1人と1匹   作:takoyaki

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百四十四話です



この前、仕事が辛いない中家に帰って書いていたら物凄い明るい話が書けてびっくりしました。



まあ、その話のお披露目は大分先になりますが………


てなわけで、どうぞ


終わりよければ?

「ぐっ、あああ」

ジランドは右腕のなくなった肩を抑え膝をついた。

ホームズの両腕からは、黒霞が消える。

セルシウスの方を見ると目を開けていた。

「…………!」

「そう構えるな、もう指一つ動かせん」

ホームズは、その言葉を聞くとほうと一息つく。

「っ痛」

その時、全身を激痛が駆け巡る。

どうやら、非常識を使用したツケが回ったようだ。

立っている感覚がない。

そのままゆっくりと体が傾く。

ヨルは逃げるようにホームズから飛び降りた。

それをミラが片腕で支える。

「…………ミラ」

「よくやった、ホームズ」

ミラの言葉にホームズは、ニヤリと笑う。

「当然」

「ホームズ!!」

そんなホームズにジュード、レイア、エリーゼが慌ててホームズに駆け寄る。

黒霞の消えたホームズの両腕は、だらりとぶら下がっているだけだ。

「毎度毎度無茶ばっかりして!!」

ジュードは、若干ご立腹のようだ。

「いや、まあ、今回のは、おれのせいじゃ……」

「言い訳無用」

そう言うと三人でホームズの両腕を治療し始めた。

ホームズの右腕に空いた傷は見る見る塞がっていく。

「というより、君達は、凍傷とかになってないの?」

不思議そうなホームズにレイアは、ジト目を向ける。

「ホームズが無茶をしたおかげで大丈夫だよ」

「なんか……感謝の念を感じないんだけど」

「はいはい、ありがと……うっ!」

ジュードは、キュッと左腕の包帯を締める。

「痛い!骨砕けたんだから、もっと優しくしておくれよ!」

「ホームズには、これぐらいがいい薬です」

エリーゼは、しらっとした目を向けながら、ローズの火傷後を治療する。

「助かったわ、エリーゼ」

『どういたしましてー』

レイアは、アルヴィンの傷の治療をする。

「やれやれ、皆さん無事でよかったです」

ローエンは、ホッホッホと笑っていた。

「いや、全然無事じゃないからね」

セルシウスは、そんな面々をぼんやりと見ていた。

自分との違いをまざまざと見せつけられているような感覚に陥る。

しかし、暖かな日差しを見るように不思議と悪い気はしない。

「また、貴様の負けだな」

ホームズが倒れるより前に逃げたヨルは、地面に寝ているセルシウスにそう声をかける。

「訂正。気分が悪くなった」

「そいつは良かった」

ヨルは、ハッと鼻で笑う。

セルシウスは、少しだけ笑って返した。

「勝てると思ったんだがな………」

セルシウスは、自嘲するように呟いた。

「お前は、自分のことを道具と言った」

尻尾を振りながらセルシウスを見る。

「道具じゃ化け物には勝てん。敗因があるとすれば、それだ」

セルシウスは、ヨルの言葉を聞くと静かにそうかと頷く。

「結局、お前には勝てずじまいか……」

「お前達だな、正確には」

ヨルはそう言うと吐き捨てるように続ける。

「忌々しいことにな」

セルシウスは、発光し姿が消えかかっている。

「消える前に一つ答えろ。お前は俺に殺されたのか?」

「どうしてそう思う?」

ヨルは目の傷を尻尾で示す。

「それを隠していた氷の眼帯、俺は見たことがない。いつ付けた?」

セルシウスは、手で傷口を触る。

「あぁ。お前に殺されかけてから、しばらくして出会った人間に言われたんだ」

ヨルは、その話を聞くとため息を吐く。

結局、ヨルが殺したと思っていただけの話だったのだ。

「………なるほど、そこは俺の勘違いだったのか」

そんな悔しそうなヨルを見てセルシウスは、瞳を閉じ、ポツリと口を開く。

「………一応言っておこう」

「何をだ」

「あの人間生きていたぞ。お前が封印された、その後も」

ヨルは、初めてそこで驚いた顔をした。

「………死んだんじゃないのか?」

「お前が守りきったんだよ」

ヨルは突然のことに頭がついていけていなかった。

「まぁ、この世界からは弾かれたがな」

続きの言葉を聞くと、ヨルは苦虫を噛み潰したような顔になる。

「あの馬鹿、まさかあの大精霊に口ごたえでもしたのか」

「すごい剣幕だった」

ヨルはため息を吐く。

「……っとに何処までも後先の考えない奴だ」

「まあ、もういないと思うが」

「当たり前だ。二千と五百年も経ってるんだぞ」

ヨルは呆れたように笑って返した。

「嬉しそうだな」

「さてな」

そう返したヨルの顔を見てセルシウスは、満足そうに笑う。

「私もお前も人間と出会った。きっとそれは、幸せなことだったんだろう」

ヨルはその言葉に目を丸くする。

人間を嫌うヨルとしては、聞き捨てのならない台詞だったのだろう。

しかし、ヨルにそれを否定する言葉は、出ない。

頭をよぎるのは、あの人々が寝静まった夜の出来事だ。

封印される前も、封印が解けた後も、あの夜空を見上げた日々がつまらなかったといえば、それは嘘だ。

あの日々のことは、確かに残っている。

いや、忘れぬよう、いつも寝る前は夜空を見上げていた。

「心当たりがあるようだな」

「…………幸せかは、分からん。だが、思い出である事は確かだ」

ヨルの答えにセルシウスは、満足そうに頷く。

ヨルは、そんなセルシウスに文句を言おうとして口を開く。

しかし、セルシウスから発せられる光が強くなっていくのを見て言葉を飲み込む。

「さて、そろそろだな」

セルシウスは、そう言ってふわりと宙に浮く。

発光し、姿はどんどん薄くなっていく。

「さよならだ、ヨル(・・)

「あぁ。じゃあな、セルシウス(・・・・・)

ヨルがセルシウスを見送っているとジランドが消えかけているセルシウスに手を伸ばす。

やっと手に入れた力なのだ。

霊力野(ゲート)のないジランドの手に入れた貴重な力だ。

「ま、待て、消えるな!お前は……」

「道具ではない」

ヨルは、そう言うとジランド右腕の消えた後を叩く。

走る激痛に手を止め地面をのたうち回る。

「身の程をわきまえろ、人間」

激痛に顔を歪めているジランドをヨルは、思い切り見下ろしてそう言った。

セルシウスは、その間にふっと風が吹くように消えた。

ヨルは、それを視界の端に捉えるとホームズの元へと戻っていく。

「いいのかい?」

「十分話した。これ以上はない」

「そうか」

ホームズは、微笑んでそれ以上聞かなかった。

そして、直して貰った腕を支えに立ち上がろうとして硬直した。

痛いとかそう言うわけではない。

単純に身体が動かないのだ。

「…………あれ?」

「分かってるとは思うが、アレだけの無茶をしたんだ。

しばらくお前の身体動かんぞ」

ヨルのじとっとした目で見られホームズは頬を引きつらせる。

どうやら、何も考えず実行したようだ。

ジュードは、呆れたようにため息を吐く。

ローズも同じようにため息を吐くとホームズに肩を貸して立ち上がらせた。

突然の行動にホームズは、目を剥いた。

何せ、ローズがホームズを助ける理由はないのだ。

別にローズがやらなくてもジュードが肩を貸してくれたろうし、ホームズと距離の出来てしまったローズがわざわざやる理由はないのだ。

「………………………………なによ」

「いや、こっちのセリフなんだけど……」

ホームズの本気で困惑した声をローズは、無視して歩みを進めることにした。

ようやく会話らしい会話をした二人を見てレイアとエリーゼは、どちらともなく笑いあった。

二人はそのままジランドへと近づいていった。

ジランドは、恨めしそうにホームズを睨んでいる。

「また………ヴォルマーノか……お前ら親子は揃いも揃って………」

そう言うと物を言わなくなった源霊匣(オリジン)の装置を見つめる。

「そうまでして、エレンピオスを滅ぼしたいのか………」

「……他の人にも言われたけれど、それってどういう意味だい?」

ホームズの言葉にジランドは、苦虫を噛み潰したような顔をする。

「エレンピオスは、精霊が減少し、マナが枯渇し消えゆく運命の世界だ」

「……………そう言えば、黒匣(ジン)は、そう言う仕組みだったわね」

ローズは、納得したように頷いた。

「だから、異界炉計画を……」

ローエンは、顎髭を触りながら頷いた。

「それだけじゃない。他にも必要なものが出てくる………」

黒匣(ジン)の代用品、源霊匣(オリジン)ってわけかい?」

「そうだ………ようやくだってのに………お前に邪魔されたがな」

ジランドの憎しみを込めた目をホームズさらりと受け流す。

ジランドは、傷口を抑える。

恨みがましくホームズを睨むジランドにレイアが口を開く。

「でも、そんなの黒匣(ジン)を使い続けたあなた達の自業自得じゃない!! 」

ジランドの手の中にある源霊匣(オリジン)は、淡い光となりながら消えていく。

源霊匣(オリジン)さえあれば、精霊を犠牲にせずにマナを得ることが出来る」

ジランドの言葉にミラは眉をひそめる。

「何を今更……二千年前、黒匣(ジン)と共に生きていく道を選んだのは、お前達だろ」

「俺じゃねぇ!!」

震える声で否定するジランドの哀れさに思わずミラも黙った。

そう、黒匣(ジン)を使う事を選んだのは、ジランドではない。

先祖の選択の結果がこれなのだ。

ホームズも見ていて憐れだとは思う。

だが、

「同情する気にはなれないねぇ」

ホームズは、そう言って腰にぶら下がる小袋を見る。

「君は、色々な人に不幸を振りまきすぎた」

そんなホームズを見るとジランドは、みるみる顔を歪ませていく。

「どこまでも、忌々しい奴らだ。親子揃って俺の思い通りに動かねえ」

「おれら親子に喧嘩売ったのが運の尽きさ」

ホームズがそう吐き捨てた瞬間、ジランドに黒い電気のようなものが現れた。

「ぐっ、あ"あ"あ"ぁ!!」

それに伴ってジランドから苦悶の声が漏れる。

「おい!大丈夫か!」

アルヴィンは、慌てて駆け寄ろうとする。

ジランドは、それから逃れるように立ち上がった。

「例え、俺が死んだってリーゼ・マクシアの運命は、変わらねえ!!

お、俺達の計画は、 断界殻(シェル)がある限り何度でも続くぞ!!」

アルヴィンは、その様を間近で見続ける。

「ざまぁみやがれ!!」

ジランドは、そう叫ぶとそのまま仰向けに倒れていった。

ドサリという音が木霊し、みなはしばらく動かないジランドを見る。

「…………死んじゃったの?」

レイアの言葉に脈を取っていたアルヴィンがコクリと頷く。

「セルシウスを使った反動が来たのでしょう」

ローエンの言葉にヨルが頷いて答える。

「力を得るとはいえ、高い代償だな」

「力を得らただけ儲けもんみたいなもんだ」

ヨルは息絶えたジランドを見ながらそう答えた。

アルヴィンは、ジランドの手にある金色の銃を持つ。

「こいつは返してもらうぜ」

そう言ってジランドの瞼を降ろす。

「『ジランドール・ユル・スヴェント』叔父(・・)さん」

ホームズは、そこで少し驚いた顔をする。

「叔父さん、だったんだねぇ」

「まあな。ちぃっと、複雑なんだけどな」

ヨルは、眉をひそめる。

「そうか、なるほど」

「?」

首を傾げるホームズにヨルが口を開く。

「お前の母親の話で、聞いた名前だ。スヴェントといえば、あっちでは名家中の名家らしいぞ」

ヨルは、そう言いながらアルヴィンを見る。

「チャラ男、お前もそうなのか」

「まあ、そうだったと言うべきか……また時間のある時に話してやるよ」

「ホームズもアルヴィンもそればっかりです」

エリーゼは、じっとりとした目を二人に向ける。

ホームズとアルヴィンは、互いに顔を見合わせて困ったように笑いあった。

「そう拗ねないでおくれ、エリーゼ」

そう言ってミラに目を向ける。

「これから、時間なんていくらでもできるんだから」

セルシウスを倒し、ジランドを倒した今、クルスニクの槍を壊すのを妨害するものは、誰もいない。

がちゃりと、ドアが開く音が背後で聞こえる。

ホームズが首を動かすとそこには、ガイアス一行がいた。

「既に勝敗は、決していたか……」

ガイアス達に構わずミラは背を向けたまま答える。

「悪いが、こればかりは譲れない。クルスニクの槍はここで破壊する」

そう言うとミラは空に魔法陣を描く。

魔法陣が出来上がると、四方に炎、水、風、土が現れる。

 

 

燃え盛る炎と共にイフリートが、

 

 

湧き上がる水と共にウンディーネが、

 

 

吹き抜ける風と共にシルフが、

 

 

土煙と共にノームが、

 

 

 

それぞれ姿を現した。

 

 

 

 

「久しいなお前達」

ミラの声と共に四大精霊が、それぞれ反応を示す。

すると、シルフがヨルに気づく。

ミラは、シルフが何か言う前に口を開く。

「あぁ。色々あって雇った」

「雑な説明………」

ホームズは、ため息を吐く。

「また、時間のある時にゆっくり喋ってやる」

「どっかで聞いた台詞だねぇ」

ホームズの言葉を無視してミラはそのままクルスニクの槍に向かって歩みを進めた。

これで、ようやく蹴りがつく。

 

 

 

 

 

 

「──────っ!?」

 

 

 

 

そう誰もが思った瞬間、彼らに重圧が襲いかかった。

 

 

 

 

 

みしみしと鳴り響く艦内とガラス張りに一瞬で入るヒビ。

まるで巨大な何かが現れたかのような重み。

一同は、立っていられるずそのまま床に押さえつけられた。

 

 

 

 

 

 

幕は降りず舞台は、続く。

ホームズとヨルの旅の終わりは、今ではない。

 

 

 

 

 

 

 









終わりさえよければね?





ではまた百四十五話で( ´ ▽ ` )ノ

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