戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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投稿を忘れられていた響ちゃんと踊君が強さの理由に関するお話です。


第拾漆話

 そそくさとクラスが準備を整えた食堂に一兄は放り込まれた。

 

「織斑君、クラス代表おめでとう!」

 

「え、あ、ありがとう?」

 

 不意打ちに頭が追いつかない一兄は間抜けな顔を晒す。けど私の時と考えたら全っ然マシです。だって手錠されてないもん。それに写真も撮られてな……、

 

 パシャッ!

 

 ……訂正します。見たことのないカメラマンさんがパーティーに混ざってました。

 いや、ホントどちら様ですか?

 

「あ、副部長! もう来てたんですか!?」

 

「当然よ! 新人! よく覚えて起きなさい! ネタは鮮度が命なのよ!」

 

 そうキメるとカメラマンは一兄の間抜け面をもう一枚パシャりと撮る。

 もう部活に入ってる人がいるなんて、て思ったけどそう言えば、箒ちゃんもすでに剣道部に入ってた。部活に顔を出さない幽霊部員だけど。

 

「だ、誰だ?!」

 

「はいはーい! 初めまして、織斑一夏君。新聞部副部長、黛薫子でーす! 今日は期待の新人くん達に取材しに来たよー。はい、これ名刺」

 

 部活ながらも本格的みたいでカメラを下ろすとその女性は名刺を一兄に渡した。読んで字のごとく新聞を作る部活で、中々外出できない学生たちの数少ない娯楽になっているそうです。

 後ろから名刺を覗き込んでいると、黛先輩と目があった。

 

「君は確か織斑君の妹の響ちゃんね。君にも取材させてもらうね」

 

「よろしくお願いします!」

 

 私意外とノリノリです。 20年生きて初めての取材にちょっと舞い上がってます。

 

「ではではまずは織斑君、クラス代表になった感想をどうぞ!」

 

 突き付けられたボイスレコーダーにたじたじになりながらも一兄は言った。

 

「…………………………まあ、頑張ります」

 

「えー、それだけー?」

 

 うん、わかってた。一兄ならそう答えるだろうって。自己紹介の時と同様、絞った答えはありふれた無難なものだった。

 そんな普通な感想を記者である黛先輩が認めるわけがない。

 

「ダメですか?」

 

「ダメ! もっといいコメントちょうだいよ~。俺に触れると日焼けするぜ、的なことじゃないとつまらないじゃない」

 

「日焼け程度で良いんですか!? そこは、俺に触れるとヤケドするぜ、じゃありませんでしたっけ!?」

 

 一兄、アウト~。

 

「うしっ! いいコメントどうもー」

 

「えっ?」

 

 巧みに操られオンオフを切り替えられるレコーダーに一兄の『俺に触れるとヤケドするぜ』発音が録音された。

 するとあら不思議。レコーダーにはクラス代表になった感想の答えが火傷するぜにすり代わってしまった。

 恐ろしきかな、報道者。

 ついでに一兄、女の子にとってシミの元になる日焼けって結構重要な敵なんだよ。程度なんていうレベルじゃない。

 

「汚ぇっ!?」

 

「じゃあ、次は……先にセシリアちゃんコメントちょうだい」

 

 私に来るかと思ったけど先輩はセシリアさんにレコーダーを向けた。

 

「私、あまりこう言った取材は好きじゃないのですが、仕方がありませんわね」

 

 咳払いを挟みセシリアさんは語り始める。

 

「まずは何故私がクラス代表を辞退したのかと言いますと「やっぱいいや」……ちょっと、まだ何も!?」

 

 が、すぐにマイクはオフになりセシリアさんから離された。

 

「長くなりそうだからこっちで書いちゃうね。よし、織斑君に惚れたことにしよう」

 

「そ、そんなわけ!」

 

 堂々と捏造宣言ですと!? あ、いやたぶん間違ってないとは思うけど、本人を目の前にして言うのは可哀想ではないですか!?

 いくら朴念仁の一兄だからって、流石に、

 

「流石にそれはありえませんって。な、セシリア」

 

「ありえないってどういうことですの!」

 

 …………まじですか。そこまでしてまだ気付かない一兄にもう匙を投げよう。私はもう織斑家の未来の不安に目を瞑ることにした。

 伊達や酔狂で朴念仁と呼ばれてないようです。

 

「ミスったかな~。ま、いっか。じゃあ次は響ちゃんと……聖君はどこかな?」

 

 キョロキョロ辺りを見回して先輩は踊君を捜していた。視界には入っていると思うけど気づいてないよう。

 

「……あのオブジェクトAです」

 

「え、あの駄菓子屋でもやってそうな人!?」

 

 ただそこにいて開け放たれた窓に肘をかけて、暖かな目で私達を眺める踊君を指差した。

 決して弱くはない風に髪の毛一本揺らすことなく、正座して一人湯飲みを手に乗せ固まっていた。

 

「ぼっち系?」

 

「そうじゃないですけど、パーティーの邪魔はしたくないそうで」

 

 心境はやはりおばあちゃんの立ち位置な模様で、元気にはしゃぐ孫を見て綻んでいるような雰囲気を溢れさせてる。

 

「あの~、踊君にも取材してもいいですか?」

 

「ああ、もちろんいいぞ。何でも聞いてくれていい。そうだな……響の失敗談でも語ろうか?」

 

「辞めてくれないかな!?」

 

 踊君は高校一学期分はもちろんのこと、なんでか中学の恥ずかしいことまで全て知っている。

 止めないと何を話されるか私の沽券に関わる。

 

「甘い。甘すぎるぞ、響君。カカオ99%のチョコレートよりも甘すぎる!」

 

「比べるものがそもそも苦すぎだよね!? 99%って申し訳程度でそれほとんどカカオだから! それなら私甘くていいかな!?」

 

「あたしはあんたの母君と亡き父君の遺言として赤児の頃からのことを色々聞いている!」

 

「お母さぁぁあああん!?!?」

 

 何話してくれちゃってるんですか!? しかもお父さん、遺言で娘の痴態を暴露ですか! もうちょっと話すことあったんじゃないの?!

 

「えっと……コメント、オケ?」

 

「うぇい……」

 

 落ち込んでいても取材は続く。て、落ち込んでる場合じゃない。踊君を監視しておかないと。

 

「じゃあ遠慮なく。クラス代表になった一夏君をどう思ってますか?」

 

 ちらりと視界を外し一兄の顔を見て考える。ちゃんとすぐに踊君に戻すのも忘れない。

 

「憧れ……てはないけど、頼りになる(かもしれない)自慢できないこともないお兄ちゃんです」

 

「それ褒めてんのか? 貶してんのか? おい、目を逸らすな」

 

 一兄みたいな朴念仁になりたくないもん。

 

『南無です……未来さん。この人ダメそうです』

 

 イアちゃんが勝手に胸の中に何かしまったような……気のせい?

 

「踊君はどう思ってますか?」

 

「からっからのスポンジみてぇな奴」

 

「もうそれただの悪口だよな!?」

 

 たぶん意味合いはスポンジが水を吸うように経験を糧に出来る可能性がある、なんだと思うけど説明不足すぎて、吸った水が乾いたようにしか聞こえません。間違ってもないし。

 

「ふむふむ。じゃあもう一つ、二人はどうしてそんなに強いの? 代表候補生のセシリアさんを一蹴してIS界最強の織斑先生も認めるほどなんでしょ?」

 

「いえいえいえいえ! 私たちなんてまだまだですよ。私たちなんかよりも強い人は世の中沢山いますよ」

 

 奏さんとか師匠とか身近な人だけでもそれはもう片手じゃ数えきれないくらいいっぱい。

 

「流石、期待の新人ちゃんね。同学年を雑魚呼ばわりだなんて」

 

「してませんから!?」

 

「はぁ……違いますよ。なあ、あんたさ強さの意味をはき違えてないかい?」

 

 ゆらりと立ち上がり、下から先輩を軽く睨む。身長はほとんど変わらないけれど、前のめりとなり先輩の瞳の奥、心理を見透かすように覗き込む。

 

「と、いいますと?」

 

「響の思う強さってのは腕っ節の強さとか目に見えるもんじゃないんよ」

 

 何を見たのかはわからないけれど、悪いものではなかったようで呆れながらも伝えた。

 

「あたしらの言う強さってのは、外じゃなくて内面……いわゆる心の強さってやつさ」

 

「……それでも二人はとても強いのでは?」

 

「まだまださ。己が身を防人とし一歩も引かず命を燃やせる奴はいるし、誰かの夢を為すために自身を詠う奴もいる。そしてなにより、嘘をついていたのにも関わらずただ信じているからというだけで、たった一人何も持たず敵陣のど真ん中を走り抜いた奴がいる。そんな奴等と比べたらあたしらなんか全然さ」

 

 希望を捨てたくないから争う私と違って未来は希望だけを見て抗った。

 普段の優しい未来の強くて熱い覚悟に萌えて、 ガングニールのバンカー機能(?)解放のきっかけをくれた未来にさらに燃えたのを、10年経った今でも鮮明に覚えてる。

 

「まあ、それでもあたしらが強いって言えるならそれは多分強くあろうと思ってっからだ」

 

「うん。そうだと思う。明日もまたこうして笑ったり、ご飯を食べたりしたい」

 

「この手で守りてえもんがある」

 

「「例え何があっても、最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に駆けつけるって、そう誓ったから」」

 

 12年前のあの事故で沢山の人が死んだ中、生き残ることができた私の選んだ生き方。誰かの脅迫でも強制でもない、私がしたい私だけの道だ。

 

「「一分一秒前の自分よりも今の自分は強くなるんだって、思ってるから強く見えるんだと思います/うぞ」」

 

 ほぼほぼ重なった言葉が無性に嬉しくて、私は気づけば踊君と拳を合わせていた。

 

「なるほど……。じゃあ、最後に4人とも並んで写真撮るから」

 

「はーい」

 

「まあ、別にいっか」

 

 今だ文句を呟くセシリアさんを引き連れ、一兄を中心に並ぶ。

 

「それじゃあ撮るよー。69/25*51/70は?」

 

「「「え、えっと……2?」」」

 

「ぶー、2.01でした~」

 

 それくらい見逃してほしい。パシャリとシャッターは切られ撮影が完了する。って、およ?

 

「いえ~い」

 

 シャッターが落ちる直前、私たちが答えるまでの僅かな時間でクラス全員がフレーム内に集結していた。流石はIS学園の生徒、恐るべき行動力と反射能力をお持ちのようです。ただのほほんちゃんだけ直前で躓いて踊君に抱えられていた。

 

「ありがとねー」

 

 取り終えるとすぐに彼女は去って行く。残された私たちはそのまま10時過ぎまで賑やかに楽しむのでした。


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