今回、最初僅差だったこともあり少し様子を見て、差が開いたようなので今書いてみましたー。
はい、哩さんと姫子さんのお話ですね。不慣れな方言が怖かったのですが、変換器と原作を見ながら書いてみました!
……大変に不安ですー。
好きと好きで、力になった。彼女たちは二人で一つの怪物である。
なら、好きと好きと好きだったら、それは更なる力になり得るのだろうか。
彼女を取り巻くじゃらり、という自縛の音。この胸の締め付けこそ、実感だとしたら。
「よかね」
好きが愛に変わる日は、近い。
白水哩は、麻雀強者である。そして、それ以上に花も恥じらう乙女であって、今現在は悩める少女でもあった。
櫛はただ隙間を通うだけ。癖のかけらもない黒い長髪を指先で遊ばせながら、物憂げに哩は空の天板を見上げている。
彼女が悩んでいるのは一つ。大好きな後輩のことである。
目に入れても痛くない、むしろ心地いいかも知れないだろう、少女、鶴田姫子。彼女のことを考えるのは少女にとって快く、しかしちょっと刺激的だ。それに耽ってしまうのも仕方ないと思うくらいには。
だが勿論、哩には新道寺女子麻雀部の部長として考えるべきことだって沢山あった。今三年生で、次大会に向けての作戦変更にそのためのオーダーなど悩みは尽きない。
しかし、そんな心血注いでいる麻雀においても姫子という存在は大きかったのだ。文字通りのキーパーソン。姫子へのバトンの繋げ方を日々考えるのは当たり前。
そして、彼女とは日常生活でもおはようからおやすみまで関係しているのだった。それは寮の相部屋であるだけではない。いつも通り風呂を一緒にして、その後当たり前のように一緒のベッドの寝入っている姫子を見て、先程ふと哩も気づいた。
あれ、これちょっとヤバくないかと。
「こん程姫子との距離ば分からんくなっとったとは……」
思わず、哩は頭を抱える。
つい先日我に返った哩は周囲に聞いた。女子校生だし、別に私達くらいのスキンシップは普通だよね、というようなことを同い年の友達に言ってみる返ってきたのはぶんぶん音鳴らんばかりの勢いの否定の首振り。
ペアが普通なあんたたちは異常。そうまで言われて、何も思わない哩ではなかった。
「……こんままじゃいけんな」
別に哩は、同性愛を否定なんてしない。それに、姫子は可愛らしいしいい子だし、相方にするにはもってこいだという思いもある。
だが、お互いのことしか知らない見えないそれを愛と呼ぶのは稚すぎるのではないかという考えだって、哩にはあった。
一度周囲を見回して、そうしてから判断するのでも構わないだろう。
「間違ごうて、ばってんよか」
姫子との強い縁は能力――リザベーションという麻雀でのリンク――を思うに間違いなくある。だがそれで、縁の全てではないとは思う。
まあ、本当に己に繋がる縁が一つだけでこんな考えが的外れだったとしても、それでも一度環境を整理するのは良い経験になるに違いない。
とはいえ、何故か――普通にもうデキてると思っていた――姫子は、もう少しお互い距離を取ったほうがいいとの言葉に愕然としていたが、実のところ言った哩の内心にも強い動揺があった。
そう、考えてみれば姫子以外に誰と仲良くすればいいか、不明で不安で。
「……どうすっぎよか?」
伊達に部長をやっていない哩は、部の中で仲の良いものは多い。けれども、どうにも皆とは一線が引かれているような気がした。
彼女は麻雀という競技で県の代表になれるほどの才媛でまた鋭さのある美人さんである。そんな子が女子校でモテないわけがない。
とはいえ、明らかな意中の相手が既に居るのならば、別だ。姫子との尊い仲を見た多くが哩は高嶺の花だと仲良くするのを諦めたのだった。
どこもかしこもそんな中で、新たな良縁を得るのは難しいと思える。
さてどうしようか。迷いに迷った視線は二人の室内をさまよい、彼女は短針がてっぺんを過ぎた目覚まし時計を見つける。
「まあ……ひとまずはお昼ばい」
そして哩は、今友達見せてくれたら安心するという自分の言に発奮しているだろう後輩のことも悩みも、すべて投げ捨てるのだった。
お腹すいた、と。
「出かくっか」
言ったが早いか、この方とんと料理を相方任せにしていた哩は自炊の選択を忘れ、外食に出かけだす。
その際に好きだったはずのパスタを久しぶりに食べてみたところあんまり美味しくないと感じた哩は、実のところすっかり姫子に胃袋を掴まれているのだった。
「こげんヘアピン姫子にしか似合わんやろ……引っ張られとうな」
お腹を満たしたら、次は周囲の喧騒に引かれてショッピングに精を出す。
そんなありがちコースに乗っかり、ショップでやけにカラフルな色をしたヘアピンを買ってしまってから哩はそんなことを呟いた。
自分に似合う似合わないではなく、必要そうだから手を伸ばしてみる。それが誰かのためとは。自分の行動があまりに一途であることに彼女も苦笑い。
まあ、満腹だし曲がりなりにも良いものを買えたし、お金は減ってしまったけれども大方でかけて満足できたなと、そう思う。
「よか」
なら、後は帰るだけ。
明かりが眩く灯りはじめた周囲。目を引く良さそうな商品はそこかしこにあるようだった。
だがさほど裕福な家の出という訳でもない哩が一度財布の紐を締めてしまえば、そう簡単に開くことはない。
まあ、気持ちばかりはウィンドウショッピングのつもりでゆっくりと帰宅の歩を彼女が進めていくと。
「参った……」
何やら先の道路の端で煌めく青年が難儀している様子を認めた。何やら彼はメモらしき紙片を持ってあたりを見回している。
その近くまで来て、その長駆に乗っかった綺麗な金髪が輝いていたのが煌めきの原因だということは哩にも分かった。
そして、彼が見てくれのいい顔立ちをしていることも理解できる。
とはいえ別段、そこには惹かれはしない。むしろ、見目に多少の軽さを感じた哩は、関わりたくなく思った。
しかし、縁とは不思議なもので、彼は彼女を見つける。青年――須賀京太郎の――鳶色の瞳に、通りがかりの白水哩という美形年上少女はとても綺麗に映った。
それこそ助けの手にはふさわしいだろうと、彼はすがってみるのだ。
「あの、そこの方、すみません」
「私か?」
「ええ。申し訳ないのですが、帰り道がわからなくなってしまいまして……ちょっと助けていただけませんか?」
「……携帯はどがんした?」
「お恥ずかしながら朝充電したつもりだったのですがコンセント抜けてたみたいで……持ってきたはいいのですが、バッテリー切れでほら、画面も真っ黒で」
「そりゃあ大変ばい」
それとなく身を固くしていた哩は、だが頭を下げながら語る京太郎の真剣な言葉に、次第に彼の人畜無害さを感じて肩を下ろすようになる。
関東弁で喋っていることから、ここら辺の人ではないことは明らかだし、確かにその上で案内を失えば迷うことだってあるだろう。彼の手元にある道案内のメモはなんかごちゃごちゃしていて見て取りにくそうだし。
だがしかし、完全には安心できず、反応を見るためにも、哩は問った。
「ばってん……ナンパじゃなかよね?」
「いや、正直余裕があれば、貴女ほどの美人にはお近づきになりたいところですけれど……今はそれどころじゃなく」
「なら、よか。教えちゃる」
変に慌てず、彼がそれでいて正直に答えただろうことは人を見る目に自信がある哩には察せた。
美人と言われるのは面映くもあったが、それはそれとして人助けするのは別に嫌ではない。云と、そうは返せた。
そして一歩、歩み寄ってくれた彼女に京太郎は。
「ありがとうございます!」
満面の笑みでそう返すのだった。
「須賀君は、そいでこっちに来たんか」
「はい……最初は父親の実家といっても生まれてから数度しか来てなかったので、急に引っ越しと言われた時は正直慌てました」
「ばってん確り付いてくなんて、親との仲がよか」
「はは……正直行く行かないで結構喧嘩したんですけどね……でも、福岡もなんだかんだ住めば都でした。良いところですね」
「やろ?」
互いの帰り道が大分被っていることに気づいて共になった寮への道すがら、哩は京太郎とそれなり以上に会話を広げていく。
彼女は佐賀から一人福岡にやってきた身だ。県をまたいでの引っ越しの面倒の話あたりなんてどうしたってシンパシーを覚えてしまう。
そして、そうでなくてもこの男子との話中に人と距離を取る巧さも感じ取れ、面白く思える。
きっと天然で人に好かれやすい性質なのだろう。表情豊かに、情報の出し方を調整し確りと傾聴する。そんなこと知らずに行えているようだ。
最初の印象と違って実に真面目で、これはなるほど良いやつだった。先はあんなことを言っていたが、ちっとも、自分の胸元などをいやらしく見てくることもないことだし。
安心した哩は会話に次第に本音を混ぜていく。
「そいぎ、須賀君はもうこっちで友達とか出来たんか?」
「まあ、ぼちぼち、ですけれど……流石にまだ少ないので今日とかは誰も捕まらなくてぼっちで出かけたところ、こうなりました」
「そうか。ばってん友達いるんやなあ……」
「ええ。そんな白水さんは、しっかりしてらっしゃいますし、慕う方も友達も沢山いらっしゃるんじゃないですか?」
「そうでもなかと……」
「えっ?」
哩がぽつりとこぼしたその内容に、京太郎は心の底から驚きを覚える。
おもちは控えめであれども、こんな綺麗どころで優しい人が好意に包まれていないなんて彼には不思議でならない。
心配しながら理由を考えて悩んでいるそんな全部を面に出すなんて器用なことをしている京太郎に、哩は微笑みながら、言う。
「特に仲良うしとる子はいるばってん、それ以外はどうにも疎遠なんや」
「なるほど……いや、皆近くにその人がいるからって遠慮してるんですかね? 白水さんと仲良くしないなんて勿体ないのに」
「ふふ。そりゃ、嬉しか言葉やね」
本気も本気。真剣に、京太郎は言っている。そのことが分かるのが嬉しくって、哩は笑みを深める。
誰もかもが幸せになって欲しいなんて、そんなこと京太郎も聖人君子ではないから思えない。
けれども、自分を助けてくれた上に明らかにいい人が、物足りなさや寂しさを覚えているのは、悔しく思えた。
「俺でも親しくなれたらいいんですけれど……」
「ふふ。それも悪くなかね」
精一杯慰めたい。そんな年下の青年に垣間見えた、子供っぽい青臭さ。それに思わず哩は云と言った。
こういうのは、嫌いではない。好きかといえば、今までそうとは知らなかったけれど、きっとそうなのだろう。
胸元に温かさを覚えた哩は、続ける。
「――友達になって、よかよ?」
そう、それは初対面の人間相手に告げることではない。
けれども、これまでの僅かな時間で、大分心が見えた。それを良いと認めて、哩も繋がりたいと思えたのだ。
開いた手を伸ばし、哩はいい子である京太郎へ手を伸ばした。
「はい! よろしくおねがいします!」
彼は笑顔で彼女の手を取り、握手。
こうしてじゃらり、と二人の縁は繋がれた。
そんなこんながあって京太郎と連絡先を交わし、しばらく。
身内以外の異性とここまで親しくしたのって実は初めてでは、と思えるくらいにアプリや通話やらで友達らしく近況を語り会うようになった哩。
しかし、面倒なことになりそうだからと、彼女は姫子に京太郎のことを語ってはいなかった。
「むぅ……部長……」
だが、ルームメイト相手に、隠し事なんてそうそう出来ない。
姫子は自分以外の人間に、時間を多分に使っている親しい人の姿――部長の知り合いだからきっといい人だろうけれど――に眉をひそめるのだった。
これはまるで浮気だ、と姫子は思う。思うが、しかし関係性をはっきりさせてこなかった自分も悪いと彼女も考える。
そして更に、これが哩の思いやりの一つであるかもしれないとの勘ぐりもあるからこそ、厄介だった。友達をろくに連れてこない自分を心配して突き放し、部長はあえて背中を見せてくれているのではないか、と。
そう、誰か友達を連れてこないと安心できない、そう哩に言われてから健気に姫子も奔走――声掛けられるの待ち――してはいるが、しかし結果は芳しいものではなかった。
鶴姫とシローズのべったり関係は知れ渡っており、その仲を邪魔するのはどうかというのが大多数で、そうでもない知り合いは麻雀部にいくらかばかり。
そして、麻雀部の仲間を友達だと連れてきても、当たり前じゃないかと言われてしまうのだった。
流石にこの歳になって友達欲しいと公言できるほどプライドを捨てては居ないために、さしもの部長ラブの姫子も、自分の瞳に一人を容れすぎたことを反省するのである。
「もうやるしか、なか……!」
しかし、反省したとは言えども、一様に人は変わらない。今更、新しいなにかなんて探せないと思い込んでいる姫子は、既存の知り合いから使えそうな人間を探す。
そして。
「部長! こいつが私の友達です!」
改めてカフェで待ち合わせた上で
「京太郎?」
「えっと……姫子の敬愛する人って……哩さん?」
「え」
そう。親類で一番に仲良かった、最近こっちに来て会ってより親しくなった気でいる歳近の京太郎を。
だが反応にまさかの二人が知り合いという事実を理解した姫子は、開いた口が塞がらなかった。
そして、勿論事情や思惑なんて知らず、ただ哩は姫子が彼の手を取るその近さばかりを気にして。
「こんは、どがんことや?」
その柳眉を逆立てる。
「あう……」
これはヤバい、と姫子はうなだれるのだった。
「京太郎! なにしよおと!」
「うわ、姫子。いや、別に俺が哩さんと出かけたところで……うわっ!」
「そがんとダメにきまっとうけんね! 私の部長を返しんさい!」
「くっつくなっての……重い……」
「重かって、そりゃどがんことばい!」
繋がった、好きと好き。さて、私は果たしてどちらに嫉妬しているのだろう。
強く握られた手のひらに、鉄の匂い。じゃらり、と鎖の音が鳴る。
そして締め付けられるような、痛み。
「よかね」
自然釣り上がる、口の端。
ああ、私はちゃんと――――二人を愛している。
次のカップリングは誰がいいでしょうか?
-
京智葉
-
京華菜
-
京やえ
-
京煌
-
ツンデレ