1人と1匹   作:takoyaki

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百二十一話です。



待ちに待ったアニメ、うしおととらが始まりました!
もう、テンションが上がってしまって………
この漫画がなければ、1人と1匹なんて書こうとも思わなかったと思うし、オーズにどハマりする事もなかったと思います!
さて、テイルズ関係ない前書きはともかく、本編、解決編をどうぞ


タフでなくては生きていけない。優しくなくては生きている資格なんてない。

『そうだね、母親は料理上手だったよ(・・・・)

一番最初に夕食をホームズと食べた時、ホームズは確かにそう言っていた。

父親の事を聞いた筈なのに母親の話をした事にレイアは、違和感を覚えた。

しかし、同時にもう一つの事にも違和感を覚えたのだ。

普通は、こう答えるべきだ。

『母親は、料理上手だよ』

ところが帰ってきた答えは、過去形だった。

「………最初は、私の勘違いかな?って思った」

レイアは、そこで言葉を切って息を吸い込む。

「でも、聞けば聞くほどホームズが、語るお母さんは、いつだって過去形だった。

偶に過去形じゃない時もあったけど、それはホームズじゃなくて、ヨルが喋ってた。そして今………」

レイアは、ホームズを指差す。

二つ墓の間に立っている(・・・・・・・・・・・)

指を指したままレイアは、続ける。

「ウィンガルさんは、こう言ってた。『ここには、奴の親の墓がある』って。一言も、父親の墓だなんて言ってない。

でも、私達は勝手に勘違いした。

お父さんのお墓だと。多分、ホームズは知らないと思うけど、エリーゼが言ったんだよ。『ホームズのお父さんのお墓が?』ってね」

ホームズは、相変わらず黙って聞いている。

「………冷静になって思い返してみると、ホームズは、一言も自分の母親が生きているなんて言ってない。

どこにいるか分からないってよく言ってたよね?

多分こう言う意味じゃないかなって思うんだ」

レイアは、そこで大きく深呼吸をする。

 

 

 

 

 

 

「「この世界にいない事は知っている。でも、じゃあ、何処にいるかって聞かれると分からない。

あの世なんて本当にあるかどうかも分からないからね」」

 

 

 

 

 

 

レイアとホームズの言葉が一語一句ずれる事なく紡がれた。

「………やっぱり……そうなんだね、ホームズ」

レイアは、うつむきつつそう言う。

何故、ホームズが自分達を裏切りガイアス達についたのか、今ならはっきりと分かる。

両親の墓を立ててもらったのだ。

顔も知らない父親の墓だけでなく、ずっと一緒にいた母親の墓まで立ててもらっていた。

恩を感じたのは、必至だったのだろう。

レイアがそう納得している中、ホームズは、右側の墓の雪を払いのける。

 

 

 

 

 

雪が払われ現れた墓標には、《ルイーズ・ヴォルマーノ》と書かれていた。

 

 

 

 

「それが、お母さんの名前?」

「………うん」

そう答えるホームズの顔を見てレイアは、やはり後悔した。

しかし、そうは言っても仕方ない。

起こってしまった事は元に戻せないのだ。

そう決意し、レイアは更に言葉を続ける。

「カン・バルクで別れたって言ってたよね?それってつまり………」

「うん、カン・バルクで母さん死んだんだ。もう二年も前にの話だけどね……」

「どうして、とか聞いても大丈夫?」

控えめに紡がれる言葉にホームズは、静かに頷く。

「病気だった……どうやっても治らないってことだった。でも、余命宣告から半年程長生きしてね……アレには呆れたよ………」

ホームズは、俯く。

「治るんじゃないかって………そう思えたよ……」

そう言って静かに母の墓を撫でる。

「誰にも言わないつもりだったんだけどなぁ………」

ホームズは、寂しそうにそう言うと、レイアの方を見る。

「まさか、君に見抜かれる日が来るとは思わなかったよ。

もし、見破るとしたら、ジュードかローエンだと思ってた」

レイアは、困ったような顔で笑う。

逆の立場だったら、確かに同じように思っただろう。

ヨルは、ホームズの肩で尻尾を振る。

「まあ、俺は気付くなら、レイアだと思ってたがな」

「何故だい?」

ヨルの言葉にホームズは、首を傾げる。

「お前が一番最初に説明した相手だろ?」

ヨルは、事も無げに言う。

レイアは、少し笑って頷く。

「友達の事ならなんでも分かるとは言わないけどさ………このことを人づて聞かなくて良かったって思うよ……」

それは、レイアの心からの気持ちだった。

後悔する事を分かっていても、それでも実行したのは、やはりそれが根底にあったのだ。

「君は本当にいい奴だねぇ……」

ホームズは、言ってもう一度墓を見る。

話は、ひと段落ついた。

ここで話を終わらせてもいい。

しかし、まだはっきりさせていない事がある。

「………ねぇ、ホームズ。どうしてここまで隠したの?」

レイアが一番知りたいのはそこだ。

言うタイミングがなかったなんて言わせない。

ホームズの母の事は散々話題に上っていた。

何処に居るのかも聞かれていた。

なのに、ホームズはさらりとかわした。

雰囲気が悪くなる、確かにそうかもしれない。

だが、違うのだ。

今回のは、圧倒的に違う。

ホームズのかわし方は、嘘ギリギリだ。

そうまでしてホームズは、隠したがっていた。

レイアが、一番不思議だったのは、そこだ。

レイアの真っ直ぐな目を見てホームズは、雪のように白い息を一つ吐く。

「…………君、覚えてる?ル・ロンドでさ、フェルガナ鉱山にいく前確か、 『格好悪くてもいいから、いつかおれの本当の事を知りたい』って言ったよね?」

ホームズは、墓をひと撫でしてレイアを見る。

レイアは、首肯する。

「うん、友達だからね」

迷わず頷いたレイアを見てホームズは、決心を固める。

「いいよ、教えてあげるよ。最高にカッコ悪くてだっさい話だ」

そう言ってホームズは、両親の墓の前に身体を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おれ、まだ、母さんが死んだ事を受け入れきれてないんだ………」

震える声で呟かれたそれは、雪のように辺りを覆った。

「母さんは、二年前に死んだ。その時突然起こった別れをおれはまだ受け入れきれていない………」

そう言ってホームズは、歯をくいしばる。

「受け入れると、それは過ぎた事になってしまう。

母さんとの別れも思い出として風化していく……それが、堪らなく嫌だった……」

ホームズは、そう言って煙管を見る。

「ローズには、盛大なブーメラン投げてるなって思った。

墓の前に立つ事も出来る………でも、どうしても整理がつかない」

ホームズは、そう言って手を握る。

「おれが両親の故郷を探してる理由………両親がどんなところで育ったか見たい。行ったことのない場所に行きたいとも言った。でも、でも………」

ホームズは、この続きのことを言うのは避けたかった。

しかし、避けられない。

言葉にすれば認めると一緒だ。

今まで一番騙していたのは、ミラ達ではない。

ホームズがホームズを一番騙していたのだ。

「それだけじゃない。死んだ両親の故郷だから、どうしても行きたかった。行って、母さんと父さんの両親に報告をしたかった………」

ホームズは、ハハハッと力無く笑う。

「笑っちゃうだろう?自分の為とか言っといて、結局旅をする理由を自分以外に求めてる。

自分の理由が見つけられないから、両親をダシにして、ようやく立ち上がってるフリをしてる」

ホームズの頬を涙が伝う。

「そうさ、結局フリなんだよ………立ち上がれる訳ないだろう……母さんの事、そんな風に思って受け入れてないのに、今度は世話になったジャオさんが死んで、次はマーロウさんだ…………それに………」

ホームズは、先程のローズとの事を思い出す。

 

 

 

 

 

────『……貴方と出会わなければ良かったわ』────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………勘弁しておくれよ……」

心の底からの弱音を吐いてホームズは、いつの間にか膝から崩れ落ちていた。

レイアは、黙って見ているしか出来なかった。

雪は深々と降り積もり辺りには、ヨルとホームズとレイアしかいない。

ホームズが雪を両手で掴む。

「…………いずれ別れが来ることもわかってる。永遠に続くなんてそんなこと起こらないことぐらいわかってる……でもさ、でもさぁ………」

すすり泣き、ホームズは顔を拭く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなのやだよ…………」

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、聞こえるかギリギリの声量で呟いた。

 

 

 

 

 

 

レイアは、そこで、ホームズに歩み寄り、ハンカチを渡した。

ホームズは、驚いた後ハンカチを受け取る。

「………ありがとう」

そう言ってハンカチで涙を拭く。

「…………話してくれてありがとう」

レイアは、そうポツリと言った。

「それと、ごめん………きっと、辛い思いをさせるんだろうなって思ってた」

そう言ってレイアは、ホームズの隣にしゃがむ。

「でも、どうしてもホームズの口から聞きたかった。

でないと後悔をしそうでさ……隠してることに気づいてそれでも気付かないフリを続けるなんて、やっぱりわたしには、無理だったから……」

レイアは、そう言って俯いた。

「エレンピオスに行けるといいね分かるといいね。上手く言えないんだけど、それでお母さんのことは完全に整理が着く、そんな気がするんだ」

レイアの言葉にホームズが何か言う前にヨルが口を開く。

「人間は、俺達より短い命だ。だからこそ、人間は整理をつけられる。いや、つけてしまう(・・・・・・)

ヨルは、ホームズを見据える。

「そうやって前に向かって歩いていく。お前がどれだけそれを拒もうと、それだけは避けられない」

「そんな………」

「お前だって分かってるだろ。墓の前に立てているのが、何よりの証拠だ」

エリーゼには話していたが、ローズは、家族の死を受け入れることが出来ず、墓の前に立てなかったと言っていた。

けれどもホームズは、墓に向かい合って立っていた。

それは、もうホームズの中で整理が尽きかけている証拠だ。

ホームズは、二つの墓を見つめる。

「…………あぁ、そうだね……おれはまた、目を逸らしてたのか……」

そんなホームズにヨルは、金色の目で真っ直ぐに見るを

「いずれ、お前の立ち上がるフリがフリでなくなる日も必ず来る」

ヨルの言葉を聞き、ホームズは立ち上がる。

「………そうか、結局人間ってのは、前に進んでいくんだね……力強い、けれども、それはとても悲しいことだねぇ……」

ホームズの言葉にレイアは、悲しそうに笑う。

「………そうかもね……きっと、強いって事はそう言う事なのかもね」

ホームズは、雪を払って身体を伸ばす。

レイアも立ち上がる。

「強い事が正しいとは限らない。弱い奴が正しい事もあるし、強い奴が正しくないことだってある。逆もまた然りだ」

ホームズは、そう言うとマーロウの煙管の灰を捨て口に咥える。

「それでも、強く(タフで)なくちゃあね?」

レイアは、そんなホームズを見て微笑む。

そんなレイアを見て、ホームズは、申し訳無さそうに笑う。

「ありがとうね、レイア。助かったよ。やっぱり持つべきものは友だね」

「どういたしまして」

そう言ってレイアは、ふと考えた。

「レイア?」

「ねぇ、今思ったんだけど、わたし達出会い方が違ったらどうなったんだろうね」

「なにそれ?」

訳がわからないという顔でホームズは首をかしげる。

「偶に考えない?この人と別の出会い方をしたらどうなったんだろうってさ?」

「まあ……分からなくはないけど……」

そう言ってホームズは、レイアに尋ねる。

「例えば?」

ホームズは、不思議そうに首を傾げる。

「幼馴染みとか?」

「ジュードの心労が増えそうだ」

「迷惑かけてる自覚はあったんだね……」

レイアは、はははと乾いた笑いを漏らす。

「でも、君の恋い焦がれる幼馴染みは、ジュードだったろうねぇ」

ホームズの言葉にレイアは、思わず顔を赤くする。

「ちょっ!なんで今そんな事言うの!!」

ホームズは、そんなレイアをみて心底面白そうに笑う。

「いや、君に惚れらるのはなぁ……数少ないおれの友達が減っちゃうし……」

「真っ先に恋愛対象から外された訳が悲しすぎるんだけど……」

レイアは、引きつり笑いをする。

レイアにもホームズにそんな気持ちを抱く事は全くないが、それでもこうも残念な物言いにため息が出そうになる。

そんなレイアに構わずホームズは、続ける。

「まあ、君の友人になれてよかったよ。

幼馴染みとかじゃなくて、あの時、マティス治療院で、君に出会えて本当によかった」

満面の笑みで言われレイアは、思わずため息を吐く。

「……そういう風にローズに言えばいいんだよ」

ホームズは、それを聞いた瞬間硬直した。

それを見て、レイアは慌てる。

「あれ?なんか……まずった?」

「いや、その……」

「小ムスメに逆の事を言われたんだ」

ホームズが何かを言う前に、ヨルが先に口を開いた。

「…………どういう事?」

眉を潜めてレイアは、ヨルに尋ねる。

ヨルは、ホームズの代わりにレイアに今夜あった事を全て話した。

レイアは、聞き終わると少し考え込む。

その間、ホームズは、ヨルにアイアンクローを決めていた。

「ねぇ、ホームズ。お母さんが言ってた(・・・・)んだよね?ホームズ達のせいでローズの家族が殺されたって」

「まあね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならさ、遺書にはなんて書いてあった(・・・・・・)の?」

 

 

 

 

 

 

 

 

レイアの言葉にホームズは、ヨルの手を緩める。

「鋭いね………」

「大分ホームズの事が分かってきたからね」

ホームズは、空を見上げる。

「随分、時間が経っちゃったねぇ……」

そう言ってレイアの方を見る。

「また、今度教えるよ」

そう言ってホームズは、歩き始めた。

レイアもそれに習うように歩く。

「『気が向いたら』が付いてないよ、ホームズ。必ず話してもらうからね」

そう返しレイアは、ホームズの後ろをついていく。

「レイア」

ホームズは、足を止め振り返る。

「死なないでね。これ以上、おれの知り合いが死ぬのはやだよ」

真っ直ぐレイアを見るホームズにレイアは、優しく笑う。

「ホームズ、そこはね、知り合い(・・・・)じゃなくて仲間(・・)って言うべきだよ」

そう言って胸を張る。

「安心して、ホームズ。お母さん仕込みの棍術があるし、それに……」

そう言ってホームズを指さす。

「ホームズみたいな無茶はしないしね」

「守護氷槍陣の中突っ込んできたのって誰だっけ?」

レイアは、さっと目を反らす。

そんなレイアを見てホームズは、ふふふと笑うと手を振る。

「まあ、いいや。明日頑張ろう」

「うん」

 






情けなくてカッコ悪いです。今まで、ずっと見て見ぬふりを続けてきたのですから当然と言えば当然です。
それでも立ち上がってもらわなければなりません!
書きたいところでした。書けて本当に良かったです。
これから、辛い事があるでしょうが、ホームズには頑張って貰いましょう!


ではまた百二十二話で( ´ ▽ ` )ノ

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