皆さんお待ちかねの園城寺怜さんのお話、彼女が主役の外伝を読み返しながらやっと書くことが出来ましたー。
相変わらず毎度違ったことをやろうとしてしまうので、受け容れてもらえるかは不安ですが、少しでも楽しんでいただけると嬉しいです!
あと大阪弁が出来ているか、とーっても不安です!
思えば園城寺怜は、最近見上げてばかりの生を送っていたのかもしれない。
当然のことながら空は飛べない、抜きんでれない、むしろただただ抜かれていく。何時しか先を読む力もナニカに取り上げられていた。それでも、励んで、砂を噛む今がある。
もはや努力の全てが普通になるために消費されているような実感。特にそれは最近大好きな麻雀において顕著だった。
楽しく麻雀をするのが好きとはいえ、実際はもっと羽ばたきたくあったのに。
変わらない。変えられない自分が徐々に錆びついていくような感覚。こんなものなんやろうか、と何となく自分の大したことのなさに憂いを覚えはじめていた怜。
そんな中、彼女に長野から来たのだという年下の少年は彼女にはちょっとしたヒーローのように映った。
第一印象は、あまりに泥臭い少年だなあというもの。何やら新入生が中学の校庭の端っこでボールを独りで投げる練習をしていたと思えば、今度は部員集めのために帰り道声を上げ続けている。
その物語の主人公みたいな熱量に、むしろ怜は気持ちを引かせたのをよく覚えていた。ただ、東京弁の子が懸命になっている姿に葉子――小学からの大切な友達――を思い出して、気になりはしたのだ。
「なんか、大変やね」
その後。怜にとっては大好きな人達と麻雀をしながらのんべんだらりと続く日々の合間。彼女は駆け回る彼に声をかけたことがある。
いつの間にか多くの友達に囲まれるようになった少年に声をかけるのは存外ためらわれるところではあったが、しかしなんとなく本心を伝えたくなった怜は気付けば近くで、そんな風にねぎらっていた。
だが、彼。須賀京太郎は頭を振ってから、こう返したのだ。
「いや、そんなことないですよ。だって俺、毎日好きなことをしているばかりですし」
長身の友達にお前って練習バカだもんなー、と弄られる京太郎。浮かべる笑みはどこまでも自然だった。思わず怜が羨ましくなってしまうくらいには。
そう、京太郎は明らかに人の合間にて、ただ藻掻くことを楽しんでいた。中々前に進まぬ五里霧中。それでも征こうとするのがどれだけエネルギーを使うものか、怜は知っていた。
自分は疲れたのだ。しかしその徒労すらも楽しめるならば、なるほど無駄はないのかもしれない。
「君ってハムスターみたいなんやね」
怜は頬が緩むのを、覚える。在りし日の理想を、見つけた。だが、それはあまりに微笑ましく。
なんとなく、中学生に上がりたての初々しいその見目を含め、愛らしさを感じた怜は京太郎をそう評したのだった。
その後も、京太郎のことを気にするようになった怜は、目立つ彼の噂を良いも悪いも全て聞くことになる。
大体が、自分のように、引っ越して直ぐに創部をはじめてそれを成してしまうなんて、大したものだという感想。
しかし、その容姿の軽さからか、隠れて悪い仲間を集めてるんだという悪い噂だって耳にした。あんなに頑張っているというのに悪くも見られるのだな、と思うと少し残念だったのを、怜はよく覚えている。
他にも様々にあった中で面白かったのは、京太郎がハンドボールを頑張るのは長野に残してきた恋人との約束だから、というもの。
何となく、あの熱血男子に恋する彼女が居るというのは信じがたかったが、しかし色恋沙汰というのは女子にとっては呑み込みやすい話題ではある。
「それで竜華たちに隠れて直に聞き出しにいくなんて、私もみーはーだったんやなぁ」
何となく、気になった怜は、これは受験勉強の息抜きでもあるからと自分に言い訳しながら、新人戦に挑まんと練習に励むハンドボール部の元へ顔を出すことにした。
時間が早かったのか、まだ準備運動をしていた彼らの中で、京太郎は直ぐ目に付いた。
それは京太郎のその金髪の輝きのため。決して、普段から知らず視線で追っかけていた怜が彼の姿を目に入れることに慣れていたから、というわけではないのだ。その、はずである。
それとなく、男子同士ストレッチにくんずほぐれつ身体を押し合うその様子にほっこりしていると、いち早く怜に気付いた京太郎がペアストレッチで乗っかっていた相手から降りて、やって来た。
「どうかしましたか、先輩?」
「いや、ちょっと京ちゃんに用があってな」
「京ちゃん……えっと。そういえば前回お名前をお聞きしていませんでしたね。先輩は……」
「園城寺怜や。怜ちゃんって呼んでくれると嬉しいな」
「園城寺先輩、ですか。それで俺にどんなご用事が? 時間がかかるようでしたら誠に指示を任せますし、あまり聞かれたくないような話なら場所を移しますが」
「京ちゃんはいけずやなー。そんで私の用事っていうのはそう大したもんやないから、直ぐ終わるし、場所もここで構わへんよ」
ハンドボール部は、一年生ばかりで京太郎とあと一人以外未経験者ばかりの集いである。故に、部長を務める彼は存外忙しい。
そんなことは、怜も知っていた。しかしだからこそへらへらと手を振ってここでいいとし、彼女は軽く続ける。
「で、京ちゃん。長野に好きな子置いてきたってゆーのは、ほんと?」
「好きな子って……別にそういうことはありませんが」
「でも私、京ちゃんがハンドボール続けてるのは彼女のためって聞いたで?」
「あー……そっか。勘違いされてるみたいですね。噂を広めたのは誠か? 口が軽い奴だな……」
「?」
何やら、合点がいった様子の京太郎に、反して首を傾げる怜。
その愛らしさに誰かを重ねて苦笑してから、彼は真剣な面持ちに切り替えて、続けた。
「俺はただ、転校してからもハンドボールはずっと続けるって約束しただけですよ。その相手が女子だった、ってだけです」
「うーん……そこに甘酸っぱいもんはなかったん?」
「皆に聞かれますが、あいつはただの幼馴染みで、友達ですよ」
「言うなら私の竜華みたいなもんか。それは勘ぐるのも野暮やな」
「そうですよ」
頷き合う、京太郎と怜。何となく、温い空気が間に流れた。
確かに、普通の幼馴染ならそこに恋愛沙汰なんてなかなか存在はしないだろう。しかし、その実彼彼女らの幼馴染関係は仲いいの度が過ぎていたりする。
同性とはいえスキンシップだって平気、もしくは異性同士夕飯のおすそ分けすら厭わない、そんな仲は普通一般ではないことを、怜と京太郎は知らない。
しかし、そんなことを突っ込む者など居ない中。話は進んでいく。
怜は、通りの良いその髪を少しいじって悩む様子を見せてから、ぽつりと続ける。
「でも、部もないこのハンド不毛の地で続けるのって幾ら練習楽しいゆうても最初は大変だったやろ? 京ちゃんもかなり固く約束したんやねー」
「俺はあいつに……変わらないで、って言われたんです」
「うん?」
再び首を傾げた怜の目の前で、京太郎の眉は悩ましげに歪んだ。
何かを、重ねられている。それは怜にも分かった。だがなんだろう、ドキドキする。
だって、こんなに熱い思いを込めた視線を男子から受けるなんてはじめてのこと。それが、決して自分に向けられたものでないとしても、なんとなく、ときめいてしまうのはどうしようもなかった。
そして、そんな初心な怜の前で、京太郎は
「それだけであいつが安心できるんなら、約束くらい守りますよ」
たとえば。大切な人を失って、そして家族がばらばらになって。
そして、一番の友達である幼馴染である少年まで遠くへ居なくなってしまうのだとしたら。
そうしたら、いなくならないでと、すがりつきたくなるのではないか。或いはそれが叶わぬことだとしても、せめて彼は変わらないでいてと、
そして、そんな彼女の想いを受けて、京太郎はずっと、変わらないようにあろうとしているのではないか。
頭を振って忘れたくなる、そんな妄想。しかしこの時怜は先を視るのではなく、そんな過去を夢想していた。
そして、それが当たらずとも遠からずであることを確信して、怜は感慨深く呟く。
「格好ええなー」
「そうですかね……」
そんな本心を受けて照れくさそうに頬を掻く、京太郎がどうにも素敵に見えてならない。
これはハムスターにしては、少し決まり過ぎているか。
ひょっとしたら同じ齧歯類でいうなら彼はカピバラくらいには格好いいかもしれない。そう、怜は思った。
からからからから。
「京ちゃん」
「なんですか、怜先輩」
「だから怜ちゃんって呼んでや。二人の仲やないの」
「いや、お呼ばれしておいてあれですが……俺、怜先輩とお会いしたことすらそんなにないですよね?」
「ちっち。時間ばかりが仲を深めるものやないで。大切なのは、インパクトや」
「それはまあ、分かりますが……」
「分かったんなら、次は竜華の登場や。出番やでー」
「……あんた、怜のなんなん?」
「清水谷先輩! いや、俺はただの後輩ですけれど……って、怒ってます?」
「それは、怜に色々と聞いたからな……噂に聞いてハンドボールに恋する変わった男子かと思っとったら、隠れて怜にも色目使ってたなんて……私から怜を奪い取るつもりなん?」
「うおっ眼、怖っ! いや、ボールは友達ですし、俺は別に怜先輩に何もしていません! 潔白です!」
「真っ白ってのは嘘や! 今だって私の胸、ちらちら見とるやないの……やらしいな……」
「それは、あの……すみません!」
「むぅ。謝られても困るけど……って、怜?」
「ぷぷっ、やっぱり二人は相性バッチリみたいやなぁ」
「なに、怜どうしたん? 私はこのだらしない子に文句言うてるだけで……」
「そこや」
「えっ?」
「さっきから、らしくなさ全開やからな。――――珍しく竜華、他人に本気やん。怒りながら、楽しそうに笑ってるで」
からからから。
「むぅ……」
「いや、怜先輩と一緒の時間にお邪魔して申し訳ありませんが……流石に卒業式のお祝いくらいは認めて欲しいです」
「そーやで? せっかく、可愛い後輩がお祝いにお花を持ってきてくれたんや。こういう時は嘘でも笑顔でないとあかんで」
「……怜のむっつり」
「なんか聞き捨てならん言葉が聞こえたで……」
「ハレの日ですから、あまり喧嘩は……っと」
「そやな。喧嘩はもうせえへん……諦めたわ」
「清水谷先輩?」
「……竜華でええよ。須賀君は認めたる」
「認め……えっと?」
「怜の相方としてな! もう怜も高校生なんや。私が守ってばかりってのも駄目や。それに……よく見たら確かに須賀君は怜の言う通りにいい子やったし」
「竜華……」
「竜華先輩……」
「でも、ふたりとも大人にはまだ早いんやから、その……キス以上のことは許さへんで!」
「ははは……そもそも俺と怜先輩、付き合ってすらいないんですけど」
「はぁ。キス以上て竜華、よくその口で私がむっつりなんて言えたなぁ……」
からから。
「凄いなぁ、京ちゃん」
「怜先輩、見に来てくれてたんですか?」
「ふっふー、私も居るで。いや、京太郎くん、格好良かったなあ。そして良かったな。決勝戦進出!」
「竜華先輩まで……ありがとうございます、っわ」
「京太郎くん、そんな縮こまらんと、最多得点選手なんやから、もっと堂々としいや!」
「先輩、抱きついて……! おもちが……」
「ん? あ、つい怜にするみたいにしてしまったわ。ごめんなー」
「竜華、恐ろしい子や……最初の警戒心はどこにやってしまったんや……それにしても、母校の創部から見てたハンド部が全国大会に出るかも、って思うとなんだか感慨深いものがあるなぁ」
「ただ今まで通りにするために、ハンド部創って、皆でわいわいやって……それでこんなところまでこれるなんて、俺も思いもしませんでした」
「努力の勝利、やなぁ。私も頑張らんといかんかな」
「怜……あまり無理はせんといてな? 京太郎くんも、頑張るのもいいけど、無理しすぎには気をつけるんやで」
「はい」
から、
「ぐっ!」
「京太郎!」
そして、回し車は止まった。
「京ちゃん……」
「怜先輩、ですか……あはは。すみません。せっかく応援してくれたのに、全国大会出場、逃してしまいました……」
京太郎は、少しぶりの怜の姿に、まるで眩しいものを見てしまったかのように目を伏せながら、そう言う。
学ラン姿に、ま白い三角巾が悪目立ちしていた。痛ましさの中に、痛ましい笑顔が浮かぶ。
無理のしすぎで壊した、もう上がらない京太郎の右肩を真っ直ぐ認めて、怜はこう返した。
「そんなん気にせんでええよ。そんなんより……京ちゃんの体のことや」
「ああ。これですか……竜華先輩も無理しすぎるな、って言ってくれていたのに……それを忘れて、情けないです」
「違う……京ちゃんは情けなくなんてないんよ……」
「いえ。俺は約束を守れませんでした」
哀しげな怜を気にしながらも、京太郎は断言する。
さて、何時からだったのだろう。誓いが枷になり、努力が重しになっていったのは。
それでも、楽しむことだけは続けていたかったのだけれども。しかし、この怪我ではそれも無理。
果たして、今までの全てはただの空回りでしかなかったのか。そう思いすらする京太郎は、自嘲しながら言うのだった。
「これじゃ、今まで通りってのは無理ですからね……ったく、咲の奴にどう言い訳したら……」
「はぁ……あまり、過去ばかりみるのはよくないなぁ」
「っ怜、先輩?」
そんな傷を負った傷心の少年を、年上少女は見逃せない。
遠慮で離れていた距離を、一歩、二歩で埋めて。そして、彼女は更に近づく。
そして大きくなった、しかし小さくなってしまった彼をそっと抱いて、怜は語りかけた。
「
「せんぱ……あ」
「ん」
触れ合いは、一瞬。ぼう、と熱を覚えた唇を触っている京太郎に、怜はウィンクをする。
「分かってるんよ? 約束したからってだけであんなに笑えるはずないって。京ちゃん、本当は頑張りたかったんやろ?」
「……はい」
京太郎は、頷いた。そして、訥々と彼は続けていく。
「俺、楽しかったんですよ。辛かったけど、無意味かもしれないと何度も思ったけれど……から回って、それでも……楽しかったことだけは忘れられません」
「うんうん」
「だから、俺は頑張り続けたかったのに……っ!」
「なるほどなぁ……」
「それすらもう無理なんて、嫌だ……」
涙はもう流れない。しかし、少年はその代わりに落ち込もうとする身体を留めるために彼女へ
京太郎のその本音は、どこまでも純。まるで子供の願いのようなものだった。楽しいから、そればかりを続けたいというある種のわがままとすら言えるそれ。
しかし、それを恋する少女は大切にしようと思った。そっと、胸元に温かい彼の頑張りより点った熱。それを繋ぐためにも。
だからとても綺麗に、園城寺怜は、笑う。
「うん。なら今度は私が頑張るわ」
「怜、先輩?」
「だから京ちゃんは今度私を支えてくれへんかな?」
これ、私なりの告白やで、とうそぶきながら、怜はそっと彼から離れる。
慌てて、京太郎は遠ざかった一歩を縮め、そして尋ねた。
「……どうして?」
「私はな。京ちゃんから貰った火を、なかったことにだけはしたくないんよ」
そう。私は今まで無力に燻っていた。そんな私にこの愛すべきカピバラの少年は、頑張り方を思い出させてくれたのだ。
けれども。楽しみ、それを続ける。それはとても難しいこと。そして、京太郎の頑張りを継いで皆に見せ付けるというのも、得意の麻雀でも部で三軍程度の実力しかない自分には難しい。
だから、怜は少し、ズルをする。
「――これからちょっと無理、するわ」
「怜先輩?」
そう言い、彼女はこてんと彼に頭を預けてから。
「……ぐぅっ!」
「先輩!」
苦悶の声を上げた。
ぎい。知らない合間に、目の前に、扉があった。それをちょっと開けてみただけ。それだけのことで、耐えきれないほどの苦痛が怜を襲ったのだった。
「はは」
でも、笑ってしまう。
怜の目は、痛苦の中で薄く開かれていた。そうして見つけたものに、彼女は心の底から安堵するのである。
それは何時の先のことだろう。特別なものを取り戻した少女の瞳には、彼と共に進む未来ばかりが映し出されていた。
「――怜!」
「りゅーか……」
そしてそんな先にも、もちろん彼女だって隣りにあって。
二人をどこから見ていたのか異変に駆け寄り泣き叫ぶ竜華と、携帯電話で救急を必死に伝える京太郎。
「私は幸せもんやな」
ひとりごち。暗闇の中、次第に遠ざかっていくそんな二人がおかしくて、怜は微笑むのだった。
からからから。
こうして再び、回し車は回り始めた。
これは千里山女子先鋒、一巡先を見るもの、と謳われることになる少女、園城寺怜の
そして問題となるのは前回の投票結果で圧倒的多数だったヤンデレ②……はい、次の話はサイコロころころさせて決めますね。
ちなみに自分は紅糸清澄の頃から十面ダイスを用いていまして、今回それに対応させたのが以下となります。
01 風越女子
02 龍門渕高校
03 鶴賀学園
04 永水女子
05 姫松高校
06 宮守女子
07 臨海女子
08 有珠山高校
09 阿知賀女子学院
00 白糸台高校
これを今執筆しながらころころしてみますね。
すると……03の鶴賀学園が出ました!
正直に鶴賀は難しそうだと感じますが……なんとか頑張ってみますー。
次のカップリングは誰がいいでしょうか?
-
ヤンデレ③
-
京優希
-
京咲
-
京恭
-
前に投稿したカップリング