戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
「呵々っ……か、はは。これはキチーな。よくもまあこんなこと繰り返してこられたもんだね。けはっ!」
先輩の真似して笑ってみたけどこりゃ酷ぇ。あーあ、口ん中が鉄味してら。口内に堪った血、っぽい先輩方が研究し検証を繰り返して作り出した燃料を吐き捨てる。
脇腹は貫かれてるし、ビームも殴打も割と喰らっちまったせいで結構ボロボロだ。だってのにこれでも単純な破損率だけで見れば18%と優秀な域を保っている。実際、脇腹のん以外に目立った外傷はない。
だがそれも戦闘力で見たら絶望を感じるほど下がっている。割合にして7割強だ。原因は単純明快、破損したってのが内面の間接ばかりだってだけ。修復作業も同時進行でやっちゃいるが、いつも通りの戦闘は出来ないに等しい。しかもあたしの専門武器もないからチョー辛ぇ。
それに打鉄も限界が近いし、……わりぃ、今の嘘だわ。もう限界だ。シールドエネルギー残り9で何ができるかね?
「……ま、あと一回くらい耐えてくれるっしょ」
そろそろ目を反らすのは止める。目の前から迫ってくるのは目映いピンク色の点の壁。死なない自信はあっけど、それでも痛いだろうな。……だが、とっくの昔にこれくらいのことは覚悟していたから構やしない。
両肩の盾もどきをはぎ取り射線上に配置、不要なパーツも全部外して盾のかさ増しする。
「……へっ」
手当たり次第にパーツを前に押しだし受ける衝撃を最小限に抑えて粗方流す。守るってのはあたしの領分じゃなくてね。無理に全部防ごうなんてしないし、そんなのは他の誰かにパスだ。あたしはあの盲目娘と共に闘った時のように痛みは全て耐えて耐えて耐え続けるのが性に合ってる。
光が漏れ出る隙間から一瞬黒い影が覗いた。
「テメェだけは潰させて貰うぜ」
仲間の鉄屑の援護射撃で隠れていた黒物は人が動かしていれば隙ありとでも叫んでいるのではないかと思うくらいにビームの真後ろでパンチを構え仰け反っていたが、当てが外れて残念でした。
「これくらい全部貰っといてやるよ。……だからテメェは」
「……!?」
余所の奴ならビームを防いで反撃に移るんだろうが、あたしはあたしの核に従い行動する。
黒物からしたら、盾を退けた瞬間目の前に出現することであたしを驚かせその隙にゴリンッ! ジュウ! とやるつもりだったんだろうが、むしろビームの中から肉を焼け爛らせ血をだらだら流したまま口元を歪ませ笑みを浮かべるあたしが出てきてこいつを動かした向こう側の人物が恐怖に戦いただろう。
「黙ってな!!」
今できる最高の捻りを加え、庇護を捨て去り身体の全てで黒物の顔面に全力を叩き込む。激突で打鉄の拳に罅ができ、犇めき合う力で腕の肉は裂け血もどきは力を込めた先から好き勝手に肉を突き破り体外へ抜けていく。
薄れそうになる意識を叱咤し押し切らんと踏み込む足に力を込める。
「……なッ! カッ!?」
「……!?」
あと少しだった。押し切るすんでのところまで攻め込みながら、打鉄の腕が破裂であたしは為す術無く弾き飛ばされちまい、受け身も取れず壁に叩き付けられた。体内の空気が漏れる。
肘関節が砕けちまったみてぇだ……。壁から剥がれ落ちたのはいいけど倒れ伏したまま立ち上がれねぇ。左手は腱が焼き切れたようで動かず、足も同様……悪けりゃ神経断裂してっかもしんねぇわ。
「……おいおい。マジかよ……」
顔から火花出してる癖にまだ動けんのか。たはは、こりゃ参った。捨て身の突進とでも言えば良いのか、バカでかい推進力を拵えて火花を火炎に変えて突撃を咬ましてきやがった。
しかもその勇士を称えるかのように傷の浅い三機は全門を開き絶え間ないビームの乱れ打ちで物理的な手段を持って後押しする。ビームが当たる度に黒物は炎を大きくし加速してマジでヤバい。
「(こんだけ時間引っ張ってやったんだ……。後は……託したぜ)」
打鉄の絶対防御も切れ完全に解除されているのを確認した。だからあたしは辛うじて見える天に向けて一言だけ言葉を告げた。
「……先輩」
と。
「……ああ、託された」
そう目を閉じたサリュ――後輩に返し、目の前の二つになった物体を見送った。俺が見るのはピンクの光線。一刀のもとに蹴散らさんと今まで使い続けてきた鎌を振りかざそうとしたが、途中で止めた。
この場を包み込む安らかな歌声が聞こえてきたのだ。アレに搭載していたとある力が発現したのが感じられた。そして世界が静寂へと調律されていく。
――Activate "Symphonic Room"――
太陽のように暖かな目映い光球はアリーナのシールドを調律し光の触れる部分を無害なものへと変化させて真っ直ぐ一直線に降りてくる。そのまま光球は俺たちとビームの中間に降り立つと、迫り来るビームを調和して無効化させ掻き消した。
「これ以上は、もう誰も傷つけさせない」
目の前にいたのは俺の相棒で俺たちにとって先導者のような少女、響だ。そして纏うっていたのは、
「って、ありゃ?!」
聖遺物のガングニールではなくISのニールハート。この反応を見るにガングニールを纏ってでも、なんて思ったりしてたんだろう。本当なら別の機会で自分から気付いて使って欲しかったんだけどな。そのためにイアにも教えなかったし。
今、響が使ったのはニールハートに搭載された奏者のための能力『Symphonic Room』、訳はそのまま『調律の間』とでもしてくれたら良い。能力も訳通りあらゆる波を調律し完全に無力化する、矛盾も起こる余地のない無敵のフィールドを張るというものだ。ビーム兵器はもとよりその効果範囲内にある全ての振動を無の状態に揃えるため物理的影響もそれ以外も全てが制限され無害のものと化す。
なんだそのチート、とツッコミが入れられそうだがそう都合の良いものではないぞ。その効果は、『聖詠を詠い聖遺物を起動しシンフォギアを纏う』という一連の動作が染みついたためにかかる10数秒の起動の間だけだ。一度起動してしまえばそれ以降解除しない限り使うことが出来ない。
要するに、"変身中は攻撃しない"という変身もののお約束を守らせるためだけの機能だと認識すれば良い。
「…………」
「あ、えっとよろしくお願いします」
若干の取り乱しを経てやっと俺が隣に立っているのに気付いた。気付くと人々から恐れられている死神として、よそよそしく響がお辞儀してきた。正直な話これで隠せるのか甚だ怪しいが、響だからで片付けてくれることに期待して頷く。
「……1機、やれるな」
「任せてください!」
出会い頭に1機両断したため残りは3機、機械故の連携は厄介だが孤立させてしまえば響でも対応はできるはず。
「ゆくぞ」
「はい!」
合図と共に3体の先頭に立つ黒物を狙い高速な回転を与えて鎌を投げる。その速度は人なら視認できるかどうかの瀬戸際で当たるんだが、ISには見切れる程度なので当たらない。中心にいた奴には空中に逃げられた。
だが、それで良い。
「本命は隣だ」
真ん中の黒物が立っていた位置から手前3mほどの所で鎌の切っ先が地面に接触し、勢いよく跳ね上がった。軌道を大きく変化した鎌は俺の次の動作ばかり注視していた隣の黒物の腹部を容易く捉え、隅へと削りながら追いやる。
そんな常識外れが起こればプログラムで動いている機械共は情報の処理に追われることになり、動きが一瞬止まった。
俺たち2人が作戦を練るのにその一瞬で十分だ。仮面越しに目で策を伝え、響も目で了承の意志を送ってくれたのを受け取る。それだけで本当に一瞬ですんだ。後は速やかに行動に移るだけで良い。拳に力を蓄え、一息で前に踏み込む。
「ふっ!」
まだ地上に残っていた1機の正面から高速で迫り、そして地面を蹴る。
「……ッ…………!」
……真上に。
「………………………………ふぅ、ごめんね!!」
「ハッ!!」
「「……?!?!」」
俺のテンポに併せて腕を盾にしたようだが攻撃しなかったので前につんのめった。それも仕方ない。同素材でできた仲間が縦に斬り分けられたり、隣に立っていたヤツがただ投げただけの鎌にぶっ飛ばされたりで、俺の腕力は脅威と認識されているだろう。俺でも防御に力を入れる。
守りが手薄なところに後ろから追走していた響の雷を握り潰すような自重無しの全力ニールハートのパンチが打たれた。。
俺のほうも、上がりきるまでに何回転もし遠心力を多分に与えた裏拳で空に逃げていた叩き落とす。
「空中にいるからと響が相手になると思ったか?」
呆れるな。IS開発機関の強襲犯として指名手配され、白黒のんでも空中戦闘ができるのは知っているだろうに……。ISがあるからって地上メインで荒削りな響にこっちを任せるわけがないだろ。
「ん」
引き留めていた鎌が手元に返ってきた。浅くてもノコギリのように何十回もガリガリされたら深手になる。見れば、ブーストを使わずふらふらしていた。さっき見せたようなブーストなんて使えばボキッといきそうなくらい深い切れ込みが入っていて、ある程度の力を込めさえすれば蹴るだけでポッキリいきそうだ。ということであっちはそうすることにした。
問題は裏拳で打撃を与えた方だ。背中の装甲に亀裂は入れられたがそれだけの損傷ですんでやがった。やはり頑丈すぎて笑えない。
「……まあ、笑う気も余裕も、そもそもこれっぽっちもないがな」
この試合はガキ共にとって大事な試合だったってことはサリュから聞かされていた。だから俺も全ての調査を保留にして横槍を入れようとしていた阿呆を蹴散らすために同胞らと連携し警戒していたのだ。だがこいつらはこの横槍のためだけに予想外の位置に潜伏していやがった。
太平洋のど真ん中などという面倒な手で。
俺たちが陸地全土に網を張っていることに気付いた何処ぞの誰かさんは誰も近寄らない座標かつ深海の底に拠点を構えそこから襲撃を開始したのだ。やった人も目的も推測できるが、いくら何でも20機で攻めるのはやり過ぎだ。最初の1機は間に合うわけがなく、次の7機にゃ抜かれてしまった。俺を囲い足止めに動いた残りの12機は追いかけ回し羽根をもいで海に沈めておいた。
「すぐに終わらせよう」
そして仕置きの時間を長く取ろう。サリュに預けていた鎌をしばらく返してもらい、二つの鎌を前後に構える。即興奥義、いってみようか。
「煉々!」
「……!?!?!?!?」
不絶の刃を途切れることなく振るい続け至る所の装甲を削り摩擦で鎌が熱を帯びる。それでも構わず連々と斬っていくと刃先が燃料に触れ真っ赤に燃え上がった。だがまだだ。まだ、止まらない。そして延べ百回の斬撃をもって最高点へと上り詰めた。
「獄々」
灼熱の炎が空気を多分に取り込み蒼く染まったその時がこの技の至極、すなわち極々へと至った証し。豪炎と化した二つの鎌は触れた先からバターのように装甲を溶かし、断面を黒焦げにして三枚に下ろすと焼き尽くす。
放置した一機に目をやると、
「ドリャァアアアアア!!!」
かつてのように歌いながら闘う響鬼にサンドバックにされ、最終的に右ストレートでKOされた黒物に衝突してポックリ逝ってしまっていた。
響の描写にしようとしていたのに、無理だった……。
近遠両用のゴーレムⅢや同じ遠距離型でもクリスちゃんのような小回りの利く戦闘ができる奴なら良かったのに、生憎今回のはビームしか取り柄のないゴーレムⅠ。
いくらスラスターの出力が高くても遠距離過多で小回りが利かない近接適正弱の木偶の坊が、初っぱなから「生きとし生けるものの中で最強の男」や「頂点の代名詞」を師に持っている響に接近されてフルボッコにされないわけがなかった。
――響対ゴーレムⅠ(簡略)――
響の雷を握り潰すようなパンチ
ゴーレムの装甲は凹んだ
ゴーレムのビーム乱射
響は目の前にいて射程内に捉えられない
響の真下から抉り込むアッパーカット
ゴーレムは弧を書いて吹っ飛んだ
ゴーレムのスラスター全開で逃げる
響はバンカーのドーピングで回り込んだ
響の獅子が出そうな膝蹴り
ゴーレムは真っ直ぐ地面に突き刺さる
ゴーレムは地面に埋もれて上手く動けない
響の……(以下ずっと響のターン)
…………。
あまりにもゴーレムⅠが不憫すぎて1000字すら書けなかった。