戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
「んみゅぅ……。うぇ?」
目が覚めると見知らぬ天井が……、て思ったけどやっぱりそんなことはなくて今回は入学式の時にお世話になった保健室だった。
んとなんでここにいるんだろ? 確か朝起きてご飯食べてちー姉に扱かれて昼にご飯食べてまや先生の授業を受けて夜ご飯を食べ……る前に
「あぁ。私……、暴走しちゃったんだ」
初めて暴走した時と体の気怠さがよく似ていたし、記憶がほとんど抜け落ちてるのもあって間違いないと思う。
「あ、響も目が覚めた?」
「鈴ちゃん! 怪我は大丈夫なの?」
「こんなもん平気よ! ……あたたっ」
肩を回して強がろうとしたみたいだけど傷に障ったらしい。ぴくぴくとして呻きだした。突いたら楽しいだろうなと思うけど治った後に引っ掻かれそうだから今は止めとく。やる時は闇夜に紛れつんつんと。
「安静にしてるよう言われたでしょうに……」
「う、わかってるわよ~。……ハァ」
「セシリアさんは?」
「私も安静ですわ」
そう答えるセシリアさんの顔には一方的にやられた悔しさが顕著に表れていた。1対1ならいざ知らず2人で戦って負けたとなるととっても悔しいものだ。初めてクリスちゃんと戦った時みたいな気分に陥ってるんだろうな。2人ともすっかり落ち込んでいる。
「お、皆起きてるな」
「やっほー、一兄」
「「一夏(さん)!?」」
ガラガラと扉を引いて入ってきたのは一兄とデュノア君の2人、元気なことをアピールしたら一兄には苦笑されてしまい、
「2人はともかく響までもう目を覚ましてるの!?」
デュノア君には目を丸くされた。暴走した時に何をしちゃったのかわからないけどそんなに驚くことじゃないと思うんだけど……、の前にあれからどれくらい時間が経ってるんだろ?
えっと……、へぇ、まだ2時間程度なんだ、日付も変わってないし。
「千冬姉に叩きつけられてたけど、もう大丈夫なんだな。これは絶対防御を褒めるべきなのか響のタフさに呆れりゃいいのか……」
「……暴走してなかったら危なかったかも」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
暴走したあとのことをそれとなく2人に聞いたら、いつものとは随分違いがあって驚いた。真っ黒にはなってなくて白がなくなっちゃった程度ですんでいたらしく、無差別感も形を潜めた感じ? とにかく壊すと言ったこともなかったようだ。
「何はともあれ2人が無事で良かった良かった」
「まあ別に助けて貰わなくても良かったんだけどね」
「そうですわ。あのまま続けていたら私達が勝ってましたわ」
あらら、さっきまでの素直さはどこに行っちゃったのやら。
「お前らなぁ……。響がやってなかったら……はぁ、まぁいいか。2人とも怪我が大したことなくて良かった」
「「ふんっ」」
「たく、元気だな」
2人の強がりに一兄も呆れてる。でも2人がなんでこんな態度を取るのかは一兄みたく朴念仁じゃないからわかる。
「好きな人に格好悪いところを見られちゃったんだもんね」
温かい目を2人に向けているデュノア君の呟きはとても的を射ていた。
「な、なななななにを言ってるのか全然わからないわね?! こ、これだから北欧人は
困るのよ」
「べべ、別に私はっ! そ、そう言う邪推は止して欲しいですわ!」
要するに2人とも恥ずかしいのだ。しかも人伝じゃなくて途中からだったけど私が暴走するまでずっと直接見ていたし、2人とも凄く慌てている。
「ん?」
でもやっぱりその辺は慌てるだけ無駄だったりする。本人が聞き取れなかったみたいだから。一番近くにいたはずなのにね~。
一兄はしばらく不思議そうに首を傾げていたけど、聞いても仕方がない、もしくは自分とは関係ないことと判断してしまった
「ま、先生も落ち着いたら帰っても良いって言ってるし、しばらく休んだ……ら?」
ドドドドドッ!
急に床が揺れ出した。最初は遠くて気付かなかったけどこの揺れは妙に重たいプレッシャーを放ちどんどん近づいてきていた。一兄も何だと眉をひそめ震源っぽい方向に目を向ける。
そしてその震源は扉を挟んだ向かいに到達するや否や、
「ひぇっ!?」
ドガーンッ! と吹っ飛んだ扉が私の真横を通り過ぎ、壊れた入り口からは大量の生徒がなだれ込んできた。隣に倒れてる鋼鉄とまではいはないけど、それでも金属製の扉がくんねり拉げていて、すれすれの所にいた私は心臓がばくばくです。
木製だけでなく、金属製の扉まで宙を舞うこの学園に恐怖を覚えるのは私だけじゃないと思う。
「「「一夏君!」」」
「「「デュノア君!」」」
鬼気迫る突撃に私たちが固まっていると、先頭にいた1人の子が一枚の用紙を突きつけてくる。えっと、なになに?
「『今月開催する学年別トーナメントではより実践的模擬戦を行うために、2人1組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする』……へぇ~、ペア戦になったんだ」
さっきのが原因なのかな? それともこの前のゴーレム騒ぎのせい? うーん……どっちもか。2人で戦ったのに連携が全然で1人にあしらわれてしまい、逆に集団戦を掛けられ危険な状況に陥ってもいる。
本来ならモンド・グロッソに関する内容を優先したいはずだけど、こんな状況じゃ学園側も悠長なことは言ってられないんだろうな。
「「ペア戦……」」
一兄もデュノア君もいきなりのことに戸惑っていた。
「一夏君、私と組みましょう!」
「デュノア君! 私と組んでくさい!」
そんな2人に追撃を掛けるように現れた子たちは手を伸ばす。
「え、えっと……」
「あー……、悪い。俺はシャルルと組む」
「あ、うん。そうなんだ。だからごめんなさい」
ちょっと迷った素振りを見せたけど一兄はデュノア君を選んだ。可笑しくない筈なんだけど、困っているデュノア君を助けるように動いたように見える一兄の挙動のどこかに違和感を覚えた……気がする。
うーん? 何だろう?
「まあ、他の人に組まれるくらいよりは……」
「ちぇーっ」
「織斑君とデュノア君……、これはこれでむしろ……あり!」
「ねぇよ」
大体は納得、一部は不満たらたら、さらに極一部は腐フフなもよう。即座に一兄が否定するものの既に不気味なことを呟いた子は聞いてなかった。いわゆる自分の世界ってやつにどっぷり浸かり込んでいた。
「ふく、何とかなったか」
「……一夏あ」
「あたしと組みなさいよ! 幼馴染みなんだから」
「それでしたら同じクラスである私が!」
ほっと一息、デュノア君も礼を言おうとしていたけど、さっきの子たちと同じくらいの勢い――それも総合的な勢い――で狩人のような目で攻めていた。傷に障らないと良いんだけど……。
「ダメですよ」
ふぇっ!? 陽炎のように唐突に掛けられた声に驚いたのは私だけじゃなかった。皆揃って目を見開いていた。
「先程おふたりのISの状態を検査させて貰いましたけど、ダメージレベルがCを超えています。当分は修復に専念しないと、後々とんでもない欠陥が生じますよ。ISを休ませる意味でも、今度のトーナメント参加は認められません」
いつもより真剣……っていったら失礼だけど、普段からは考えられない強い口調に気圧されて、2人とも大人しくなる。Cを超えて運用すると後で困ることになるっていう話は聞いたことがあるし、代表候補生となるとその辺も詳しいのだ。
「わかりました……」
「は~い……」
あっさり大人しくなってくれたのでもう大丈夫かな、と思ったら一兄が爆弾を落としてくれやがった。
「ところで、なんでラウラとバトルすることになったんだ?」
うん。その一言で、鬼のように怒った2人にズタボロにされてしまったのは言うまでもないことだと思う。
唐変木もいい加減にしないと近い将来後ろから刺されるよ、と忠告するべきなのかな……。