戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

98 / 139
第伍拾壱話

「ぐろぉ~……」

 

「今日も朝から死んでるね~」

 

 わっはっは、と楽しそうに言わないでほしい。二日連続寝不足でホントに辛いんだよ~。師匠の教えもあるのに~。

 

『「飯食って、映画見て、寝る!」 は教えじゃないかと……』

 

 教えになってるからいいのだ。

 

「全員、集まったな。これより訓練を開始する。それでは各班に別れ振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストを開始しろ」

 

 合宿二日目の今日はISの武装の取り付けやら動作確認やらを行う日になってます。悲しいことに私と一兄はほとんど関係ない話だけどね!

 ちー姉の眼光に一斉に散り散りになった。

 本国から色々送りつけられた鈴ちゃんなんかは鬱々しく、逆に大量の武器でマルチ対応してるシャルちゃんはウキウキしてる。

 

「ああ、篠ノ之。ちょっとこっちに来い」

 

「はい!」

 

 およ? ちー姉が個別の指示を出すなんて珍しい。いつもはまや先生に任してるのに。

「お前には今日から専用――「ちぃ~~~ちゃぁ~~~~~ん!!」……ハァ」

 

 砂浜を抉り、ずぐぁーー!! と砂を撒き散らし蒼いウサギさんがたぶん二足走法――頭が砂面すれすれでどう走ってるのやら……――で間を詰めてくる。それも無謀なことにちー姉目掛けて迷わず一直線に。

 

「やぁやぁ! 会いたかったよ、ちーちゃん!! さぁ、ハグハグしよう! 一緒に愛を確か――べふぅ!?」

 

 さっすが、ちー姉。ダイビィーングを見事片手でキャッチした。ボールは頭、グローブは鉄の爪(気の迷い)。これがホントの顔面キャッチか。

 

「あばばばば!? 潰れる! 潰れちゃう! 束さんの天才的な頭が挽かれたお肉になっちゃう~。ちーちゃんの愛が気持ちいよ~」

 

「キモい」

 

 べちょ! ちー姉はトロンとし出したウサギを捨てた。

 

「私を捨てるなんてとんでもない!」

 

 復活はやっ!?

 勇者千冬にウサギさんはそうどこかで聞いた忠告を述べて飛び上がった。

 

「やぁ!」

 

「……どうも」

 

 今度のターゲットはお隣で顔をしかめる箒ちゃんらしい。さらに苦々しさを増して対応する。

 

「えへへっ! 久しぶりだね。こうして合うのは何年ぶり? 大きくなったね、おうきちゃん! 特におっぱいが!」

 

 ズガンッ! ……おぅ。

 

「殴りますよ?」

 

「な、殴ってから言ったぁ~……。しかも、日本刀の鞘で叩いた! ひどい! 箒ちゃんひどい!」

 

「よくやった」

 

「ちーちゃんのドS!」

 

 ズドンッ! ……やっぱあの人、度胸あるな~。

 

「素手の方が痛い!? なんでか鞘より痛い!?」

 

「あ、あのぉ……、ここは関係者以外立ち入り禁止なのですが…………」

 

「あっはっは! 珍妙奇天烈なことを言うね。ISの関係者というなら、一番はこの私において他にはいないよ」

 

「え、あっ、はい……。そ、そうですね……」

 

「IS学園関係者となれば、無関係でしょう!」

 

 ズッドンッ! ……凄く、鈍いです。

 

「よっくんの手ってどうなってるの!? ちーちゃんの鉄拳より痛いよ!? 私の頭を何だと思ってるんだよぉー! ぷんぷん!」

 

 あえて言うなら神鉄製だから? でもあんな三連発に平然としてる頭も凄いよね。普通、頭割れてるよ。ちゃんと手加減してるのが三人の愛情表現なのかね……。踊君との関係が気になるところだけど。

 

「「「木魚」」」

 

 ……んぁっれ~?

 

「ひーちゃ~ん、皆が虐めるよぉ~」

 

「よしよ~し。お返ししま~す」

 

「うぇっ!?」

 

 と、冗談はここまでにして本題どうぞ。……別に巻き込まれたくなかったとかじゃないよ。ホントだよ。

 

「そろそろ自己紹介くらいしろ。うちの生徒が困っている」

 

 他人事のように後ろで頷いてるお二人。貴女たちも含めた三人のせいですよ。

 

「皆、ひどーい。もー……。めんどくさ……くないです。はぁ、私が天才の束さんです、はろー。はい、終わり」

 

 言うだけ言うと、くるりんと服を見せびらかせる。何年経っても束さんの愛くるしい姿はお変わりないようだ。垂れ耳がかわゆいです。――にゅふふ、クリスちゃんに付けたら似合うかも。

 妄想に浸ってる合間に目の前の女性が誰なのか伝播したようです。

 ウサギさんこと、篠ノ之束さん。何度か話にも上がった気もする箒ちゃんの姉の天災さんだ。ISを作ったっきり行方知れずなんだけど、何しに来たんだろう……不安だよ。

 

「もう少しまともにできんのか、お前は……。そら一年、手が止まっているぞ。これのことは無視してテストを続けろ」

 

「むぅ~、らぶりぃ束さんって呼んでもいいんだよ?」

 

「荒ぶりぃ束さん?」

 

「こらぁー!」

 

 ひゃー。

 

「ところで、姉さん……」

 

「あ、そうだった。ではでは、大きなお空をご覧あれ!」

 

 束さんは背景にびしっ、と書きたくなるほど様になる仁王立ちポーズで天を指差した。いろいろ気になるお年頃の生徒も何や何やと空を仰ぐ。

 

「斬ったらまずいよなぁ~」

 

「わかんないけど、まずいんじゃないかな~」

 

 踊君の目には既に何かが見えてるらしい。私にはようやっとちっちゃな点が見えてきたところなのに……。

 ひゅるるる~~。大気を押しのけて物凄い勢いで塊が迫ってくる。皆が急いで波際を離れた所に、豪快な水しぶきを上げて着水した。

 ……金属の塊? 目映く銀色に輝くと、よく見る間もなく瞬時にぱかりと開いた。それで肝心の中身はというと――

 

「じゃっじゃーん! これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』! ほとんどのスペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

 おぉ! 真紅だ。真っ赤な装甲が眩しいや。――ん? 今、束さんはさらっととんでもないこと言わなかった? 現行ISを上回るとか何とか……。

 

「さぁさぁ、箒ちゃん! 早速フィッティングとパーソナライズを始めようじゃないか! ほらほら、早く早く」

 

「……お願いします」

 

「お願いされました~!」

 

 ポケットから取り出したリモコンをピピッと操ると、装甲を支えるアームが動き出す。一緒に赤椿も動き膝を折った。

 そして箒ちゃんが乗り込んだ。

 

「実際はある程度のデータをいれてあるから、更新するだけなんだけどね。さて、ぴ、ぽ、ぱ」

 

 軽い口調にあわない光景が広がる。空中投影のディスプレイがひーふみー……6つに、同じく空中投影のキーボードが……これも6つ。もう何をやっているのかさっぱりです。整備科志望の子達が興味深げに見つめていた。

 

「あの専用機って、篠ノ之さんがもらえるの……? 身内ってだけなのに」

 

「だよね-。なんかずるよねー」

 

 一部の生徒からそんな言葉が聞こえてきた。それに一番早く反応したのは、意外なことに世間に興味のない束さんだった。

 

「おやおや、異な事を言うね。歴史の勉強をしたことがないのかな? 有史以来、世界が平等であったことなんて一度もないよ。そ・れ・に、そんなこと言ったらひーちゃんも一緒なんだよ。よっくんの身内ってだけで、ニールハートを手にしたんだから」

 

 そうなのです。だから諫めることが私にはできない。まぁ、踊君に押しつけられたもんだけど。

 

「…………いよいよ予感が本格化しだしたか…………。響、サボってないでさっさと始めるぞ。追加武装がないからってアップグレードがないわけじゃないぞ『ガングニールとハートの共鳴率を上げるぞ』」

 

 イアちゃんを通して踊君の指示が飛んできた。どうやら私もしなきゃなんないことがあったみたい。

 

「ほいほ~い」

 

 でもその辺りは踊君におまかせです。どこから取り出したのやら投影機でディスプレイとキーボードを呼び出すとケーブルでダイレクトに繋ぎ、こっちもカタカタ打ち出した。内容はこっちの方が原始的、ていうのかな? 束さんのがパソコン的画面なのに対して、こっちは文字の羅列が淡々と横並びしている。

 もち、わかんないのは一緒だけどね。

 

「やはり連続使用が鍵か? 人と聖遺物の適合係数、聖遺物とISの共鳴率、となると人とISとで繋がる何かが必要となる、か。こればかりは俺が口出ししていい話じゃないな。……安心しろ、調律だけはやり遂てみせる……」

 

「???」

 

「いつかわかる時が来る、としか言えないぞ」

 

「んー、わかった」

 

 聞く前に釘を刺されてしまった。

 諦めて待ってようと思っていたんだけど、何やら不穏な気配が……。

 

「おっ、おお、織斑先生! たいへん、たいへんです!!」

 

 いつになく取り乱したまや先生が駆け込んできた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。