1人と1匹   作:takoyaki

119 / 242
百十八話です



突然の雨ってのが最近多いですね



てなわけで、どうぞ( ´ ▽ ` )ノ


真実
知に動くと角が立つ


「………」

ホームズはヨルを肩に乗せ雪の降る平原を一歩ずつ歩みを進めていた。

泣き腫らしたホームズの目は真っ赤だった。

「む?あいつらの霊力野(ゲート)の気配がする」

「そうか……全員いるかい?」

「まあ、霊力野(ゲート)のないチャラ男は気配を感じれないが、まあ多分全員いるだろ」

「…………なら良かった」

ホームズは、腰にある袋をちらりと見る。

「早く行こう……また、ローズも心配してるだろうし……」

「珍しいな。お前がそんな事を言うなんて」

「…………まあ、今だけの話さ」

「…………あぁ、そうだな」

ホームズは、ゆっくりと歩みを進める。

 

 

太ももに当たる小袋がマーロウの言葉を思い出させる。

 

─────他人の荷物を背負ってまで潰れるな──────

 

 

 

 

「…………無理に決まってるだろう」

ホームズは、もう一度そうつぶやいて歩みを進めた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ホームズ!!」

ザイラの森の教会に来たホームズを見つけたジュードは、驚いたようだ。

ローズは、ジュードの言葉にばっと振り返り、急いで駆け寄る。

「ホームズ!?血だらけじゃない!!」

あわあわと慌てているローズにホームズは、ゆっくりと首を横に振る。

「…………おれの血じゃあない」

「じゃあ、返り血か?」

ミラの言葉にもホームズは静かに首を横に振る。

ホームズは、歯をくいしばる。

 

 

 

 

 

 

「マーロウさんの血だよ」

 

 

 

 

 

 

その言葉で一同は、マーロウがいない事にようやく気付いた。

 

 

 

 

 

 

空気が凍りつく中、ホームズはローズの目をそらさずに言葉を続ける。

 

 

 

 

「ごめん。マーロウさん……助けること出来なかった………」

 

 

 

 

 

 

 

ホームズは、喉の奥から声を精一杯絞り出してローズにマーロウの事を告げた。

 

 

 

 

 

 

「うそ………でしょ?」

ローズは、信じられなかった。

再び訪れた自分にとって近しい人間の死。

ローズは、これを容認出来ないでいた。

「本当だよ。マーロウさんは……死んだ」

そう告げるとローズは、膝から崩れ落ちた。

「そんな………」

ホームズは、袋からマーロウの煙管を取り出し、ローズに渡す。

「こんなものしか持ってこれなかった………」

ローズは、ゆっくりと横に首を振って受け取らない。

「いらない……」

「ローズ………」

「私はまだ、マーロウさんの死体を見ていない。だから、死んだなんて信じない」

ローズは、立ち上がってそう言い切った。

ホームズは、そんなマーロウさんを見て悲しそうに顔を顰める。

「ローズ……間違いなく、マーロウさんは死んでる。

それはどうしようもない事実だ」

「やめて」

「そこから目をそらしてもしょうがないだろう?」

「……やめてと言ったはずよ」

俯き聞きたくないというふうに「やめて」と繰り返すローズ。

しかし、ホームズは続ける。

慰めるなんて事はしない。

正確に言うならローズはまだ、そんな状態ではない。

「おれは、嘘が下手だ。だから、本当の事を言うようにしている。

だから、今言っている言葉は、嘘も偽りも裏もなく本当の事だ」

「やめてって言ってるでしょっ!!」

ローズは、そう言ってホームズの頬に平手打ちをした。

「マーロウさんは、私の師匠で、そして、家族も同然だったのよ!」

ホームズは、平手打ちを食らっても微動だにせず、ローズを真っ直ぐ見据える。

「だったら、認めたまえ。君がマーロウさんの死を弔わないで、どうするんだい」

目をそらされて言われた言葉に力はない。

なら、目を逸らさず言われ、しかもそれが正論だったらどうだ。

それは、残酷な程に強い力を持つ。

ローズは、歯を食いしばり俯く。

「…………分かった。でも、煙管はいらない」

「そう………」

ホームズは、ローズの言葉を聞くと袋を腰に下げてある小袋の中にしまった。

何となく予想はついていたのだ。

マーロウの満足そうな笑みが頭をよぎる。

再び溢れそうになる涙をこらえ、ホームズは頭を振る。

(今は、感傷よりも……)

現状の把握に努めようと判断したホームズは、兼ねてからの疑問を口にする。

「それで、この羽の生えた美人誰だい?」

いつもの調子とはかけ離れた冷めた口調でホームズは、ジュードに尋ねた。

ホームズの視線の先には水色と白を基調した服に身を包み宙に浮いている女性がいる。

その女性は、先ほどから柔らかく微笑みながらジュードの側にいた。

「ミラの姉だって。僕を助けてくれたんだ」

ジュードは、そう言って後ろにいる背中に羽というより、何らかの模様を背負った女性

「ミュゼよ。よろしく」

柔らかく微笑むミュゼにホームズは、曖昧に頷く。

若干片足を前に出して構えるホームズを見てミュゼは、ふふふと笑う。

「そう構えないで。別にあなた達をどうこうするつもりはないわ」

「……精霊のくせに何を言っている」

ヨルは、毛を逆立てて更に尋ねる。

「この霊力野(ゲート)の気配……お前、戦場にいたな?」

「えぇ。おかげでマナが足りなくなっちゃて……」

「ふーん……だからおれ達を襲わないのかい?」

「それだけじゃないわ。今のあなた達を見ていれば、そんな気は起きないわ。マクスウェルも信頼してるし」

「………本当に?」

「ふふふ、疑り深いわね。もしかして襲って欲しいの?」

その言葉に面々は、息を飲む。

しかし、当の本人は肩を竦める。

「遠慮しとく」

何にせよ、ミラ達が無事だった事は喜ばしい事だ。

ホームズは、気持ちを切り替えるようにため息を吐く。

「それより、ホームズ、大丈夫?別れ際、かなり消耗してたけど……」

ガイアスとの戦いの時、ホームズはマーロウとの戦いのダメージを残していた。

レイアの言葉にホームズは、軽く掌を振る。

「大丈夫だよ。マーロウさんに会った時エリクシールをもらったから」

マーロウの名前からは、一気に早口で説明する。

ローズの肩が少しだけ動いた。

ホームズは、それに気付かないふりをして、レイアに逆に尋ねる。

「君たちは?」

「……あ、べ、別に大丈夫だよ」

自分の一言で気を遣わせてしまったレイアは気まずそうに答える。

微妙な沈黙が降りようとした時、教会からウィンガルが出てきた。

「ウィンガルさん!」

ローエンの言葉と共に、一行は武器に手をかける。

それをウィンガルが手で制する。

「後にしてもらおう」

カン・バルクの城の鐘が鳴り響いた。

「情報通りか………」

ウィンガルの呟きと共に、空にハウリング音が響き渡る。

【私は、ジランド。まずは君たちの街に強引に進駐した非礼を詫びよう】

そして、ジランドの声が鳴り響いた。

ジランドという名前を聞いた瞬間、ホームズの顔が険しくなる。

【だが、勘違いしないでもらおう!我々の目的は支配などではない!】

ヨルは、ホームズの肩で冷めきった目で声の降ってくる空を見上げている。

【これは、大国間の戦争を回避する為の非常措置だ。

諸君の生活と安全は、アルクノアが保障しよう!】

ローズの拳が強く握られる。

【それと、ホームズ・ヴォルマーノ。君には手荒な真似をしてすまなかった】

ホームズの片眉がピクリと動く。

【しかし、理解して欲しい。リーゼ・マクシアに平和をもたらす為には、君の力が必要だ!】

「…………」

皆の視線を集めながら、ホームズは無言で聞いている。

【あの戦場を生き抜いているなら!どうか、我々と共に来て欲しい!】

ジランドの力強い言葉を聞き、ホームズは、一気に冷めた顔をする。

「…………あぁ、なるほど。そういう事か……もっと早くに気づけばよかった」

もちろん、この呟きがジランドに届く事はない。

【我々の願いは、一つのはずだ!リーゼ・マクシアに永遠の平和を!】

ジランドの演説は、そこで終わった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ふざけたことを………精霊に害をなす黒匣(ジン)を作っておきながら………」

「……………」

ホームズは、何も言わない。

「もう、あの者たちを討つしか道はないのかしら?」

ゆっくりと尋ねるミュゼにミラは静かに頷く。

「でもどうやって?」

『あいつら、めっちゃ強かったでしょー!!』

ティポとエリーゼの言葉にミラは押し黙り思案する。

「………アルヴィン、ホームズ、知ってることを話してよ」

ジュードは、自分の手の内をほとんど見せない二人にそういった。

アルヴィンは、ジュードを無視して自分の元へとやってくる鳥から手紙を取る。

「アルヴィン!!」

「……………その男が答えないのであれば、そこのご指名を受けた奴に尋ねればいいのではないか?」

ウィンガルの言葉に一同は一斉にホームズを見る。

ホームズは、いつも通りの口調で答える。

「おれだって彼らについて知ってることは、ミラと大差ないよ」

「…………本当に?」

迷いながらも今、ローズははっきりとホームズを疑った。

ホームズは、そんなローズの顔を見ると諦めたように笑う。

「なら、一つ。ミラには言ってあって、君たちに言ってないことを教えてあげる」

そう言って見せた表情は、とても悲しそうな表情だった。

 

 

 

 

 

その表情を見た時ローズは、自分が何か間違えたのか、それとも取り返しのつかないことをしてしまったのを悟った。

 

 

 

 

 

 

ミラ達もそのホームズの顔に生唾を飲み込む。

 

 

 

 

ホームズは、そんな面々の事など構わず淡々と喋り出す。

「おれの両親は、リーゼ・マクシア生まれじゃない」

今の状態でこれを言えばどういう目で見られるか、それぐらいホームズだってわかっている。

けれどもあの放送が流れた時点で、諦めはついている。

アルクノアから特別にご指名の入った、ホームズ。

彼のことを快く思うリーゼ・マクシア人が一体何人いるのだろう?

きっと、今まではラッキーだけでどうにか乗り切っていた。

しかし、これはもうダメだ。

リーゼ・マクシアにホームズの居場所はもうない。

かといって、アルクノアの下に行くなど心の底からごめんだ。

(まあ、いつもの事だよね)

ならば、別に隠す理由はない。

元々、嫌われるのは、慣れっこなのだ。

更に言葉を続けようとするホームズをミラが止める。

「もういい、よせホームズ。後は私が説明する」

言葉を途中で止められたホームズは、驚いたように目を丸くする。

「お前の知っていることは、私と大差ない……そう言ったのは、お前だろう?なら、私が説明をする」

ミラの目に気圧され、ホームズは、静かに首肯する。

ホームズが頷いたのを見届けると、ミラはウィンガルの方を睨む。

「ガイアスは、抗うのだろう?」

ウィンガルは、それに答えず教会の中に消えていった。

「誘っていますね。わざと、私たちの前に現れるとは……」

ローエンは、口を開いた。

「僕たちを試してるのかな……?」

「罠……とか?」

一行は、ウィンガルの行動が読めず足踏みをしていた。

すると、アルヴィンが後ろか雪を踏んで歩いてきた。

「行こうぜ。ケリつけに行くんだろ」

普段とは考えられない、何かを押し殺すかのような声にジュードは、目を細める。

「………何かあったの?」

しかし、アルヴィンはジュードには答えずミラを真っ直ぐに見る。

「もう裏切ったりしない。

ジランドは、許せねぇ……頼む……俺にジランドを殺らせてくれ」

ミラは表情を変えず、アルヴィンの話を聞いている。

「次にもし裏切ったら、お前の剣を迷わず俺に突き立てくれてもいい」

そこで、言葉を切る。

「……だから、俺も一緒に行かせてくれ」

「ダメだと言ったら?」

アルヴィンは、ミラを真っ直ぐに見たまま口を開く。

「……おれだけでもヤツを殺る」

いつもの軽薄な雰囲気は、なりを潜め、確固たる決意でアルヴィンはそう宣言した。

「………いいだろう」

ミラも真っ直ぐにアルヴィンを見返して言った。

「悪い……サンキュな」

ミラは、アルヴィンのお礼の言葉を聞くとホームズに目を向ける。

「ホームズ。お前も来い」

「は?」

ホームズは、心底驚いた顔をした。

「今のお前に、リーゼ・マクシアの中に居場所はないだろう……ほとぼりが冷めるまで、私達とともにいろ」

ホームズは、ミラを見るとハァとため息を一つ。

「…………わかった。雇い主の言葉には逆らえないもんねぇ」

「そういう事だ。報酬が欲しかったら私達と居ろ」

ホームズは、ひらひらと手を振って答える。

そして、ちらりとローズに視線を向ける。

しかし、ローズはホームズから気まずそうに視線を逸らした。

ホームズは、それに気づかないフリをすると、教会の扉に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

「来たか」

ガイアス、ウィンガル、プレザ、アグリアが、奥に佇んでいた。

ウィンガルは、ホームズとアルヴィンを見る。

「ふん、結局そいつらを信じるのか……意外に甘いな、マクスウェル」

ホームズは、ウィンガルに構わずガイアスの方を向く。

「ガイアス王……おれと共に残ったマーロウさんが戦死しました」

その言葉にガイアスは、静かに頷く。

「……わかった」

その短い言葉にどんな感情が籠っているか?

それは、ガイアス以外分からないだろう。

何せ、マーロウ一人に防壁の一つを任せていたのだ。

信頼がないといえば嘘なのだろう。

「私達をここに導いた理由はなんだ?」

ホームズとガイアスの会話が終わるとミラが尋ねる。

「我らは、奴らと雌雄を決すべく、発つ。

お前らが、勝手に奴らと戦うというなら、それはそれでいい」

ウィンガルがそう言うとガイアスが言葉を引き継ぐように口を開く。

「だが、その前に、お前には話してもらうぞ。お前がひた隠しにしてきた断界殻(シェル)の存在について」

ミラは迷ったように俯く。

ミラ自身その事は秘密にしておきたいのだ。

しかし、先ほどホームズに代わりに説明すると言った手前、説明しないわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

「分かった。全て話そう」

 

 

 

 

今、リーゼ・マクシアの真実が語られ始めた。

 

 

 

 

 

 

 








長かったんで二つに分けました。



物語も後半に突入しましたね………



通勤の最中にコンスタントに書くので学生時代よりもストックがたまってびっくりです。


この土日中にもう一本あげたいなぁ………

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。