京太郎くんカップリング短編集   作:茶蕎麦

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 遅くなりましたが、沢山のアンケートの投票誠にありがとうございました!
 一番になった福路美穂子さんをヒロインとして書いてみましたが、いかがでしょうか?

 今回は大分何時もと色を変えたので少し不安なところですね!


擦れ違うことも優しさな京キャプ

 

 須賀京太郎はどちらかといえば、甘やかす側である。

 母性に弱い京太郎は甘えたがりなところもあるが、しかし生来からの面倒見の良さから、甘やかす方に行くことが多かった。

 彼は、面倒くさそうにしながらも何だかんだ困っていれば助けてくれる。京ちゃんと一緒に居ると安心できるんだよね、とは幼馴染みの少女の評であった。

 

「京太郎くん。喉渇いたでしょう? お茶、飲むかしら?」

「あ、ああ。ありがとうございます美穂子さん。丁度水が欲しいって思ってたところでした」

「ふふ。どういたしまして」

 

 しかし、そんな京太郎は今甘やかされる側に居る。気の利かせ方が上手な付き合いはじめたばかりの彼女の手によって。

 とても優しくしてくれる蕩けるような笑顔をした彼女、福路美穂子のその綺麗な()()()()()の瞳に映る少年はどうにも困り顔。

 更に思わずちらと魅力的な胸元を覗いてしまったことすら、可愛らしいものと微笑まれてしまったら、どうにも苦笑しかできなかった。

 京太郎はつるつるしたレジャーシート上にて誤魔化すように手元の弁当箱に視線を移す。そのまま彼は何とはなしに串を摘んでミートボールを頂いた。

 すると、思わず唸るようにして京太郎は零す。

 

「……旨い」

「よかった。京太郎くんは男の子だから濃い目の味付けがいいかと思ったけれど、当たっていたみたいね」

「ばっちりです」

 

 つい、京太郎は目を瞑った。そして感じるは、口内の美味。冷めても旨いというか、むしろだからこそ、このふわふわさに病みつきになるような、そんな心地。

 小気味いい甘じょっぱさといい一体全体、自分向けだと京太郎は思う。そう、この味はあまりにもばっちりに口に合い過ぎていた。

 一緒に御飯を共にしたこと、三度。それだけで彼氏の味覚を把握してしまう美穂子の凄さを褒めるべきか、それともその気苦労を慮るべきか。

 とりあえずは、と京太郎は思い、言う。

 

「ありがとうございます。メチャクチャ嬉しいです。俺のこと、よく見てくれてたんですね」

「ふふ、それは当然。こんな格好いい彼氏さんからそっぽを向いちゃう子なんていないわ」

「そう、ですか……」

 

 京太郎の前で愛らしさが、柔和になって花のように綻ぶ。その笑みの美しさに息を呑む彼の前で、彼女は至極自然体。そんなギャップが、青年には少し辛い。

 よく晴れた日、はじめて出来た彼女とピクニックと興じているのに京太郎の心の内にどこか居心地の悪さがあるのはどうしてだろう。

 それは、彼の元来の苦労人気質が甘えるがままでいいのかと叫んでいるがためという、ただそれだけではなかった。

 

 福路美穂子は一般男子にとって高嶺の花とすら言ってもいい程()()()少女である。

 優しく、賢く、美人。そして京太郎にとっては大事なところである、大きなおもち持ち。更には全国大会出場クラスである麻雀の得意すら持っていた。

 麻雀へぼな半端物と自認している京太郎にとっては、隣に居るだけでもう肩身が狭いところがある。もっともそれは過小評価で彼自身、実はかなりのスペックだったりもするのだが。

 まあ、そんな引け目だけでなく、最近一人の少女に言われたことが、京太郎の中に小骨のように引っかかっていた。

 

「キャプテンにあまり苦労かけさせるなよ、か……」

「?」

 

 独り言は拾われずに。向けられれば誰でも笑顔を返さずにはいられない、そんな微笑みのまま首を傾げる美穂子に京太郎は不格好な笑顔を返す。

 京太郎は清澄高校に一年生として通学していて、美穂子は風越女子高校に三年生として通っている。それでは当然のことながら、お互いの学校生活はよく分かるものではなかった。

 しかし、美穂子が麻雀部のキャプテンを勤め上げきってから、少し。京太郎が告白して付き合ってから僅かな今。

 彼女に疲れが見えると、美穂子と登下校をともにしている京太郎の新しい女友達というか無駄に先輩風を吹かせて絡んでくる少女、池田華菜は語っていた。

 京太郎が嫌に大事にしてしまったそんな言葉。半ば華菜の冷やかし混じりのそれ。でもそんな意図を拾わなかった彼はただ落ち込んで。だから、こんなことを言ってしまう。

 

「美穂子さんは、俺と一緒に居て疲れますか?」

「そんなことないわ。どうしてそんなことを言うの?」

 

 素直に、首を傾げる美穂子。だがそれを、正面に置いていながら少年は見なかった。

 京太郎は下を向きながら堪えるように、言う。

 

「いや、俺なんかが美穂子さんの彼氏でいいのかな、って」

 

 京太郎は、美穂子の側にいるだけで高鳴る胸に手を当てる。彼にとって、別段これは初恋ではない。しかし、とても大事にしたい恋情ではあった。

 だからこそ、心配にもなる。そして、ただ自分は彼女の何時ものように、()()()されているばかりで、この恋は決して届いてはいないのだろうかと、血迷いもした。

 

「もう。京太郎くんったら、そんなこと言って。京太郎くんは私の大切な……あの、その、彼氏、よ?」

 

 しかし、初心にも彼氏と口にすることにすら照れる美穂子にとって、京太郎は初恋の相手だった。だからこそ、それを疑われるのは嫌で仕方ない。

 髪棚引かせ風を金の輝きとして、少し頬を朱に染め、美穂子は締め付けられる胸元を意識しながらとつとつと本当のことを口にする。

 

「確かに京太郎くんと一緒にいると少し気を張ってしまうかもしれないわ。でもそれも、私が京太郎くんにもっと好きになって欲しいから。ちょっと、格好つけちゃうの」

「それは……俺と一緒ですね」

「ふふ。それは嬉しいわ」

 

 格好いいところを見せたいからこそ、格好悪いが、嫌。つまるところ、京太郎はそんな状態で、美穂子もそれは一緒と言う。

 本当かどうか半信半疑ながら相思相愛であると思い込みたい京太郎に、美穂子は普段は閉ざしている青い視線をまっすぐ向けてから口を開く。

 

「あのね、京太郎くん。あなたは覚えていないかもしれないけれど……実は私たち、中学生の頃に会ったことがあるのよ?」

「えっと……すみません。思い出せないです」

「そう。でも、私はあの日のことを今でも昨日のことのように思い出せるわ」

 

 それは、今日とは大いに異なる雲天の下のこと。まるきり素敵な今と違って悪くもある過去。

 美穂子は自分が本当に優しくなろうとした日のことを思い出す。

 

「あの日、同級生に嫌われていた私は何時ものように独りで帰っていたわね。そういえば、靴に水を入れられていたからって、上履きだったかもしれないわ」

「っ」

 

 軽く口にされた被害を聞いて、美穂子の昔の痛みに下手人に対する憤りを顕にする京太郎。そんな、彼の優しさを見て薄く笑んだ彼女は、悲しみとともに続ける。

 何しろ、美穂子が同級生に嫌われていたのは、京太郎が持っているようなまっとうな優しさを持っていなかったから、だから。

 

「どうして私は皆に優しくしているのに嫌われてしまうのか、分からなかった。なんで皆のためを思っているのに、悪く思われるのかしらって、ずっと考えていたわ。でも、私には優しくする以外のやり方が怖くって出来なかったから、それを続けてたの」

「美穂子さん……」

「でも、そんな私が嫌われてしまうのは当然のことだったわ。だって、幾ら優しくしていても無遠慮だったら、それは気持ち悪くて当然だもの。……昔の私には、そう感じられなかったのだけれど」

 

 美穂子は誰彼との距離感が分からなかった。故に、自分にするように人に優しくして、それを鬱陶しがられるのが理解できなかった。

 そんなだからこそあの日、美穂子は通りすがりの喧嘩をした後の傷だらけの少年を当たり前のように助けようとしたのだ。

 

「でも、私は京太郎くんに教えられた」

 

 間違っていても、愛されたい。そんなことは当たり前で、そんな当たり前を彼女は初対面の少年に(すが)る。

 しかしあの日、京太郎は言ったのだ。笑顔で、泣きそうになるくらいの傷の痛みを堪えながら。

 

 俺の痛みを気にするより自分の痛みを気にしなよ、と。 

 

 少年の強がり。それだけの言葉に少女は救われた。

 

「心からの優しさは、あったかいって」

 

 見透かされ、そして美穂子はやっと、人の痛みに傷む自らの心を見つける。そのために彼女は、優しくしてもらいたいから優しくするということが間違いだと、心より知った。

 優しくしたいから優しくするのだと理解したのも、初めてのこと。だから、彼女はその日の感動の落涙を忘れられないのだ。また、他校の女子を泣かせておろおろする年下男子の姿に、きゅんとしてしまったことだって。

 

 ぽかんと、口を開く青年。忘れる程度に当たり前に振りまいてきた優しさを大事にしている眼の前の彼女に驚く京太郎に、あっけらかんと、美穂子は言った。

 

「私はあの時からずっと、京太郎くんを慕っているの。ちょっと、重たいかしらね」

「そんなことはないですけれど……えっと」

 

 流石に、ここまで言われると向けられた愛を察することは鈍感にだって難しくない。動揺に、つい言葉を選ぶ京太郎。照れにそっぽを向く彼はどうにも隙だらけ。

 そんなチャンスを見逃す美穂子ではなかった。彼女はそっと、彼に近づく。

 

「えい」

「え」

 

 ふ、と。とても柔らかく、ずっと触れていたくなるほどに温いものが口元に擦れ違うように優しく当たって去っていったことに、京太郎は遅れて気づいた。

 思わず唇を押さえる彼の鏡写しに、桃色の唇を彼女は指で押さえて。

 

「ねえ――――優しく出来たかしら?」

 

 そんなことを言うのだった。

 

 

 

 

 二人がぴたりと合うまで、あと少し。

 

 

次のカップリングは誰がいいでしょうか?

  • 京久
  • 京和
  • 京咲
  • 京恭
  • ヤンデレ

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