戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
「んんぅ……、にゅう……」
……………………眠い。のほほんちゃんもねてるし……もう一眠り。
「すぴー」
「サボるな、バカ」
「うべし!?」
ぼ、暴力反対……。
睨んだ先には制服(まさかのミニ浴衣改造……夏仕様?)に着替えて、長い髪に付いた水分を取り除いていた。
「うぅ……、あれ……シャワーでも浴びたの?」
「ん。ちょっと波を斬ってたら、潮風でちょっとな」
「…………朝っぱらから、何やっちゃってるの!?」
今更な気がするけどここIS学園は小さな島を改良してできているので、周りは海で囲まれていて少し歩けば海に行けちゃえる。でも少々問題がある。
周囲が完全に断崖絶壁なのです。皆が臨海学校で海に行くのを楽しみにする理由でもある。海がすぐそばにあるのに、飛び込めば最後生きて帰ってこれるのか心配になるくらい険しい崖な上、落ちた先にも尖った岩が水上に出てる分と透き通った水中内にもわんさかあるという地獄な状態で使用不可。
泳ぎたいというフラストレーションが溜まる一方なのだ。掛けを見下ろして溜息を吐く生徒がちらほら見つけちゃうくらい。
「ほら、さっさと着替える。10年近く続けた日課をサボるんだな? 響がそれでいいなら構わないんだ。……今度ダンナに会った時にしっかり報告しておいてやるだけだから」
「行く! 行きます! すぐ行きます!? だからそれだけは勘弁して下さい!」
いつぞやの踊君との24時間組み手も嫌だけど、師匠との100回組み手(休み無し)はもっと嫌だ!? 気絶しても踊君が無理矢理起こすし……、骨が折れてもイアちゃんが直す(あの時ほどガングニールの回復力を怨んだことはない)し、……あれはホント生きた心地がしないんだよ……。
急いでジャージに着替えて部屋を出た。
「行ってきます!」
「おう。がんばれよー」
眠気? そんなものとっくの昔に逃げ出した。
やっとこの重さにも慣れてきたなー、なんて外周3週目を走りながら感慨にふけっていた。付け始めてから2ヶ月、長らくお世話になっている手足の重りはあれからもゆっくりと新調を続けて一つ45kgになってた。
人一人よりちょっと軽いくらい。だけどここまで重くなると走るのがちょっと難しくなってきていた。
「うわっとと……、でもやっぱり次にいくのはもう少ししてからにしようっと」
私の身体よりも遙かに重い重りなので、腕や足を振る度に身体が前に後ろに引っ張られちゃうのだ。左手は後ろに戻したいのに前に行き、右手は前に出したいのに後ろに引かれて……、躓くわ、転けるわ、で散々なことになったもんです。
よく海に落ちなかったね、って言われたこともあったなー。
「んーぅっ、にゅぅ……、疲れた」
走り始めてから小一時間ほどたった。それでもまだまだ生徒が起きてくる時間にはほど遠い。空いた時間はこれまた日課な校舎歩きでクールダウンです。
朝早くの校舎ってホント静か。それでいて夕方のようなおどろおどろしい雰囲気はないし、差し込む朝日でとっても爽やかなんだよね。
「なのに何でかな。一箇所だけ不自然に暗いんですけど……」
明暗的に言えばちゃんと明るい。……でもどう見てもその明るさが扉の隙間から漏れ出す人工的な青白い光なのだ。しかも蛍光灯的な上からじゃない、パソコンとかそう言った系のあんまり目によろしくない光です。
ちょっと近づいてみる。
…………カタカタカタカタ。
タイプ音が聞こえてくるから、ちゃんと人はいるみたいだ。でも覗き込んだ部屋の蛍光灯は灰色で随分暗かった。
「……これでも…………ダメ…………」
女の子発見。
とても集中しているみたいで、私が近寄っても気付かないや。眼鏡をブルーライトで輝かせるその子はパソコンに向かい合ってひたすら英語のようでそうじゃないような謎言語を入力し続けていた。
……二つのキーボードを同士に利用して。
「うわ、すごっ」
「っ!? だ、だれっ!」
自分のバカ、思わず口に出してしまった。折角少女が没頭していたのに、水を差しちゃって申し訳ない。
「ご、ごめんなさい。邪魔しちゃったよね……」
「あ! いえ……、私の方こそ…………突然……怒鳴っちゃって…………すみません……」
おぉ、なんて良い子なんでしょう。私が驚かせてしまったのが悪いのに、文句も言わず謝ってくれるだなんて……、ちょっと感動です。雰囲気真っ暗なのがちょっと気になるところだけど。
「……あの! 毎朝……外を走ってる人……ですよね?」
「そうだけど……、私のこと知ってるの?」
「……よく……、あそこから…………見える」
指差された窓の外は私がよく走ってるルート上の景色を映していた。
「あ、ホントだ。全然気付かなかったよ」
「ここは……暗いから」
いやいや、それでも驚きだよ。これでも私、人並みよりは気配察知――正確には空間把握らしい――だってできる。そうじゃないと好き勝手出てくるノイズに対応できなかったもん。
それなのに気付けないって、相当影が薄いのかな?
「……失礼なこと…………考えてない?」
「き、気のせいだよ」
顔に出ちゃったのかな。じっとりした目がブスリと突き刺さる。
て、ん? どこかで見たことあるような……。あの水色の癖毛にすごく既視感があるような気がします。
この子とあった覚えはー……あ、そう言えば。
「まだ自己紹介してなかったね。初めまして織斑響です」
ふかぶかーと頭を下げてお辞儀する。
「っ! お……、おり……むら…………って」
「そだよ。ちー姉の義妹で一兄の義弟の響とは私のことだー」
「…………ぷ」
一瞬怖い目をしたので、ブイブイとおちゃらけてみたら笑ってくれた。うん、やっぱり笑ってる方が可愛いよ。
「私は……更識……簪」
「簪ちゃんか。可愛い名前だね」
「あり……がど……」
簪ちゃんと親交を深めながら部屋の中を見回す。何だか機械がいっぱいだ。あと装甲がまばらでコードが剥き出しのIS(仮)がそこにいた。
「この子は?」
「私の……専用機…………打鉄……弐式。……未完成」
しょんぼりと教えてくれた。何か問題でもあったのかな、ってあったから乗り手の簪ちゃんが作ってるんだよね。
特に考えもなく剥き身のISコアを撫でてみた。
……あ。
「簪ちゃんはすごくこの子に信頼されてるんだね」
「……え?」
「弄って貰ってる時が楽しいんだって」
手足を調整するのがくすぐったかったり、装甲を付けてもらった時が嬉しいとか。色んな想いが伝わってきた。でもそれは全部簪ちゃんに対する感謝で占められていて、嫌なんてない。
「ISと……話せるの?」
「ううん、話せないよ。でもなんとなくわかるんだ」
イアちゃんのお陰かな? 他の子はわからないけど、この子の伝えたいことが胸に響いてくるのです。
「あ、もうこんな時間だ。そろそろ帰らなきゃ」
「? ……まだ十分、時間……あるよ」
「流石にジャージのまま授業にはいけないよ。それに汗も流したいし」
「そっか……、じゃあね」
「またね~。あ、そうだ。私は全然だけど、すっごい助っ人紹介するね」
ニールハートを作った踊君なら打鉄弐式のアドバイスもできるかもしれない。打鉄の改造もできるくらいだし。
「……いらない。一人で……する」
「うーん、そっか。わかった。でも次、絶対紹介するから。アドバイス程度だけでも聞いたみなよ。その子も早く完成して簪ちゃんの力になりたいって言ってるよ」
「…………………………わかった」
凄い葛藤して認めてくれた。よし、取り敢えず帰ったら話してみよっと。
部屋……整備室を飛び出して部屋へと駆けだした。