京太郎くんカップリング短編集   作:茶蕎麦

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 毎度のアンケートへの沢山の投票どうもありがとうございます!
 今回は平たかったですね……しかし、その中から穏乃さんと憧さんが選ばれましたー。
 ちょっと、セットはずるかったですかね? ただ、この二人は揃うと凄く強そうで……やってしまいました。
 新たな試み、よろしくおねがいします!


三角関係になりそうでならない幼馴染な京憧穏

 

「ふふっ」

 

 山に登る、というのはとても楽しいことだと高鴨穏乃は思う。

 まず、険しさに挑むことが面白い。ましてや頂上にて吸う空気なんて例えようもなく心地よいもので。山登りは達成感というものを手軽に得られる数少ない運動だと彼女は考えている。

 それに、自然というものがはらむ空気がどうにも穏乃にはぴたりと合致していた。山の神様に嫌われることがないどころか、この上なく愛されている彼女に、吉野の山はホームグラウンド。

 休日の多くを、山登りに使うのが、穏乃の趣味だった。

 

「はぁ……シズ、ちょっとペースが早すぎないか?」

「京太郎!」

 

 そして、穏乃が山を好きであり続けている理由のもう一つに、誘えば彼が必ずついてきてくれるということも挙げられる。

 今まで、山に飽きたり疲れたりして、付き合い悪くなっていく誰彼。そんな中、しかし彼、京太郎だけは奔放な彼女を見守り続けてくれる。

 成長とともに離れていく皆。だが、京太郎だけは変わらない。ずっと幼馴染の友達で居てくれた。そのことが、どれだけ嬉しいことか。

 穏乃は少し疲れにへたれていながらも重い足を持ち上げて付いてくる京太郎を見て、つい笑んでしまう。

 

「えへへ。ごめんごめん。京太郎がいた事忘れてたよー」

「何時も一緒に登ってる相手のこと忘れるなよ……」

「だって、何時も一緒だからさっ。それが当たり前みたいで」

「……まあ、それはそうかもな、っと!」

「ほら、走るよ!」

 

 喋りながら少しペースを落として穏乃は京太郎と並んだ。そうして、彼の手を取って彼女は駆け出す。

 当然のことながら、幼馴染の過度な元気に引っ張られてつんのめりそうになる京太郎。人のいい彼も、つい彼女に文句を言いたくなる。

 だが、しかし僅かな嫌気から出てきたつまらない言葉なんて、大きな親愛から湧いた感動の前では儚く消え去るもの。花より綺麗な自然な表情に、彼ははっとする。

 穏乃は心の底から楽しくって、京太郎に笑いかけながら、言った。

 

「一緒に、早く頂上へ行こう!」

 

 一人じゃなくて二人。もっと沢山いたらきっともっと楽しいのだろうけれど、今は二人ぼっちで緑滴る風景輝く頂きからの眺めを抱きたかった。

 そう、友達というものに特別な感情を持つ穏乃は、しかし京太郎についてはまた別の所感を持っていた。だから、急ぐし笑うし、繋がった手にドキドキするのだ。

 

「仕方ないな、シズは」

「えへへ! それでも付いてきてくれるから、京太郎大好きだよ!」

 

 大好き。そんな本当のことを言うのに、恥じらいなんて起きるはずもない。でも、そんな想いを抱けるようになったことは、とても照れくさいことではある。

 身長伸びない自分も成長しているんだなと思い、なんとはなしにあっという間に己を追い抜いてぐんぐん背を伸ばした京太郎を穏乃は見上げた。

 そして、そんな彼は意外にも楽しそうに穏乃を見返してくれていて。

 

「まあ、俺だって、シズのことが好きだからな」

「え……わあぁぁっ!」

 

 だから、山の開放感によって零してしまった京太郎のそんな本音に驚いた穏乃は、顔を真っ赤にして妙な叫びを上げてしまうのだった。

 

 

 

 新子憧には、大好きな幼馴染が二人いる。

 その内の一人、同性である穏乃とは中学校が変わり、勉強に時間を取られるようになってしまったことで疎遠になってしまった。

 だが、お隣さんである須賀京太郎とは未だに良好な仲であるという自負が彼女にはある。いや、むしろそれ以上になりたいという想いすら憧にはあった。

 

「ふぅ……ちょっとやりすぎかな?」

 

 何とはなしに、以前幼馴染三人で撮った写真と鏡に映る今の自分とを見比べて、憧は零す。

 成長の早い気になる彼に追いつきたいと、自分もどんどんと背伸びして格好やコスメなどに気を遣うようになった。

 それによって大分変化したのは、こうして見返してみると明らかだった。実際同じ中学の友達である初瀬には、そんなにキメて好きな人でもいるの、とかからかわれたりしたこともある。

 

「ま、でもあの唐変木にはこれくらいはしないと駄目よね!」

 

 でも、と髪を括りながら憧は元気を出した。こんなに頑張っている同級生を忘れて、その姉の胸に目を行かせることすらあるのが京太郎という男子。

 おもちが大きければ誰でもいいのか、なら力士と結婚しちゃえと怒りに燃えないこともない。

 だが、そんなちょっとスケベな彼のことを憧はどうにも嫌いにはなれなかった。いや、それどころか。

 頬を紅くして、彼女は呟く。

 

「京太郎には、あたしがいないと駄目なんだから……」

 

 憧は、そんな京太郎の駄目なところすら好きだ。むしろ、その程度の可愛らしい悪点なんて、対抗心を煽り恋を燃やすための燃料にしかなりはしない。

 そう、新子憧は京太郎のことが大好きだった。

 

 

 阿知賀高校、なんていうものこそあるがそれでも山間の田舎の生まれ。憧や京太郎達の同級の子供は少なかった。

 そして、麻雀に興味を持つ同い年なんてそれこそ貴重なもの。だからこそ、憧と京太郎と穏乃は卓を囲むことで仲良くなった。

 その中に転校生、原村和が入って広い須賀家にてよく遊ぶようにもなったが、それ以前。一緒に遊びだしてから少し経った時に憧は、京太郎の異常に気付いていた。

 偶に二人きりになった時、憧は彼に聞いたことがある。

 

「ねえ、京太郎。あんた、変に弱くない?」

「そうだな……俺ってシズやアコみたいには引きが良くない感じはするな」

「なのにさ、何で楽しそうに麻雀をやれてるの?」

 

 そう、京太郎は不思議なほどに引きが悪い。そのために、よく負けていた。だが、それだけなら憧も気にはしなかっただろう。

 むしろ、その後。幾ら負けがこもうとも、彼は嘆かずに笑って次へと挑んでいた。そのことが、どうにも憧には理解できなかった。

 憧は、麻雀が好きである。そもそもの遊戯の奥深さに魅了されているのには違いないが、それだけでなく頑張れば誰にだって勝つことが出来る可能性が拓けてくるから、というのも一つであると考えていた。

 ならば、幾ら頑張っても味方しない運一つで負けてしまう麻雀に、どう楽しみを見いだせるだろう。それが憧は純粋に気になった。

 だが、何を言ってるんだとでも言うように、京太郎は笑ってこう返すのである。

 

「そりゃあ、アコたちが楽しそうにしているからに、決まってるだろ?」

「え?」

「俺だって、嫌いな奴らに負かされ続けてたら嫌になるさ。けどさ、好きな奴らが格好いいところを見せてくれてりゃあそりゃ、俺も何時かいいとこ見せるために頑張ろうと思うさ」

「そういう、もの?」

「まあ、気になるならさ」

 

 そして、弱くてもいいと呑み込んでしまっている京太郎は、そんな自分を気にせず勝利に笑っていた憧に対して、更に続けるのだ。

 

「俺の代わりにアコが勝って笑ってくれればそれでいいさ」

 

 ああ、格好いいな、こいつ。と、生まれてはじめて憧は同級生の男子にそう思ったのだった。

 

 

 その格好良さに憧れて、目で追うようになり。やがて目を逸らすことすら出来なくなって。何時しか胸がどきどきとしていることに気付いた。

 でも、彼女は。

 

「よっし、今日も京太郎のためにも麻雀、頑張らないとね!」

 

 あえて京太郎とは違う強豪中学を選び、麻雀漬けの日々を送るのだった。

 何時か、少年の弱さ(強さ)の素晴らしさを証明するためにも必死になって。

 

「おはよ、京太郎!」

「おはよう、アコ」

 

 そして、そんな彼女がつい彼にもっと好かれたいと自分を磨いてしまうのは、少女の想いの証明でもあった。

 

 

 

 高鴨穏乃と新子憧、そして須賀京太郎は幼馴染の仲である。

 ご近所でも評判の仲良し三人組は、少し間に冷たい空気が流れたこともあったが、少年をかすがいにして離れることさえなかった。

 

「あはは」

「ふふ」

 

 そして、インターミドルチャンピオンになった和と全国という舞台で戦う(遊ぶ)ために組もうと同じ女子校に進んだ穏乃と憧は、再び以前の仲を取り戻して相好を崩し合う。

 遠慮ない距離感で笑み合う彼女らは、傍から見たら正に気のおけない仲。とても深い絆が伺えるようだった。

 しかしその実。二人の間には並々ならぬ緊張が漂っていた。笑顔というある種攻撃的な表情のまま、憧は言う。

 

「それにしてもしずったらずるいわねー。あたしの知らない間に京太郎と旅行しまくってたみたいじゃない。あーあ。私も連れてってくれたらよかったのにー」

「むっ、そんなことを言ったら憧だってずるいよ。勉強してる、とか私に言っておきながら時々京太郎と遊んでたって聞いたよ?」

「そうね……でも、あたしは謝らないわよ。何しろしずの抜け駆けとは頻度が違うもの」

「頻度、とかいったらお隣さんだからって勝手に京太郎の部屋に上がり込んでくんくんしてる憧のほうが酷いと思うけどなー」

「ふきゅっ! どうしてそれが……」

 

 そんなこんなで好きな彼のことで仲良しな二人は牽制をし合うのだった。

 だが、これも一種のコミュニケーション。穏乃も憧も、どっちが選ばれたところで恨まないという気持ちは一緒だった。

 何しろ二人共、互いのことが京太郎への想いに負けないくらいに大好きなのだから。

 

「あはは……」

「ふふふ……」

 

 多分、きっと。そうなのだろう。

 

 

 

 そして、当の京太郎は。

 

「京太郎、ナイスゴール!」

「よっしゃあ!」

 

 金の髪を揺らし、汗に輝かせながらボールを見事に相手ゴールに投げ入れていた。

 大柄なチームメイトにもみくちゃにされながら、彼は至極満足そうに笑み、そして、山登りで培った身体能力を発揮して紅白戦にて活躍を続ける。

 

「流石、京太郎は一年でエース候補なだけはあるな。だが俺も負けないぞ?」

「はっ、高久田にはたっぱ以外じゃ負けねぇよ」

「言ったなっ」

 

 そう、京太郎は人数が少ないために部活数が少なかった中学から大きな男子校に進学したことで出会った、ハンドボールにドハマりしていたのだった。

 まるでスポーツ漫画のような燃える青春を過ごす彼。そこに萌えはなかった。

 

 穏乃と憧の想いが成就する日は、まだまだ遠いのかもしれない。

 

 

 




 本格的な修羅場はヤンデレの方でー。

次のカップリングは誰がいいでしょうか?

  • 京照
  • 京和
  • 京咲
  • 京恭
  • ヤンデレ

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