戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

42 / 139
第四十話

「もう少しゆっくり慣らしていきたかったんだがねぇ。まったくホントままならないね」

 

(な、何故だ……何故、お前がここにいる!? 何故ギアをまとえる?! いや、そもそも何故お前がギアを持っている?!」

 

 大地に降り立った女性は朱の長い髪をたゆたせて、朱金の甲冑に身を包んでいた。掴んだ剣を振りながら軽口を叩く。

 

「へぇ、コイツがこの大本になったって言うデュランダルか。確かにあたしにしっくりくるね……。ああ、でもやっぱりまだあたしじゃ使えないみてぇだ。ちぇっ、あいつの言う通りにするっきゃないのかよ。あーあ、もうちと時間がありゃ何とかなったのだろうによ」

 

 残念そうにデュランダルを振る手を止めた。

 

「翼ー! まさか折れたりなんかしてないよな。こうしてまた同じ舞台に立てたんだ。久々のセッションといこうじゃん」

 

「誰だ、あいつ……?」

 

 クリスちゃんはまだあの人と会ったことってなかったかもしれない。ずっと寝てて、起きたと思ったらすぐに旅に出ちゃって、行き違っちゃったんだ。

 

「……当たり前でしょ。ふふ、やっぱり近くにいてくれたんだね。私と貴女、両翼揃った私たちなら何処までも遠くへ飛んでいける。そうだよね、……奏」

 

「ああ、そうだぜ。あたし等ならどんなものでも超えられるさ」

 

「ええ!」

 

 こうして再び見ることが出来るなんて、夢みたい……。目から零れそうになった水を拭って、隣合わせに並んだ二人を見る。翼さんは地面に降りて、四枚のツバサを消して、そして奏さんの左側に。そして二人はゆっくり膝を曲げた。

 

「さぁ、し損なったいつかのライブの仕切り直しといこうぜ」

 

 二人は徐に立ち上がり、外に向けて片腕を振るう。

 

「す、すげぇ……」

 

 家一軒くらいなら覆い隠せてしまいそうなほど大きな片翼のツバサが、膨大の量の大気を押しのけて二人の背中から現れた。奏さんは右翼を、翼さんは左翼を延ばす。

 

「コイツを止めるにはどうしたらいいのかは、当然分かってるよな?」

 

「無論」

 

「なら、開演だ!」

-- Zwei Wing --

 

 私たちの歌が一度終わる。今から始まるのはそう、あの日あの時と同じ。

 二人はこの世界に問いかけた、何故に生くのかと。

 その大きく拡げられたツバサは力強く空を羽撃ち、世界の答えを聞こうとする。風は吹き荒れ、元の姿を忘れてしまった脈動の中を駆けた。風の流れに逆らわず流れに浚われた羽根は舞い散って、雪のように大空をその美しい純白で幻想的な景色を画いていく。

 この町を二人の詩が染める。崩れた町が二人が記した詩に応えようとしているみたいに、強く輝き出す。

 

「そんなものでッ!」

 

 二人は逃げない。私たちも動かない。だってあの二人が気持ちよさそうに歌っているんだもん。彼女たちは腕を伸ばしその歌を歌い続ける。

そして、全てのヒカリが一つの形になるときがきた。

 

「「神様も知らない、ヒカリで歴史を創ろう」」

-- Dusche Gegenlicht --

 

 朱と蒼、羽根が二色に彩られる。朱の羽根がレーザーを拒み、蒼の羽根が触手を絶やす。羽降る空間は怪物が立ち入ることを拒絶した。

 

「これほどのエネルギー量、やはりそのギアはデュランダルッ!? だが、いつ何処で手に入れた?!」」

 

「旅に出る直前に貰ったんだよ。確かそこの三人が争ってる間にデュランダルから抽出したってぇ話だぜ」

 

(エネルギーのみを結晶にしたというのか!? そんなもの出来るわけ……が!?)

 

「ニッ! 聖遺物が姿形を変えられるってのは、あんたが発見して発表したもんだろ。それに、目の前でも見てたじゃねぇか。あんたがいくら聖遺物のスペシャリストでも、聖達は聖遺物のエキスパート。起動さえしちまえばあいつにとっちゃ聖遺物の造形変化はお手の物ってわけさ」

 

「おいおい……あの時捕まってたのもわざとだったってことかよ……」

 

 クリスちゃんの呆れた声にただただ頷くことしか出来ない。すっごく心配してたのに……ウソだったって、なんか腹立つ。後で私の中にいる踊君を折檻しよう。

 

「さぁ、どうする? デュランダルを失った今のあんたじゃ、あたし等4人に勝つのは厳しいと思うぜ」

 

(このガキが! 舐めるなッ!! ネフシュタンの鎧がある限り私に敗北はありえない!)

 

「……やっぱりそうくるか。やれやれ……、翼、了子さんの足止めはあたしに任せな。響、頼んだぞ」

 

「わかった。……無理はしないで」

 

「! ……はい!」

 

 奏さんはデュランダルを私に投げて、激しく明滅を始めた。鎧の朱色のラインが唸り、瞬のうちに空の羽根が朱一色に染まる。

 

「……ンァッ!?」

 

 デュランダルを掴んだ瞬間、私の中を引き裂くような激しい衝動が暴れ回りだした。……意識が呑まれる……!? 何一つ抵抗も出来ないまま、私はデュランダルに意識を引きずり込まれた。

 

 

 

「……おい! ……っかりしろ、バ……!」

 

 気付けば真っ黒な闇の世界に私はいた。

 

「……識を強く持て! ……花、……前ならでき……!!」

 

 二人の声がとても遠く、彼方から聞こえる……。

 

――憎イ

 

(……ッ!? ……何!?)

 

――サクライリョウコガ憎イ

 

 頭の中に私ではない私の声が渦を巻いた。否定しても聞こえる声。

 

――フィーネガ憎イ

 

(違うッ! 私は了子さんを……憎んでなん……か……ぁ?)

 

 あれ? 思考が上手く……。

 

――学院ヲ壊シタ

 

(確……に、それ……悲……こと。でもだか……って……)

 

 何度も何度も、同じような言葉が頭の中で反響して、私が蝕まれていく。

 

――皆ヲ傷ツケタ

 

(それ……憎……んかない……)

 

――フィーネヲ潰シタイ

 

(……もう……! わた……なこと……ん……なんか……)

 

――フィーネヲ殺シタイ

 

(…………)

 

 ああ……もう、だめだ……。意識がどんどん遠のいていく。もう何も考えられない。考える気力が湧いてこない。いっそこのまま、この衝動に任せてしまえば楽になれるかもしれない。

 そう思ってしまった。皆の思いを聴いて皆の想いを背負っているのに、奏さんが一人で戦っているのにも関わらず抗うことを止めてしまっていた。

 

 

――がたがた五月蝿ぇんだよ。

 

 

 ……え?

 

――貴様、我ガ邪魔ヲスル気カ?

 

――テメェのご託はどうでも良いんだよ。聞け、響。外に耳を傾けるんだ。皆、お前を呼んでるぞ。

 

――失セヨ!

 

――はいはぁーいっ! ちょっとお邪魔ですよ~。静かにしましょうね。

 

(そ……と…………?)

 

 不意に現れた二つの光が私の周りでくるくる回る。私を覆っていた黒を切り裂いて邪を取り除いていった。閉ざされていた意識がはっきりしてきた。

 

「正念場だぞッ! 踏ん張り所だろうがッ!!」

 

「強く自分を意識して下さい! 昨日までの自分を、これからなりたいご自身の姿を!」

 

 ずっと私たちをサポートしてくれた六課の人たちの応援する声が聞こえた。昨日までの私、明日の私……。

 

「屈するな立花! お前が構えた旨の覚悟を私に見せてくれ!!」

 

「あたしらは、お前を信じてお前に全部賭けてんだ! お前が自分を信じなくてどうするんだよ!!」

 

 すぐ側から二人の声が聞こえてきた。私に託された、皆の思い……。

 

「あなたのお節介を!」

 

「あんたの人助けを!」

 

「今日はあたし達が!!」

 

 クラスの皆の声だ。助ける私だけが一所懸命じゃないって、わかってたはずなのに……、また私一人でなんとかしようとして諦めてた。

 

「姦しい! 黙らせてやる!!」

 

 ……かしましい? 皆の思いを込めた声がただかしましいだけなわけがない。皆の声が私を動かすんだ。

 例え、この身体を衝動が襲っても……私は皆の声がある限り!

 

「響ィィィイイイイイイイ!!」

 

 未来たちがいる限り!

 

「わたしだけの力じゃないッ! この衝動に――塗り潰されて、なるものかァァアアア!!」

 

 絶対に、揺るがない! デュランダルを天高く掲げる。

 

「これは!? その力……何を束ねた!?」

 

 デュランダル。光り輝き、焼き焦がせ! 皆に蔓延る雑音を、了子さんを縛るその歪んだ音を!

 

「響き合う、皆の歌声がくれたシンフォギアでェェエエエエッ!!」

 

-- Synchrogazer --

 

 全ての想いが詰まったデュランダルは、怪物よりもさらに大きな金光の刃を生み出した。

 そして一直線に真っ直ぐ進み、止まることなく怪物を縦に引き裂いた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。