろす。

「どうしたもこうしたも、単純にあのガキに話に行けばいいだけの話だろ」

ヨルはあくびをしながらそう返す。

「あのガキ、お前が明日出て行く事を知っていながら、いつも通り接していたところを見るとお前から話してもらうのを待っているんじゃないのか?」

「…………………」

いつも暴言を吐くヨルにまで正論を言われてしまい、ホームズは、またしても押し黙る。

「あぁっ!もう!分かったよ!行けばいいんだろう!話せばいいんだろう!!」

ホームズは、そう言うと頭をかきむしって立ち上がって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「どこにもいない…………」

日もすっかり暮れた頃、ホームズは、宿の食卓で頬を膨らませながらそう呟いた。

「避けられてるんじゃないのか?」

「どちらかというと遊ばれている気がする」

ホームズは、食卓にあるパンに手を伸ばす。

「だいたい、母さんも帰ってきてないし」

もぐもぐと口を動かしながらホームズは、そう愚痴る。

ホームズよりも早く荷物をまとめていたというのに宿に帰ってのは、ホームズの方が早かった。

「あのアオイハナとやらを盗んでいるんじゃないのか?」

「ははは、まさか」

ヨルの冗談をホームズは、肩をすくめて笑う。

「………………………」

「………………………」

「………………………」

「………………………まさか」

ホームズは、立ち上がるとポンチョを掴む。

「お客さん?そろそろ夕飯だよ?」

「ごめんなさい!後で食べます!!」

そう言うとホームズは、ポンチョを翻し、夜の村へと出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、ルイーズは、どこにもいなかった。

「まあ、当たり前だよな。生食じゃ運べないんだから」

「…………言ってよ」

「貴様が言ったんだろうが」

ヨルは呆れながらホームズの肩でため息を吐く。

どっと来た疲れにホームズは、地べたに座わりこむ。

目の前には、夜の明かりに照らされたアオイハナが美しく青白く輝いていた。

「ほう……綺麗なもんだな」

ヨルは感心したようにつぶやいた。

ホームズは、驚いたように目をパチクリさせる。

「なんだ?」

「いや、随分とガラでもないこと言ってるなぁ……と思って」

ホームズの言葉にヨルは、ふんと鼻を鳴らす。

「人間や精霊以外なら割と好ましい部類に入るんだよ」

何処かの誰かにも言ったセリフをもう一度言う羽目になり、ヨルは嫌そうだ。

ホームズは、そんなヨルに構わずアオイハナ畑を眺める。

「ねぇ、ヨル」

「なんだ?」

「アオイハナは、土地に栄養がないとダメなんだよね?」

「あぁ。そう言っていたな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで、こんなにこの村で咲き誇っているんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズに言われヨルはこの村に来た道のりを思い出す。

そう、この村に来る途中の道には、草一つ生えていないほどやせ細った土地だった。

しかし、この村では栄養が必要なアオイハナが咲き誇っている。

「質の高い肥料があるんじゃないのか?」

「だとしたら、不思議じゃないかい?どうしてわざわざそんな肥料食いの作物を育てているんだい?」

ホームズは、そう言って立ち上がる。

「お手頃値段で売れるアオイハナ。

いい肥料っていうのは、当たり前だけどその分値段が高い。

そんなコスト効率の悪い花をどうしてこんな貧しい村が育てていけるんだい?」

「そのためのマナの欠片なんじゃないのか?」

ヨルの言葉にホームズはアホ毛を触る。

「それも謎だよね」

「どこがだ?」

「ねぇ、マナの欠片って、マナを含んでいるんだよね?」

「というより、殆どマナだ」

「誰が何のためにそんなものを欲しがるんだい?」

ホームズの言葉の意味をヨルは理解できない。

「いいかい?青く輝く石ならその辺にいくらでもある。わざわざこんな辺境の地でマナが宿っているなんて付加価値のついた高い石をわざわざ買おうなんて考えるかい?」

「いるんじゃないのか?だから、この村を支えているんだろう?」

ヨルはホームズの言葉を肩で聞きながら返す。

「マナの欠片でもう一個理解できないことがあるんだ」

ホームズは、そう言って懐から商品のリストが走り書きされた手帳を見せる。

「これは、母さんのノートだ。ここにマナの欠片なんて載っていない」

つまり、ルイーズも知らない未知の代物なのだ。

ホームズは、立ち上がって歩き出す。

「ヨル、君に聞きたいんだけど、今まで、見た宝石店でマナの欠片と同じくらいマナを持った石を見たことあるかい?」

「…………ないな、それがどうし……」

どうしたと言おうとしてヨルは、はっと口をつぐむ。

「そう、村を支えるハズのマナの欠片は、どの宝石店でも見たことがない」

ホームズの碧い瞳には光が灯る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ホームズの言葉は、疑問形だ。

だが、ここまで言われて分からないわけがない。

一般人の目に触れないというなら、誰が見ているか?

「政府の人間、或いは裏社会の人間か?」

「僕たちは、よく分からないけど、軍にマナの塊なんてあって困るもんじゃあないだろう?」

「なるほど、ルイーズ相手に売るのを渋るのも頷けるな」

兵器にもなるものを他国に売られては困るのだから、一般的な行商人に売っていいわけがない。

ホームズは、歩みを止めない。

ヨルはそんなホームズに嫌な予感しかしない。

「おい、ホームズ。まさか、これを神父に確かめに行くんじゃないだろうな?

明らかに深入りしていい話じゃない」

しかし、ヨルの制止も空しくホームズの歩みは、止まらず、教会にたどり着く。

「おい、ホームズ」

そこでヨルのヒゲがピクリと動く。

ホームズは、扉を力任せに開け、中に入る。

カツカツとホームズの靴の音だけが教会に響く。

「最後にもう一つ、いや、この村に来た時からずっと不思議だったことだから、最初に一つって奴かねぇ」

そう言ってホームズの脳裏に一番最初にチラシを配った時の事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、この村のどの家の子供も()()か、()()二人組しかいないんだろうねぇ?」

ヨルは、ホームズの言った意味を考える。

チラシを配りに行った時どこの家もこの組み合わせだった。

「言われてみれば、そうだな。どの家も()()()()は、いなかった。どの家の子供も性別がかぶっていなかった」

「だろう?とても不思議で、そして不自然だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、足を止め後ろを振り返る。

「なぜだい、ティーア神父」

碧い瞳に睨まれた金髪の神父は、闇の中でニコニコと柔らかな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








マープルの名前の由来は、本編でちょろっ触れてあるようにとある名探偵からです。


さて、続きはまた、来週
では、また百六十一話で( ´ ▽ ` )ノ


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