戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第三十六話

 激戦を耐え抜き欠けた刃が(フィーネ)の手にした鎖型の鞭を相手に鎬を削る。

 休まず熱され続け磨耗した銃口から弾丸が(フィーネ)の鎧の隙間を掻い潜らんと宙を舞う。

 そして、特別な武器を持たず思いを伝える為の身体のみでまっすぐ(フィーネ)にぶち当たっていた 。

 

 

*****

 

 

「ラァァアアア!!」

-- CUT IN CUT OUT --

 

 了子さんと斬り結ぶ翼さんを目眩ましに、クリスちゃんが小型ミサイルで空を覆い隠した。同時に私たちは左右から了子さんを襲う。

 

「フッ……!」

 

「……ッ!」

 

「っ……!?」

 

 けれど、了子さんは肩から伸びるクリスタルのような鞭でミサイルをなぎ払い、アメノハバキリの斬撃を受け止める。しかもユニットで叩き込もうとしていた私を避け、蹴り返してきた。

 打てなかったユニットを弾けさせて辛うじて直撃は免れたけど、いつものガングニールでもどれだけ耐えられるか分からない威力だった。今の半壊の状態じゃ、たったの一回ですら耐えられるかどうかも分からない。

 

「ソコッ!」

 

「させねぇ!」

 

 振るわれた鞭を間一髪のところでクリスちゃんがガトリング砲で撃ち落としてくれた。でも何百発と唸らせなければ一本も払えず、火力と威力の差が大き過ぎることはみて取れた。

 

「「…………」」

 

 後ろの二人と目が合った。互いに頷く。言葉は交わさなくても何となくで考えは伝わる。私は了子さんの傍限界まで近付き拳を引く。まだまだ慣れない方法だけど同時にガングニールに意識を回して、ちょっとだけユニットを下げる。

 

――拳を通して画くのは轟く雷。

 

 了子さんは私がこんなことを出来るようになっているなんて知らない。だから払い除けようと鞭をしならせた。

 

――師匠直伝、雷を握りつぶすようにッ!

 

「何ッ!?」

 

「アタァアアアッ!!」

 

 撃鉄を打つような轟音と同時に体の中の力が抜けるような感覚が襲う。でもちゃんと一発で相殺できた。驚く了子さんを余所にまだ後ろに引いていた腕を突き出す。

 何度も何度もユニットにエネルギーを送って、尽く鞭を迎撃した。

 

……遂に了子さんが下がった。

 

 残り少ないエネルギーから取り出し、踏み込む直前の脚部ユニットに込める。そして地面を踏み、弾け跳ぶ。

 

「グッ!?」

 

「ハイッ!」

 

 強力な反動で加速させた体で回し飛び蹴りを胸郭に叩きつけた。同時に脛当てが砕ける。

 でも、動きは止められたんだ。なら構うもんか。

 

「翼さんッ!」

 

「蒼ノ一閃!」

 

-- 蒼ノ一閃 --

 

 空を駆け、翼さんが碧い斬撃を落とす。今までのそれよりも遥かに薄く研ぎ澄まされ、それでいてなお濃い。地面を抉るように弓形を描き進む。

 

「クッ! 小癪な!」

 

--ASGARD--

 

 即座に組まれた何重にも重なる鞭の陣と拮抗した。

 

「まだ終わってないぞ!!」

 

-- 滅 --

 

 けれど、碧い斬撃に重ねるように振り下ろされた青く輝くアメノハバキリが溶け込み、色が歪んだ。叩きつけられた衝撃で最初の1枚が砕き散る。突き進む2色のコントラストがさらに2枚、3枚と了子さんを守る陣を打ち破った。そして、光の粒子を散らし蒼と化した劔が了子さんを守る最後の盾を捉えた。

 二段構えの蒼の瞬きが翼さんと共に少しずつ押し始める。

 

「はぁぁああアアア!!」

 

「小娘が、舐めるな!」

 

 翼さんの脇腹を鞭が突き抜けていた。何処から?その疑問はすぐに解決した。

 目の前で起こる信じられない光景があったから。

 

 ……壊れたはずの鞭が次々と再生していた。砕け散ったはずの菱形状の鎖が連なり元通りの姿を取り戻す。

 

「いったい……どういう、ことだ?……聞いた話と若干違う?」

 

 傷口を抑え立ち上がった。私はすぐに前に出て、後ろに庇う。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ。平気だ」

 

「ボサッとすんな! これ以上はもたせらんねぇぞ!」

 

「ごめん! すぐ行く!!」

 

 クリスちゃんが伸縮する鞭を撃ち落としていた。さっきのガトリング砲に代わって、撃っていたのは真紅の長い一丁の銃。

 

「チッ!」

--BLOOD CONFESSION--

 

 一発の重みが増しているようで数発で確実に鞭を止め、舌打ちをしながらも了子さんの動きを阻害していた。

 でも、よく見るとクリスちゃんが劣勢だ。一丁に減ったことで連射速度が落ち、集中力も欠き始めている。そして何よりも、イチイバルが悲鳴を上げていた。撃つ度にできる小さな亀裂が目立つ。

 急ぐべきなのはわかっていてもあと一歩が届かない。だから私は私のできることをするしかない。

 

「テェイヤッ!」

 

 恐れず進む、ただそれだけだ。例え両の腕の籠手が壊れても、両の足の脛当てが砕け果てても。

 

「巻き込まれんなよ」

 

 声と同時にまた小型ミサイルと噴き出す白煙が空を覆う。翼さんはすぐに下がった。けど私はまだ拳と脚を前に出す。

 鞭が唸りさえすれば、さっきと同じように払われてしまう。だからギリギリまで鞭を叩き潰す。

 

「邪魔だ!」

 

 了子さんの振るう鞭が増えた。ただの飾りだと思っていたトゲが鞭に変化した。

 

「立花!」

 

 翼さんの声で横に退いた。間を空けず蒼ノ一閃が全ての鞭を纏めて受け止める。もう了子さんにミサイルを止める手はない。

 

「いけっ!」

 

 大量のミサイルが地面を掘る。爆煙と砂塵で視界が悪い。でもそれは一瞬。煙は大気を切り払う刃や鞭、押し飛ばす拳で掻き消した。

 了子さんに目立った外傷はなし、か。

 まだ次がある!

 

「本命は、こっちだ!」

 

 肩に担ぐ二機の特大ロケットの片方が燻っていた火を吹いた。

 

……光を放ち明滅を繰り返すカ・ディンギルを指して。

 

「カ・ディンギルか!」

 

「ロックオンアクティブ!!」

 

 一直線にそれは飛ぶ。

 

「スナイプッ!デストロイッ!!」

 

 一寸の歪みもない。

 

「させるかァアアア!!」

 

 今までの余裕のない叫びを上げ、了子さんは中央に割り込んだ。煙を貫いて無数の鞭が躍った。

 

「もう一機は……な!?」

 

 そうだ。もう一機は何処に?

 

「……ッ! クリスちゃんッ!?」

 

「何をする気だ!?」

 

 カ・ディンギルよりも遥か上を目指して飛んでいた。クリスちゃんを乗せて。

 途轍もない高所、大気圏スレスのところでクリスちゃんは飛び降りた。

 

「血迷ったか!」

 

 月を背にクリスちゃんは体を広げる。

……月を、背に?

 

「--Gatrandis babel ziggurat edenal--」

 

 彼方より聞こえてくる詠う声。

 

「--Emustolronzen fine el barusl zizzl--」

 

 また、なの……?

 

「--Gatrandis babel ziggurat edenal--」

 

 また私から、私達から大事なものを奪うというの?

 

 小型ミサイルを撒いていた腰のユニットから小さな金色の粒が散らされ、ユニットは四枚の翅に別れた。

 深紅のアームドギアが二つの砲になる。

 翅の先から打ち出されたピンクの光の筋が粒に触れる度に曲がる。月の下に鮮やかな蝶が舞った。

 同時に放たれたカ・ディンギルの極光が大気を押しのけ月を目指す。

 

「止めて! クリスちゃんッ!!」

 

いくら叫んでも聞こえるはずがない。

 

「--Emustolronzen zen fine zizzl--」

 

 最後の一句を詠ってしまった。

 駆け登る砲撃に、クリスちゃんは赤の光を灯す銃口を突きつけて、その手の中にある引き金を引いた。蝶の翅が一斉に一点を射抜くが如く、向きを変えた。細い糸のように微弱な撃ち放たれたレーザーは、集っていくピンクの翅に包まれ光線となる。

 

「絶唱の収束!? カ・ディンギルを押し留めているのか!?」

 

 メラメラと滾る炎のように真っ紅な思いが波紋を起こす。それでも、そこまでしても、カ・ディンギルの砲撃は止まらなかった。生命の歌が薄れていく。思いを貪り生命を喰らってもまだ止められない。

……最後の一滴まで絞り出した紅の光は、

 

――――s。

 

……クリスちゃんを呑み込んで、月の橋を穿った。

 

「仕損ねた!?僅かに逸されたのか!」

 

 了子さんが悔しそうに言うがそんなのどうでもいい。

 

「そんな……」

 

 空を堕ちるクリスちゃんが見えてしまった。

 

「ぁぁ……ぁあ……いやぁぁあああぁぁぁああああっ!?!?」


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