京太郎くんカップリング短編集   作:茶蕎麦

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 アンケートしたのに、大変遅くなって、誠に申し訳ございません!
 オリ小説をゲームにしてましたー!
 それに加えて、阿知賀編の見直しが足りず、キャラを最初うまく掴めなかったがため、ということもありますー。

 そのため、阿知賀編の復習をしてから宥さんのお話に挑みました!
 少しでも楽しんでくださったら、嬉しいですー。

 そしてまた、アンケートも用意しましたので、投票よろしくおねがいしますね!


あったかくなり過ぎてくらりとしてしまった京宥

 この世がずっと小春日和であればいいと思う人はそれなりにいるかもしれない。

 ほどほどに涼しく、温い。一般であるならば、そこに心地の良さを感じるものだった。

 それを考えると、気温が夏の盛りで固定されてほしいと願い続けている子供はそうは居ないのだろう。

 それくらい、松実宥という少女も分かってはいた。しかし度が過ぎるほどの熱への焦がれは、不足に震える身体は、変わってはくれない。

 

「あったかい……」

 

 だからこそ、小学生宥は家で家族とばかり触れ合う、それこそこたつむりなスタイルを好んだ。

 奈良の地元ではそれなり以上に名の知れた旅館、松実館。その中の真夏にヒーターとこたつが完備された謎の一室にて至福に幼くも端正な顔が緩んでいた。

 

「ふふ」

 

 炎天下。屋根があるとはいえども、加熱され過ぎてもはや意地か何か色々なものが試されそうな温度の中、ぬくぬくと少女はゆっくりしている。

 40度は下らなくなった室内の中、分厚い毛布が重なった掘りごたつに潜った上で、長袖だけでは足りないとマフラーを首に一周。

 普通ならば、汗に熱にやられてしまいそうな、そんな環境。しかし、果たしてここで催されているのは一人我慢大会、というわけでもないのだった。

 

「今日は丁度いいねぇ……」

 

 こんなのただの、何時も。サウナですらマシに思える環境下こそ、宥にとっての最適だったのだ。

 

「ふぁあ……眠いなぁ」

 

 気持ちの良さにあくびを一つしてしまう、宥。眠気が少女を襲うが、それはもちろん熱波による熱中症の果ての永眠への誘いということではない。

 適温に、緊張のなさによるただの弛緩。なんと、こんな高温下において彼女は汗一つかいていないのだった。

 そんな異常なびっくり人間ぶりが、松実宥という少女は寒がりだから、という一言で片付けられてしまうのが、恐ろしい。

 

「うぅん……」

 

 家の中だと多くの時間をヒーターにこたつで環境を整えたこの一室か、はたまたボイラー室でよく過ごしている宥。安心出来るこたつむりスタイルにて、彼女もうとうと。

 どこか薄い色をした茶の髪を身動ぎにてはらり。このまま仰向けに寝入るにしてはどうも、少女にしては大きな胸元が邪魔のようだった。なんとなく、すわりが悪い。

 サイズ感が妹とおそろいなのはいいけれど、性徴を邪魔なだけだと思っている宥はこんな時、年下の少女たちを羨ましく思うのだった。そして、小さい子といえばそういえば。

 

「玄ちゃんの友達、とか思い出しちゃうな」

 

 遠く見るばかりの子どもたちの元気を思い出していると、次第に宥は眠気を忘れていく。こもりんな自分と違って活発な妹のことを想う。

 そして身を起こして、彼女はつぶやく。

 

「麻雀クラブ、かぁ」

 

 宥のもともと小さくなりがちな声はたよりなく、独り言ちただけの今なんてそれこそ蚊の鳴くようで響かなかった。

 しかし、誰にも自分の耳にも届かぬほとんど無意味だっただけにむしろ寂しさは募る。

 まるで無力を吐露したかのような心地に、気も落ちた。

 

「いい、なぁ」

 

 宥は言ってからはっとする。それは誰にも口にしなかった、本音の転がり。

 そう、宥は、こども麻雀クラブにいたく興味を持っていた。それは、自分の妹である玄が通っているという、そればかりではない。

 何しろ、そもそも少女にとって麻雀というものは。

 

「お母さん……」

 

 亡き母親が残してくれた、とてもあったかいものの内の一つだったのだから。

 引っ込み思案な自分。それでも人と繋がれる方法の一つ。それを教えてくれたのが母親であるのは、彼女にとってとても大きいことだった。

 

「うん……」

 

 宥は過ぎるくらいの白さの手で何もないを握って、閉じた。今は掌には何も感じられない。けれど、それで良いわけがない、とは思う。

 だから、少女は決意する。

 

「私も玄ちゃんみたいに、頑張りたい、なぁ……」

 

 寒さを恐れる少女の胸中は、しかし胸いっぱい。

 また知らない子に近づいたらいたずらに剥かれてしまうかもしれないけれど、それでも、と。

 意地悪に立ち向かう、或いは克己する。そのための意気を誰知らず宥がこたつの中にて持ち始めたその時。

 

「ここが居間だよな……って、熱っ!」

「……わっ」

 

 がらりと金髪の少年が現れ室内のあまりの暑さに驚いて、その大声に思わず勇気へたれた宥はこたつの中にさっと潜り込んでしまったのだった。

 

 

 

「うぅ……」

「えっと、貴女が宥さん、ですか。はじめまして。俺、須賀京太郎といいます」

「うん……は、はじめまして、だねぇ……」

「あはは……よろしくおねがいします」

 

 ぷるぷるしながら赤い顔を隠す宥に、金髪の少年須賀京太郎は苦笑で応じる。

 こたつから僅か顔を出しただけで分かるくらいの綺麗さに、正直なところ京太郎は直ぐにお近づきになりたくもあった。

 しかし、これは難しいだろうと先までのやりとりで思う。

 

 驚き、こたつむりんに隠れてしまった宥に、最初京太郎は気づかなかった。けれども、流石に部屋の中の異常には気付く。

 滅茶滅茶熱いなこの部屋、どうしてヒーターにこたつが点いてるんだ、といたずらに発される熱量を嫌って彼はそれを止めようとした。

 そこに待ったをかけたのが、宥だった。彼女は恐れている男の子相手に勇気を出して、やめてぇ、とだけ言いながらこたつから顔を出す。

 京太郎は、すわ幽霊かと心底たまげたのだった。

 

 だが、彼は落ち着いてから、おねーちゃんが居る居間で待っててね、との玄の言葉を思い出してこの隠れ潜んでいた少女が彼女の姉だと判断。

 そして、記憶からひと目見たことのある季節変わらずマフラーな年上女子と同じではと理解し、なるほどつまりこの部屋の暑さはこの子のためなのだと解した。

 であるならば、冗談みたいに熱いが、それは我慢で暖房器具は放置する。

 その判断が功を奏して、何もしない京太郎に落ち着き始めた宥。沈黙の後少し経って、彼は対話を試みるのだった。

 ひとまず現況の確認だな、と京太郎は口を開いた。

 

「えっと、消しそうになってしまいましたけれど、ヒーターとかはこのままで?」

「う、うん……私、寒がりで。ごめんねぇ」

「いや……まあ、そういう体質なら、仕方ないですよ」

「……そう?」

「ええ」

 

 体質。それを信じられない人のほうが大勢のはずなのに、少年は頷く。そんな見た目子供の大人しさに、宥は首をかしげた。

 だが、若くして変な経験の豊富な京太郎は、引っ越してしまったが何を隠そう故郷において、忍者が裸足で逃げ出してしまうほど、人から見えなくなる人間を男女二人知っていたのだ。

 片方は技術で片方は体質とのことだったので、なるほど凄いね人体と彼は謎の知見というか心の広さを得ている。少年にとって、極度の暑がりなんて、誤差なのだ。

 二つ年上というのもあってその少女よりも尚大きくおもちの胸元からなるべく目を反らすようにして、京太郎は目を疑問にぱちぱちさせている宥に続けた。

 

「俺、玄さんからここで待ってろって言われてるんです。しばらくここに居てもいいですか?」

「えっと……うん。……その、きょう、たろう君は玄ちゃんのお友達?」

「はい」

「そう、なんだ……」

 

 妹の友達。それを聞いてようやく宥は安堵して胸を撫で下ろす。京太郎の視線が一度少し、下に降りた。

 恥ずかしさにそんな少年から目を離しながら、なるほど友達ならば自分のことを一度ならず聞いていて、だからあまり体質のことを気にしなかったのかも知れない、とそう勘違いする。

 そして、やっぱり玄ちゃんは優しいと思いながらも、次に目の前の少年のことをようやく彼女も気にしだした。

 

 せっかくあったかいのにこたつにヒーターから離れた位置に座して額から汗が吹き出させている曰く、京太郎。

 その恵まれた体躯を見て自分と同学年くらいかな、と誤認しながら、宥は先からの言動、落ち着きぶりから少年のことをこう判断する。

 

「京太郎君は……いい、子なんだねぇ」

「えっと……そうですかね?」

「……うん。おかしいものを、受け入れて、我慢だって出来るって、凄いよぉ?」

「はぁ……まあ、でもそんなの簡単じゃないですか?」

「……ええ?」

 

 あっけらかんと意外を口にする京太郎にまた、宥は首を傾げた。

 普通のこどもは、我慢なんて出来ない。それに、違うものを受け容れるなんて、大人だってそう簡単に出来ないことだというのに。

 訝しく思う少女に、しかし、京太郎は子供だからこその照れのなさで、いい切るのだった。

 

「俺、玄さんのこと好きですし、ならそのお姉さんである宥さんのことだって、好きになれると思うんです。だったら、ちょっとのことで目くじらを立てるなんてもったいないでしょう?」

 

 京太郎と玄は、下世話にも女性の胸元のサイズの趣味が合ったからという流れで得た友誼。

 しかし、それは殊更深まり、花となった。年齢性別関係なく仲良くなった二人は麻雀教室にも共に通い、やがて少年の人となりを深く知った玄は、これは姉と()わせた方が良いと判断。

 そのために、此度生まれた間隙に妹の狙い通りの流れが生まれる。

 好き、という家族と従業員さん以外からは聞き慣れない言葉に、目をパチクリ。この子は、何度私を驚かせれば気が済むのだろうかと思いながら、宥は問った。

 

「えっと……私のこと、好きになってくれるの?」

 

 それは、本当に少女にとっての疑問。

 この世は夏以外は、とても寒い。何時だって、どこだって凍えるようで。

 だから一人が良かったのに。変は孤独になるべきだと勘違いしていたのに、違うのか。

 

 案の定、京太郎は――まっすぐ目を見て――笑って言い張った。

 

「ええ。絶対に!」

 

 絶対。その自信の故は何なのだろう。そもそも、私と貴方は初対面だと言うのに。

 けれども、どうしてだか宥はその本気を信じることが出来た。少年に、最愛の妹が重なって、そして気付く。

 

「ありがとぉ……」

 

 愛すべきものが一つ増えた喜びに、宥ははにかむのだった。

 

 

 

 

 そして一拍。二人の扉がすうと僅か開いた。

 某家政婦のようにそこから覗くのは、玄のくりくりとした瞳。喜びに、僅か感涙すらさせながら、少女は言うのだった。

 

「ううっ、良かったー……さすが同士きょーたろー君……感動したよっ!」

「く、玄さん? 聞いてたんですか?」

「おねーちゃんを、よろしくねーっ!」

 

 どたどた。旅館の娘らしからぬ足音を立てた走りに、響く今日はお赤飯だよー、の声。

 しばらく驚きに固まっていた京太郎だったが、ここにきて彼はようやく自分の先の言葉が他人から見たらどう見られかねないか気付くのだった。

 

「うわぁ……あの様子だと玄さん絶対勘違いしてるな……っと」

 

 どの場面から覗かれてていたかわからないが、かもしたら自分が告白したと取られたか。

 そんな勘違いを喧伝されるのは困る、と思い立とうとした京太郎。

 しかし、袖がくいくい引かれたことに遅れて少年は気付く。

 

「あのぅ」

 

 振り向き、果たしてそこに居たのは宥。

 年上の、おもち大きめな少女が間近で潤んだ瞳で見上げている。

 つう、と京太郎の頬を汗が流れ落ちた。

 

「その、よろしく……ね?」

 

 彼女の眼差しの熱と、室内のサウナもかくやの暑さに。

 

 少年は、くらりとするのだった。

 

次のカップリングは誰がいいでしょうか?

  • 京智葉
  • 京華菜
  • 京玄
  • 京煌
  • ツンデレ

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