咲-Saki-阿知賀編のゲームに出ている京太郎くんに10%の確率で不要牌を引くという特性があると知り、こんなお話に。
気に入って頂けるとこの上なく幸いですー。
それは、少女がまだまだ小さな小さな子供の頃。気配までごく小さな彼女はそのことがあまり理解らないままに友達とかくれんぼをしてみたのだった。
緑多い長野の田舎。ツクツクボウシが鳴き出す頃合いから彼女は一人こそりと潜む遊びを楽しんで、ヒグラシの響きを聞いたと思ったら、直ぐに誰の声も聞こえなくなってしまった。
夜更けに至って、彼女は思う。これはまさか自分が忘れられてしまったのではないか、と。だんだんと辺りが闇で違いも分からなくなってしまった今。少女は恐怖に震えた。
自分が境も見えない暗がりの中にあるのは怖い。けれども、とも彼女は思うのだった。もし未だにゲームは続いていてその途中なのであれば、止めてしまったら皆に怒られてしまうのではないか。
だから、少女は待った。信じたくて。誰も切り捨てたくなくて。自分の持つオカルト的な能力である陰の気質『ステルス』によって人に気にされなくなってしまっていることを知らずに、震えながら。
「う、うぅ誰か見つけて……っす」
俯く少女の顔に、涙が一筋流れる。
本当ならば、そのまま少女を見つけるものなど現れようもない。地蔵の裏に隠れたまま、彼女は眠りこけて翌日を迎え、そのことで親にまで忘れられたことを知って絶望するはずだった。
だがしかし、この場には誰よりも諦めが悪い彼が居た。ゲームが得意ではなくハズレを引きがちな人生なのに、明るく挫けないそんな少年は。
「モモちゃん、見っけ」
「え?」
そんな勝利宣言をしてから、日がとっぷりと暮れるまで藪をあさって傷だらけになった手を少女に向けるのだった。
須賀京太郎と東横桃子は幼馴染である。
広い長野県。同県の生まれとはいえ、血縁もない他人同士がそう簡単に出会うということはない。
ただ、縁はどこに転がっているか分からないところがある。
北部の親戚の家に遊びに行っていた京太郎が、持ち前のコミュ力で知らない子供たちの輪に入り、そうして一人ぼっちの少女を見つけたことだって、ただの偶然ではないのかもしれなかった。
「ふいー、暑いっす。もっとクーラーの温度下げないっすか?」
「親に28度から変えるなって言われてるんだよ。変なところでケチなんだよなあ」
「それって、はやりんの年齢と同じじゃないっすか! 私の年とまでは言わなくても、もっと下げた方がいいっすよー」
「こらっ、はやりんは永遠の十六歳だろ」
「わあ。京さんのはやりんファン振りが久しぶりに出たっすー」
そして、そんな運命的な可能性もある縁を未だに続けている男女は、一方の家にて寛いでいる。
ベッドの上でうつぶせで本を読みながら、パタパタとスカートを纏った足を動かしているのは桃子。足の動きに合わせてひらひらと危なげに動くスカートに、しかし椅子に寄りかかって彼女と対面している京太郎は目も向けない。
もちろん、それは京太郎が硬派であるからということでは決してなかった。彼にはスカートの中よりももっと、夢中になる部分があるからだ。
視線を熱く受けている桃子は、いいかげんそれがうざったくなって言う。
「それにしても、京さん。私の胸を見すぎっすよ。なんなんすか? そんなに潰れあんまんが好きなんすか?」
「いや。おもちはどうなろうが最高だ」
「やれやれっす。私の幼馴染はとんだエロ野郎っすよ……」
大げさに悲しみを表して、桃子は嘆く。そう、京太郎は胸派。ぐにょんと潰れた彼女の大物なんて、彼にはたまらないものだった。
そんな呆れたエロさを受けて、しかし桃子は特に胸を隠そうともしない。むしろどこか挑発げに今度はごろりと仰向けになった。
ダイナミックな胸の動きに目を行かせる京太郎に内心優越感を覚えながら、桃子は続けて話を切り出す。
「そういえばお互い麻雀部に入ってるっすけど、京くんは、そんなに麻雀得意じゃないっすよね」
「まあなあ……モモと比べたら全然だ。これでも牌効率は勉強してるんだけれどな……」
そう、京太郎と桃子は清澄高校と鶴賀学園とに別れてしまったが、けれども同じく麻雀部に入っている。
とはいえ、同じ時期に始めたとはいえ二人の力量差は酷いもの。いや、京太郎も素人の域はとうに脱せてはいるので無駄な振り込みこそ少ないが、しかし。
「なんだか京くんって、牌効率以前にそもそも不用牌引く確率がちょっと高めな気がするんすよね。統計とってないから、定かではないっすけど」
そう、どうしてだか京太郎は引きが悪かった。運が悪いと一言で言い切ってしまってもよさそうなそれ。
だが何となく桃子はそこにオカルトの気配を感じ取っていた。
そして、やはり当の本人は更にそれを強く感じられるのか、綺麗な金髪を掻いて、京太郎は言う。
「……やっぱりモモもそんな気がするか。いや、七対子はやたらと決まるんだが、いざ三枚揃えようとするとなんか難しくなるような気がするんだよなぁ」
「不用牌を引くオカルトっすか。要らないっすねー」
「モモのステルスも大概だがな」
そして、京太郎は自分のゲームに負け易い特性と引き合いに、桃子の誰にも気づかれないステルスのような特性を出す。
桃子のことを諦める気が更々ない京太郎には見つけて貰えるとはいえ、制御できないそれは未だに桃子の急所だ。
うぐぅ、と唸ってから、桃子は唇を尖らせて言う。
「そりゃ、こんな気配が薄くなるどころかマイナスになってしまう力なんて、私も欲しくなかったっすよ」
「俺からすりゃ、それ覗き放題のすげぇ特技にしか思えないけれどな」
「私の悩みの種をそんな軽々と、それも変態方面に扱うなっす! このエロ京くん!」
「いてっ」
そして、冗談めかした京太郎のふざけた言葉に、桃子は眦を上げた。そして、彼女が投じた手の中の本はくるくると回りながら彼の額にヒットする。
大して威力のないそれを避けずに受けた京太郎は、今度は何か変なスイッチが押されたかのように一転して表情を変える。
そのまま、京太郎は真剣に桃子に言った。
「まあ……確かに茶化した俺も悪かった。たださ、それくらいに軽く考えて欲しいなとも思うぞ?」
「そう……っすか?」
「ああ、だってステルスとか知ったこっちゃない俺が居るってこと忘れんなよ? 何かあったら俺を頼りゃいいんだ。安心しろって」
安心。それを表すかのように京太郎は柔和に笑んだ。
それに、桃子は心臓を
そう、悪口などで必死に隠してはいるが桃子は実のところ恋する相手と一緒に居るのにずっとときめいていた。
何しろまず京太郎は見目が格好いい。そしてエロくはあるが、実直だ。また、一年前までハンドボールに励んでいた彼は、中々にたくましい。その胸元の盛り上がりのセクシーさといったら、桃子にとってはたまらないものだった。
それに何より。桃子にとって京太郎は唯一無二の自分を必死になって求めてくれる人だった。ゲームで要らないものばかり得てしまう彼は、逆に現実で大切なものを絶対に手放そうとしないのである。
だからステルス状態だろうが京太郎は縁を頼りに桃子を問答無用で探し当てるのだ。更に、それはつまり壊れるまで頑張ったハンドボールと同じく、桃子は彼の大切なものの一つということ。
桃子はつい頬を紅くしながら、呟いた。
「……全く、こんな思いするなら捨てたかったっすけど、でも今更捨てられないっす……」
「ん? モモそれってどんな意味だ?」
「内緒っす!」
そうして、少女は真っ赤な顔を隠すために京太郎のベッドに顔をぼふん。そうして彼の匂いをいっぱいに嗅いでしまったことで燃え上げるものを覚えながら、その恋を必死に隠そうとする。
感情に任せとんでもなく桃子は足をバタバタ、すると当然のように京太郎にはピンクの布地が見えた。それを知らずに、彼女はさらに足を動かして唸る。
「うー……!」
「はは……」
だがまあ、いくら隠形が得意な彼女といえども、端から意識しきっている彼に隠しきれることなんて中々ない。
好きだけれど、その想いが拒絶されるのが怖いから隠したい。そんなおおよその内情を察した京太郎は乙女の愛に苦笑して。
「別に俺はモモが好きだってこと、最初から隠してないんだけれどな……まあ、実際口にしていないのは意地が悪いか」
まあ、可愛いからもうちょっと焦らしてみるかと、京太郎は存外想いがバレバレなステルスの彼女の痴態を見つめるのだった。
あの日繋がった二人の手は未だに繋がっていて。きっとそれは、これからもずっと。
次のカップリングは誰がいいでしょうか?
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京照
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京和
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京咲
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京小蒔
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ヤンデレ