戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第参話

「気付いたら迷子になっていたと?」

 

「ふぁい……」

 

 今どうなっているかというと、丁度通りかかったお姉さん――織斑千冬さんという人に拾ってもらっておかきをいただいているところです。

 それにしても落ちてる感じが急になくなったと思ったら、町のど真ん中だなんて酷い神様です。しかも身体がメチャ縮んでるし……。くぅ、手を伸ばしても机の真ん中に置いてあるおかきに届かない……。

 

「ほら、慌てるな」

 

「わぁーい」

 

『精神は身体に引っ張られるのか……』

 

『身体が精神に引っ張られたようにも見えますね~』

 

『確かに』

 

 偶にはおかきも良いもんだね。パリパリしてておいしい。取ってもらったおかきを頬張る。

 ……あと、ちゃんと聞こえてるからね。

 

「家は何処だ?」

 

「…………えっと~」

 

 神様に何も聞いてない。踊君なら何か……。

 

『わかる?』

 

『何も言われてないな。前ので良いなら言うが』

 

『教えて~』

 

 不審に思われないようにテレパス機能を使って聞いてみる。

 

『野営』

 

「え゙っ?」

 

「ん?」

 

『またの名を野宿』

 

 うん。言い換えなくてもわかるから。私もそこまでバカじゃないから。

 じゃなくて野宿? この身体で? 元でもできるか怪しいのに5歳児くらいのこのお子ちゃま体型で、しかも一人で野宿?

 流石にムチャ言わないでほしい。

 

『へいき~、へっちゃら~』

 

「(流石に覚悟できてないから!?)」

 

「どうしたんだ? わからないのか?」

 

 千冬さんにどう言ったら……、ここは正直に話した方が良さげ?

 

「そのぅ……ないです」

 

「……」

 

 目を瞬かせて千冬さんが私を見る。こんな子供が家なしだなんて驚かない方が無理ですよね。踊君が話できたら良かったんだけどペンダントにお願いするわけには行かない。ちょっとシュールすぎる。

 こうなったらやけっぱち!

 

「あははは、色々あって家がなくなっちゃったんですよ~。お父さんもお母さんももういなくて、取り敢えず近くの山に籠もろうかなって」

 

 ごめんなさい、元の世界にいるお母さん……。お母さんも死んだことにしちゃいました。神様の頼みが解決するまで会えないのは間違ってないし私は悪くない。

 それにこの体で山籠もりもしたくないんだもん……。

 

「そう、か……。…………なら家に来ないか?」

 

「え、えっと、良いんですか?」

 

「家には君と同じくらいの弟がいるが、すぐに仲良くなれるだろう」

 

「ただいま~って、その子は?」

 

「丁度帰ってきたな。拾ってきた」

 

 扉から顔を覗かせた男の子は千冬さんに目元が似てて、彼女の言う通り今の私と同じくらいの年をしてそう。あ、目が合った。

 

「こ、こんにちは。立花響と申します」

 

「は、初めまして、織斑一夏です」

 

 そう言うと、一夏君は背負っていたランドセルを部屋に置きにいってまた戻ってきた。小さくなったのは分かってたけど……今の私って小学生の低学年くらいなんだ。

 千冬さんが時々私に話を振りながら一夏君に説明していく。

 

「じゃあこれから家に住むのか?」

 

「そうだ」

 

「よろしくお願いします」

 

 深々~とお辞儀して、なんだかんだあってなんとかこっちの世界での衣食住を貸して頂けることになりました。

 これで山籠もりしなくても良い! 一人でサバイバルなんてしたくない!

 

『…………むぅ』

 

 

 

 それからしばらくたって織斑家に馴染んできたかなと思っていたら、姉弟に連れられ外に引きずり出された。

 

「どこに向かってるんですか~?」

 

「行けばわかる」

 

「それはそうですけど~! 痛いです!」

 

「我慢しろ」

 

「助けて~!」

 

「早く行こうぜ!」

 

 逃げるとでも思われているのか、自分で歩けるのに千冬さんに腕を取られ引き摺られる。もうスカートが焦げるんじゃないかと不安になるくらいに盛大かつ高速に。

 最後の頼みがまさかの悪魔の囁きを……。

 

「そうだな」

 

「え、まだはやぅにゃぁぁぁあああああ!?!?」

 

 それで連れていかれた先は篠ノ之神社というらしい結構大きな神社のすぐ横の道場だった。ここも篠ノ之みたい。

 よ……良かった、焦げてない。

 

「ご、ごごは?」

 

「私が通っている道場だ。一夏もつい最近ここに通い始めたところだ」

 

「千冬姉、先行ってるから」

 

「ほへぇ゙ぇー」

 

『使われている木材などは新しいものが多いようだが使われている技巧は随分古い。この道場は歴史が深そうだ』

 

 木造の建物を見上げる私に踊君が元気に耳打ち(?)して教えてくれた。

 厳かな雰囲気を漂わせる建物に目を奪われていたのをどう捉えたのかわからないけど、千冬さんの案内で一夏君が進んだだろう道を辿る。そして奥の引き戸を開いた先には、

 

「メェェェエエエエンッ!!」

 

「ドォォオオオオオッ!!」

 

「ッ!」

 

 物凄く真剣に竹刀を振る人たちがいた。

 凄い気迫が入った瞬間身体にビリビリ響いてくる。気付かないうちに拳を握って臨戦態勢に入ろうとしていたのを慌てて抑える。

 

「どうしてここに連れてきたんですか?」

 

「お前、私たちのいない間何をしている?」

 

「そ、それはそのう……」

 

 慌てて何かないかと考える。けど普段の生活が生活だったから家でゴロゴロするのが性に合わなくて、いつも誰もいない時は庭で鍛錬していた。他には何もしていない。

 

「じーーーー……」

 

 これごまかせないやつだ。バレてないと思ってたんだけど、しっかりバレてましたか……。

 

「あははは。昔からやってる鍛錬をちょっぴり。あ、でも剣道はしたことないです」

 

「こんにちは、千冬ちゃん。一夏君より遅いなんて珍しいね。そっちの子は?」

 

 優しそうな男性がやってきた。師匠よりは線が細いけどがたいがしっかりしてる。師匠みたいなパワーファイターじゃなくて翼さんのようなテクニック系だ。

 

「すみません。この子は」

 

「立花響です! よろしくお願いします!!」

 

「元気な子だね」

 

 かなり強い。ゆったりした雰囲気だけど瞳の奥に潜んでいる鋭さと荒々しさは大きな力を持ってる。でも、それでもこの人の遙か上を行く目をした人がすぐ隣にいた。

 

「色々ありまして家で預かることになりました。幼いながらに武道の心得があるようなので見学させられないかと思いまして」

 

 千冬さんだ。ここ数日私を見る時の千冬さんの目が、稽古する時の師匠の目と重なること度々あった。そして背筋を迸る痛いくらいの感覚は師匠と対峙する時と同格で格が違う。

 あと2,3年くらいで師匠に並べるようになるんじゃないかな。

 

「こんなにちっちゃいのに心得があるなんて。いいよ~。ゆっくりしていってね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 師範の人が稽古に戻ったので中を見渡す。素振りをする一夏君とポニーテールの少女が目に入った。

 

「あの子は?」

 

 ポニーテールの少女を指差して聞いてみる。

 

「あいつは篠ノ之箒。師範の御子女で、中々に筋がいい。一夏の先輩だ」

 

「二人とも凄い逸材ですね」

 

「……。一夏と試合をしてみないか?」

 

「ホワイッ!?」

 

「一夏の良い相手になりそうだ」

 

 剣道なんてしたことないよ~。ど、どうしよう。

 

「一夏! 試合だ」

 

「わかった!」

 

 一気に話が進んでいき、私は胴当てを付けられて垂や小手を身につけて面を被らされてしまった。そして最後に竹刀を握らされた。

 ……重くないけど動きにくい。しかも視界が悪い。戦えるかな?

 

「よろしくな!」

 

「う、うん」

 

 ……どうしよう。踊君助けて!

 

『己が道で戦え』

 

 どういうことなの~……。

 

「初め!」

 

 

 

 最初に踏み込んだのは一夏だった。

 

「メンッ!」

 

「うぉっと!」

 

 縦に振り下ろされた竹刀を響は自分から前に飛び込むことで避け、一夏の後ろですぐに立ち上がった。

 すり足で今度は響が攻めに転じた。下からの胴への斬り上げを狙った。

 

「危ね!」

 

「ありゃっ?!」

 

 一夏が下がると響の竹刀は目標を失って空を切り、響の身体が持ち上がってしまいずっこけた。

 

「え?」

 

「いったぁ……」

 

 ゴロゴロと床を転がって手を付く。

 

「父上、一夏が相手をしているあの少女は?」

 

「立花響ちゃん。見学をしに来ただけの筈だったんだけど千冬ちゃんがね。まだ早かったんじゃないかな?」

 

「いえ、むしろ……」

 

 立ちあがった響はその場で力を抜いて息を吐いた。

 

「どうした?」

 

 不審げに一夏が問いかける。そんな二人の様子を見て千冬は口角を吊り上げた。

 

「……ここからが本番ですよ」

 

「止めた、止めた、止めたぁぁぁああ゙あ!!!!」

 

 響は矢庭に面を脱ぎ捨て、着ていた防具をまとめて放り投げた。


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