春さんのダントツ人気ぶりに、自分の浅はかさを思い知りながら、なんとかひとつ書いてみました。
……中々難しかったです!
今回霧島神境は世界中の色んな山から入れて戻る時は同じ山に戻る、という情報を拡大解釈してなら神境から他の山にも行けてもいいだろうとしました。
そして更に、六女仙さんは神仙の類だという原作者様ブログからの情報を用いていますー。
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滝見春は自分のことを普通だと思っていた。
黙して語らずを地で行く春は、よくミステリアスだの、流石は鬼界の仙女と呼ばれたりするのだが、そんなのはその他大勢の勘違いだ。
むっすり黙っていると皆は勝手に勘ぐり出すけれども、その大体は思考を空白にしているだけ。別段沈黙に深い意味などない。
まあ、その存在が中々に神に近い彼女の行動が浮世離れしてしまうのは仕方がないだろうが、それでも春は自分をただの女の子だと自認していたのだ。
「あむ……」
「……何だこの子」
とはいえ、自認と評価が一致しないのは世の常。
黒糖をぼりぼりかじりつつ藪から出てきた巫女装束の女子を見た京太郎少年は、その子――春――を大変おかしな奴だと認識した。
これはひょっとして、狐か何かが自分を化かしているのだろうか。そんなことすら少年は考えてしまう。
なにせ、彼のお爺さんが管理している神社の境内の裏で雑な笹の葉細工を組むなどして遊んでいたら、そこに美しい巫女さんが現れたのだ。
その巫女さんがちみっこくて、黒糖とでかでか書かれたパッケージから中身をぼりぼり食んでさえいなければ、京太郎もきっと現実感を失い、少女を天女か何かだと勘違いしただろう。
「……食べる?」
「いや。俺は要らない」
「……そう」
しかし、実際のところ彼女は神仙に近くあれども人の子である。
京太郎も、そんなにじっと見つめて食べたいのかと、向けられたその小さな手が砂糖粒で汚れているのを見て、ああこれは人をたぶらかすような何かじゃないな、と理解する。
むしろ少年は、好物を要らないとされて、少し拗ねた様子の少女に親近感を覚えた。思ったより、普通だな、と。
そうしてここでようやく京太郎も春を真っ直ぐ見ることが出来た。
少女は綺麗である。纏め上げた髪はなんとも艷やかで目を引くし、白磁の頬の紅はむしろ桜色に近くて春めいて愛らしい。そして何より、彼女の静かな瞳がどうにも心地よく昏い。
ああ、この子は大きくなったら、きっとめちゃくちゃモテるだろうなと彼も総じて評せた。
「あー……俺、京太郎。君、ひょっとして迷子なのか?」
「うん……」
「そっか。どうしようかなあ。爺ちゃん買い物行っちゃったし……」
しかし、そんな未来のことなんて、少年にはどうでもいい。ただ、目の前の幼気な子が一人ぼっちだったのが問題だ。
ここら辺で見たことない子が、ふらふらと。案の定迷子だと聞いた京太郎はお兄さんぶって背伸びして――実際のところ春と京太郎は同い年である――なんとかしてやんないと、と強く思う。
そんな心を知らず、ぼやっと――彼女なりに不安を隠しながら――春は少年のどうしようかなを見つめる。
確かに、春は迷子だ。鹿児島から長野という神隠しにあったのではと思えてしまうくらいの長距離ではあるが、それは間違いない。
そんなことよく分からずとも、どうにかしてあげたいと京太郎は春に問う。
「どうしてこうなったか、覚えてるか?」
「かくれんぼ……」
「遊んでて、ここまで来たのか……怪我とかしてないか?」
「うん……」
少女が言葉足らずに語っているのは、全部本当のこと。
そう、春が大好きな姫様――神の家とすら比べられる人並み外れた少女――とのかくれんぼにて、行き過ぎて境をすら越えて神境と繋がる山々にまで抜けてしまったというのが、今回の顛末。
口酸っぱく言われた、ここでは外に向かいすぎるな、という文句を完全に無視した結果がこの海を越えたワープである。
何時ものように、特に何も考えずにしていたところ、これだった。更いえば黙っているから禁忌くらいは理解しているのだろうという、父母の娘贔屓が生んだ事態でもある。
「ごめんなさい……」
春はここに来てようやく自省が出来たのか弱々しく、謝った。
よくわからないところに出たので勇気を出すために黒糖を食みながら道なき藪を進み、そして出会った男の子。
きっと自分とそう変わらないだろう少年が、自分を慮ってくれること、それが嬉しくも申し訳ない。
「私が、普通じゃないから……」
滝見春は自分のことを普通だと思っていた。
けれども、身体は血の一滴までも図抜けて整っていて、神に似通っている。ならば、起こしてしまうのも奇跡そっくり。
何時もそれで喜ばれるのはいいけれども、今は見知らぬ子に迷惑をかけてしまっている。
ああ、やっぱり自分は普通であるべきなのだ、と少女は悲しみ目を伏せた。
「ん? それって謝ることじゃないだろ?」
「え?」
しかし、やっぱり何かがおかしいんだろうなこのこの子と理解しながらも少年はわざと元気そうにして、少女の弱音を跳ね除ける。
笑顔満開、きらきら太陽のように、彼は言った。
「俺は、そんな君に会えて嬉しいよ」
「あ……」
奇縁。おかしな運命も、しかし喜びに束ねられてしまってはかたなしだ。
迷いも奇跡も余計で、これはただのボーイミーツガール。そう京太郎は言外に語る。
そして、その上でたとえおかしかろうと出会えて良かったのだと、決めつけた。
「ふふ」
そんな少年の強引に惹かれた少女は頬の桜を満開にして、頑なだった口元を歪めて微笑む。
「春」
「ん?」
きっと、霧島神境では幼い自分の行方不明を案じて大わらわに違いない。
本当は、一秒でも早く元に戻るために行動するのが、賢いのだろう。
それでも。
「私の名前」
初めての異境の友達――少女はそうなれると信じている――を大切にするのだって、きっと普通のことだから。
「……可愛いでしょ?」
自己紹介とともに一つ上手に舞ってみせ――ひどく甘い匂いが漂った――少年の前で少女は格好つけるのだった。
そんな過去があって、色々な事態が通り過ぎた後。
清澄高校麻雀部の部室にて、麻雀に耽る少年少女たちの中に、二人の姿があった。
頭必死に悩ませ、ようやく大方揃ったことを理解した京太郎は、やったと牌を曲げようとする。恐る恐る、彼は宣言した。
「よし。通ればリーチ……」
「通らない……ロン」
「ぐわっ、当たったの春の方か。コレ切るのバレバレだったか……えっと、すまん。幾らだ?」
「京は字牌を大事にする……8000点」
「まあ、京太郎は何故か対子までなら手早く進められるからのぉ。それに初心者じゃ。鳴きと役を意識して字牌を大事にしてしまうのも仕方ないじゃろう」
「ふふ。須賀君ったら鳴き麻雀を卒業したばかりだものねぇ。それにしても、ちょっとだけ判断遅めかもしれないけれど」
「あー……俺の癖とか、とっくに皆にバレてるんですね。ほい春、8000」
「確かに……」
自風牌を狙われた上にダメを指摘されて項垂れる京太郎に、千点棒を沢山受け取ってほくほくとした様子の春。
卓を囲む竹井久に、染谷まこの先輩二人はそんな二人を面白そうに認める。
「それにしても、二人は仲がいいのぉ……」
「ホントよね。幼馴染と聞いたけど、それって須賀君と春が幾つくらいからのこと?」
「えっと……」
年頃の女子は、どうしても後輩の関係の進捗が気にかかった。
なにせ、今はタコスの買い出しにでかけて居ない、早々に入部してきた一年女子二人と違って、京太郎と春は色恋沙汰が噂されている男女。
そうでなくても、清澄高校に鹿児島から自転車で通学しているのだと自称している万年巫女装束な少女、春の過去が気にはなる。
そして、それを気にしているのはこの場に二人だけでなかった。
「私も、聞きたいな」
「咲?」
勉強のためと久の後ろ――京太郎の対面――に椅子を置いていた宮永咲も、追随する。
愛らしく少しだけ口を尖らせ、彼女は言った。
「……どうして?」
「だって、何時も京ちゃんと春ちゃん、私そっちのけで仲良くしてるんだもん。そのきっかけとか、知りたくなるよ。私だって二人の幼馴染なのに……」
「あー……すまん、咲。俺ら、お前のことないがしろにしてたか?」
「ううん……でも、ちょっと私に京ちゃんたち余所余所しい」
「そうか……」
少女の拗ねに、少年は申し訳なく思う。
何しろ、春とは京太郎に神様関連のごたごたが起きる前、それこそ小学生の時分から仲良くしていた幼馴染。
中学になってから急速に仲を深めた咲とは流石に年季が違う。優先順位を知らずにつけていたとしても不思議ではなかった。
更に、神様や鹿児島からのワープ通学関連のようなトンデモ話を咲のような一般人(?)には教えられないというのもある。
しかしこれはひょっとして寂しい思いをさせてしまっていたか、と大切な友達の方へと京太郎は向き直った。
「きっかけとか……関係ない」
「春?」
「春ちゃん?」
だがそんな青年の真剣が親友とはいえ、他の女子の元へと向かうのを嫌った春は口を開いて。
「私には京が必要……」
彼お手製の黒糖プリンですっかり餌付けされてしまった少女はそんな爆弾を落とすのだった。
「ほぉ。そりゃあつまり……」
「うわぁー、これは青春ねー」
「むぅ……」
そして、そんな言葉足らずに場が湧くのは当たり前。
なんだかむず痒そうな年上二人に、すっかり膨れてしまった咲。
「なんで春、お前はこんなに勘違いされるようなことを言うんだ……」
ため息飲み込んで、これはどう収拾つけようと悩む京太郎に、少女は指先を蕾の唇にくっつけて。
「全部……本当のこと」
春は神秘など程遠い普通一般当たり前の中、何より綺麗な花開かせて笑った。
そう、貴方こそ勘違い。
いくら大切でも好きとはなかなか言えない、青
私にそんな普通をくれた貴方を、私は決して離さない。いや、むしろ。
「……私を離さないで」
そう、彼女は彼の手をそっと、握るのだった。
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