京太郎くんカップリング短編集   作:茶蕎麦

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世間には秘密にしつつ交際する京咏

 空は晴天。絶好のデート日和。抜けるような青の下、須賀京太郎は顔を負けずに青くさせていた。

 長身の彼があわあわと見つめるのは、まるで少女のような彼女。自分の服の裾を引っ張りながら頬を膨らませている乙女の対処に、京太郎は慌てる。

 今日はおめかしと和服を脱ぎ捨て彼を身体のラインの出るような洋服を着て悩殺してやろうか、と意気込んでみてわんぱくな小学生の装いそっくりになってしまった成人女性は、まるで子供のごとくにスネていた。

 

「あー、咏さん。先程のことは仕方がなかったと思うんですが……」

「わっかんねー、自分の彼氏に妹扱いされる雀プロなんて知らんけど。私なんて、須賀うたちゃんでいいんじゃね?」

「はぁ……」

 

 困る京太郎を前にむくれる、彼女こと三尋木咏。どう見ても子供な咏は、しかし子供扱いされることを殊の外嫌う。ましてや、彼氏にそうされるなんて、噴飯ものだった。

 だからこそ先程あったような、咏といちゃいちゃしていた京太郎が学校の先輩に遭って、とっさに咏のことを妹だと紹介してごまかしたのが()()してしまったことなんて、許せるわけがない。

 手慰みに扇子を取り出そうとして、そういえば洋服には合わないから置いてきたのだということを思い出してぐぬぬとしてから、咏は京太郎を見上げて、言う。

 

「それにしても京太郎。あの子と随分と仲良さそうだったんじゃねー? 敬語だったしあれかい。京太郎はただ年上のおねーさんが好きなだけだったってオチかい?」

「部長とはそんな関係じゃありませんって。それに……俺は年齢とか関係なく、ただ咏さんが咏さんだから好きになったってだけですよ」

「おっとこりゃあ熱烈な告白だねぃ」

 

 真剣な京太郎の面を向けられて、咏は照れる。そうしてまるで、恋する乙女のごとく頬を染めるのだった。

 普段の飄々とした彼女を知る者たちは、こんな表情の変化に驚くことだろう。ましてやそんな素直を見せるのが年若い青年の前であることにもまた。

 だがしかし、咏がこうなってしまうのも必然。何しろ言の通りに須賀京太郎は三尋木咏の彼氏。年齢差等諸々の事情から公言こそしていないが、間違いなく想いあった二人なのである。

 好きの前に、何時も通りといかなくなるのは仕方ない。こりゃ惚れた弱みだねぇ、と思う咏。

 

「っ、こっちに来てください!」

「うおぅっ」

 

 彼女が恥ずかしがって目を逸らした京太郎の横顔すら格好いいなとのんきに思っていると、急に彼にその小さな体を引っ張られる。そしてそのまま連れられるがままに、物陰へと向かう。

 思わず変な声を出してしまった咏が、文句を言おうと視線鋭く京太郎を見上げると、先んじるかのように彼は呟いた。

 

「わざわざ清澄からは遠くまで来たのにどうして咲まで……」

「なんだい、あそこでキョロキョロしてる子は、京太郎の知り合いかい?」

「ええ、アイツは俺の幼馴染でして……下手にごまかせないし、困ったな。咲に見つかったら関係を根掘り葉掘り聞かれるかも……」

「なるほど、あれがよく話に聞く子かい? よしっと」

「咏さん?」

 

 繋がれた大きな手からするりと抜け出し、ダンボールの山から顔を出して通りに出ていく咏。

 タイミングを逃した京太郎を他所にそのままとことこと歩いた彼女は、咲の前で立ち止まる。

 

「ここどこ? ……ん? えっと、貴女は……あれ、どこかで見たような」

「おや、こんなナリでよく分かるねぃ。ふふん。三尋木咏、と言ったらどうだい?」

「え、ひょっとして貴女は、三尋木プロ?」

「そんなあんたは宮永咲だねぃ?」

「は、はい。そうですけど……」

「あんたは京太郎の幼馴染なんだって? 知らんけど」

「は、はい……ええと、三尋木プロは、京ちゃんの知り合いなんですか?」

 

 はらはらと見守る京太郎を他所に、咲と咏は会話を続ける。

 そして、咲が首をかしげたその時。咏は噴出した。知らぬが仏ってこのことだね、と思いながら挑発的に彼女は少女を見る。

 

「うふっは! そうだねー。京太郎とは知り合い以上、友達以上……恋人同士ってところかねぇ」

「え?」

「そういうことで、あいつは私のもんだから。覚えときなー」

「うぉっ」

 

 言いたいことを好き勝手に口にし、反転。そうして、その長駆を物陰から出した京太郎の手を取り、咏は駆け出す。

 後ろから向けられた強い視線を面白がってころころと笑いながら、彼女は存分に彼を振り回すのだった。

 

「はぁ、咏さん! どうしてあんなことを言ったんですか?」

 

 世間に交際は秘密としている筈の咏が軽々とそのことを口にしたのに驚く京太郎は、小さな彼女の駆け足に軽々と追いつきながら、問う。

 すると今度は咏が首を捻った。そうしてにやりとしてから、彼女は何時もの台詞を口にする。

 

「わっかんねー」

「はぁ?」

 

 咏のそんな言葉に、京太郎は間抜けな声を上げた。

 敏い彼女が自分がやったことを分かっていないはずがない。ならば、言いたくないのだろう。このまま話を煙に巻かれてしまうのかと京太郎が思ったその時。

 くるりと振り向いた彼女は片目を瞑っていた。それがウィンクだと彼が気付いたその時。

 

「なりふり構えなくなるくらい京太郎のことが好きだったなんて、私も知らなかったねぃ」

 

 咏はちろりと舌を出して、そんなことをのたまうのだった。

 

 

次のカップリングは誰がいいでしょうか?

  • 京照
  • 京淡
  • 京咲
  • 京桃
  • それ以外

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