戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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遅れてしまって申し訳ありません。
最近体調が優れずペースが落ちてしまいました。


第肆拾陸話

「行くぞ! 踊!!」

 

「ああ、どこからでも掛かってこい」

 

 短いやりとりを終えると、一兄は全速で空を駆け抜け、踊君と刃を交えた。

 

 はてさて行き成り始まった模擬戦、臨海学校が間近に迫る中いきなり何してるの、って話だけど今日は踊君交える約束の特訓日なのです。

 ……準備? 後でします。

 

「ウォオオオオオっ!」

 

「突貫力は流石の一言に尽きる。だがしかし、それだけで崩せるほど俺は甘くないぞ」

 

 面を打つように天辺から振り下ろされた一太刀を、踊君は事もなく片手持ちのただの鉄刀で払い、空いた手で掌底を打ち込んだ。

 織斑家で育った人の特徴……なのかな。この一家、不思議なことに戦う時は基本愚直に真っ直ぐだったりする。極々稀に小細工をするくらい? あ、ちー姉がしてるのはみたことないよ。ほとんど初撃で終わるもん。やる暇がない。

 

「グゥッ! まだまだ!」

 

 芸がない、そう言われちゃってもおかしくないほど一兄はとにかく攻め続ける。マシンガンのような怒濤の連撃……なんだけど、懐に踏み込むことは敵わない。

 

「一夏が遊ばれている。さすが御義兄様です」

 

「これが剣舞というやつか……!」

 

 踊君が剣まで使いこなせることを知らなかった皆がとても驚く。そして気負わずゆるりとした動作で尽く刃の上を滑らせ、優美にたゆたう姿に、見ていた私たちの目は釘付けです。

 まるで手に持っているのが長い棒のように斬らず斬らせずを貫き、細々としたシューっという金属の擦れる音だけ残して、一兄だけが遠くへ押し出される。

 踊君の動作は最小限、対する一兄はブォンブォン振り回される。エネルギーの差は目に見えて広がっていく。

 観客の私たちも一兄を応援したけど、結果は一兄の惨敗だった。

 

「やっぱ、踊は強ぇな! ってか、剣までかよ!?」

 

「こう見えても俺はいくつかの武を修めているからな」

 

 いくつもでしょうが! 拳術、剣術、槍術、銃術、鞭術、鎌術、動きの基盤には柔術や武術、他にもボクシングや空手、カポエラなんかも選り取り見取りで取り込んでいる。か、で表せるほど少なくない。

 あ、沢山習得してるからって強いわけじゃないよ。全部やって中途半端が集まるより、一つを極めた方が良い。踊君みたいな全部やってそつなく熟せる人は例外です。

 

「もっと鍛えなきゃなんねぇか……」

 

 一兄が目に見えて落ち込んでる。

 こう見えて一兄の戦績はとても悪いのです。そりゃあ、中・遠距離が主立つメンバーの中で近接オンリーなんだから仕方がないちゃ仕方がないこと。でもだからって諦めない、そこが一兄の良いところ。

 

「一夏、ただ真っ直ぐなだけじゃ何もなすことなんかできないぞ。その程度じゃ誰にも勝つことは無理だ」

 

「けどよっ!」

 

「お前と、織村千冬、響とは違うのはわかっているだろ。目標にしたところでその極意ができなければ目指したところで意味はない」

 

 え、何それ。そんなの知らないよ?

 ピットに戻ってくる途中、一兄に踊君がそう声をかけていた。

 

「極意とかあったの?!」

 

「ないない」

 

 お隣の鈴ちゃんに大層驚かれたけどそんなものない。……まさか、『雷を握り潰すように』、じゃないよね? あれが極意だったらちょっとやだな……。あれは重たい一発を叩き込むためのイメージでしかないし。

 

「織村千冬の瞬撃をただ近付き斬っているだけだと考えてないか? 響の乱撃がただ雑に飛び跳ねているだけだと思ってないか?」

 

「……違うのか?」

 

「……違わないはず」

 

 それのどこが極意なんだろ。どう考えても私は適当に突っ込んでいるだけの気がする。悲しいかな踊君に褒められるようなことはしてない。

 

「本人が気付かないのも無理ないさ。何せ二人ともそれができて当然だと考えているんだから」

 

「いやそれ、極意って言って良いの……?」

 

「問題ない。極意、すなわち武の核心ってことだ。だから理解の有無は関係ないんだ。そうだな……、『雷を握り潰すように』って昔ダンナの教えであったろ?」

 

「うん」

 

 これが以心伝心ってやつか!? あれ? ちょっと違う? ま、いいや。それついさっき考えたところです。忘れるわけがない、師匠の教えの一つだ。

 

「あれを明確に言葉に出来るか?」

 

「無理です!」

 

 『言ってること全然わかりませんッ!』であの時も通したくらいです。説明しろとか無茶言わんで下さい。

 

「俺も無理だ」

 

「無理なのかよ!?」

 

「期待した、私たちの気持ちを返して下さい!」

 

 一兄達から非難の野次が飛んできた。でも無理なものは無理! あの感覚はホントに『雷を握り潰すように』としか表現のしようがない。

 

「す、すまん。そんなに期待することだったか……。て、そうじゃない。話を戻すぞ。つまりそういうことだ。頭では理解しようがしまいが、身体の奥底で根付くもの、それが極意になるんだ」

 

「して私の極意とは如何ように?」

 

「自分の体感と経験を性格に把握すること。自身の持つ動体視力、反射神経、思考力、柔軟性、もちろんその他の全部総じてだぞ」

 

 それが極意? なんか肩透かしを受けた気分。これでもまだまだ精進しないと、と思うくらい振り回されてるのに……。

 

「単調な動きのみで織斑教諭は加速した世界を制しているが、あの背景には相手の一挙一動から数多くある可能性の動作を読み取り自信の行動に反映する、という並外れたことをやってのけている」

 

「それって洞察力とか反射神経がずば抜けて良いってことだろ。どうせ俺には真似できねぇよ」

 

 自分にはないものを突きつけられて、ふてくされてしまった。ちー姉の出鱈目度は普通じゃないから私は割り切っているので大丈夫。

 

「それもあるがよく考えろ。ISのだせる本当の意味での最高速とあの人の出している最大は一緒か?」

 

 「えっと確か……、パイロットの安全を無視すればISによっては後付けのブースターパックと同等の速度を手に入れられる、だったはずだったよね」

 

「そんなにでるのか!?」

 

「うん。使った後死ぬ程身体が痛くなるらしいから止めた方が良いけどね」

 

「それを回避するために把握することが大切なんだ」

 

 おお、なるほど全速出したところで自分の限界以上のことはできないってことか。車を想像したらわかりやすいそうだ。

 アクセルを踏めば踏む程速度はぐんぐん上がっていくけれど、いくら力一杯ブレーキを踏んだって許容範囲ってものがある。ピタッと止まるなんてことは不可能、運が悪いとスリップです。でもちゃんと止まることを意識してアクセルを調整すれば、多少前に出るけど安全に止まれる。

 

「そう言えば昔、御姉様の真似をしようとして選手生命を殺したバカがいたらしいが、そういうことだったのか」

 

 怖っ!? それってつまり踊君が先に教えてくれてなかったら一兄が同じ道を辿っていたかもしれないってことだね!?

 踊君、気付いてくれてありがとう!

 隣で一兄も青い顔して拝んでいる。

 

「そして響は受ける反動を流す柔軟性と即座に次へと意識を切り替え相手との距離を適切に捉え動き続ける視野の広さを理解している」

 

 今度は私の番だ。へぇー、そうなんだ、としか思えなかった。

 当たり前のようにしていたことだから全然気付いてなかったんだもん。でも言われてみるとそうだった。戦う時は天地がわけわかんなくなるくらい飛び跳ねてるというのに、不思議と相手を見失った経験が少ない気がする。

 ……神出鬼没で変幻自在なノイズを相手にしてたらそうなっちゃってもおかしくない、のかな。

 

「…………」

 

「丁度良い機会だ。皆に行っておくぞ。他人を真似するなとは言わない。むしろ真似して相手を学び自分の糧にしろ。そして自分に合った戦い方を見いだすんだ。世界の天辺に位置する奴等は皆そうやって上り詰めてんだから」

 

 世界には星の数ほど戦い方なんてあるってことだね。私やちー姉の戦い方は合わなくっても一兄に合った戦い方が何か必ずあるはず。

 まぁ、そんな風に考えるわけだけど……、見いだせってねぇ……。学ぶも何もそれ以前に、

 

「そんなに言うなら最初から踊君が参加してくれたら良かったんじゃないかな。学ぶも何も一兄に一番近い戦い方ができるの踊君だけだよ?」

 

「「「「「確かに」」」」」

 

 踊君がいないと学ぶ相手がいないんだもん。

 

「……………………すまん」

 

 呆然として見つめられたかと思うと頭を抑えて謝られた。

 

「よし。一夏、よく俺の動きを見て学べよ。セシリア嬢、相手を頼めるか?」

 

「任せてください!」

 

 そして踊君は一兄以外とも模擬戦を始める。

 結果? 勿論、踊君が連勝したよ、苦戦もしたし私を除いてだけど。……ただし刀一本しか使わずに…………だけどね。

 


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