戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
「まぁ、まぁ、落ち着いて下さい、織斑嬢」
説教が終わるのを待とうかと思ったが、いくら待てども治まりそうにない。むしろ織斑嬢の小言は待つ程に激しさを増していっているな。流石に何時間も見ている気はないので、間に入ることにした。
「誰が嬢だ」
「いいじゃないですか。今は学外、それに休日なんです。教師の立場は今日はお休みと言うことで。俺も外では貴女を教師と呼びたくありませんので。それに織斑嬢も怒ってばかりの休日を過ごしたくないでしょう? ここはませたガキの遊びということで勘弁してあげてはどうですか?」
「…………仕方ない。今回だけは見逃してやる」
「あ、ありがとうございます……」
それにしても一夏のやつ……いくらISを持っているからとて注意を怠りすぎだな。自分を監視している者に気付く素振りもないとは……。また誘拐されても俺は知らんぞ。
「こそこそするのはここまでにして、そろそろ出てきた方が良いぞ」
放置するのも可哀想なことになりそうなので、一つ棚を挟んだ向かい側に隠れる子達に声を掛ける。しゃがんでまで隠れなくとも偶然を装って合流したらいいものを……。
「そ、そろそろ出ようと思ってたわよ」
「え、ええ。その通りですの。タイミングを測っていただけですわ」
「う、うむ」
「鈴にセシリアに箒まで!? 何でここに……」
他の客からは注目されまくっていたというのになんで気付かないかね~。やれやれだ。
それにしても……大所帯になってしまったものだな。数えてみると一夏を始め10人になっていた。このままじゃ邪魔になりそうだし、折角ここまで来たんだ。いっそのこと必要なものを買っていってしまうか。
「響、いくぞ」
「はぇ?」
「一塊になっても仕方ないだろ? あいつらはあいつらで何とかしてもらうとして、買うもの買って帰るぞ」
「お義兄様、私は……その…………んぅ?」
ラウラ嬢が何か言おうとして口ごもり、躊躇う素振りをするのだが、わざわざ言わせるほど俺も変な嗜好はも持ち合わせていない。
呵々と笑い、ラウラ嬢の頭を撫でて言葉を遮った。
「言わずとも良い良い。お前はお前のしたいようにしな。……ただし、後悔しないように積極的に行くんだぞ」
「ふぁ、ふぁい!」
いやはや初心だな。耳元でそっと囁くと真っ赤になってしまった。それでも元気な返事が聞けて満足、満足。
「あ、おい! 踊達も一緒に……」
「遠慮させてもらう。一夏よ、ラウラ嬢のことは頼んだぞ」
一夏が止めてくるが、それを無視して俺たちは団体から離れた。
「何を話してたの?」
「老人のお節介。もしくは義兄の節介だ」
「んー?」
新しい妹のために-、ってな。
「ま、良いじゃないか。気にするな。さて、まず何が必要だ?」
「はーい。水着は……、一兄達の後にするとして、タオルとか洗面用具とかかな?」
「了解、なら行くか」
水着以外で女性に必須らしい各種を買いあさった後、俺たちは服屋に来ていた。響が服を見たいらしい。うーん……、やっぱり洋服ばかりだな。
「この服かわいい! こっちもかわいくていいな~。こっちは大人っぽくなれそう」
ふりふりで裾の短いワンピースや縞模様のシャツ、ドレスのような黒のスカートと目移りが激しい。
「踊君! 踊君! どう、似合いそうかな?」
「あまりこういうのはわからないが……、似合ってると思うぞ」
「えへへっ」
ガングニールも含めて響は黄色のイメージが強い。しかし伊達に美少女とされる子達の輪に入ってないと言うことか、赤や水色などどの服とでもよく似合っていた。
色々な服を見たり試着したり、そして偶に俺と服を重ねたりしては楽しそうにする響を見て、俺は安心した。
「響もちゃんと女の子らしい一面があったんだな」
……1つおかしいのは別として。
「それはどういうことかな」
色気より食い気を地で行っているように思えてならず、女として大丈夫なのか心配していたのだが杞憂だったようだ。変なセンスもしていないみたいで、ただ着飾るのを最低限にしていただけなんだろう。
「うわっ、高っ!?」
……食費代に服代が圧迫されている感が半端ないというのは言ったら負けか?
「どうしたんだ? 買わないのか?」
「うん。今回は止めとく……」
妹というのはどうしてこう胸に仕舞いたがるのかね。このくらい兄に頼ってくれれば良いものを。
「色々試着させてもらっといて何も買わないは失礼だろうが、まったく」
響が気に入ったように見えた中から上位3つと、俺に合わせられた中で最もマシな物を選んだ。
「店員さん、この4点でお願いします」
「は、はい! ありがとうございます! ですが……」
店員が少し困った表情をする。買ってもらえるのは嬉しい、けれど合計額を考えるととても学生には払えるものじゃない、と言ったところか。
「大丈夫です。会計しちゃって下さい」
「え? 踊君!?」
「これくらい気にするな」
6つの数字がならぶ画面を見て響が慌てるが、んなもん知らぬ。袖の中に仕舞っていた厚みが微妙に異なる薄い包みを二種類取り出してレジに置く。そして反対の袖からはちょっと大きな赤丸白地の蝦蟇口を落として手に持つ。
「ー♪」
消費税って面倒くさいなんて思いながらも、鼻歌交じりに小銭を取り出す。面倒でも久々の買い物なのだ。小銭を出すという動作が懐かしくて楽しいのだよ。ちょっとくらい舞い上がらせてくれてもいいだろう。
「ちょ、ちょうどお預かりします。」
「どうもありがとうございました」
詰めて貰った紙袋を手提げ、呆けた響を連れて店を出る。
「……よ、踊君。踊君」
「ん? なんだ?」
復活して早々、響が躊躇いがちに声を出した。俺を見る顔がどこか引きつっているように見える。
他に欲しい服があったんだろうか……、やはり聞いてから買うべきだったか? しかしな……。
「踊君って普段いくら持ち歩いてるの?」
「え?」
「なんであんな大金がぴったり出てきたのかなーって」
「あぁ、なんだそんなことか。他に欲しい服があったわけじゃないのか」
「それはないよ! 全部、私が良いなって思った服だったよ!」
詰めよるかのような強い物言いで、俺の目が狂ってなかったことを教えてくれた。
「そうか。そんなに不安そうにするから心配したぞ」
「ごめん、ごめん。聞いて良いのか迷っちゃって。……そ、それでいくらくらい持ち歩いてるの?」
聞かれたのでちょっと考える。でも面倒なので計算の方はしなくても良いや。
「日本内なら1万から20万の入った封筒が2組と、千から九千までを入れてる封筒が2組、後は、各硬貨10枚入った蝦蟇口が一つだ。ああ、勿論買い物に行く時だけだぞ」
「…………………………何でそんなに持ってるの!?!?」
「世界中を回ってると金は自然と集まるし、しかも使わないからな」
悪人からちょこちょこっとしたりはしてないぞ? 大昔やっていた傭兵業的な感じで、極稀に来る死神宛ての救援を受けた礼金だ。全部現金先払いでしていて、預ける銀行もその国以外の世界各地に振り分けているため足も着くことはない。
「さ、後は水着だったな」
「うん」
こうして当初の目的も第二の目的も忘れて、俺は響と共に今日という休日を楽しんだのだった。