戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
こっちに着てから数ヶ月、私は学校に通うようになっていた。
何でかは知らないけど何度か話す内に束さんに気に入られたみたいで、何をどうしたのか私の戸籍を偽造してもらってしまいました。それと同時に名字が立花から織斑に変わり、織斑家の次女になりました。
昔は気付かなかったけど小学校って残酷だったとわかった。登校日から虐めを見付けてしまったのだ。しかもその対象が箒ちゃんでびっくりした。一兄(一夏君)と同クラスの気味悪い人がいつも頑張って庇っているけど辞めてくれないらしい。
箒ちゃんは男子に男女とからかわれていたけど、正直意味が分からない。箒ちゃんはどこからどう見ても女の子にしか見えないんだけどな~。
踊君が女男と言われてるみたいな感じならわかるのに。慣れて忘れてるけど踊君って女顔なんだよね。色素の薄くてすべすべの肌に整った顔つき、さらさらで綺麗な黒髪、無駄のない筋肉だけで細い身体、服装は中性的なものばかり。そして身長は女子の平均くらいな私よりも数㎝高いだけで低い方だし。いつか女装させてみたい。
……て、そうじゃなかった。意味不明な虐めを見過ごすわけにはいかないから私も参戦して穏便に済ませようと画策している。
誰かを虐める人に容赦はしないよ♪ そう遠くない内に周りに迷惑が掛からないように最低限で最大な効果を持たせた反撃をしてみせる。
あ、あと踊君も無事人の姿を取れるようになった。まだまだ本調子じゃないみたいで戦闘は長く出来ないみたいだけど。
それで今は家にいるよ。一兄と箒ちゃんと一緒にお茶飲んでテレビ見てくつろいでます。
「どうしたらいいのだろう……?」
でも、一ヶ所だけ空気がどんよりしてる。
「やっぱり箒ちゃんが落ち着くのが良いんじゃないかな? それかも少しはっちゃけるか」
「どういう意味だ」
箒ちゃんって翼さんとクリスちゃんを足して3くらいで割ったあと、変なのがちょっと混ざっちゃったって感じがする。
「主にすぐ手が出る」
「う……」
「あー」
ちっちゃいことですぐに殴りかかったりするんだよね~。自分が不利になると物理的に黙らせようとするのがいけないんだと思う。
「お前もよく手を出すじゃないか」
「手は出すけどすぐじゃないよ。それにやるときは当たらないよう寸止めしてるもん。……他者を守るべくして生まれしもの、それすなわち武道なり。だったかな?」
「なんだそれ」
「いつだったか私のお義兄ちゃんに教わった武者として忘れてはいけないことなんだ。たしか意味は、武道は容易に人を傷つけちゃうことができる危険なものだけど、大切なものを守るために昔の人が懸命に築き上げた尊いものだから決して汚さないようにって」
武道が人を傷つけることを前提にしてあるのは仕方ないけど、それが守るためであることを忘れてはいけないんだ、そう踊君は遠い目をして語っていた。
「箒ちゃんは何のために剣道をやってるの? 今のように人を押さえ付けるため? それとも鬱憤を晴らしたいから?」
「…………」
考え込んでしまった。こんな質問を5才の子にするのもどうかと思うけど……、って5才の子が話す内容でもなかった。
「ふ、二人ともテレビ見ろ」
一兄に言われてテレビを見る。そこには白銀の鎧を着た人が次々とミサイルをぶった斬っている姿がやっていた。
「そうそう! こんな風に後ろにいる誰かを守るために闘うのが本来の武道だよ! 一兄、お手柄!」
「じゃなくて、よく見ろってば!」
「ふぇ?」
えぇっと、なになに? 生中継、臨時ニュース?
へぇ、これドラマじゃなくてニュースだったんだ。日本近隣国にあるミサイルが何者かのハッキングで日本に打ち込まれたんだと。その数、合計2341発だって。
中途半端だね。
「って、そうじゃない!? って、え、何で?」
「や、やべぇぞ。逃げねぇと!」
「そ、そうだ。急いで家に連絡を!」
一回落ち着こう。座り直してお茶を一口すする。
「ふぅ」
「いやいや、何でそんなに落ち着いてんだよ!」
いやぁ、人間って余りにも吃驚しすぎると返って落ち着くんだね。白銀の鎧を纏った人がミサイルを切り伏せる後ろで、すっごい見覚えのある黒い影がちらちら映ってるんだ~。
カメラがその黒い影を追いかけて映した。
「死神?」
やっぱりあれ死神だよね~。あの骸骨のお面も見覚えあるわ~。振り回してる何本もある鎌も同じだ~。
…………何でそこにいるのかなぁ!? 踊君(ver.ディバンス)が!!
「はふ~、二千発も堕ちてくるならどこに逃げても結果は同じだよ。当たるも八卦当たらぬも八卦ってね。変なところで死ぬくらいならこの家で死にたい」
実際はここが絶対降ってこない安全な場所とわかってるからなんだけど、流石に言えない。
「ひ、響……。……………ああ、そうだな。ここは千冬姉と響、箒との思い出が詰まった家だもんな。わかった。俺もここに残る」
「あぁあもう、一夏まで……。仕方ない、こうなったら一蓮托生だ!」
皆ですっかり温くなってしまったお茶を飲んで時間が過ぎるのを待った。その時、コップがカタカタ音を立てていたのはご愛敬だよ。
海上を飛び回る二つの人影があった。一方は白銀の鎧を身に纏い騎士となって空を翔り、もう一方は黒い布を身に当て武士として大気を踏む。
鎧の中の少女は共に闘う黒い影を横目に捉えつつ手にした同色の剣でまた一つ降ってきたミサイルを斬り捨てる。
「(奴は何者だ?)」
彼女が付けている鎧は正式名称インフィニット・ストラトス、通称ISというつい数ヶ月前に発表されたばかりの新技術で作られたマルチフォーム・スーツの一つの形だった。
元が宇宙空間内での独立活動を目標に設計しているためか、そのスーツの性能は歴代の兵器とは隔絶したものだ。
「(天災が作ったこれに付いてきているだと?)」
ミサイルの不規則な軌道を正確に読み、さらにそれに追いつくほどの機動力を兼ね備え、そして斬った時の爆風に耐えられる装甲にパイロットを守る絶対防御。
彼女はそんな強大な力を持ったスーツを使ってミサイルを退けているのだが、その黒い影……ディバンスこと踊はだたの黒いマントを羽織っているだけで、飛び交うミサイルの側面を踏み台に動いていたのだ。
「(どういう神経をしているんだ?!)」
「よそ見をするな! まだ半分残っているぞ!」
「っ! わかっている!」
少女の横を踊は駆け抜け、通り過ぎようとしたミサイルを鎌で断ち斬った。少女もすぐに目を向け直しミサイルの無力化に努める。
「(やれやれ、俺の身近にいる女性は皆して何でこうも詰めが甘いのかね)」
弧を描くように投げていた鎌の一本を手に取り、踊は双鎌の演舞を披露した。
[297]
少女が乗るISのモニターにそう文字が表示された。
「残り300弱だ。誰かは知らんが気張れ!」
「心得た」
大小様々なミサイルももう残り僅かだ。二人の動きがさらに激しさを増し、加速していく。
「これで最後か……」
先に撃たれた弾速の遅い大型と後から撃ちだされた小型が合流し、一つのダマのような塊になっていた。
「これで!」
「……八刃」(やじん)
少女は剣を格納し、使う機会のなかった一つの試作品を右手に展開した。
踊は周りを回り続ける鎌を全て手元に戻す。その数、全八本。
「終わりだ!」
「這巴!」(しゃっは)
フルチャージされた大型荷電粒子砲が紅蓮の光線を放ち中央を突き抜ける。投じられた八つの鎌が空を滑り、巻き上がる爆炎の穴を埋めていった。
[Congratulation]
「ふぅ……。協力感謝する」
警戒を解き空中にたゆたう。
「平和を守る。それが我が使命の一つ故」
「そうか」
全ての鎌を回収して踊は港に降りた。
二人はまっさらな空を仰ぎ見て去ろうとした最中、数隻の船が近付いてきているのを鎧のセンサーが捉えた。
「ちっ、今度は各国か……」
「む……」
『ハロハロ、ちーちゃん聞こえてる~? そいつらは死なない程度にヤっちゃって♪ あとそっちの黒いのも一緒に!!』
どこから見ているのか少女からの通信がが入った。
「聞こえてるぞ~」
『む! これはちーちゃんと私の会話なんだから邪魔しないでよね!」
「そ、それはすまない……」
ダダ漏れで聞こえてくる物騒な一方的会話は機械な踊の耳に問答無用で入っていく。居心地悪そうに身体を背け、溜息を吐いた。それは奇しくも少女のものと重なった。
「すまない。うちの天災が……」
「いや、構うことはない」
仮面の下で苦笑いを浮かべて、一つのことを思い出した。
「ああ、そうだ。……千冬嬢、聞こえているならば束嬢、訳あって某の姿は曝せぬが一つ頼みがある」
「……なんだ?」
訝しげに千冬は踊を見るが、通信相手が唯一ISを製作した篠ノ之束であることはすぐに予想が付くことと、そしてその束がちーちゃんと親しんで呼ぶのが自分しかいないことを悟り言葉を呑み込んだ。
何故、自身がちーちゃんと呼ばれているのを知っているのかという質問と共に。
「響を頼む」
「知り合いなのか?」
「俺の大切な義妹だ。あいつは守られるだけの若輩者ではないが、それでも貴女のような導く人が傍にいてくれた方が安心できる」
「お前が傍にいればいいのではないのか?」
それができれば、踊も姿を隠したりしない。
踊はこの世界が『インフィニット・ストラトス』という物語の世界だということを知っている。そして千冬が動かしている機械もインフィニット・ストラトスと名付けられたのも発表会見で見聞きしている。それでいながらこの二つが無関係だ、などとは流石に言えまい。
何かしらの大波乱が起きることは確実、それが起きる前に少しでも多くこの世界の状況を調べなければならないのだ。
だから踊は分身であるペンダントを残すことくらいしかできなかった。
「すまない」
「良いだろう。……ただし、いつか顔を拝ませてもらうぞ」
「いつか必ず」
話に折り合いが付いた。ここいらで話を切り上げ近付いてくる戦闘艦や戦闘機に意識を向ける。
「上空の衛星と空母を任せられるか? 戦艦と小型機は某に任せよ。そのまま大陸に向かう」
「私は問題ないが、お前のほうが出来るのか?」
「これでも水上走は得意だ。では、さらば!」
「…………響の周りは超人の宝庫のようだ。束、聞こえていたな。援護を頼む」
『アイアイサー!』
各国から送り込まれた大量の兵器はたった二人の男女によって誰の血も流すこともなく殲滅された。
この事件は後に『