戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第弐拾漆話

 二ヶ月の体験を経てちー姉監督の実戦訓練が今日から始まります。

 

「つぅ……、何かというとすぐにポンポンと人の頭を……」

 

「……一夏のせい一夏のせい一夏ノセイイチカノセイ……」

 

 元気いっぱいにいってみよー! て思ってたのにお隣のお隣と斜め後ろからおどろおどろしい怨念を感じます……。

 見なくても誰かわかる。セシリアさんと鈴ちゃんです。随分ギリギリに駆け込んできた一兄に詰め寄った結果、ちー姉の逆さ鱗にもたれかかっちゃったために無慈悲の代名詞出席簿(ネ……じゃなくて紙製)に捕食された。

 一兄を怨むのはいいんだけど時と場所は選ぶべきだったと思うな……。

 

「今日は少々予定を変更して戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりに漲っている十代女子もいることだしな。――凰、オルコット!」

 

 あらら、やっぱりちー姉にロックオンされてしまったみたい。

 

「な、なぜ私が?!」

 

「一夏のせいなのになんでアタシが……」

 

「専用機持ちはすぐに始められるからだ。いいから前にでろ」

 

 他にも専用機持ちはいるのに狙い撃たれ、二人とも不満そうです。

 

「お前ら少しはやる気を出せ。……あいつにいいところを見せられるかも知れないぞ?」

 

「やはりここはイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットの出番ですわね!」

 

「まぁ、実力の差を見せつける良い機会よね! 専用機持ちの!!」

 

 うまいこと乗せられてちゃってるよ……。踊君や未来にご飯で釣られまくってる私が言えたセリフじゃないけどね……、……二人とも料理が上手なんだもん仕方ないじゃん。

 

「それでお相手はどちらに? 私は鈴さんとの勝負でもかまいませんが」

 

「上等よ。返り討ちにしてあげるわ」

 

「慌てるな、バカ共。対戦相手は――」

 

 キィィーンと空気を裂く時みたいの音が上空から聞こえて?

 

「ど、ど、どどどいてくださ~いっ!!」

 

 声の主はまや先生でした。で、ラファールに乗ってます。……そこまでは問題ないんだけど、何で落ちてくるの!? ISを持ってない生徒は蜘蛛の子を散らすように大急ぎで逃げる。他の専用機持ちはISを部分展開して衝撃に備えた。

 ……ちなみに私は超特急で逃げましたよ。通常展開すら真面にできないのにそんな咄嗟になんて無理です。

 でもそこまでする必要はなかったみたい。

 

「やれやれ元代表候補生だったのであろう? そんな貴女が何をやっているのだ……」

 

「あれ?」

 

 踊君グッジョブ! 墜落寸前で高速なまや先生を抱え上げると、踊君はその力を回転に変えてバレエのように片足で優美に回って受け止めた。所謂、お姫様だっこって奴です。ちょっと羨ましいのはここだけのお話。

 

「す、すみません……」

 

「もう少し自信を持ってはいかがですか?」

 

「善処します……」

 

 教師が生徒からアドバイスをもらってる状況もおかしいけど、二人の実年齢的には数字を除けば間違ってないんだよね~。……素でISを持ち上げてる姿が異常すぎて私たちからすれば歳なんて気にしてる場合じゃないんだけど。

 

「いつまでそうしているつもりだ。山田先生、準備は出来ていますね?」

 

「あ、はい」

 

 ちー姉もそっち側でした。

 

「お前達もさっさと用意しろ」

 

「は、はあ…………、って、二人でですか?!」

 

「いくら何でも流石にそれは……」

 

 再起動を果たしたセシリアさんたちが詰め寄ったけどちー姉は淡々とと進める。まや先生もおどおどした態度は変わらないけど、ちょっとだけ瞳の奥に宿る目の色が変わっていた。代表候補生だったっていう話は噂話とかで何度か聞いたことがあったけど、本当だったんだ。

 

「安心しろ。今のお前達ならすぐ負ける」

 

「「なっ!?」」

 

 二人とも癪に障ったらしく闘志が剥き出しです。でも私もこの二人組(・・・)ならまや先生一人でも余裕だと思う。

 

「はじめ!」

 

 後先考えずセシ・鈴ペアが先に空へ上がった。まや先生は冷静に二人の動作を見て飛翔の動作を取った。

 

「やってやろうじゃないの!」

 

「手加減は致しませんわ!」

 

「い、行きます!」

 

 声だけでまや先生が緊張しているのがわかる。戦闘に自信がないとかそういった卑屈な緊張じゃなくって、たぶん見ている私たち生徒に伝わるかどうかとか、ちー姉のダメだしを受けない動きをしないととか、そういった感じの。

 先に仕掛けたのはセシリアさんです。飛び立った時に切り離していたビットで奇襲したみたいだけど、まや先生には然程の驚異になっていないっぽそうです。

 

「さて、今の間に……デュノア、山田先生の使っているISの解説をしてみせろ」

 

「は、はい!」

 

 空の戦闘を眺めつつシャルル君の説明に耳を傾けた。

 

「山田先生が使用されているISはデュノア社製の『ラファール・リヴァイヴ』です。第二世代開発最後期の機体ですが、その性能は高く初期の第三世代型に劣らないもので、安定した性能と高い汎用性、また使用できる後付武装が豊富であることが特徴の機体です。そして特筆すべきは操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ぶことなく、搭載する武装に応じた近中遠防全タイプの役割に切り替えができるため、現在配備されている量産型ISの中で世界第三位のシェアを持っています」

 

「いったんそこまででいいぞ。……そろそろ終わる」

 

 ぼんやりと見てたけど、まや先生射撃うま。セシリアさんが可哀想なくらい見事に誘導されていく。精密射撃だけで言えばクリスちゃんを超えてるんじゃないかな。ビリヤードとかいう銃弾弾きみたいな反射神経とか別の能力も必要なのは除いて、だけどね。

 あ、鈴ちゃんとぶつかった。

 数の暴力って言葉があるくらい数に差があるとその分だけ相手より優位に立ちやすくなれるんだけど、連携が取れないとむしろ超不利になっちゃうんだよね~。冷たい目で見られてた頃の翼さんとの共闘でそれが身に浸みてます。相手がツンデレクリスちゃんじゃなかったらどうなっていたことか……。

 あの頃を懐かしんでる間に絡まっている二人の元にグレネードが投げ込まれて真っ逆さまに落ちてきた。

 

「うぅ……、まさかこの私が……」

 

「アンタ、何面白いように先読みされてんのよ……」

 

「鈴さんこそ、バカみたいに衝撃砲を撃ちまくるのがいけないのですわ!」

 

 罪のなすりつけあいが始まってしまった。専用機持ちとか代表候補生とかその辺りの威厳が暴落してる気がします。

 

「阿呆か、主ら程度の腕で山田教諭をどうこうできるわけがなかろう」

 

「「なんですって!?」」

 

 踊君がヒートアップする二人に水を差した。いや、油を注いだのほうが正しいかな。余計に怒りが増してる。

 

「織斑教諭、山田教諭は貴殿の(・・・)後輩ですよね」

 

「ああ、私の(・・)後輩だ」

 

 何だか随分と含みのある言い方です。

 

「やはりそうでしたか」

 

「どういう意味よ」

 

「わからぬか? 山田教諭はこの織斑教諭の(・・・・・)後輩だと申しておるのだ」

 

「それは担任と副担任なんですから山田先生が後輩だったとしても至極普通のことではありませんか」

 

 踊君が何を言いたいのかさっぱりわかりません。もうちょっと率直に言って欲しい。

 

「やれやれ、まだ気付かぬのか。代表候補生に選ばれる実力に、織斑教諭の後輩で年齢も近い、これだけあれば気付けるだろうに情けぬぞ。山田教諭は教師としての後輩だけでなく代表候補生として同時期に国家代表を修めていた織斑教諭の後輩でもあるのだよ」

 

「あ、ホントだ。時期がほぼ一緒だ」

 

「故に山田教諭は他の誰よりも近く織斑教諭の試合や訓練を見ることができた。そのような御仁が代表候補に成り立てのものに負けるわけがなかろう」

 

「ちなみに言っておくと、山田先生は同期の者達の中でトップの実力を持っていた。射撃だけに搾れば世界でトップクラスに入る程だ」

 

「そ、そんなことはありませんよ~! 私なんてダメダメで織斑先生にそんな風に仰っていただけるほどじゃないですから!」

 

「……とまあ、このように極度の緊張しいで卑屈なのが災いして国家代表にはなれなかったがな」

 

 ちょっと想像しようとしてみたけどまや先生に国家代表は合いそうになかった。観客の前でカチンコチンになってしまう以外の姿が想像できません。

 

「嘘でしょ……」

 

「し、信じられませんわ……」

 

 まや先生の予想外の腕前に二の句が出てこない。

 

「さて、これで諸君等にもIS学園教員の実力は理解できたな。以後は敬意をもって接するように」

 

 ちー姉がパンッと柏手をならしてくれた御陰で皆の意識が切り替わった。

 

「専用機持ちは織斑兄、織斑妹、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒと凰だな。それでは7人のグループになって実習を行ってもらう。各グループリーダーは専用機持ちと聖がやること。いいな? では分かれろ」

 

「よろしいのですか? 我がリーダーを修めさせていただいて」

 

「専用機持ちを退ける腕を持つお前が今更誰かに教わる必要があるか? (それにお前がその気になれば自分用の専用機を用意するのも容易いことだろ?)」

 

「まあそれもそうですね。織斑教諭の配慮感謝いたします。(その予定はないがの)」

 

 やっぱ踊君も教える側に立つんだ。ちゃんと教えられるかもわかってないのに、踊君に操縦を教えろとか言われたら私たちが困ることになるから助かります。それに教える人の人数もその分減るし万々歳です。

 

「織斑君、一緒に頑張ろう!」

 

「デュノア君の操縦技術が見たいな~」

 

「この馬鹿者どもが!!」

 

 あははは……、男子二人の元に好き勝手に密集していた女の子たちに雷が落ちてようやく本来の授業が開始されるのでした。


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