京太郎くんカップリング短編集   作:茶蕎麦

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 期間が空きすぎたためですかね、とっても沢山の投票、どうもありがとうございますー!
 その中で抜け出た照さんをヒロインとして書いてみました!

 ちょっと色々と試してみたようなところがありますが、出来ればよろしくお願いしますー。


優しいだけでは愛は手に入らない最初の幼馴染だった京照

 

 宮永照は、麻雀において天賦の才能を持っている。母親譲りのそれは、もはや少女が牌に愛されているかのように錯覚出来てしまうくらいに凄まじいものだ。

 並大抵の豪運ですら敵わない、ジンクスだって無に帰すほどの支配力。照魔鏡のようなもので相手の本質を看破する異能といい、もはや人の域を超えている部分すら多々あった。

 だがしかし、一度卓から離れてみれば、照も普通の女の子と変わらなくなる。もっとも少しお菓子が好きでありすぎたり、少し天然ボケなところがあったりするが、それも愛嬌。

 そして、そんな愛らしさすら萌芽でしかない幼き日。成長も性徴も殆ど不明な、小さな小さな頃。妹がベビーカーから降りて歩き出し、やんちゃに後を付いてくるようになった、それくらいの時期に、照は一人の男の子と出会った。

 

「きょうちゃん」

「なに、てるおねーさん」

「おかし、こぼしてるよ?」

「あ、ほんとだ。ありがとー!」

 

 親の手によって対面させられたのはご近所さんと言うには少し家が離れた、しかし同じ地区の子供。とある役員の親同士のお茶会にて、同じ場所に預けられた同年代の子が、須賀京太郎だった。

 照は京太郎のことを落ち着きのない子供だと思う。そして、食べるのが雑だな、とも感じるのである。それ以外は、今ひとつよく分からない。流石にこの年頃の子供は将来性に溢れたあやふやで、照魔鏡に映るのも確たるものではなかった。

 ただ、傾向として自分とは違うタイプであるとは分かる。頭を働かせるよりも、身体を動かすのが好きな、そんな子供らしさの塊。男の子ってこんなものなのかな、と何となく照は思うのだった。

 照はお気に入りの絵本から目を離して、京太郎をその目で見つめる。零したお菓子をせっせとゴミ箱へと入れている、彼の笑顔はどこか眩い。そして、チョコレートを口の端に付けた姿は、単に間抜けでもあった。

 口元が、緩む。何とはなしに京太郎のことを気に入った照は、妹のためにと残したお菓子をタオルに包み始めた。それを、男の子は不思議そうに見つめる。

 

「おねーさんはもらったおかし、たべないの?」

「これは、さきのぶんだから」

「さき?」

「いもうとのことだよ。きょうちゃんとおなじとしのおんなのこ」

 

 そう、照には咲という愛すべき妹がいる。そのためには、大好きなお菓子だって我慢できた。自分が貰ったものは、妹とはんぶんこにするのが、彼女の姉としてのルールだった。

 けれどもきっと、自分のこんな心遣いなんて気にせずに、咲はお菓子を遠慮なく頬張るのだろう。いつもの欲張りなハムスターの真似事のように頬をパンパンにさせて笑む妹のことを想像して、照は薄く笑んだ。

 そして、そんな妹思いのお姉ちゃんの様子にあてられたのか、京太郎も咲という少女を気にしてみる。けれども、まだまだ富んでいない子供の想像力ではあやふやが浮かぶばかり。ただ彼が照から想像した妹は、とても優しく笑んでいた。

 京太郎は頬に手を当てて、言う。

 

「いもうとかー。あってみたいな。さきってこもきっと、てるおねーさんみたいにやさしいんだろうから」

 

 そして、なんとはなしに彼が零したそんな一言が、二人の関係性を決定づけるものとなる。驚きに目を大きく開いた照は。

 

「そっか……わたし、やさしくみえるんだね」

 

 他人を見るための照魔鏡では分からない、自分への純粋な評を受けて満足する。

 そして、少女はそう見えるのならば彼の前ではそうなろうかなと、思ったのだった。

 

 

 

「京ちゃん!」

「咲、お前こらっ、引っ張るなっての……うおっ!」

「わあっ」

「……ん」

 

 夢現、ベンチに座った照が過去をうつらうつらと思い出していると、彼女は大きな子供の声に起こされことになる。

 見ると、アスレチックで遊んでいる仲良し二人が縄で出来たネットの上で転がっていた。なんと、短パンの京太郎はともかく、スカートが捲り上がった咲はパンツが丸見えになってしまっている。

 これは酷いお転婆だなと、照は近寄りよろよろ立ち上がる途中の二人に声をかけた。

 

「咲に京ちゃん。危ないよ」

「いや、照さん……咲が追いつけないからって俺を引っ張って……」

「そうなの、咲?」

「うぅ……私、京ちゃんがどんどん遠くに行っちゃうのがなんかイヤだったから……」

「そう」

 

 そんなことを口にしている咲は、未だに京太郎の服の裾を持っている。少女が少年に懐いている様子に、照は微笑む。

 咲はここのところ、京太郎にべったりだ。二人揃って入学した小学校でも、仲を勘違いされてよくはやしたてられていると聞く。

 だが、好きが好きを好きでいる。そんなの、なんて幸せなことなのだろうと、照は思うのだった。故に二人を見ているだけで、楽しい。

 まあけれども、と。ぴしゃりと照は咲に告げる。

 

「でも、それで引っ張って転ばしちゃうのは良くなかったね。ごめんなさい、は?」

「うう……お姉ちゃん……」

「咲?」

「ごめんなさい」

「私に向かって言ってどうするの?」

「はい……京ちゃん、ごめんなさい」

「ああ。怪我しなかったし、俺は平気だよ」

「そう? ありがとう!」

「こら、くっつくなっての」

「ふふ」

 

 照の前で咲はごめんなさいをして、そうして二人はまた仲良しに戻った。そんな様子を見て、照は笑顔の花咲かせる。

 

「照さんの前だとお前、形無しだな」

「うーん……」

 

 そんな年上の綺麗な微笑みに惹かれつつも、同級幼馴染を弄る京太郎に、なにやらそれを気せず思案顔の咲。

 思わず、京太郎は聞く。

 

「咲、どうした?」

「なんだか……お姉ちゃんって京ちゃんには随分と優しいよね。ひいきだよ、ひいき!」

「そんなことないだろ。照さんは皆に優しいじゃないか」

「えー……お姉ちゃんって結構仲良くない人には塩対応……」

「……咲?」

「わっ! はい、お姉ちゃんは誰にも優しい天使です!」

 

 何やら笑みに凄みを乗せるなんて高等技術を使ってきた姉に、怯える咲。

 そして、すっかり照の優しさを確信している京太郎は、彼女の言に頷きながら、言う。

 

「そんなの当たり前だろ。照さん以上の天使なんているわけない」

「……そこまで京ちゃんに言われると、恥ずかしいな」

 

 京太郎の褒め殺しに、ぽ、と頬を染める照。

 それに、あ、この人可愛いなとますます惹かれる京太郎。

 そんな二人の仲を見せられて、面白くないのは咲だった。ふくれっ面になって、彼女は間近の京太郎へと抱きつく。

 

「むー……なんだか、ずるい!」

「うわっ、お前また飛びついて……」

「二人共危ない……きゃ」

 

 そうして、よろけた京太郎を助けようと向かった照ごと、三人はもつれ合って転がったのだった。

 やがて気づけばムキになった三人は、遊び、楽しんで。皆で笑いあう。

 

 

 そんな日も、あった。

 

 

 

 

「行っちゃうのか、照さん……」

「京ちゃん……うん」

「そっか」

 

 それは宮永家に決定的な亀裂が走ってしばらくのこと。燃え尽きた家屋の前に最後の別れを告げに来た照に、待ち構えていた京太郎は話しかけた。

 キャリーバッグを引いている照の寂しげな背中に、別れを知った京太郎は、嘆息を飲み込む。そして、優しい彼女に心配をかけないためにも声色に悲しみをなるだけ乗せないようにしながら、彼は聞いた。

 

「照さんはどこへ行くんだ?」

「東京」

「それは遠いな……」

 

 今更に、少年は激しい寂寥に襲われる。だが、それに屈することは出来なかった。世話になった照に、泣きわめいて最後まで迷惑をかけるなんてとても出来ないために。

 京太郎は、彼女らの間に何かあったとは知っている。だが、その何かが仲良し家族を引き裂くまで何も出来なかった。終わってからうろたえるばかりだった自分への怒りを耐えるために握り込んでいた手のひらに、爪が食い込んで痛む。

 大好きと大好きが別れてしまう。そんなのは、とても辛いものである。

 だが、当人たちはもっと辛い。だから、京太郎は思う。我慢せずに弱音を吐いて欲しい、と。そうすれば愛おしい照を遠慮なく抱けるのに。

 

「咲を、任せるね」

 

 しかし、最後まで優しいお姉さんでいるために。彼女はそう言った。

 だから、彼も。

 

「照さん……分かった。安心して俺に任せてくれ」

 

 そう、弱々しく返す他になかった。

 

 

 

「ううっ……」

 

 少女は、故郷から去る車中、くぐもったような声を零しながら、泣く。

 本当は、少年に付いてきて欲しいと、喚きたかった。けれども、それは無理なこと。だって、自分は優しいお姉さん、だから。

 

 彼をはんぶんこになんて出来ないから、妹にぜんぶあげるのだ。

 

「そんなのやだ、やだよぅっ……」

 

 でもそうするのがこんなに苦しいのなら。

 ああ、優しくなんてなるのではなかったと、照は思うのだった。

 

 

 

 

「京ちゃん! ……今、何隠したの?」

「よう、咲、あはは。俺は何も隠しては……うおっ」

「ほら、どうせエッチな本なんでしょ……あ。この雑誌の表紙って……お姉ちゃん」

「……すまん、咲」

「ううん。大丈夫。……そっか、お姉ちゃん、麻雀また始めたんだね」

「……それで直ぐに全国で一番になっちゃうんだから、流石は照さんだよな」

「京ちゃんお姉ちゃんのこと、大好きだったもんね」

「まあ、な」

 

 

「そっか―――ねえ、京ちゃんは、私のことも大好き?」

 

 

 

 

「京ちゃん……」

「照、さん」

 

 そして時が経ち、彼と彼女は東京にて、偶々に再会を果たす。

 その時京太郎は、迷子の咲の手を引いていた。そんな仲睦まじい様子を見てしまった照は、菓子袋を落とし。

 

「おねえ、ちゃん」

「っ!」

 

 走り去ろうとした。

 

 だが。

 

「今度はもう、離しませんよ!」

「なんで……」

 

 咲から迷わず手を離した京太郎は、逃げ去る照のその手を掴んだ。

 目と目は結ばれる。彼の必死に照魔鏡を使うまでもなく強い想いを見た照は。空いた手で強く主張する胸元を抱き。

 

「このままだと私、悪いお姉ちゃんになっちゃうよ……」

 

 ぽろり、と涙とともにそう零すのだった。

 

 

次のカップリングは誰がいいでしょうか?

  • 京はや
  • 京和
  • 京咲
  • 京恭
  • ヤンデレ

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