雨が降るのは避けられなくとも、その身を濡らして身体が凍えるのを防ぐことは簡単だ。ただ、その手に持った傘を広げれば事足りる。
けれども、そんな簡単ですらおっくうになってしまうくらい、今の彼は疲れていた。
それは、そうだろう。県大会の決勝まで勝ち進んだハンドボールの試合を終えて直ぐ。試合時間中ずっと敵エースとのマンツーマンを強いられ続けた後のこと。
更には、そんな大変な勝負を敗北で終えて散々にチームメイトと涙を流した後のことでもある。とてもではないが、普段の快活を顕にすることは出来ない。
しとりと濡れた金髪を持ち上げ、少年は空を見上げる。すると、黒い雲に滴の群ればかりが映った。
華も綺麗もそこにはなく、とても気持ちのいい光景ではない。そこに手を伸ばして、空振って。ただ、届かなかったんだな、と何気なく須賀京太郎は実感するのだった。
「はぁ……参ったな」
京太郎は、ため息とともに頬をかき、しかしずぶぬれのその身を気にすることもない。何となく、やけっぱちの気分だった。
どこに行こうと、心は晴れない。彼は大好きなペットとの戯れですら晴らすことの出来なかった気持ちを、ただの散歩で晴らすことの無理を今更に実感する。
しかし、だからどうすれば良いというのだろう。嫌なことがあったら身体を動かして発散するというのが京太郎の常であり、当たり前。
そうでもなければ友人との会話が慰めになるが、しかし今京太郎は誰に合わせる顔もないと思い込んでいる。
自分のせいで負けて、恥ずかしい。故の、独り。雨の中で慣れない、似合いもしない悲しみに暮れる。
「京ちゃん」
だが、そんな小さな自罰は彼思う少女に見咎められた。知らないところで迷う彼女は、ときに鋭い時がある。
風も吹かない滴の檻の中。小さな声に応じた京太郎は確かに花を見つける。
彼が独りにさせたくなくて、よくよくちょっかいを出したその綺麗。見知ったその一輪はそっと彼へと寄ってくる。
「咲」
呟く京太郎。そして、少女、宮永咲は傘を見上げる程に身長差がある彼へと差し出す。
「帰ろ」
京太郎が取った傘の柄を離さず、彼の濡れそぼったその身に身体を寄せるようにして。咲はそう言う。
思わずぎょっとした京太郎が見下ろす中、うつむく少女の耳たぶの色が赤く染まった。
「偶には、私が迎えに行ってもいいでしょ?」
「ああ……そうだな」
言葉少なに相合い傘はゆっくりと進む。
彼は少女が独りでいるのを嫌っていたけれど、少女も彼を独りにさせたくなかった。これはただ、そういうお話。
次のカップリングは誰がいいでしょうか?
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京照
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京淡
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京咲
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京桃
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それ以外