戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
「状況を報告しろ」
旅館最奥にある大きな一室に入るなりちー姉はそう問うた。
「はっ! 今から2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS『
「報告! 衛星の追跡に成功! 『銀の福音』を補足しました。現在、ここより2キロ先の空域を通過する模様です」
空中にいくつもの資料が投影していきながら、既に中にいた教師が次々と報告をしだした。薄暗い中で淡く輝くディスプレイ、そして画面相手に錯綜する人たちを見ていると、とっても懐かしい気分になる。
二課の司令部も厳戒態勢中ってこんな感じだった。皆、元気にやってるかな~。
「本部からの通達。教員は訓練機を用い対象領域の封鎖を、排除を専用機保持者が行うようにとのことです」
「「「なっ!?」」」
顔を綻ばせてる場合じゃなかった。まさかの役回りが回ってきてました。
軍事開発の暴走ISを相手に学生が対応するなんて……。でも代表候補生やってる皆が、当然といった感じで受け入れているのからすると、こういう非常事態の解決ってのも専用機持ちの義務なのかもしれない。
それでも学生にさせることじゃないと思う。…………学生ながら巻き込まれただけで月消滅の危機に立ち向かった私が言えたことじゃないけど。
「……状況を確認した。これより『銀の福音』改め仮称『福音』と名付け、作戦会議を始める。意見のあるものは挙手せよ」
「はい!」
ちー姉の視線が私たちに向くなり、即座にセシリアが手を挙げた。
「対象IS……福音の詳細スペックデータの開示を要求します」
「わかった。ただしこれらは二ヶ国の最重要軍事機密だ。決して口外しないように。漏洩した場合、諸君等には査問委員会による裁判と最低2年の監視がつけられることになる」
「了解しました」
ぼんやりしてても仕方がないので私も混ざる。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……私のISと同じく、オールレンジ射撃が行えるということですわね」
「攻撃と機動の両方を特化してるようね。厄介だわ。スペック上ではあたしの甲龍を上回ってる」
「特殊武装も曲者って感じがするね。本国からリヴァイブ用の追加パッケージがきてるけど、連続での防御は厳しい気がする」
「それでいてこのデータだけでは格闘性能が未知数。持っているスキルもわからん。偵察は行えないのですか? もしくは格闘性能に関するデータとなりそうなものは?」
画像がないので分かり難いけど、特殊武装がエグいのがよくわかった。砲数36門の全方位射撃ってなにさ。下手に近づくとすぐにバンされそうだ。数的に翼に仕込まれてると見るべきかな。
「無理だ。この機体は現在も超音速飛行を続けているようだ。最高速度は2450キロを超えるとなるとアプローチは一度が限界だろう。データも取れていない」
「そうですか……」
「そもそも暴走状態じゃデータなんて無意味だよ? 常に格上って考えた方が……、いや、デタラメ、かな?」
「どういうことだ? 織斑妹」
ラウラちゃんに忠告したら、皆の視線が突き刺さった。
「暴走すると動きがおかしくなるって話なんですけど……。えっと、普通なら痛みなんかで関節の動く領域が決まってるけど、暴走しちゃうと身体の負荷は度外視になっちゃうのでなんでもありな感じになるんです。だから挑むならデタラメって考えて、前情報はないほうがむしろ良いよ、ってだけです……。ハイ……」
暴走した私を止めた皆が言うんだから間違いない。お前はホントに人間か? て怨みがましく愚痴られたのは多分一生忘れないだろう。私は歴とした人間です(たぶん)。
「なるほど……。確かに考えられない話ではないな」
「このスペックで出鱈目な動きをされたとしたら……厄介過ぎるわ」
「一回きりのチャンスでそうなりますと…………、やはり一撃必殺の攻撃力を持った機体で短期決戦を望むしかありませんね」
私から視線が外れ、お隣に向いた。私も釣られて隣を見る。
「…………はい?」
あー、一兄と白式ならなんとかなりそう。
「あんたの零落白夜で落とすのよ」
「それしかありませんわね……。ただ、問題は――」
「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね」
そうなのだ。白式は近接オンリーで動き回らなきゃならないので遅いわけじゃないのだけど、零落白夜に必要なエネルギーを残すとなるとちょっと無理がある。
「え、俺がやるのか?」
「「「「「「当然」」」」」」
他の人のは当然として私のニールハートでも一撃ってのは厳しそうだもん。単純な破壊だけならなんとかなできなくもないけど、砲撃の突破も合わせるとだいぶ落ちちゃうし。
「織斑兄、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない」
「…………やります」
覚悟を決めたみたいだ。迷いを振り払って強く頷いた。
「よし。これより具体的作戦の内容に入る。現在この中で最高速度が出せる機体はどれだ?」
「それなら、私のブルー・ティアーズが可能です。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきており、超高感度ハイパーセンサーも同様です」
強襲用って……、いったい何を想定して作っているんだか……。あれ? でもなんかそんな速度重視の競技があるんだっけ?
「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」
「20時間です」
「ふむ。それなら適任――」
超音速下、つまりニールハートのバンカー移動に色を付けた速度プラス曲線移動ってことだから……、うにゅ……20時間もやりたくないや。
なんて思っていると、部屋に響き渡る妙に明るい声があらわれた。
「ちょいと待ったー! その作戦ちょっと待ったなんだよ~!」
声に聞き覚えがあるのにどこにもその姿がない。皆で周囲を探すけど……やっぱいない。はてさてどこに?
「ここだよ~」
天上から生えていた。
「山田先生、ちょっとそこの鉈を取ってくれませんか」
「あっ、はい……って、何する気ですか!?」
「ちょっと草狩りするだけです」
まや先生が普通に渡しそうになってたのを慌てて戻す。
「とうっ。ちーちゃんったら~、私は引っこ抜くウサギさんだよ」
「それもおかしいです」
逆さまから落ちたのに空中で一回転を決める、とかいう無駄に見事な着地を見せてそう宣った。
「そんなことより、ちーちゃん、ちーちゃん! もっと良い作戦が私の頭の中に、ナウ・プリンティング!」
ナウ、プディング? 今、頭の中にプリンが? なにそれ怖い。
「プディングじゃなくて、プリンティング、プリントね。頭の中にできてますよ、ってことだよ」
「おお、なるほど」
シャルちゃんに後ろで教えてもらう。
「ここは断然、赤椿の出番だよ!」
後ろで脱線している間に話が進む。
どうやら束さんは赤椿を推しているらしい。難しい話はわからないけど、要約するとパッケージなんか無くたって展開装甲をちょちょいと弄れば超高速移動ができるそうだ。
ところで、展開装甲って?
シャルちゃんに目で尋ねてみたけど、首をふった。他の皆もわからないと。
「説明しましょう! 展開装甲とは、この天才束さんが作り上げた第四世代型ISの基本装備なのだよ」
ほー、第四世代型の。
「それは凄そうだね」
「凄そう、じゃないわよ!? 世界でようやく第三世代の実用化の目処が立ったところ、今も競争を行っているところなのよ!? それを、既に第四世代が実現してるなんて……」
「ち・な・み・に。いっくんが使ってる白式の雪片弐型にも使われてまーす。試しに私が突っ込んだ。あとあと、よっくんが一から独自に作り上げたニールハートのバンカーにも利用されてるよ」
「「えっ」」
ひょえー。てことはニールハートも第四世代ってこと? あ、でも踊君は第三って認めてたっけ? うーん。どっちなんだろ。
「それで、赤椿の調整にはどれくらいかかる?」
「7分あれば余裕だね」
驚きすぎて皆の疲れた感が半端ない。それでも指揮官となったちー姉は思案し作戦を決定した。
「本作戦の目的を伝える。本作戦では、織斑兄・篠ノ之の両名による目標の追跡および撃撃墜とする。作戦開始は30分後。各員、直ちに準備に取りかかれ!」
「了解」
ちー姉が掌を打つなり、バックアップを担う教師陣が必要な機材の調整を始めた。さらに封鎖組の教員は運んできた訓練機の元へ移動を開始した。
そして作戦から外れた専用機持ちも各々で作業の手伝いなんかをして……。
「手の空いているものはそれぞれ運搬など手伝える範囲で行動しろ。作戦要員はISの調整を行え。もたもたするな! そこの織斑兄妹!」
「「はいっ!?」」
名指しされてしまい大慌てで逃げる。そしてまや先生なんかと荷物運びに精を出すことに。
はてさて、なんかヤバーい予感がひしひししてるな~。二人だけで大丈夫なのか凄く心配だ。踊君が言ってたことも気になるし……、て、あれ? 踊君がいない。あ、でも専用機持ちじゃないから仕方ないのか。でも、ちー姉に言われて着いてきてたような……。
ん??? 気のせいだったのかな?
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
ちょっとばかし表が忙しくなってしまったため、ここ1月ほど休載するかもしれません。
遅くとも二月には再開しますので、申し訳ありませんが少しばかりの間お待ちいただきますようお願いいたします。