戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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 ようやく長く続いた戦闘パートが一旦の幕を閉じました……。7話も戦いが続くなんて……。
 流石、踊君。勝手なことをして下さるよ……。


第肆拾話

 我は再び帰ってきた。この独の地に。

 死を宣告せし姿でなく、(聖踊)としてでもない、我という個として。

 本来ならば我が朋の名を名乗り、悪行を侍らす不届き者の断罪もこの手でせねばなるまいが、其れはは我が私怨でしかあらぬこと。其方は死の者として今晩にでも告げる。

 故に今から告ぐは我が罪の精算がために。

 腕を掲げねばその柄に届かぬ程の巨の剣を大地に突き立てる。

 

「……我は己が過ちによりて、共に生くと定めし共が名と彼の身に懸けて誓いを穢してしもうた。故に我は共に贖おう。この身の全てを懸けて、この罪、我がこの手にて償おう……」

 

 膿を廃しきったと我が怠慢してしもうたために、我を手伝うてくれた娘を苦しめる羽目になってしまった。

 故に我は此度の戦、あの娘に捧げる聖戦となす。

 ドイツ軍本拠の眼前、数多の鉄の荷車と羽根付きに囲まれた中で、我宣言す。

 

「今日この日をもって、ドイツ軍を解散する!!」

 

 地面を突き砕き、我が武を正面へと振り抜いた。

 

 

 

 そしてわずか3時間ばかりが過ぎ、天上を超えてから始まった内戦はドイツ軍の降伏によってその日が沈む前に終結した。

 

 

 

「調子に乗る出ないわ。畜生が」

 

――バルバルバル……

 

 空を飛んでいるのは撮影していた報道局のヘリだけ。

 再び最初の剣を地面に突き立てた姿勢に戻ったイートの辺り一面には、ぶつ切りにされた戦車や斬られたり潰されたりと悲惨な戦闘機、それと申し訳程度のISの四肢が累々と転がっている。

 鉄の荷車こと戦車はイートの振り回す暴力で豆腐のように斬られ、そのままゴルフボールの如くナイスショットでやりたい放題に飛ばされ、羽根付き呼ばわりされた戦闘機はそんな飛んできた戦車の残骸に下敷きになったり、軍に辛酸を舐めさせられていた一部のIS部隊や戦闘機部隊なんかの反旗を翻した人達に総攻撃を受けて墜落し、軍側のIS部隊はイートとあの人(仮+笑)が無双し特に被害なく即壊滅した。

 仁王立っていた踊の後ろに数機のISが降り立つ。

 

「すまないな。このような争いに巻き込んでしまって」

 

 彼女たちの顔を見ずとも誰なのか既にイートはわかっていた。何せ短い期間と言えど部下だった者達なのだから。

 

「そのようなことはありません! 軍のやり方には我々も常々疑問を抱いておりました。そして今朝方、隊長の身に起きたことも聞いています。これは私たちが選んだことです」

 

 イートと言葉を交わす女性だけでなく、その後ろで頷く女性達も拳を強く握り震えていた。激しい怒りを堪えるために……。

 もう気付いているだろう。彼女たちの隊長がいったい誰なのか。

――『黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)

 ラウラ少佐が率い、イート特別指揮官が最も信頼した元ドイツ軍部隊の精鋭たちだ。

 

「それだけではありません!!」

 

 後ろの一人が声を荒げて、イートに訴える。

 

「あいつ等は、ラウラ隊長を貶めるだけでなくその罪を! 私達に、クラリッサ副隊長に押しつけたんです!!」

 

 その女性は人一倍感情の振れが大きかったようだ。涙という雫が頬を伝わった。

 

「そうであったか……。すまない。我のせいだ。私がもっと深く根絶出来ていたならば、このようなことにはならなかった」

 

「あ、頭を上げて下さい! 本来ならこれは正式に軍に所属している我等がしなければならないこと! 旅人の貴方には感謝こそすれど、怨むことなど何一つありません!」

 

 深々と頭を下げるイートに元部下達は大慌てだ。クラリッサが声を掛けるもイートは一向に下げ続ける。

 そうして生まれたあうあうとした空気が両者の周りを取り囲むのを見かねた者がいた。

 

「そう言う訳には……「謝ることが常に正しいとは限らない。そういうものだぞ、若者よ」……! ヴァルファ殿!?」

 

 もう一人の援軍、死神ヴァルファが彼らの向かいにゆらりと現れた。

 

「貴公も忙しであろうに……。協力、感謝いたす」

 

「だから下ろさない。こっちも一段落付いたところだったから、ちょっと出張ってみただけさ。ナイスファイトだったぞ」

 

 再び下げようとした頭を抑えイートに拳を出させると、ヴァルファは拳を突き出してその健闘を称えた。

 

「呵々! ではな、少女諸君!! まだやらなきゃならぬことが多々あるので先に失礼させていただく。……お前の名に恥じぬ、絢爛たる闘いだった。さらばだ、聖戦(ジハード)!」

 

 暴れたいだけ暴れ、言いたいことだけを声高らかに咆え、彼の本来の読み名で呼ぶと、ヴァルファは颯爽と去って行った。

 

「……ふっ、やはりしっくりくるものだな。正しく呼ばれると。さて、我も急ぎ帰るとするか。教諭には黙ってきてしもうたのでな。どやされに行かねば」

 

「あ、はい。確か、ラウラ隊長と同じIS学園に所属されていらっしゃるのですよね。隊長のこと、よろしくお願いします」

 

「我よりも適任者が向こうに居る。案外、近いうちに相談されるかもしれぬが、できることはしよう。我等の全てを掛けて」

 

 獰猛なウインクとでも表せば良いのか、頼もしいのか恐ろしいのか疑問の残る笑みを見せて青年もまた帰って行った。

 

 

 

「凄ぇ……。千冬姉並にあいつも化け物染みてんな……」

 

 食堂で飯食いながら、俺たちいつものメンバーで哀愁を漂わせていた。

 何故かって?

 そりゃそうだろ。付いていたテレビのニュース番組でドイツの内戦の報道を始めたからって何気なく見ていたら、戦車を叩き上げる踊の姿が映ったんだぞ!? あの時は余りに驚いて吹きだしそうになった。

 しかも踊はドイツ軍を相手に一人で戦争をふっかけ、死神と3割に届かない反乱軍を背にし3時間で内戦を勝利で終結させたらしい。それも生身、ドントユーズISでだ。踊が強いことはわかっていたが、ここまではっきり見せられたらそりゃ凹む。

 

「踊君だからとしか言えない」

 

 響だけだ、呆れてるだけですんでるのは……。

 最後まで飛んでいたヘリが何か話している踊達にズームアップする。残念なことにこそこそ声に距離が離れているのもあって会話は拾えてなかった。

 ……のだが、死神が去る時楽しそうに発した大声だけは拾ってくれた。

 

『呵々! ではな、少女諸君!! まだやらなきゃならぬことが多々あるので先に失礼させていただく。……お前の名に恥じぬ、絢爛たる闘いだった。さらばだ、聖戦(ジハード)!』

 

 ジハード? 死神は踊をそう呼ぶと立ち去った。

 

「あ、そっか……。だからわからなかったんだ」

 

「どういうことだ?」

 

 手を打って何かをシャルが納得する。できることなら俺にもわかるように説明して欲しいところだ。

 

「うん。ずっと気になってたんだ。どうしてフランスとドイツは隣同士なのに踊のこと――正確にはイートだけど――誰も知らなかったんだろうって」

 

「そういやそうだな……。フランス政府がザルとか?」

 

「ううん。そうじゃなかったんだ。ちゃんとその情報はフランスにちゃんと入ってきてて、僕も何度か聞いていたんだ」

 

「ん? んん??」

 

jihad(ジハード)ってね」

 

 それってさっき死神が言ってた言葉だな。たしかどっかの国の言葉で聖戦だったか? ……踊にピッタリだな。まさに聖の戦いってか?

 

「聖戦って言うくらいだから、僕達フランスはそれを何かの隠語と考えていたんだ。まさか人の名前だったなんて思わなかったよ」

 

 ちょっと想像してみる。絶対俺もするわ、……しかも真っ先にしそう。

 

「でもなんだってそんなことになっちまったんだ? ジハードとイートじゃ全然違うだろ」

 

「あはは、仕方ないよ。国によって発音って少しずつ違うでしょ? ドイツにも独特の発音があってね。そのせいなんだ」

 

 聞くと、大体の言語はアルファベットをローマ字発音すれば大体は何とかなるのに、ドイツは本当に特殊だった。

 

「jは日本語でヤ行の音。hは前の母音を伸ばす長母音。語尾に付くdはtの音に、英語でいうところの過去形のdの発音みたいなのかな。ドイツ語っていうのはそんなふうになってて、それでこのジハードを発音するとyiiat(イーアト)、言いやすく発音が変わってイート。流石に気付けないよ」

 

「面倒くさ!? でもなるほどな……」

 

 シャルは博識だな。よくドイツ語の発音もできるとか。

 

「そんなことはどうでも良いのよ!」

 

「明日からもっと特訓しませんといけませんわ!」

 

 だ、代表候補の二人がなんか燃えてらっしゃる……。いったいどうしたというんだ。

 

「こんなに差を見せつけられたのよ! じっとなんかしてられないでしょ!」

 

「鈴さんの仰る通りですわ! 代表候補生たる私が差を付けられたまま終わるわけにはいきません! 一夏さんもそうでしょう?」

 

「だな。確かに乗り越えなきゃなんねぇ壁のでかさを改めて思い知らされたけど、だからって諦めるわけにはいかないもんな。やるからには追い抜かねぇと」

 

 壁は大きい方が燃える、それが男って奴だ(……鈴もセシリアも女だが)。とりあえず明日から特訓増やしていくか。

 

「……やっぱり踊君は、何処まで行っても聖なんだ。そだ、ちょっと調べてみようかな……。……あはははっ」

 

 そう決心している隣で、響は一人でぼそぼそと何か呟き一人で苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「……やっぱり踊君は、何処まで行っても聖なんだ。そだ、ちょっと調べてみようかな……」

 

『調べるの私ですけどね』

 

「……あはははっ」

 

 こんなやりとりが一夏の隣では行われていたそうな……。

 




 これ以上戦いが続くとへとへとぐだぐだになる(え? もう既に? アーアー、聞こえなーい)ので最後のドイツ軍戦はばっさりカットしてしまいました。
 後半の件、イートの正式名、ジハードの発音は飽く迄この世界限定の話です。例え間違っていても気にしちゃ、めっ! です。フランス語も珍しい発音するじゃん、ってツッコミも、めっ! です。

 そして近況報告~
 シンフォギアライブ2016、今更ながら2月27日の先行に通りました! けれど28日のほうは落ちてしまった……。トホホです……。

「一個通ってるんだから良かったじゃん」

 確かにそうなんだけどね。でも折角東京に行くんだから二日とも見たかったんだよ。

「休日は家から出ない癖に?」

 グワッフぅ!? それは言わないお約束……「してないよ?」……。

 そ、そんなことより『戦姫絶唱シンフォギア ~子の為に人を止めたモノ~』を読んで下さっている中にも、ライブを見に行く人がいるのかな? 
 また三日と半日後に、最近ちょっと気になる円小夜がお送りしました~、てことでさらばです!

「あ、逃げた」

 あ、あと感想も待ってます。

「それだけは言っていくんだ……。皆、またね~」」

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