戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第拾捌話

 一兄の女性泣かせのフラグメーカーっぷりが鳴りを潜め……もといほぼ立て尽くし手遅れになってきた今日この頃、中国の代表候補生が転校して来るらしくて一年生の中ではその話題で盛り上がっていた。

 当然盛り上がっていたのは一兄や私もです。どんな人が来るんだろうなんて想像したりもしていた。

 

「いぃぃっちかぁぁああぁあああっ!!」

 

「おう!?」

 

 どうやら一兄は女の子を泣かせるだけでは済まなかったようです。扉もまた木片という涙を散らし床に伏せられてしまわれた。

 何とか薄皮一枚で真っ二つを免れた扉は誰にも気付かれないうちに踊君が回収する。

 

「ひさしぶりね。一夏!響!」

 

 扉に跳び蹴りを噛ました少女は私の名前まで知っているよう。うーん? あ、確かに見覚えがあった。吊り上がりつつも愛くるさを残した目にツインテール、小さな身体と控えめなお胸。間違いない、この少女は……

 

「やっぱり、鈴ちゃんだ!」

 

「……なんか思い出す過程で貶されような気がするわ。特に私の逆鱗に触れるような不愉快極まりない何かで」

 

「き、気のせいだと思うよ」

 

 ひぃいぃっ!?

 彼女は凰鈴音ちゃん。幾つもの禁止ワードを持つ気性の激しい女の子で、言ったら最後、

 

「ああ、小さ「フンッ!!」

 

 ……ああなります。

 残像付きのアッパーカットを受けた一兄はべちょりと床に落ちた。

 引っ越してから一年くらい経つけど鈴ちゃんも随分強くなったな~。私でもギリ見切れかどうかの速度でアッパーを繰り出すなんて驚いた。

 

「ナンテ云ッタノ? ゴメンネ、イチカ。ヨク聞コエナカッタンダ。モウ一回逝ッテクレナイ?」

 

「い、いえなんでもありません!」

 

 ハイライト? 何それ美味しいの? と確認するかのように鈴ちゃんはハイライトを食べちゃったみたいです。かなりブラックな無表情が関係のないクラス全体まで緊張させる。一兄に至っては、驚異の反応速度を見せて敬礼で応えた。

 これ、強くなったって言うより、希少の荒れ幅に磨きが掛かっただけなのかも知れない暴走した時の私みたいな感じで暴れさせるとヤヴァイと心の底から警笛が鳴らされる。

 

『あれはヤバいですよ!? ビラッキーの再来ですぅ-っ!?!?』

 

 ……いやまあ、イアちゃん(ガングニールの底の住人)が騒いでるだけなんですけど。

 

「(で、ビラッキーて?)」

 

『ブ、ブラックビッキーこと暴走響さんのことです!』

 

「(私、そんな呼ばれ方してたの!?)」

 

『今付けました!』

 

「(今かよっ!?)」

 

 慌てふためきながらもしっかりボケを入れてくるイアちゃんに私はもう手を上げてもいいと思う。

 じゃなくて、今はそんなことより鈴ちゃんをなんとかしないと……、と思ったけどもう大丈夫みたいです。

 

「鈴ちゃん、鈴ちゃん」

 

「ナニヨ?」

 

「うっしろのしょ~めんだ~ぁれ?」

 

「ハァ? うげっ!?」

 

「朝礼の邪魔だ。お前は二組だろう、自分の教室に戻れ」

 

「す、すみません……。また後で来るから。逃げないでよ、一夏!」

 

 恐怖の権化……じゃなかった1年1組の出席簿はいつも通り平常運転の模様で今日も朝から元気です。速やかに立ち去る鈴ちゃんを見送るのもほどほどにして、さあ、急げクラスの皆! 早く席に着かないと奴の餌食にされてしまう。どたばたとまだ立っていた人たちが大慌てで席に着いた。

 その後の授業中では何度も箒ちゃんとセシリアさんが出席簿にガブリといかれた。理由はたぶん一夏関連かな。鈴ちゃん登場に驚異でも感じてるんでしょう。理解は出来るけどちー姉に声をかけられても生返事しかしないのはちょっと重傷すぎるんじゃないかなと心配になった。

 

 

 

「一夏、いったいあの女とはどういう関係か、しっかり説明してもらおうか」

 

「説明を要求しますわ」

 

「せ、説明って何をだ!? 今日は二人ともなんかおかしいぞ」

 

「一夏のせいだ!」

 

「一夏さんのせいですわ!」

 

「はい! ストーップ!!」

 

 放っておくとこのままお昼が抜きになってしまいそうな勢いだったので間に入らせてもらう。あと踊君に逃げられた。かたくなに席に座らず後ろで授業を受けているため巻き込まれることなく行ってしまったのだ。

 

「説明でも弁解でも折檻でも何でも良い好きにして良いから、まずは食堂に行こうよ。私、もうお腹ぺこぺこだよ」

 

「いや、何で折檻されなきゃ何ねぇんだよ! その前に助けろ」

 

「イヤです」

 

 フラグ立てる一兄が悪いんだもん。触らぬ朴念仁に祟りはないのだよ。

 

「……そうですわね。どこでもできることですわ」

 

「ああ、そうしよう」

 

 適当に食券を購入したあと、さらに一人の少女が立ち塞がった。

 

「待ってたわよ! 一夏!」

 

「鈴もかよ……。まあ、とりあえずそこを退いてくれ。響が限界だ」

 

 グルルルルゥ。

 

「ご、ごめん」

 

 私のお腹の唸りが鈴ちゃんを退けてくれたので、すぐに食堂のおばちゃんに渡して出来上がるのを待つ。

 

「あ、相変わらず、怖いわね」

 

「ああ……。どこぞの腹ぺこ王並だからな」

 

「今もなのか……」

 

 好き放題言われているけどまあいいや。だんだんと揃いつつある料理の数々にもう涎が止まりません。

 

「響はまだまだ掛かりそうだし先食べてこいよ。ラーメン伸びるぞ」

 

 鈴ちゃんが抱える盆には豚骨の香りを漂わせるラーメンが……。

 

「そうさせてもらうわ。……あげないわよ」

 

 じゅるり。……残念、ジト目で念を押されてしまった。一兄達の料理が出来上がる中、私はひたすら待ち続ける。皆のもおいしそうだったなぁ……。

 一兄の注文した日替わりランチにセシリアさんの洋食ランチ、箒ちゃんのきつねうどん……。

 

「なんだい響ちゃん、まだ注文しようってのかい。流石にお腹壊すよ」

 

「あ、いえ! 今日は大丈夫です。おばちゃん、いつも美味しいご飯、ありがとうございます」

 

「いいのいいの、これがあたしらの仕事さ。それにいいつも美味しそうに食べてくれる響ちゃんを見ててあたしらも幸せだからね」

 

 最後の一品を右手に置いた盆の上に載せてもらう。よぉっし、待ちに待った昼食タイムの始まりだ!

 

「いくら何でも買いすぎでしょ!? 八品って何よ!? 八品って!? 私たち全員分よりも多いわよ!?」

 

「いやぁ~、修業してると自然とこう」

 

「たった一年でどんなことしたら量が倍以上に膨れあがるのよ!」

 

 飯食って、映画観て、寝る! が師匠の教えですから。

 

「それで何故太らんのだ……」

 

「羨ましいところですわ」

 

「そのあと、映画の登場キャラの動きを真似してるからだと思うぜ。それも実写、アニメ問わずで」

 

 そうでした。見るだけじゃ分からないことだってあるから見ながらだったりその後だったり時間はまちまちだけど練習してるんだった。

 

「「「……無理(だな|です|わね)」」」

 

「いや、いくら私でも流石に数十メートル跳んだり跳ねたりはしてないからね」

 

 精々、鷹爪落瀑蹴(ようそうらくばくしゅう)くらいが限度だよ。あれくらいなら皆もできるよね。

 

「「『「「できるか!!」」』」」

 

 え、できないの!? 思っても見なかった周りの反応にちょっとたじろいでしまった。だってちー姉ができたんだもん。少なくとも一兄なら出来るはず。

 

「今、一人多くなかったか?」

 

「き、気のせいだよ。(イアちゃん!? 声漏らしたら不味いよ!)」

 

『あわわっ、ごめんなさい。内線にするの忘れてました」

 

 頭に響くのは変わらないのだけど、今度の声は一兄達には届かなかったみたい。

 

「そんなことより、鈴ちゃん。改めて久し振り」

 

 それでも踏み込まれたら困るので話題を強引にでも返させてもらう。本来の目的はこっちだからすぐに食いついた。

 

「そうだった。久し振り、鈴。いつ日本に帰ってきたんだ? おばさん元気にしてるか? いつ代表候補生になったんだ?」

 

「そんな一遍に聞かれても答えられないわよ。アンタこそなにIS使ってるわけ? ニュース見た時牛乳噴いちゃったじゃない。私の牛乳返しなさい!」

 

「いや、知らねぇよ……。むしろ何で動いたのか俺が聞きてえくらいだって」

 

 ホント不思議だよね-。何で動いてるんだろう? あ、主人公だからか。納得……はできないや。視聴者にしかできない説明じゃダメですね。踊君に聞いてみたら分かるかな?

 

「そうそう。アンタ、クラス代表なんだって?」

 

「ああ、成り行きで仕方なく」

 

「ふーん……」

 

 鈴ちゃんはどんぶりを持ち上げて、ぐびぐびと残っていたスープを一気に飲み干す。レンゲはどうしたかって? そんなものは使いません。面倒だもん。私も使わないし。

 でも勢いよく飲むこともしない。熱いしよく味わえないから。鈴ちゃんがこういうことをする時はたいてい何か決意をした時だ。

 

「あ、あのさ。ISの操縦、見てあげても良いわよ?」

 

「そりゃ、助か「一夏に教えるのは私の役目だ!」」

 

 ドダダンとテーブルが叩かれ、隣と前にいた二人が立ち上がった。

 

「あなたは二組でしょう! 敵の施しなど受けませんわ!」

 

 また火花が散る幻想を見る羽目になるなんて付いてない。まあ、そんなの気にせず食べるのが私なんだけどね。チャーハン美味しっ。

 

「アタシは一夏に言ってるの。関係ない人は引っ込んでてよ」

 

「関係ならある。私が、一夏にどうしてもと頼まれたんだ」

 

「そはほ?」

 

「どうしてもとまでは言ってない」

 

 言い争いはどんどん激化していくのかと思ったけどそうでもなかった。

 

「と、ところで、一夏、あの約束、覚えてる?」

 

「ん?」

 

「ほら、酢豚の」

 

 そんな酢豚でわかる約束なんてあるわけが……、

 

「ああっ。あれか」

 

 わかっちゃった!? ホントにそんな約束したの!? あれかな? 日本で言う味噌汁的なあれ。

 

「鈴の料理が上手くなったら毎日に酢豚を……」

 

 合ってた!? 素直になれない鈴ちゃんがそんな告白めいたことをしてたなんて意外だ。聞いてた二人の表情が瞬く間に険しくなっていく。

 

「奢ってくれるってやつか?」

 

 ………………………………へっ?

 

「そうそう、それそ………………………………………はい?」

 

「だから、料理できるようになったら毎日飯をごちそうしてくれって約束じゃないのか?」

 

 それは流石にない。ごちそうする約束ってどんな約束ですか。そんな不利益しかない約束を払う側がするわけがないって。

 

「にしてもよく覚えてたな、俺。感心かんしぶほぉあ!?」

 

 ほぼ無音の平手が一兄を打ち抜いた。座っていたはずの一兄は見事な弧を描きぐりんぐりん回転しながら再びべちょった。今朝のあれよりも二割増しくらいに強い一撃に恐怖を感じる。だって、平手だよ? 面で力が拡散しやすいあの平手でだよ!? それが何で拳で放つアッパーよりも吹っ飛ぶの!?

 

「……………………最っっっ低!!」

 

「な、何がだ……」

 

「女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて! 犬に噛まれて死んじまえ!!」

 

 呆然としてる私たちを置いて鈴ちゃんは走り去ってしまった。それに瞳に涙を浮かべてた。

 

「……まずい。何か怒らせちまった」

 

「一夏」

 

「一兄」

 

 まあ一兄だから何時ものことと言えば何時ものことなんだけどさそれでも言わなければならないことはある。

 

「「馬に蹴られて死ね」」

 

 どうやって鈴ちゃんをフォローしたらいいんだろ……。

 

「どうかしたのか? 今、ツインテの嬢ちゃんが走ってったけど」

 

「踊く~ん……」

 

 丁度良いところに踊君がいた! 人生経験(前世的な意味含めて)豊富な踊君なら上手くフォローしてくれるかも知れない。子供好きだし。快く引き受けてくれそう。

 

「しゃあねぇな。一往声かけくらいはしとっけど、一夏もちゃんと謝っとけよ~。根本的解決はできねぇからな」

 

 あっさりやってくれて、大助かりです。実のところ私にはまだ恋とかそういうのはよくわからなくって、したこともない。だってまだ16歳(精神年齢はさんびゅふぁっ!?)……ふぅ、だもん♪

 可笑しくはないよね。ヨネ?


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