京太郎くんカップリング短編集   作:茶蕎麦

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 今回は小蒔さんが抜けましたねー。本当に毎度投票どうもありがとうございます!

 霧島神境は世界中の色んな山から入れて戻る時は同じ山に戻る、という原作者様のブログからの情報から考えてこんなお話が出来ましたー。
 何だか咲を沢山読み返してみたところ、筆が乗ってしまったのは良いのか悪いのか……本当なら全てのカップリングで同じ出来にしないといけないのですけれどね!
 難しいですー。


過去に出会ったあの人の面影を追い続けた京小蒔

 

 長野といっても、決して山ばかりではない。街もあれば、野もある。車も通れば、花も咲く。

 だがしかし、そんな人と自然のバランスなんて知らないとでもいうかのように、京太郎の父親の実家の周囲は山だった。

 山の谷の、限界集落。自然、須賀一家は車での通いが恐ろしくなってしまうくらいに、険しい山道を通ることになる。

 まるで軽自動車の車幅そのものを持ってきたかのような狭さの道路には柵すらなかった。いつも、そこを通る際にヒヤヒヤとしていたことを京太郎はよく覚えている。

 

 そして、また京太郎がよく記憶しているのは、今は亡き祖父母の優しさと、その皺々の手のひらのぬくとさだった。

 よく来てくれた、と彼らは言う。それに、好きだから来るのは当たり前だよ、と京太郎は毎回返していた。それは、彼の本心である。

 祖父が肩車をしてくれた後に彼の腰に湿布をする労は嫌いじゃなかったし、祖母が味の薄い料理を作ってくれたお礼にと肩たたきをしてあげることだって好きだった。

 皆揃って、毎年写真を更新していくのは一番の楽しみでもあったのに。

 

 そんなだから、彼らの死に目に会えなかったのは、酷く残念であったのだ。最初は、二人が揃って倒れ誰も気づかれない間に命消えさせてしまったことが、理解できないまま。

 そして、慣れない服を着て沈黙を続けて、やがてお爺ちゃんお祖母ちゃんがあんなに小さく欠片になってしまったのを見て、京太郎は耐えられなかった。

 泣いて泣いて、それからもう泣かないと決意して。だから、両親がお爺ちゃんお祖母ちゃんの遺品を整理する段に至って、京太郎は涙を堪えてその手伝いを申し出たのだった。

 

「よい、しょっと……」

 

 だが、幼さがようやく抜けかかった程度の京太郎に、持てる重荷なんて殆どない。

 集まった親類が軽トラックに荷物を積み上げていくのを見上げながら、主に京太郎は写真や書類などの運搬に精を出した。

 

「ふぅ……」

 

 健在であった若き日の二人を幾度も見つけて、何度瞳が潤んだことか。だがしかし、京太郎はやりきった。

 日が暮れる少し前。駄賃代わりにと渡された炭酸飲料に口を付けながら、京太郎はせかせかと車を出す男衆をなんとはなしに認めていた。

 そして、そんな中。

 

「あ、落ちた……」

 

 そう、荷台から一冊のノートのようなものが落ちたことに京太郎は気づく。

 それが何かは分からない。けれども、お爺ちゃんお祖母ちゃんの遺品であるには違いなく、彼がなるべく大切にしておきたいと思うのは自然だった。

 だから、走ってそれを拾い上げた。そうして顔を上げると。

 

「あ……」

 

 車はもう出ていって、どこにもなかった。うるさいエンジン音はどんどんと遠ざかっていく。

 そして蝉の声響く中、独りぼっち。何となく寂しくなった京太郎は、落ちていた本――どうやら祖父のノート――を開いていた。

 

「なんだ、これ?」

 

 それでそのまま、目が点。専門的な言葉が筆ペンで連なられていたそれを読み取るのは、幼き京太郎には難しいことだった。

 だが、そんな中でもぺらぺらと捲って行くと見知ったような絵図が見当たるようになる。

 それを記憶と照合してから、京太郎は確信を持って言った。

 

「あ、これあの洞窟だ……」

 

 京太郎はそこまでの経路のような図を指でなぞってから、頷く。そう、これはよく覚えていた。

 何しろそれは二年ほど前に見つけて入ろうとして、お爺ちゃんに危ないから入るなとこっぴどく怒られた場所だったから。

 そこで、京太郎には好奇心がむくむくと湧き起こってきた。危ないから入るな、というのはつまりそこに何かがあるからいけないということではないか。

 そして、そこにあるかもしれないものが、もし祖父母に縁のあるものであるならば、是非とも持ち帰りたい。

 そう思った京太郎は、気付いた時にはぬかるんだ道の中を往っていた。

 

「よいしょっ、よいしょ……」

 

 そして、未だ群を抜いていない身長でえっちらほっちら京太郎は進んだ。ノートの内容と記憶を頼りに、ふらふらと。

 やがて、開けた場所にあったのは。

 

「洞窟だ……」

 

 そう、そこにあったのは、小さな洞窟。今の京太郎でやっとのくらいの高さと、狭いくらいの幅の暗がり。

 そこを見て京太郎がまず感じたのは、恐怖だった。何も見えないところがあったとしたら、そこに何かを想像するのは自然なこと。そして知らないが分からないを連想するのも当たり前。

 次第に京太郎は怖気づいてきた。だが。

 

「おじいちゃん、おばあちゃん……」

 

 そう、京太郎には進みたい理由があった。それは遺品があるかもというちっぽけな希望であったが、明かり一つ持ち込めていないのに暗闇を進むための灯火ともなる。

 そうして少年は一歩を踏み出して。

 

「あれ?」

 

 暗闇ではなく光り輝く全体に一転。蝉しぐれも消え去った辺り一帯。疾く、少年は見知らぬ静寂に呑まれていく。

 

「なんだ、これ……」

 

 整った森の中、静謐、神秘を心の底に感じて身震いする彼の目の前に。

 

「あなたは、誰ですか?」

 

 そんな緊張を吹き飛ばすくらいにとても愛らしい、一人のお姫様が現れた。

 

 

 

 

「京ちゃんお願い、その傘の中に入れて!」

「はいはい。かしこまりました、お姫様」

「かたじけないですわ……って、京ちゃんって急にお姫様とか口走る時があるよね。自然に言うからびっくりするけど、どうして?」

「どうしても、こうしてもなぁ……」

 

 やがて年月がしばし経ち、成長した京太郎は一人の少女と多く共にあるようになる。

 その相手、宮永咲は彼が一時()()()()()()を行き来するようになった相手との名残を不思議がった。

 勿論、京太郎には姫などという一般男子が使わないような言葉が勝手に口から出ていく理由に心当たりはある。

 だが、それも今となっては夢物語のような経験で。

 

「まあ……咲になら、話してもいいか」

 

 だからこそ、少年は少女に話してみようかと思ったのだった。

 雨中に二人歩く気恥ずかしさを吹き飛ばすのに丁度いいな、と思いながら彼の口は回る。

 

「俺、実は父方の実家の洞窟から……本の虫のお前なら知ってるかもしれないが、マヨイガとか仙境みたいなところに行ってたことがあるみたいでな……」

「ええっ、ホント? それって凄いことだよね……何か記念に持って帰ったりとかしたの?」

「いや、子供だったからな。俺は行って会えただけで満足してたな」

「へぇー、何だか凄いね!」

 

 すらりと、どちらかといえば、民俗学的な話をしだす京太郎。彼は自分の体験がどんなものに該当するか調べたがゆえの知識だが、そこに迷いなく咲は食いつく。

 それは本で言葉の意味することを知っていたからということもあるが、それ以前にそのきらきらとした瞳を見れば、咲が彼の言葉をまるきり信じているのは明らか。

 何となく嬉しくなった京太郎は、続ける。

 

「まあ、そんなところで小さかった俺は、姫様と会ったんだ」

「お姫様?」

「今思えば格好が巫女のようだったのが不思議だが……まあ、印象としてもお姫様って感じだったな。のんびりとしていて、どこか浮世離れしていて……側に仕えていた似たような巫女服の女の子たちが呼ぶのを真似して、俺は彼女のことを姫様って呼んでたよ」

「へぇ……」

「ただ、そこに行って会えたのは、三度だけだった。三度目の最後に……姫様が泣きながら、この入口が空いたままだと危険だから鎖さないといけないんです、って教えてくれてさ。その後何度も洞窟まで行ってみんだけど、もう駄目だったな」

「……どうなったの?」

「いや、洞窟はでかい石で埋まってた。あれは重機でもなければ取り外せないな。それで、そのままだ」

「うわー……凄い話聞いちゃった……」

 

 そうして、完全に咲が信じ切ったままに、京太郎は自分でも嘘のような過去にあったことを語り終えた。

 何やら嬉しそうにしている彼女を置いて、彼は頬を掻く。あれは本当にあったことだったのか、という疑問に未だに答えが出ないままに。

 そう、京太郎は分からない。姫様が今どこで何をしているのかも、自分の胸に秘めている想いをどうすればいいのかも。

 

「ふぅ……」

 

 疼く想いを誤魔化すかのように、溜息。そして京太郎は間近の咲を見て。彼女の真剣に見返された。

 

「ねえ、京ちゃん」

「……どうした?」

「京ちゃんはその人にもう一度会いたいの?」

 

 そして、咲が放ったその一言に、京太郎は胸動かされることとなる。

 今あの人を重ねて大切にしている子は、昔に想っていたあの人を見透かし、そして。泣きそうになりながら、京太郎の一言を待っている。

 思わず、心が揺れ動く。だがしかし、京太郎は言うのだった。

 

「ああ……会いたいな」

「そっか」

 

 乙女は、そんな言葉に俯く。

 そうして、くるり。咲は背を向けた。そのまま彼女は京太郎に告げる。

 

「ここでいいよ、京ちゃん。その人と、会えると良いね……それじゃ」

 

 そして、背を向けたままに降りしきる雨の中、咲は走り去っていった。雨中に、涙はきっと目立たない。だがしかし。

 

「まだ、遠いだろ、お前の家……」

 

 京太郎は、遠くなっていく小さな背中に、そう零すしかなかった。

 

 

 

「くしゅん!」

「ど、どうしました、姫様ー」

「あら、風邪かしら?」

「……大丈夫?」

 

「いいえ、平気です……きっと、彼が私の噂をしてくれたんですよ!」

 

 

「姫様……」

 

 

 

 そして、運命の糸は絡んで縺れ。

 

「――貴女が、京ちゃんのお姫様?」

「えっと、貴女は……」

 

 二人の手が重なるそれまで。

 

「思い出した……小蒔さん!」

「は、はい!」

 

 後しばらく。

 

 

「俺、小蒔さんのことが大好きです!」

「わ、私も京太郎くんのことが――――」

 

 




 ちょっと長くなってしまい、少し後半予告風に。
 小蒔さんにあまり会話させることが出来ずに、申し訳ありません!

次のカップリングは誰がいいでしょうか?

  • 京照
  • 京和
  • 京咲
  • 京憧穏
  • ヤンデレ

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