戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第弐拾話

 空から振ってきた突然の乱入者に観客やら教師やらが大騒ぎです。戦々恐々として我先にと逃げ惑っている。しかも物々しいシェルターがこことアリーナの間を断ってしまって二人と侵入者が上手く見えなくなってしまいました。

 

「え、えっとぉ~……」

 

 隣で観戦していたのほほんちゃんも珍しくあわあわしてる。私も何が何やらで内心取り乱したい。もとい殴り込みしたい。

 いや、まあしないけどね。

 

『――いや、先生たちが来るまで俺たちが食い止めます』

 

 燃える一兄の声が聞こえちゃったから。邪魔しちゃいけないかなぁって。

 

「ちょっと、そこの二人! 早く避難しなさい!」

 

「あ! かいちょ~」

 

「かいちょ?」

 

 振り返ると、非常口を目指す観客たちの中からこっちをのぞき込んでいるきれいな人がいた。のほほんちゃんはやっほ~、なんて言って大きく腕を振る。

 

「って、本音!? この非常事態に何してるのよ! 早く手伝いなさい!」

 

「は~い」

 

 二人はお知り合いみたいです。何処かの部活の代表さんなのかな? のほほんちゃんは慌てていたのが嘘のように女性の指示を聞くと先生たちに混じり長い袖をパタパタ揺らして観客の誘導を始めた。でも「こっちだよ~」とか「いっそげ~」で気が抜けそうなゆったりしたものだけど。

 

「ほら、君も早く」

 

 うにょ、速い! ちょっと気をそらした内にもう真横に来ていた。私に似て活発そうな人、だけど多分私の何倍も賢そうな雰囲気……。じゃなくて、

 

「その、ごめんなさい。私はまだここに残ります」

 

「何言ってるの!? すぐに避難しなさい」

 

「できません。一兄や鈴ちゃんが闘っているのに私だけ逃げるなんてイヤですよ。私はここで二人を応援し続けます。かいちょーさんは他の人の避難を優先してあげて下さい」

 

 戸惑うかいちょーさんにそうお願いして、シェルターを眼前に一兄たちの戦闘に耳を傾ける。

 本当なら私も手伝った方が良いんだろうけど、十分人いるし行かなくても良いんじゃないかな。それに……、私は球状のシェルターに沿ってアリーナの外周を駆ける。

 

「……えっ?」

 

「ハッ!」

 

 非常口に向かって走っていた生徒に飛びついて横飛びに転がる。その後ろを射貫くように桃色の砲がシェルターを貫き客席に穴を開けた。

 

「大丈夫ですか? 急いで」

 

「は、はい」

 

 同級生かな? 青いリボンを付けた女の子を見送り、焼けてトロトロのシェルターから覗いてみる。シェルターがあってもちゃんと遮断フィールドも生きているようす。これら纏めて貫くってなんとも恐ろしや。

 

『遮断フィールドレベル4を確認。推定される威力はニールハートの全力と同格です』

 

「二人とも大丈夫かな……」

 

 フィールド越しに見上げると上空で飛び回る3つの影があった。数の利が霞むくらいの猛攻が二人諸共アリーナ内を滅茶苦茶に砕いていく。

 

「そんな……なんで、なんで開かないのよ!?」

 

「っ! 退いて! いったい何が?」

 

 避難口に詰めかけていた人たちが何だか騒がしい。

 

『……………………外部からの攻撃を検出。全通路完全閉鎖を確認。いわゆる袋のネズミ的な状況になっちゃってます』

 

「外部からの攻撃?」

 

『はい。恐らくあのISが学園のサーバに侵入しジャックしているのかと。こちらでもなんとか取り戻せないか試みますが、ガングニールの破片から派生したISのコアでしかない私だけじゃ時間は相当掛かりそうです』

 

 踊さんの中せめてもう少し多くのISコアを介することができれば、なんて愚痴をこぼしながらもアリーナ内のシステムを取り戻すべく電脳内を駆け巡ってくれる。

 残念なことに私にできることはまだない。だから私はさっきと同じように一夏の勝利を信じて待つ。

 

「勝って、一兄」

 

 

 

 この試合はアタシにとって、とっても大切な試合だった。……なのに、なのにこいつはその邪魔をした。

 

「だから、とっとと堕ちろぉおおお!!」

 

「おい! 鈴!」

 

 飛んでくるビーム兵器を躱しまくって分解した片方の青龍刀を叩き付ける。でもすんでのところで左に躱されすれ違わった。即座に反転して衝撃砲を構えたところで、

 

「危ねぇっ!」

 

 数十のビームが攻め寄っていた。一夏が助けてくれてなかったらと思うとゾッとする。アタシたちより倍近い巨体の癖に速度が全く劣ってないってのが厄介。しかも2m近い腕に取り付けられた幾つもの発射口にさらに肩のガトリング状の兵器の火力ときたら嫌になる。

 って、ん? なんか動きにく……………………っ!?

 

「~っ×&●%#$!?」

 

「来るぞッ!!」

 

 一夏はアタシを抱え上げながら、一つ二つと回避していく。当たらないのが不思議になるくらいの危うげな飛行だったけど、避けられているならそれで良い。

 

「打っ飛べ!」

 

 体勢を変えて一夏の腕の中から衝撃砲を撃ち込む。あっさりと避けられた。でも今ので嵐は止んだ。名残惜しいけど一夏に離してもらい青龍刀を構え直す。さらに必要なさそうな部位に供給するエネルギーを衝撃砲に割り振る。

 

「一夏! アタシが援護するから、アンタは突っ込みなさい! 武器それしかないんでしょ?」

 

「ああ! 頼む!」

 

 このデカブツも出てくんなら早く出てこいっての。アタシも一夏もさっきのもあってシールドエネルギーはもう100程度しか残ってないってのに。……て、そりゃそうね。何の目的か知らないけど態々乱入してくるんだから弱ったところでくるのが当然よね。

 

「させないわよ!」

 

 奴の腕がアタシらに向く前に、衝撃砲を撃つ。牽制としての役割が強いそれは当然当たらない。見えないってのが売りなのにこうも簡単に躱されると癪に障るけど、一夏が近づくための時間が多少稼げたんだから、それで良し。

 

「さぁさぁ、まだまだ行くわよ!」

 

「…………」

 

「ぉぉぉぉおおおっ!}

 

 逃げ道を奪うようにとにかく撃つ。撃って撃って撃ちまくる。空気塊の合間を縫って一夏が雪片を振り下ろし、それをちょっと横に動いただけで避けられ振った速度そのままに縦に一回転。ブースターを使い姿勢制御を行って振り向き様の薙ぎ払い、それも後ろに下がることで衝撃砲ごと回避され、またクルクル今度は横回転する。

 

「何、面白いように躱されてんのよ!」

 

「すばしっこいんだよ! グアッ!」

 

 ドデカい腕から放たれる裏拳が一夏を襲う。見たまんまの質量差があっさりと雪片ごと白式を吹き飛ばし、地面に叩き付けた。

 

「こんのぉおお!!」

 

 それを見たアタシは激情を抑えきれず背を向けていたデカブツに双剣で切りかかる。初撃は腕で防がれた。

 

「(堅い!?) ひぃぃ!?」

 

 どんだけ規格外なのよ……。日本刀(斬り裂く)青龍刀(叩き切る)も聞かないっての? しかもその破格の頑丈さを携えた腕に銃を取り付けるなんて誰よ、そんなバカなこと考えた奴は。危ないじゃない。

 

「鈴、無事か?」

 

「アンタのほうこそ、大丈夫なの? 結構良い一発もらってたみたいだけど」

 

「ああ。まあな」

 

 一夏も無事だったようで地表を滑って合流し、どうするか策を練らないと……。

 

「なあ、鈴。あいつの動きなんか機械染みてないか? 全然人の気迫ってのが感じらんないし、あれ本当に人が乗ってんのか?」

 

「はぁ!? 人が乗らなきゃISは動かな…………い? そういえば、さっきからアタシたちが話してる時って、全然攻撃してこないわね……」

 

 さっきの相手にとって不利になるような作戦会議の話も妨げず、さらには今の他人からしたらどうでもいいような会話にも、まるで興味があるかのように静観してる?

 

「……でも、そんな無人機なんて有り得ない。ISは人が乗らないと絶対に動かない、……そういうものだもの」

 

「仮に、仮にだ。もしあれが人間じゃなく機械が操ってたらどうだ?」

 

「何よ、機械だったら勝てるっていうの?」

 

 無人機なはずがない、と言いたいけれどただそれが常識だとされているだけでないとも言い切れない。けど、もし一夏の考え通り無人機だったとしてどこにそんな自信があるのかわからない。

 半眼で一夏を見ると、シッと息を吐い笑っていた。

 

「いける。人が乗ってないなら全力で打っ手切っても問題ねぇよな!」

 

「その自信はどこからくんのよ」

 

「千冬姉に叩きのめされて、響と肩を並べるために昔は色々とやったんだよ」

 

 今じゃこの様だがな、なんて軽く言うが納得したわ。世界最強の姉は勿論のこと人助けバカも妥協しないし……それに付き合ってたんなら何とかできそうね。

 

「わかった。で、作戦はどうすんの? まさか無いなんて言わないわよね」

 

「零落白夜で切る」

 

 エネルギー無効化攻撃、だったっけ。誰かが話してたのを聞いた程度だけど、確かにそれならあのガードも無力化できるかもしれない。でもさっきから攻撃を躱されてばかりの一夏はどうやって当てる気なのかしら。

 

「いくら強くても当たらなきゃ意味ないわよ」

 

「次は当てる」

 

 へぇ、言い切ったわね。だったら賭けてみようじゃない。

 

「いいわ。アンタの案に乗ってやるわよ。アタシは何をすれば良い?」

 

「あいつに向かって最大の衝撃砲を叩き込んでくれ」

 

「当たらないわよ?」

 

「俺を信じろ」

 

 一夏にそう言われたら、信じるしかないじゃない。甲龍のエネルギーの大半を注ぎ込んでチャージを開始する。

 

「じゃあ、さっそ「一夏ぁあっ!!」な!?」

 

 一夏が動き出そうとしたところで、後ろから叫び声が……て、あいつ確か一夏の。ISも持たないでこんなところにのこのこ出てきたりしていったい何のつもりよ、あのバカは!

 

「男なら、……男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

 マイクも使わずここまではっきりと聞こえる大声の持ち主に興味を持ったのかあのデカブツも箒とか言うのに視線を向け、さらに腕をって、マズ!?

 

「箒、逃げろぉおっ!!」

 

 間に合わない!

 今から攻撃に移ったところで発射を止められない。一夏が真っ先に動こうとした。遅れてアタシも慌てて甲龍に指示を飛ばそうと動く。多少は痛いでしょうけど、二人でなら抑えきれるはずだと。

 

「大丈夫! 二人はアレを止めて!!」

 

 また別の所から聞こえてきた声がアタシらを止めた。大声という程叫ぶのではないけれど、大きくてよく通る声だった。

 

「響!?」

 

 たぶんあのISの流れ弾からできたんだろう穴の前で仁王立つその目は強い眼差しをしていて強い意志を感じさせた。響なら真っ先に助けに行くだろうに今回は動かずアタシたちをじっと見つめる。そして歯を見せる満面の笑みで言った。

 

「こんな状況であの人が来ないはずがない」

 

「何言って、箒ィィイイイ!!」

 

 と。一瞬のよそ見で砲撃が撃たれてしまった。人なんか一瞬で蒸発させてしまえるほどの高密度で高温な人を丸々飲み込む巨大なビームが箒のいる中継室目指し真っ直ぐ伸びる。

 

「その通りだぜ、って言いたいところだけど、すまん。ちょっと遅れちったか」

 

 だが、呵々っ、と軽い笑いを放つ突如現れた何の変哲も無いただの打鉄にそれは当然の如く弾かれた。

 

「やっちまいな。お前のその剣で」

 

「踊! ああ、任せとけ! 鈴!」

 

「ええ! 最後は頼んだわよ!」

 

 響のもう一人の義兄の踊がビームを打ち払った。何で乗ってるのかとか色々聞きたいけど、そんなことよりあいつを倒すことの方が先決。衝撃砲に込めた許容量を超えたエネルギーを吐き出すために軽い前屈姿勢をとって衝撃に備える。

 

「って一夏!?」

 

「良いから、やれ!」

 

 いざ撃とうとした時、一夏がアタシの目の前に躍り出てきた。躊躇いはあったけど、あいつが撃てって言ったんだからアタシは信じて撃つ。信じろって行ったのは一夏のほうなんだからやるっきゃない。

 

「どうなっても、知らないからね!」

 

「んなもん、百も承知だっての! う、ウォォオオォオオオッ!」

 

 背中を押された一夏は前に押されていき、さらに目に見える程の衝撃がどんどん弱まっていった。

 予想外なことにこのバカはアタシの撃った衝撃砲を追い風にし、さらに白式のエネルギーにまで変換したらしい。後で千冬さんに無茶したことを怒られるだろうけど、本人が望んだんだし仕方ないわ。

 

「ハァアアアアッ!」

 

 爛々と灯る蒼い剣を携え、一夏はさらに瞬時加速で向こうのセンサーを振り切った。試合中に見せたものとは初速も込められたエネルギーも段違いのそれは刹那で標的の目前まで迫る。

 

「…………!」

 

 また、腕を盾に!

 

「遅ぇえ!」

 

 無手の左をその腕に掛けると、勢いで奴の真後ろを捉えた。振り上げた刃は片腕を斬り裂き、その背中に大きな深手を負わせた。

 それでもまだデカブツは機能を停止しない。身体をふらつかせながらもエネルギー切れを起こした一夏に腕を向けてエネルギーを充填させる。

 

「「一夏!」」

 

「狙いは?」

 

『完璧ですわ』

 

 デカブツに撃つ暇は与えられなかった。通信越しに聞こえた、一夏のクラスメートの専用機持ちの声と共に、突き抜けた一条の光線に打ち抜かれたために。


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