戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
世界も随分変わってしまいました。
「一兄、準備できた?」
「はぁー……、なんで俺がこんな目に」
「私だって行きたくなかったよ……」
白黒士者事件からもう何年経ったっけ……?
今が一往15だから、あれからもう十年経ったんだ。世界が変わるのも仕方ないね。うんうん。
今日から私は再び高校生に入学します。……んだけど、その学校がちょぉっとどころではなく行きたくない。私にはあわないことを強制させられるんだもん。
どれもこれも一兄のせいだ。
一兄がいらないことさえしてくれなかったらなぁ…………グスン。
「わ、悪かったって」
「……4枚」
「それは流石に……1枚で頼む」
「……じゃあ5枚」
「どさくさに紛れて増やすな! 誤魔化されるか!」
「ぷぅ~、……せめて2枚」
「ぐっ……、わかった。それで手を打とう」
良し! 2枚ゲットォォオオ!
え? 何の話をしていているんだって? えっと近くのお好み焼き屋さんの話だよ。ふらわー並においしく学生さんのお財布に優しいお好み焼き屋で、普通サイズが大体450円なんだ~。
でもね、一兄。誰が普通と言った! 特大サイズ700円2枚だ!
『そっちの話はもう良いですから、本題に入りましょうよ』
ごめんごめん。
えっと、まず私たちが今日から行く高校はIS学園(正式にはISうんちゃらかんちゃら高等学校とかいう長い名前だった気がする)というISの操縦士を育成するための世界で唯一の学校で女子校です。
何で女子校かって言うとISが女性にしか反応しないからです。一国を相手に出来る代物がそんな摩訶不思議なせいで、はた迷惑なことに世界も大きく変化しちゃって女性優遇になってしまいました。それとISを軍事利用しないようにってアラスカ条約とかいうのも締結されてます。
その他にも色々あったけど、おいおいかよく分からないから飛ばしてっと、それで話は、一兄がしたいらないことだ。
それは一兄がISを動かしちゃったということです。
本来行くはずだった藍越学園の受験会場をどう間違えたらそうなるのか、一兄は盛大にポカをやらかしちゃって、IS学園が行っていたISの適性試験のほうに行くわ、そのままISを動かしてしまったのだ。
世界初の男性適合者として題材的に取り上げられIS学園に入学することに、そして任せろと自信満々に張り切っていた一兄に一任していた私も巻き添いを受けて一緒にはいることになってしまったのだ。
「はぁ、行くぞー」
「はーい!」
「「「……」」」
おぉー……皆の視線が一つに重なっている。それは当然だ。世界で一人目の男性適合者だもん。皆、見てしまうよね。
「……」
一兄、がんばれ~。私は心の中から応援してるよ~。目の前の突っ伏してる人にエールを送る。
「……!」
皆、熱い眼差しで見ているんだけど、その中にも色々なタイプの視線があるみたいです。何処かで見たようなポニーテールな美人さんは火傷しそうなくらい熱いガンを飛ばしてて、
「……!」
あっちのブロンドのロングヘアをした娘は憎々しげドロドロしたあっちっちな視線を一兄に投げつけている。
色々な人が集まってるな~。
目の前の死にかけな人の観察をしていると前のドアが開いた。
「皆さん入学おめでとうございます。私は副担任の山田真耶です」
黒板にウィンドウのようなものを浮かび上がらせて生徒とほとんど変わらない見た目の先生が教壇に立った。
皆の反応は……。
「……」
一兄に視線が固定されたまま、と。先生も周りの変な緊張感に固まってしまった。
「お願いします!」
身振りじゃ気付かなそうだから、急いで先生に声で返事をする。首を曲げ私と目が合うと嬉しそうな表情を浮かべ学園の軽い説明を始めた
「――皆で助け合って楽しい3年間にしましょうね」
「はーい!」
「「…………」」
私と先生の声だけが教室の中を虚しく響いた。
「じゃ、じゃあ自己紹介お願いします。えっと番号順で……」
「はい!」
一人目の子が立ち上がって、名前と趣味と何か一言だけを言ってすぐに座る。皆、一兄に興味津々で自分もその他の紹介も二の次みたい。他に言うことないのかよ、ってくらいあっけなく一兄にバトンが回ってしまった。
「……」
反応がない。クラス一同の視線を集め気が滅入っているんだと思う。
一兄の背中が助けてくれと叫んでいるように見えたけど、気のせいということにして見守る、という名目で見捨てる。実質後ろに居ても何も出来ないし面倒だし。
顔が見れないのが残念だけどたぶん真っ青なんだろうな。
「織斑君? 織斑一夏くーん!」
「はいぃっ!?」
一兄が跳ねた。勢い余ってこっちに倒れそうになるイスを優しく押し返す。そうしないと今度は前に吹っ飛ぶことになってしまうから。
「自己紹介お願いできますか?」
「は、はい!」
恐る恐る一兄は立ち上がる。中央かつ先頭だから後ろを向くべきなんだけど、一兄は振り返ろうとしない。
でもそれが正解だと思う。キラキラというよりギラギラした視線が数十も集まっているんだ。直視したらトラウマになりそう。
「織斑一夏です。よろしくお願いします。……」
一兄が葛藤してる。何か言うかそれとも座るか、でも迷ったところで周りの生徒がこのまま座ることを許さないだろうけど。
深呼吸で息を整えた。覚悟を決めたみたいだ。観客は息を呑んで一兄の言葉を待つ。
「「「……」」」
この状況で一兄は何を言う!
「以上です」
「自分のことも言えんのか、お前は!」
ズガンという痛快な音が一兄の後頭部から教室内に木霊する。
ビシッとしたお堅い黒のスーツに、凛々しい立ち姿。そしてこの容赦のない一撃。この人は!
「いってぇっ!? げ、千冬姉!?」
「バカもん! 学校では織斑先生と呼べ」
今度はズガゴンと後頭部と前頭部から同時になる。あれは痛そうです。
「あ、やっぱり、月1、2回しか帰ってこない血躙愉せんぜぴゅっ!」
ちゃんと先生って言おうとしたのにぃ~、叩くなんてひどぉい。後頭部が~、頭の中がグワングワンするぅ~。
「前半は否定せんが、そんな外道な行為をした覚えはない」
ひょえっ!? 何で口頭なのに漢字の違いが分かったんだろ……。雰囲気ぴったりって思っただけなのに……。
「織斑先生。もう御用事はよろしいのですか?」
「ああ。クラスを押しつけてすまなかったな、山田君。……ふんっ」
「あうぇいっ!?」
「い、いえっ、副担任ですからこれくらいはしないとダメですから」
俺の角が真っ赤に唸るぜぇ! 鮮血ヒャッハー! と叫びたそうにしている出席簿のギラツキを見てしまい、これ以上の愚痴ははるか彼方にお逃げいただいた。
ま、まだ死にたくないもん。
「今日から諸君等の指導をする織斑千冬だ。君達を1年で使い物になるよう育てるのが仕事だ。逆らいたければ逆らえば良い。が、私の言うことは聞け」
でたな、暴君発言。でもちー姉の眼力は常軌を逸しててその指示は常に的確なんだよね。だから本気で強くなりたいなら聞くのが正解。私はちー姉のそれに助けられた口なので反論も反発もしない。
「「「……キ」」」
けど皆はそうじゃないだろうから、ちょっと心配でこっそりどんな様子なのか盗み見た。私と一兄以外がちー姉を見て身体を振るわせ口を揃えて、キと声を漏らした。
キ? キって何? 気?
首を傾げたのもつかの間彼女たちはそのまま次の語を放った。
「「「キャーーーーー!!」」」
「ひっ!?」
慌てて耳を塞いだ。うう、今度はキーンと頭の内部が痛めつけられた。鼓膜ってどうやったら鍛えられるのかな……。
黄色い悲鳴を上げた彼女たちは好き勝手に盛り上がる。
「本物の千冬様よ!」
「ずっとファンです!」
「踏んで縛って叩いて下さい!」
「変態は黙ってろ! お姉様ぁ~、抱いてぇ!!」
あなたも十分変態では!? え、何このクラスの人たち、怖っ!?
「……はぁ、毎年よくもまあこんなに馬鹿者が集まるものだ。それで、お前は真面に挨拶もできんのか?」
ま、毎年ですか、お勤めご苦労様です。
「いや、千冬姉、これでも真面目に」
本日……えっと5度目? の殴打が今度は一兄の頭に落とされた。
「織斑先生だ」
「はい! 織斑先生!!」
もう立派な脅迫だね、これは。敬礼しそうな勢いで一兄は背筋をぴんと伸ばした。あ、もうチャイムがなってしまった。
「続きは各自で済ませておいてくれ。ではこれから授業を始める、と言いたいところだが昨今世界各地で起こっている施設襲撃事件についての諸連絡を体育館にて行う。直ちに行け」
「「「はい!」」」
男女別校だからこそできないこともないことを命じ、早々と私たちを教室から追い出した。
久方ぶりであるな、この風は。
しかし出来ることなら休暇として戻ってきたかったものだ。
「あやつは、何故これを忘れていくかな」
褒められた行為ではないと知りながらも、あの娘がご厄介になっている家に不法侵入させていただき、それを回収した。確か今日からアイエスガクエンなる学舎に通うのだったな?
仕方があるまい。
「このままここに置いておくのも不味かろう。某が一肌脱ぐとしよう」
そうして某は一人、懐かしの義妹に会うため歩みを進めた。
前回話にて、ルビを振り忘れていました……
今頃になって修正しました。申し訳ありませぬ……。
訂正:
オリムラの漢字を間違えていました。
正しくは織斑でした。
度々申し訳ありませぬ。