1人と1匹   作:takoyaki

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百三十九話です。



遅くなりしまして申し訳ありません!!




てなわけで、どうぞ


逆鱗を踏む

「お、消えてる消えてる」

吹き抜けに戻ると先ほどの封鎖線は、綺麗さっぱり消えていた。

「アルヴィン、この扉を開ければすぐなの?」

「なんで、俺に聞くんだよ?ローズ」

「だって、乗った事あるんでしょ?」

ローズの言葉にアルヴィンは、肩をすくめる。

「もう二十年も前の話だよ。覚えてないって」

ホームズは、アルヴィンの言葉に耳を傾け、天井を見上げる。

相変わらず戦場とは不釣り合いな程綺麗な装飾だ。

「ねぇ、ローエン」

「はい?」

ホームズは、ローエンの方を見ずに言葉を続ける。

「この船、今回の作戦が終わったらどうなるんだい?」

「ホームズさんの想像通りですよ」

ローエンは、静かに言葉を紡ぐ。

「…………だよね。流石に残しておかないよね……」

両親の思い出の船が沈むのは、見たくない。

しかし、それも仕方のない事なのだろう。

「なんとかならない?」

事情を知っているレイアとしては、どうにかしたいところだ。

「無理だ。ここには、クルスニクの槍の他にも黒匣(ジン)がある。人間達がやらなくても私が沈める」

代わりにミラが口を開いた。

「だよね。まあ言ってみただけだから、そんなに気にしないで」

ホームズは、そういつもの胡散臭い笑顔でそう言うと口に煙管を咥える。

「形あるものは、いずれきえてなくなる、か」

ポツリと呟くホームズにヨルは尻尾を揺らす。

「…………まぁ、そんなもんだろ。

だいたい、そんなこと言ってものをとって置いたら永遠になくならんぞ」

「分かってるって……」

ホームズは、煙管をぷかぷかとさせながら返し扉を開ける。

「まぁ、でもここに来れただけでも良かったかもね………」

母親の話は散々聞いていたが、それでも、両親の話となるとホームズはとんと知らない。

それを知ることが出来たというのはある意味良かったのだろう。

潮風がホームズの頬を撫でる。

目の前には、甲板が広がり、そこには黒い建物がある。

ミラは腕を組んでその建物を見つめる。

「いるな。間違いなくあそこだ」

その言葉に一行に緊張が走る。

「報酬、忘れんなよオンナ」

ヨルの言葉にミラは静かに頷く。

「あぁ。クルスニクの槍を破壊した暁には、必ず支払ってやろう」

「あ、ついでに借金も忘れないでね」

「あぁ……クルスニクの槍を破壊した暁には、必ず返してやろう……」

ホームズの発言にミラは、ため息とともに返す。

ホームズは、満足そうに頷くと目を険しくし、歩き出す。

先ほどまで叩いていた軽口が嘘のようにホームズから重々しい空気が発せられる。

「ホームズ、一つ聞いていいか?」

「質問によるね」

ホームズは、静かにそう返す。

「お前は、何故、そこまでクルスニクの槍を敵視するんだ?」

ミラの質問にホームズは、肩をすくめる。

「精霊に仇なすものだからに決まってるじゃないか」

「それだけじゃないだろ」

ホームズの戯けた物言いをミラはバッサリ切り捨てる。

周りを見ると他の面子も気になっているようだ。

「隠し事は、感心しないぜ」

「君に言われたくないね、アルヴィン」

ホームズは、そう言いつつため息を吐く。

何せ身体自体が拒む鬼門とも言える隠し事だ。

「…………………また、気が向いたらでもいいかい?」

ホームズの静かに紡がれた言葉にミラは頷かざるをえない。

そんなミラを察してホームズは、フッと短く笑う。

「とりあえず、クルスニクの槍を壊したら、話せるよう努力するよ」

そう言うとホームズは、ヨルを見る。

ヨルはその問い詰めるような視線に顔を歪ませる、

「……なんだ?」

「おればっかり訪ねられるんじゃあ不公平だと思わないかい?」

「…………何が言いたい?」

「君、えらくセルシウスとやらにご執心のようだけど、」

ホームズは、そこで言葉をわざとらしく切る。

「どういう関係だい?」

ヨルは、ホームズの言葉を聞くとゆっくりと口を開く。

「決着をつけたはずの相手っていうのが、まあ一番妥当だな」

ヨルは、ゆっくり選んだ言葉でそう告げた。

それからヨルは更に言葉を続ける。

「昔俺を討伐しようとする精霊達と闘った事がある。その時何度も闘ったのが、奴だったんだ。まあ何度やろうと返り討ちにしてやったがな」

ヨルは、淡々と話を進める。

「俺がトドメを刺す前に逃げ出したり、邪魔が入ったりとなんやかんやで決着がつかなくてな…………」

ヨルは少し懐かしむように言葉を続ける。

レイアは、隣で聞いていてポンと手を叩く。

「つまり、アレだね。強敵と書いてとも(・・)と読むみたいな?」

ヨルは呆れたような顔になる。

「いや、別にそう言うわけじゃないんだが………」

しかし、レイアにヨルの言葉を聞く気配は、全くない。

助けを求めるようにホームズとジュードを見るが二人とも首を振った。

「もう、それでいい」

ヨルはため息と共にそうこぼした。

ホームズは、そんなヨルを面白そうに見た後思い出したように口を開いた。

「そう言えば、精霊術、食っといた方がいいんじゃないのかい?」

「まぁ、贅沢は言わないが、闇属性の精霊術だと文句はないな」

そう言ってヨルは、エリーゼを見る。

エリーゼは、コクリと頷くと精霊術を発動させる。

『「ネガティブゲート!!」』

黒々とした腕は地面から溢れでてヨルに襲いかかる。

ヨルは生首になるとそれを丸呑みにした。

「ふむ。せめて中級の精霊術が食いたかったな」

そして、一言文句をつける。

『しっかり贅沢言ってるじゃないかー!!』

「これ以上は、エリーゼさんの戦闘に影響がでますよ」

そう言ってローエンが、ファイアーボールを放つ。

ヨルはそれも大口を開けて食らう。

「ふむ。せっかくだ。オンナ、お前も寄越せ」

「色々突っ込みたいがまぁ、我慢しよう」

そう言ってミラは詠唱を始める。

「………スプラッシュ!」

水瓶が現れヨルに降り注がれる前に全てを飲み干し、ヨルはいつもの黒猫の姿に戻った。

「まぁ、これぐらい食っておけばどうにでもなるだろ」

ヨルはニヤリと笑ってローズを見る。

勿論もらえない事ぐらいわかっているのだ。

ホームズは、準備の出来たヨルを見ると手をパンと叩く。

「よし。行くとしますか」

「あぁ」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

扉を開けた部屋でまず真っ先に目を引くのが黒々としたクルスニクの槍だ。

そして、床はガラスのように透明だ。

試しにコンコンと爪先で叩いてみると意外に固い音が返ってきた。

どうやら相当な強度を持ったガラスのようだ。

床からクルスニクの槍に視線を移す。そこにはオールバックにしたジランドが腰を下ろしていた。

ジラントはアルヴィンを見ると薄ら笑いを浮かべる。

「ご苦労、マクスウェルを連れてきてくれて」

そう言ってアルヴィンが、ミラ達の側にいるのを見て言葉を続ける。

「一応、裏切った訳を聞こうか」

「簡単だよ」

アルヴィンは、吐き捨てるように言葉を続ける。

「昔から、あんたの事が大嫌いだったからさ」

一体過去に何があったかは、分からない。

しかし、その言葉には確かな感情が宿っていた。

「一生をリーゼ・マクシアで過ごす覚悟が出来たようだな」

「………関係ないだろ」

アルヴィンが悔しそうに呟くとジランドは、手を振り被る。

ホームズは、ヨルに目配せをする。

そして、ジランドの手がふりかぶられた瞬間、文字が浮かび上がり氷の矢が照射された。

ヨルは、巨大な生首になると全て飲み込んだ。

「………なるほど」

ジランドは、ニヤリと笑みを浮かべる。

「それが、お前の力か?」

「あぁ。俺の力だ」

ヨルは生首のまま口を開けて答える。

「微精霊の死は、感じなかった………どういう事だ?」

ミラは不思議そうに呟く。

ヨルは生首から、いつもの黒猫の姿に戻る。

それと同時にアルヴィンから弾丸が放たれた。

しかし、それは、ジランドに届く前に突如現れた氷の壁に阻まれた。

姿を歪ませる氷の後ろに人影が現れる。

ヨルは、スッと目を細める。

「やはり、貴様か」

「またあの精霊さん!」

エリーゼは、そう言って目を丸くする。

そう言って精霊は、氷の壁を砕き矢のようにアルヴィンに向かって飛ばす。

ミラは、それに割って入るとマナの壁を張り防ぐ。

「………あなたが、マクスウェルか。随分と様変わりしたものだ」

セルシウスが口を開いた瞬間、ジランドが頬をぶつ。

その光景に一行は、目を向く。

「オレの許可なく、勝手に口を動かすな」

「………ハイ。マスター」

ジランドの理不尽と言える命令にセルシウスは、眉ひとつ動かさず返事をした。

「酷い………どうして、そんな人にしたがってるの!?」

レイアの言葉にジランドは、ゆっくりとセルシウスの頭に手を置く。

「道具は、主人に従うのが道理だろ」

レイアは、顔を険しくする。

「人と精霊は、支え合って生きていくものでしょ!それを道具だなんて………」

「こいつは、普通の精霊とは少々違う」

ジランドは、そう言ってジュード達を見る。

「こいつは、源霊匣(オリジン)だ」

ヨルは、その言葉に眉をひそめる。

「オリジンだと?」

自分の封印に関わっていた精霊の名にヨルが反応する。

「こいつは、増霊極(ブースター)を使い、精霊の化石に眠るセルシウスを再現した」

ジランドは、自慢気に言葉を続ける。

「こいつは、精霊術自体が形を成した存在だ」

アルヴィンは、その言葉にピンときた。

「さっきのは、源霊極(オリジン)のマナを自分のものとして使ったのか!」

ジランドは、正解とばかりに高笑いをする。

「だから、道具だって言うんだ」

レイアは、両手を握りしめる。

「あなた、最っ低!」

「ティポのデータを盗んだのもこの為だったんですか!?」

ジランドは、声を荒げるエリーゼの言葉に頷く。

「貴女に感謝してるぜ、お嬢さん。源霊匣(オリジン)が生まれたのも、リーゼ・マクシアが燃料になったのも、全て貴女のおかげなんだからなあ?」

エリーゼは、声を震わせ俯く。

突きつけられた事実は、容易に容認できるものではない。

「なんだ?嬉しくて泣きそうか」

そのジランドの心底面白そうな言葉に一行は、武器を強く握りしめる。

そんな時、ビシッと言う音が響く。

音のした方を見るとホームズが、エリーゼに軽くデコピンを放っていた。

エリーゼは、驚いて顔を上げる。

「顔を上げたまえ、エリーゼ。この男相手に顔を俯かせる必要なんてない」

ホームズは、そう言ってジランドを涼やかな目で睨みつける。

「随分ご大層な事を言っているけれど、それが精霊術って言うなら、天敵がここにいるゼ?」

ホームズの言葉にジランドは、ニヤリと笑う。

「まあな。どうだ?ホームズ?こっちに来る気はないか?」

「は?」

「精霊術を無効化するその力、リーゼ・マクシアを燃料にする上でなくてはならない力だ」

ホームズは、冷めた目でジランドを睨む。

「対リーゼ・マクシアの為の戦力ってわけかい?」

ジランドは、大仰に頷く。

「どうだ?別に悪い話じゃないだろ?こっちに来れば、お前の行きたいと言っていたエレンピオスにも簡単に行けるぜ?」

「遠慮しとくよ。母さんに知らないおじさんに付いてくなって教えられたんでね」

ホームズは、ハッと馬鹿にしたように返す。

ジランドは、そのホームズの回答にニヤリと意地悪く笑う。

「お前、リーゼ・マクシア人に随分いじめられたらしいな」

その時、ホームズの表情が凍りついた。

「確か、霊力野(ゲート)がないのが理由だったか?」

あの時のホームズの苦い日々にジランドは、塩を塗り込んで行く。

「いやぁー大したもんだ。あんな目にあったというのに、リーゼ・マクシアの味方ができるなんて、心の広さが違うぜ」

ホームズは、ギリと歯ぎしりをする。

「ジランド!」

ローズの怒号が飛ぶが、そんなのどこ吹く風というようにジランドは、更に言葉を続ける。

 

 

 

 

 

 

「ついでに言ってやろうか、お前の父親が死んだ事故ってのは、リーゼ・マクシア人が原因だぜ」

 

 

 

その言葉に一行は、言葉を失った。

 

 

 

 

「リーゼ・マクシア人の運転中の馬車に巻き込まれ、ジ・エンドってわけさ」

言葉がでないホームズにジランドは、意地悪く笑い続ける。

「いや、お前ら親子は、心が広い!大したんもんだ!」

先程自分を元気づけてくれたホームズが、どんどん俯いていくその様子にエリーゼは、胸が締め付けられる。

ローズは、刀に手をかける。

「貴方は、お前だけは………!」

背中の小さくなったホームズを見てローズの中で何かがはじけた。

何故自分がここまで、激情を抱いているのか、理解していていない。

しかし、それでも煙管を強く噛むホームズを見て、我慢が出来なくなっていた。

「あなたと言う人は!!」

ローエンも我慢の限界のようだ。

指揮者(コンダクター)。ジジイの出る幕じゃないぜ。

それともまだ踊り足りないのか?」

「えぇ。ジジイは、しぶといのが売りですから!」

そう言って細剣を引き抜く。

「我が友を弄んだこと、決して許しはしません!」

ジュードは、一歩前に出る。

「僕たちは負けない」

そんなジュードを見てジランドは、唾を吐く。

「てめーみたいななんの力も野望もないクセにのぼせあがっているお前を見ると反吐がでるぜ」

そう言ってジュードを睨みつける。

「場違いなガキが!」

「あなたみたいな人が、力とか野望とか口にしないでよ!」

ジュードは、そう返すと武器を構える。

「僕は、あなたが間違っているのを知っている」

ミラも片手剣に手をかける。

「もはやお前と語る口はないが、最後に一つだけ聞いてやる」

その瞳でジランドを射抜く。

「お前とジュード達の違いが何かわかるか?」

「ハッ、知るかよ」

ミラは、片手剣を引き抜く。

「だろうな。だから、お前は愚か者なのだ」

ジランドは、ニタリと意地の悪い笑みを浮かべる。

「愚か者は、そっちだろ」

そう言ってホームズを指差す。

リーゼ・マクシア人に苦渋を飲まされ続けたホームズ。

「どうする?ホームズ」

しかし、誰もホームズには、注意を払わない。

その様子を不審に思ったのだろう。

ジランドは、初めて動揺した。

「………知ってたよ、父さんの死因ぐらい」

ホームズは、そう言いながら口から煙管を外す。

「当然だろう?リーゼ・マクシアにきて父さんは、死んだんだ。

リーゼ・マクシアでアルクノアの起こした事故に巻き込まれるより、リーゼ・マクシアでリーゼ・マクシア人の起こした事故に巻き込まれる方がどう考えたって可能性が高い」

ホームズは、相変わらず顔をうつむかせてながら、煙管を小袋にしまいしばらくその小袋を見つめる。

「……………ジランド、君、アーティーの村の事知ってるかい?」

「あぁ。知ってるぜ。傑作としか言いようがないよな?」

「………そう」

そのゾッとするほど冷たい声音に思わず、ローズは振り返る。

ホームズの顔は俯いたままで顔がわからない。

ヨルはホームズの肩でジランドを流し見る。

「やっちまったなぁ、お前」

「あ?」

「お前、ホームズの逆鱗に触れたぞ」

ヨルの言葉と共に顔を上げたホームズの瞳は、涼やかだ。

一見は、に限るが。

ホームズの殺気にヨルのヒゲがビリビリと震える。

「君は一つ勘違いをしている」

ホームズは、ドンと右足を踏み込む。

「おれ、心が広くはないんだ」

青い炎は静かに燃えるので赤い炎と比べ分かりづらいが、温度は赤く燃えるよりもはるかに高い。

澄んだ碧い瞳に宿る激情の炎は、静かにそして熱く燃え盛っていた。

「だから、君だけは、許さない」

はっきりと拒絶したホームズを不愉快そうに見るとジランドは、銃を取り出す。

「お前ら親子は、揃いも揃っておれの前に立つんだな」

そう言って弾を込める。

「マクスウェル、お前だけは、生かしておいてやる。

だが、他の奴らは………」

そう言って銃口をホームズ達に向ける。

「皆殺しだ」

ジランドの言葉にミラは、片手剣を構えながら口を開く

「リーゼ・マクシアの人と精霊は、私が守る!!」

「ジランド!僕はお前を許さない!」

ジュードもはっきりとそうつげる。

「ヨル、遠慮なんてするんじゃあないよ」

「当たり前だ」

母親譲りのタレ目と父親譲りの碧い瞳に闘志を宿したホームズの言葉にヨルはゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーゼ・マクシアとエレンピオス、その二つが、今、ぶつかる。

 

 









エクシリアの山場、二つ目です。
がんばれー



ではまた百四十話で( ´ ▽ ` )ノ

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