1人と1匹   作:takoyaki

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百五十九話です。



ついに、今日で休みも終わりです…………



はぁ、ヤダなぁ………



てなわけで、どうぞ


其の漆

「今日は、趣を変えましょう!」

マープルは、高らかに宣言した。

ホームズ達が滞在して早数日。

最初こそよそよそしかったが、最近では当たり前の様にマープルは、ホームズの部屋で寝泊まりする様になっていた。

「その宣言は、今日の髪型リクエストと何か関係があるのかい?」

そして、毎朝マープルの髪を結ぶのが日課になっていた。

因みに今日の髪型はツインお団子だ。

「勿論ですわ!」

そう言ってマープルが引っ張り出したのは、エプロンだった。

「なにそれ?」

「モテる為の第一歩、ですわ!」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、何これ?」

ホームズとマープルは、宿の自炊客の為のキッチンに立っていた。

「いつまでも釣りをしながらモテない事を嘆いていていても仕方ありませんわ!」

マープルは、キュッとエプロンの紐を結ぶ。

「モテたいなら、モテる為の実力を付けるべき!!顔を変える事は、不可能ですが、それ以外なら幾らでもなるのです!」

「くだらない事を言うのはこの口かな?」

ホームズは、マープルの頬を引っ張る。

痛いですわ(いひゃいへふわ)

マープルは、そう言うと頬引っ張るホームズの手を振り払う。

「いいですか!顔以外にモテるには、押さえなくてはならないポイントが三つあります!」

そう言ってマープルは、指を一本立てる。

「一つ!これといった秀でたものはないけれど、とにかく優しいこと」

「なんか、素直に頷けないなぁ……」

「二つ!鈍感である事!

異性の好意に気づかず、そしてさらりというタラシな褒め言葉」

「ねえさんちょうかわいいー」

「ありがとうですわ。お礼に後でドロップキックを差し上げますわ」

といいつホームズに向かってマープルは、ドロップキックを放つ。

「そして、三つ!料理上手である事!!これさえ押さえれば、モテモテウハウハな未来は待った無し!!」

「まあ、確かに料理の出来る女の子ってこう、ぐっと来るものがあるよね」

「でしょう!料理の出来る男の子と言うのもなかなか素敵ですわ!」

ホームズは、考え込む。

「ふむ………悪くない!悪くないぞ!!姉さんの考えに乗ろうじゃあないか!」

「それでこそ私の弟ですわ!」

ガシっと熱い握手をする二人を見つめる冷めたお目目が四つ。

「ヨル、二人はいつもこんな残念な会話をしているのかい?」

「あぁ」

「だからモテないって教えてあげたら?」

「興味ないな」

そんなルイーズとヨルの会話に構わず、二人は何やら盛り上がっている。

「それじゃあ、君達、試食よろしく」

ホームズのお願いにルイーズは、ため息を吐く。

「頼むから食べられるものを作っておくれよ」

「任せてくださいな」

マープルは、エプロンのハジを持ってお辞儀をする。

「頼むよ。ホームズは、ロクなもの作れないから、君だけが頼りなんだからね」

「えぇ、お任せを。最強のビギナーズラックをお見せしますわ!!」

「ダメだ。誰も信用できない」

どうやら先程のお願いが殺害予告になりそうだ。

「で、お前達は、何を作るんだ?」

ヨルの言葉にホームズは、ふふふと不敵に笑う。

「決まっているだろう?先ずはこいつさ!」

そう言ってホームズが開いた料理本には、ビーフシチューが載っていた。

「馬鹿か君は。どう考えても君が手を出していい代物じゃあない」

「ふ………最初から低いハードルを用意していてはしょうがありませんわ」

「馬鹿か君達は!どう考えても君達が手を出していい代物じゃあない!」

マープルの言葉にルイーズは、ため息を吐く。

「まずは、オムレツから作ってごらん」

「えぇー……そんな初心者丸出しの品つくるの………」

「もうその文句が初心者丸出しだな」

ヨルの言葉にむっとするホームズとマープル。

「いいでしょう。そこまで言うのなら特製の最高オムレツを作って差し上げますわ」

「見ていたまえよ」

そう言うと二人は炊事場へと消えていった。

「いやあの、特製じゃなくていいから、普通の作って……」

ルイーズの言葉は、残念ながら二人には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

待つ事一時間………

 

 

「って、長すぎだろう!?オムレツ作るのにどれだけ時間かけてるんだい!!」

ルイーズの突っ込みにホームズは、フッと息を吐く。

「まあまあ、文句は食べてからにしておくれよ」

そう言ってホームズは、オムレツをそっと、おく。

「黒いんだけど…………」

ホームズとマープルの作り上げたオムレツは、真っ黒だった。

「まあまあ。文句は食べてからにしておくれよ」

「食べる前から、文句しかないわ!!なんだこれ!私はオムレツを作れと言ったんだよ!!誰が木炭作れって言ったんだい!!」

マープルは、ルイーズの言葉に胸を張る。

「オムレツというのは、弱火でじっくり焼き上げると綺麗に焼けると聞きますわ。私はそれを実践しただけですわ!」

「まさか、一時間ずっと弱火で焼いていたんじゃあないだろうね?」

「正確には、五十分ですわ」

「ばっかじゃないの!!」

「いいから黙って食いたまえ!」

ホームズは、フォークでザクッと刺し、そのままルイーズの口を目指していく。

「………普通、オムレツからザクッなんて音はしない筈なんだが………」

ヨルの呟きに構わずオムレツ(木炭)は、ルイーズの口に押し込まれた。

「苦くて、甘くて、ジャリジャリして、ザラザラのガリガリ………」

ルイーズは、そう言いながら顔を赤くし、次に青くし、最後には、真っ白になってそのまま机に突っ伏した。

「………………」

その惨状にホームズとマープルは、声が出ない。

「おい」

「おかしいなぁ………食べられるものしか入れてないよ?」

「当たり前だ」

言い訳がましいホームズの一言をヨルが切り捨てる。

そんな話をしてる間に先ほどからルイーズは、白目を剥いて動かない。

「おい、生きてるんだろうな?」

ヨルの珍しく人を心配した声に二人は目をそらす。

マープルは、ガックリと膝を着く。

「そんな…………これでは、モテるなんて夢のまた夢ですわ………」

そんなマープルの肩をホームズがポンと叩く。

「大丈夫だよ………いつか、君もモテモテになるよ」

「そんな気休め………」

「母さんだって結婚できたんだ。君だって、そのうちモテるさ」

「なるほど。納得ですわ」

ガシと二人が熱い握手をしてる中ゆらりと背後に立つ上る殺気。

「………………おい、いい加減にしたまえよ」

二人の頭に仲良く拳骨が落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「ったく………二人はもう少し基本を身につけること!」

「「はい…………」」

正座をして説教を聞く二人の頭には大きなタンコブがあった。

ルイーズは、そう言うとエプロンを身につけ始めた。

「今日のところは私が初心者用の料理を教えるから君達は、もう一度台所に立ちたまえ」

ホームズは、ポカンと驚いた顔をしている。

「………珍しいね、母さんが料理を教えるなんて…………」

ルイーズは、キュッとエプロンの紐を結ぶ。

「当然だろう。私達はいつまでもここにいるわけじゃあない。だったら、ここにいる内に教えてあげなきゃねぇ………」

ルイーズの言葉にマープルは、目を丸くする。

「それって……………」

「私たちはここに来ただけ。住むつもりは、ない。いずれ出発する」

「それは…………何時ですの?」

「まだ未定。さ、マープルちゃん、準備出来たよ」

マープルは、その言葉で我に帰ると、返事をしてマープルに料理を教わり出した。

ホームズとマープルは、指示を聞きながら料理を作り上げていく。

そして………

「出来た!マーボーカレー!!」

四つお皿に盛り付けられたマーボーカレーが食卓に並んでいた。

嬉しそうにハイタッチをする二人の後ろでルイーズは、ため息を吐いていた。

「………なんか、疲れてるな……」

「あの子たちに余計な事をさせないようにするだけで精一杯だったよ………」

ルイーズは、そう言ってエプロンを取る。

「さ、食べるよ……」

「「いただきます」」

ホームズとマープルは、そう言うとマーボーカレーに手をつけ始めた。

二人の楽しそうな顔を見るとルイーズは、諦めたように笑ってため息を吐きながら食事を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「ふう……いいお湯だった」

ホームズは、頭を拭きながら自分の部屋に戻る。

部屋には、ホームズより先に出ていたマープルがちょこんと座っていた。

その後ろ姿には元気がない。

「…………どうしたんだい?」

ホームズの質問には答えず、櫛を押し付ける。

ホームズは、少し戸惑ったが、マープルの髪を梳かし始める。

「別に、どうもしませんわ。ただ、改めて認識しただけですわ」

「あぁ………昼間のことか……」

何を言いたいかホームズは、ようやくわかった。

マープルは、静かに頷く。

「どうしても、ここから出て行ってしまうのですか?」

「まあね。他の所で商売もしなくちゃいけないしねぇ……」

ホームズは、迷わずにそう返した。

「そう…………ですか…………」

マープルは、思わず俯く。

思わず零れそうになる涙を必死に抑える。

ここで泣いてもホームズを困らせるだけだ。

それが分かっているからマープルは、必死に泣かないよう堪えている。

しかし、それでも涙が目から落ちる。

「姉さん」

自分を呼ぶ声に思わず顔を上げるとそこには小指を出したホームズがいた。

「約束するよ。また、いつか、必ずこの村にやってくる」

いつもの嫌味ったらしい笑みではなく、本当に優しい笑顔でホームズは、約束をする。

ホームズの言葉に目を丸くすると急いでゴシゴシと涙を拭き、自分も小指を出す。

「えぇ。約束ですわよ!」

「もちろん」

「いつになるかは、分からないがな?」

「ヨル…………」

ヨルの余計な一言にホームズのこめかみがピクリと動く。

そんなヨルにマープルは、微笑む。

「えぇ。いつまでも待っていますわ」

そんなマープルに少しだけ冗談を言うようにいたずらっぽく笑う。

「それまでには、もう少しモテるようになっているといいね」

「あなたに言われたくありませんわ」

ぴしゃりと言われたホームズは、マープルの両頬を引っ張る。

「余計な事を言う口は、これかな」

痛いですわ(いひゃいへふわ)………」

二人は、こうして過ごしていく。

いつか終わりのくるその日まで、こんな日々を過ごしていく。

ヨルはそれ思うと面倒臭そうにため息を吐いて丸くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜夜風が気持ちいいねぇ」

ルイーズは、夜、一人で村を歩きながら、考えていた。

ルイーズは、夜が結構好きなのだ。

道を照らす光は、星と月明かりのみの夜を一人で歩く。

この何と言えない明るさの中を歩くのがルイーズの楽しみでもある。

元々、この風景が好きと言うのもある。

それと、まあ、もう一つ程由来はあるのだが。

だが、それも秘密だ。

ホームズが小さい頃はこんな事も出来なかったが、今は別だ。

ホームズも中々大きくなったし、今ならこれぐらいの羽伸ばしは、問題ない。

「さて、少し、考えをまとめるかねぇ……」

ルイーズは、静かに目を閉じる。

そのほんの一瞬の間にルイーズの頭の中を様々なことが駆け巡る。

「………………ふむ」

ルイーズは、ふぅと一息吐く。

道端に生えているアオイハナを摘み、その花を眺める。

若干シミの出来た葉とそれと対するように美しく咲く花。

月明かりと星明かりそこに照らされた花畑は、青白く輝き、夜風に誘われる様に花びらを舞わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、おかしいよねぇ……ここ」

 

そのいつかは、もう直ぐだ。









離陸には、助走が必要です。
というわけで後は飛ぶだけとなりました。
いや、ここまでは載せたかったのでこの休みは、頑張りました!!
そんなわけで、皆さんまた来週!!


では、また百六十話で( ´ ▽ ` )ノ

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