銀河英雄伝説 エル・ファシルの逃亡者(旧版)   作:甘蜜柑

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第六十四話:エル・ファシル危機 宇宙暦795年9月上旬 惑星エル・ファシル、エル・ファシル市

 惑星ゲベル・バルカル周辺宙域で宇宙海賊の奇襲を受けて敗走したエル・ファシル星系警備艦隊は、九月四日に惑星エル・ファシルに到着した。

 

 残存戦力は第一小惑星帯で戦死したリャン・ダーイー大佐指揮下の部隊と合わせても三〇〇隻程度。一方、惑星エル・ファシルを取り巻くように展開している宇宙海賊は八〇〇隻を超えると推定される。正面きっての戦闘であれば、火力と装甲に勝る警備艦隊は二倍の海賊にも拮抗しうる。しかし、それはあくまで一つの戦場に限った話だ。軽々しく動いて隙を見せるわけにはいかない。

 

「こんな時だというのに、軌道警備隊の小型艇部隊が動けないとはね」

 

 エル・ファシル警備艦隊司令官代行を務めるアーロン・ビューフォート大佐は、早朝に起きた軌道警備隊基地の燃料タンク爆発事故の報告書を読んでため息をついていた。

 

 この星系においては、警備艦隊司令官は星系警備管区の司令官も兼ねて、治安維持に責任を負う。第二九九駆逐群の幕僚では治安業務に対応できないため、各司令部から人員を集めて、ゲベル・バルカル星系で司令官とともに消滅した警備管区司令部を再編成していた。俺は星系警備管区参謀長代行として、治安業務に疎い司令官代行を補佐している。艦艇部隊の指揮は副司令官代行に就任したフョードル・パトリチェフ中佐が担当していた。

 

「復旧まで何日かかる見通しでしょうか」

「最低でも二週間だって。巡視艦隊が到着するの待ったほうが早いね」

「軌道警備隊が健在なら、警備艦隊と合わせて四〇〇隻。もっと楽な戦いができたのですが」

「過ぎたことだ。仕方ないさ」

 

 そう言い捨てると、ビューフォート大佐は爆発事故の報告書をデスクの上に放り出して、別の報告書を手に取る。

 

「東部のカッサラ市では、昨日深夜から暴徒と警察部隊が交戦中。暴徒の数は増加の一途をたどり、鎮静化する気配無しだそうだ。市政府から介入要請が来てるよ」

「発端はフライングボールの応援団同士の乱闘でしたよね。どうして、こんなに熱くなれるのでしょうか」

「拳で乱闘してる連中の気持ちならわからんでもないよ。でも、ライフルをスタジアムに持ち込んで観戦するような連中の考えることはわからんね」

 

 フーリガンの乱闘自体はこの国では珍しくもない事件だ。しかし、警察部隊と銃撃戦を展開して、軍に介入要請が来るレベルとなると、自由惑星同盟二六〇年の歴史においても両手の指で数えられるほどしか起きていない大事件である。

 

「エル・ファシル全域で買い占め騒動が起きています。便乗値上げする商店も後を絶たないそうです」

「そっちへの対応は星系政庁の仕事だな。とは言え、買い占め騒動が暴動に発展する可能性も十分にある。地上部隊の警戒レベルを引き上げておかないといけないね」

「未確認情報ですが、エル・ファシル市内の商店が襲撃されたという報告が入っています」

「やれやれ、随分と短気なことだね。トイレットペーパーがなくなってから暴れても遅くはないだろうに」

「ネットで危機感を煽る書き込みが大量に現れているみたいです」

「暴動を煽る書き込みもたくさんあるみたいだ。ネットのアクセス制限も検討しなきゃいけないね」

 

 惑星エル・ファシルの生産設備のほとんどは四年前の地上戦で破壊されてしまい、現在では生活必需品の多くを外部に頼っている。海賊によって星間流通が遮断された途端にパニックが起きるのは止むを得ないことだった。それをネットのデマが助長している。非常用の備蓄があるという事実も、一度パニックに陥った人々を落ち着かせるほどの説得力は持たない。

 

「ダメ押しにこいつだ。星系警備司令部の他、星系政庁、市政庁、星系議会事務局、主要政党の事務所、星系警察本部、惑星警備隊司令部、主要マスコミ三社にまで送りつけられている。過激派の連中はなかなかの働き者だね。うちの部下にも見習って欲しいもんだ」

 

 ビューフォート大佐が手に持ってヒラヒラさせた紙は、自由惑星同盟からの離脱を唱える反体制組織「エル・ファシル解放運動」から送られてきたテロの予告状。

 

「よくもこれだけの事件がこのタイミングに重なったものですね。偶然とは思えません」

「偶然と思える方がおかしいよ」

 

 警備艦隊の敗北と前後して発生した惑星エル・ファシルの動乱。同じ人物が裏で糸を引いていることは明らかだった。エル・ファシル星系警備艦隊司令官は、星系警備管区の司令官も兼ねている。司令官代行のビューフォート大佐はこの動乱に対処しなければならない立場だった。俺は星系警備艦隊参謀長代行を兼任して、調整や渉外にあたっている。

 

「ところで地上部隊の追加派遣要請の返事はどうだい?」

「エルゴンの第七方面管区司令部は、第一〇空挺師団を含む三個師団を追加で派遣してくれるそうです」

 

 俺の返答にビューフォート大佐は満足そうにうなずいた。万が一エル・ファシル全土が動乱状態に陥ったら、星系警備管区司令部管轄下の地上部隊では対処できない。今の俺達は海賊対処用の艦艇戦力と治安維持用の地上戦力の両方を必要としていた。

 

「あの第一〇空挺師団を動かすとは、随分と奮発してくれたね」

「国防委員長閣下によろしく、と言われました」

「ああ、そういうことか」

「そういうことです」

 

 軍部の中で勢力を急拡大している国防委員長ヨブ・トリューニヒトと繋がりを持ちたがる者は多い。以前はそういう人々が面倒くさくてたまらなかったが、人も金も物も足りないエル・ファシル警備艦隊では贅沢は言ってられなかった。彼らの望み通りに「よろしく言う」ことで仕事がしやすくなるのなら、それに越したことはない。

 

「君が実務を全部引き受けてくれるおかげで、私は司令官の業務に専念できる。ずっと駆逐艦一筋だったから、そういうの苦手なんだよね。本当に助かるよ」

「俺は用兵ができません。人それぞれ、得意不得意はあります。それを補うための組織でしょう」

 

 ビューフォート大佐は戦場では頼もしい存在であったが、オフィスではまったくもって頼りなかった。事務仕事は遅くて下手。細かいことに目を配るのが苦手。交渉事も面倒くさがる。現場一筋の叩き上げ士官には多いタイプだ。七年前のエル・ファシル脱出作戦の際に足手まといになるからといって、指揮官のヤン・ウェンリーを手伝わなかったのもうなずける。

 

「ゲベル・バルカル宙域での用兵は悪くなかったよ」

「あれは大佐のご指示のおかげです」

 

 決して謙遜しているわけではない。表面上では落ち着き払っていたものの、内心は恐怖に震えていた。ビューフォート大佐の指示にすがりついて、どうにか生き残れたのだ。

 

「言われた通りのことさえできれば、今は十分だよ。自分の判断で動けるようになるのはその先のこと。君はまだ若い。焦らずに一つ一つ階段を登っていけばいいよ」

 

 その言葉に勇気づけられた俺は、敬礼をするとビューフォート大佐の執務室を退出した。星系政庁や警察の幹部との調整、対応マニュアルの作成、星系警備司令部管轄部隊の引き締めなど、やるべきことはいっぱいあった。

 

 

 

 ビューフォート大佐と俺が防衛体制の構築に奔走していた間も惑星エル・ファシルの治安情勢は悪化する一方だった。

 

 フーリガンの乱闘に始まるカッサラ市の暴動は若年層を中心とする不満分子に火を付け、三日後には全都市の三分の一が動乱状態に陥っていた。どこから手に入れたのか、暴徒は武器弾薬を豊富に持っていて、容易に鎮圧できなかった。現場の部隊からは実弾の使用許可を求める声が相次いでいたが、ビューフォート大佐と俺は、重ねて暴動鎮圧用の非致死性武器のみで戦うよう指示した。民間人に対して実弾を使用したら、軍と市民の間に決定的な亀裂を生みかねない。

 

 海賊によって星間流通が停止しても、しばらく持ちこたえられるだけの備蓄は用意されていた。しかし、航路を遮断されて孤立したという恐怖がデマを生み、デマが現実を侵食していく。エル・ファシル星系政庁は備蓄の一部を放出して、物資が潤沢であることを示してデマを打ち消そうとしたが、かえって逆効果となった。

 

 市民は自分達が脳内で作りだした物資不足への対処を求めて、連日のように星系政庁へと押し寄せた。七年前にリンチ司令官が逃亡したことに怒った市民が星系政庁に押し寄せた光景そのままである。この群衆がいつ暴徒に転じるかと思うと、不安で不安でたまらなくなる。

 

 エル・ファシル解放運動によるテロは現時点ではまだ起きていないが、油断は禁物だ。ブラフに踊らされるより、警戒を緩めてテロを起こされる方がずっと恐ろしい。それに解放運動は暴徒や海賊と違い、明確に同盟の現体制を敵視している。星系政府や軍の施設を直接襲撃してくる可能性があった。

 

 暴動やテロに備えるために必要なのは、第一に人員である。兵士を大量に動員して、標的になりそうな重要施設を警備させる。捜査員を大量に動員して、潜伏しているテロリストを探し出す。優秀な一人より、無能者一〇人の方が役立つ類の任務である。

 

 暴動やテロに立ち向かうべく戦っているといえば聞こえはいいが、本当に格好良いのは体を張って警戒にあたっている人達だ。ビューフォート大佐や俺のような上層部は、縄張り意識の強い政庁や警察の幹部を相手に会議を重ね、乏しい人員と物資をやり繰りし、消極策に不満を抱く現場の部隊をなだめ、政治家や市民からの突き上げに耐えなければならない。頭を下げてばかりで格好悪いことこの上ない。

 

「どのような方策があるのか、聞かせてもらえないかな」

「警備司令部の方針は既に述べたとおりです。警備を固めて外の海賊と内の暴動に備えつつ、第七方面管区からの救援を待ちます」

「自分達の力で状況を打開しようとは思わないのかね。君はエル・ファシルの英雄だろう?」

「ロムスキー先生、必ず救援はやって来ます。信じてください」

 

 こんな無茶を言ってくる連中を相手にしつつ、必要な人員と物資を集めて脱出計画を形にするという仕事を一人でやってのけた七年前のヤン・ウェンリーに改めて尊敬の念を抱かされる。千隻からの船団を幕僚を使わずに指揮するというドーソン中将みたいなこともやってのけた。前の歴史においては、用兵しかできない天才型軍人と評されていたが、本来は実務型なのかもしれない。

 

 周辺宙域に展開する八〇〇隻の海賊。地上で暴れまわっている暴徒。姿の見えない反体制組織。パニック状態に陥った市民。まるでエル・ファシルを取り巻く矛盾が一気に噴出したかのような有様だ。

 

 緊縮財政による警備艦隊の戦力低下が海賊を活発化させた。復興の遅れに対する不満が暴動を拡大させた。エル・ファシル解放運動は同盟建国期から続く集権派と分権派の対立の中で結成されたオーソドックスな反体制組織だが、不況の中で勢力を拡大していた。市民があっさりとパニック状態に陥ったのは、公式発表よりネットのデマを信じこんでしまうほどに、行政が信頼を失っていたためだ。

 

 敵は警備艦隊の殲滅を狙っているものとばかり思っていた。そうであれば、ビューフォート大佐が言うとおり、海賊の戦術しか使えないという敵の限界に乗じることもできただろう。しかし、海賊は戦おうとせずに航路遮断に徹して、不満分子を扇動することで地上に動乱状態を引き起こした。

 

 海賊が主なのか、地上の動乱を扇動している連中が主なのか、さっぱり見えてこなかった。いずれが主でも、全力で対応せざるを得ないことには変わりない。一歩対応を間違えば、エル・ファシルの動乱は内乱に発展しかねない。

 

 

 

 警備艦隊がエル・ファシルに戻ってから一週間ほど経過した九月一一日早朝。第七管区巡視艦隊から、間もなくエル・ファシルに到着するという連絡が入った。敵が仕掛けてきた偽の通信の可能性を考慮して、幾重ものチェックを行った結果、本物であることが確認された。

 

「これで一息つけるね」

「本当に長い一週間でした。非対称戦は神経をやられます」

「神経を攻めてくるのがああいう連中の得意技だからね。正直者の君にはきついだろう」

 

 正面戦力で対抗できない相手に対して、ゲリラやテロといった手段で対抗する非対称戦の本質は神経戦である。いかに強大な戦力を持った正規軍であっても、四六時中見えない敵の奇襲に備えていたら、神経が参ってしまう。自分で自分を守ることができない市民にとっては、見えない敵に対する恐怖がもたらす緊張は極めて大きい。正規軍を心理的に翻弄して戦力を低下させ、市民の不安を煽り立てて社会秩序を破壊する。海賊と暴徒と反体制組織を裏側で操っている人物は、まさしく非対称戦の教科書通りの戦いをしていた。

 

「たった一週間でこの有様です。サンタ・マルタ星系なんてどんなことになっているんでしょうね。想像したくもないですよ」

 

 自由惑星同盟を構成する数百の星系共和国の政情は多種多様だ。俺が生まれたタッシリのように政治的に安定している星系もあれば、サンタ・マルタのように数十年にわたってテロ組織との戦いが続いている星系もある。対帝国戦争が始まる以前は、内戦状態に陥った星系だってあった。

 

 同盟はもともとアーレ・ハイネセンの長征グループと、銀河連邦衰退期に中央のコントロールを離れたロストコロニーの寄り合い所帯である。対帝国戦が始まると、帝国からの亡命者がそれに加わった。現在は反帝国の大義名分によって、一枚岩になっているかのように見えるが、内紛の火種が消えたわけではない。

 

「まあ、私は君が想像したくもないというサンタ・マルタの生まれなんだけどね」

「司令官代行はトリプラ星系の生まれだったはずでは」

「ああ、履歴書にはそう書いてたっけ。まあ、色々あるんだよ。色々とね」

 

 逆鱗に触れてしまったかと思って、ひやりとした。しかし、彼はにこやかな表情を保ったまま語り続ける。

 

「いずれにせよ、エル・ファシルを内戦に突入させた無能者のレッテルは貼られずに済みそうだ。巡視艦隊と地上部隊の戦力は、強力な抑止力になる。流通が回復すれば、市民感情も落ち着く。後のことは私じゃない誰かさんに頑張ってもらおう」

「巡視艦隊からの連絡については、いかがいたしましょうか」

「君の意見は?」

「公表すれば、市民や将兵は安心するでしょう。動乱を引き起こしている勢力も大人しくなる可能性が高いです。しかし、安心した隙に付け入られる可能性もあります。どれだけ司令部が注意を促したところで、解放感を抑制するのは難しいでしょう」

「これから星系政府に伝えるつもりだが、我々は専門家としてどのように助言するべきだろうか」

「付け入られるリスクを考慮に入れても、公表を進言すべきと考えます。将兵や市民の不満を抑える手段は他にはありません」

 

 俺の意見を聞いたビューフォート大佐は腕を組んで考えこんでいる。参謀の仕事は意見を述べるまで。決断は指揮官が行わなければならない。

 

「あと一日抑えるのも難しいかな」

「昨日、地上部隊から三件の反乱未遂が報告されました。エル・ファシル市を警備している大隊にも、反乱の兆しが見られます。物資不足への対応を求めるデモは、昨日の時点で制御不能な規模に達しています」

「とっくに臨界点を超えてるってわけか」

 

 ビューフォート大佐はすぐに星系政府に巡視艦隊到着が近いことを伝えて、公表するように進言した。星系政府は協議に入り、三〇分後に公表を決定。星系政府と警備司令部の合同記者会見が開かれて、巡視艦隊到着間近の報はエル・ファシル全土に伝えられた。

 

 記者会見から二〇分後、星系政庁を退出しようとするビューフォート大佐と俺のもとに、司令官代行臨時副官を務めるコレット中尉が凄まじい勢いで駆け寄ってきてメモを渡した。二人で目を通す。

 

「エル・ファシル市内の一四箇所で同時に爆破テロか」

 

 きたか、と思った。予告状を出した後、ずっと沈黙を守っていたエル・ファシル解放運動がついに動き出したのだ。公表すべきと言った自分の判断の甘さに思わず舌打ちしてしまう。

 

「陽動だね、それは。Bマニュアルに従って対処するよう、各部隊に伝達。警備司令部に戻るまでは、携帯端末を通して指揮を取る」

 

 指示を受けて再び走りだしたコレット中尉の後ろ姿が見えなくなると、ビューフォート大佐は笑って俺の方を向いた。

 

「これで良かったかな」

「十分です」

「私は駆逐艦一筋で生きてきた。治安は門外漢だ。実質上の指揮官は君ということになる。憲兵隊仕込みの手腕に期待するよ」

「はい」

「気にすることはないよ。公表しなければ、どこかの部隊が反乱していた。エル・ファシル市民が暴動を起こしていたかもしれない。敵はどっちに転んでも構わないように手を打ってたんだよ。つくづく嫌らしい連中だね」

 

 ビューフォート大佐のおどけた口調に安心させられた。逆境にあって明るさを失わない指揮官の存在は本当に心強い。おかげで小心な俺でも取り乱さずに戦える。彼のような人を本当の指揮官と言うのだろう。気を取り直して携帯端末を開いて簡易指揮システムを立ち上げた途端、ビューフォート大佐の携帯端末が鳴り出した。

 

「うんうん、わかった。これからそちらに向かう」

 

 何やら端末で話してうなずいた後、ビューフォート大佐は再び俺の方を向いた。

 

「軌道上で警戒にあたっていたパトリチェフ中佐からの報告。この星を取り巻いていた海賊が集結して、衛星軌道に接近しているってさ」

「解放運動の動きと連動したものでしょうね。油断も隙もないとはこのことです」

「海賊八〇〇隻と正規軍三〇〇隻。戦力的には五分だけど、味方はこの一週間の動乱で浮き足立っている。なかなかどうして、楽をさせてくれない敵さんだ」

「司令官代行が直接指揮をお取りになるのですか?」

「もちろんだとも。地に足の着いた戦いでは、私は何の役にも立たないからね」 

 

 ビューフォート大佐の本領は宇宙空間での艦艇戦闘にある。地上戦闘で役に立たないという言葉はもっともだ。しかし、彼が海賊を迎撃するとなると、誰が対テロ指揮をとるかは自明だった。

 

「フィリップス中佐、君を地上における臨時指揮官に任命する。空の上で戦ってる私達が帰る場所に困らないように頼むよ」

 

 臨時とはいえ、一惑星の治安を預かるという未曾有の大任に膝が震える。冷静でなければいけないのに、体がそれを拒否する。こういう時、小心な自分がつくづく嫌になってしまう。自己嫌悪に陥っている俺の肩を、ビューフォート大佐は強く叩き、白い歯を見せて笑った。不思議なことに体から震えが引いていく。

 

 表情を引き締めて敬礼をすると、対テロ指揮を取るべく炎上するエル・ファシル市内へと向かう。テロリストを鎮圧し、エル・ファシル内戦を阻止するために。


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