戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第三十話

『現在上空に現れたノイズ、共に東京スカイタワーを目指し進行中! 北東1! 北西2! 南1!』

 

『到達までおよそ40分! 皆さん急いで下さい!』

 

『了解! ……私は北東のノイズを抑える!!』

 

 ! ……敵は4。でも出現場所は3箇所、そして私たちは3人。バイクの翼さんが北東に行くなら、私が行くべき場所は当然、

 

「私は北西に向かいます! クリスちゃんは南をお願い!」

 

 北西しかない!

 

「バカか、お前は!? 飛べないお前がどうやって2体も倒すんだよ!!」

 

「大丈夫、大丈夫。なんとかなる!」

 

「なんとかっておい……!」

 

「いいから行って!!」

 

 クリスちゃんには先にヘリから落ちてもらった。

 

「お願いします。私をあのノイズよりも高く、限界まで近くに連れていって下さい!」

 たははは……かっこつけて、なんとかなるなんて言ってはみたものの、空を飛べず武器もない私には倒すってのは、実質不可能なんだよね~。翼さんも斬撃を飛ばす事が出来るけど、地上からじゃ届かないようで、どうしようもないみたい。

 私たちに出来ることは一人1体で少しでも長く時間を稼ぐことだけ。

 

「これ以上は限界のようです! もう少し近付ければ良いのですが……」

 

 下を見れば、飛行機のようなエイのような不思議な空飛ぶ物体がノイズをまき散らしていくのが確認できた。……あの大きなのもノイズ。おお、町がミニチュアサイズだ。

 

「いえ! これくらいならいけます!」

 

「……御武運を!!」

 

 息を整え、ヘリから落ちる。歌が自然と口から漏れる。着ていた制服は形を崩し内から姿を変えていく。

 自然落下の中で腕を後ろに引き絞る。ユニットも忘れずに伸ばしてェッ!

 

「はぁぁぁああああああ!!」

 

 ぐぅっ……堅いッ!? 弾き返ってくる衝撃が全身に叩き付けられ骨が震える。コレに耐えればいける! まだ止まらせない! ここで押し通す!!

 

「チェストォォォオオ!!!!」

 

 よっしゃぁあああ! 気合いの大勝利!!

 エイの背中に大穴を開けた。ちゃんと着地を成功させてから、空を見上げてボロボロと崩れる姿を確認して、

 

「1体撃破ぁっ!」

 

『浮かれている暇はない! 空の注意を引きつつ地上のノイズを殲滅、一匹も見逃すな!』

 

「ごめんなさいッ!」

 

 八方に注意を払い、謝りながらノイズを見付けては叩き潰していく。空を飛んでいるもう1体のエイはしばらく放置。……あれ? これじゃあノイズに謝ってるみたいだ。

 

『端から見たらそうですね』

 

「わひゃぁあっ!? イアちゃん!?」

 

『お久しぶりです。ホント、色々と』

 

 何で私の中からイアちゃんの声が!? まあ良いや。

 

『いいんですか……。あ、後ろに二匹お団子』

 

「お、本当にいた。テェエイ!!」

 

 イアちゃんのおかげで索敵する手間が省けた。空のエイノイズに集中できる。出会いざまに下から抉り取るようにアッパーを叩き込む。加減は辛いけど、結構な高さまで打ち上がるまで芥にならないから目があるなら少しくらい注意を引けるはずだ。

 

「ところで踊君は今どこに?」

 

『さぁ? 知らないです。少し前から響さんの中で待機してましたから。右前方、脇道にエビと団子が2と3』

 

「いつの間に!?」

 

『……一週間程前? その角の左に葡萄が』

 

 それってつまり踊君がいなくなる前に入れたってことだよね。そんな暇なかったはずなんだけどな……

 

『寝てる間にチクッと。それと、その緑の屋根の上にもエビが4匹』

 

「寝てる間っ!? 皆、私の扱いが酷い! それと心を読まないでくれたら嬉しいな!」

 

『それ無理♪ あと頭上に注意です』

 

「ふぬらべへっ!?」

 

 掠った!? 今、カシュってなったよ!? 言うのちょっと遅くなかったかな?! ……一瞬死んだと思ったんだから。怖かった。

 

『生きてるからいいじゃないですか。それに女の子がしちゃいけないような声が聞こえた気がしますが気のせいってことにしておきますから。……ふぬらべへっ!?て、ぷふ。……永久保存、永久保存。次の角右に曲がって10メートル先にちらほら』

 

「気のせいにしておいてくれたんじゃなかったの?! しかも適当!?」

 

 そして永久保存は酷い……。

 

『響さんの黒歴史に新たな1ページが刻まれましたね。お、逃げ遅れた人とノイズが一触即発中みたいです』

 

「やったね、みたいな感じで言わないで! 全く嬉しくないから。それに新たなってどういう意味!? んで、何でもないことのように超重要なことをさらっと流さないで!!」

 

 息も絶え絶えに大慌てで駆けつけて全力で殴り飛ばした。つ、疲れた……。作り主に似てこの子もずいぶん腹黒い。

 

『ここらノイズの一掃を確認。お、クリスさんが超大型を1体撃破したみたいです。あと2体ですね。まあ、まだまだ吐き出し続けるみたいですけど。』

 

「何ですと!?」

 

『P.S二匹の超大型がスカイタワー上空で合流しちゃいました♪』

 

「何ですとぉっ!?!?」

 

 くわぁあああ!! 何でそんなに楽しそうなのよぉぉおおお!?

 

『大丈夫ですって。そりゃまあ、危険かもしれませんけど別にスカイタワーに可笑しな熱源とかは今のところありません。ちゃちゃっと片付けたら良いんです』

 

「クリスちゃん頑張って!」

 

『いきなりなんだ!?』

 

 すぐに通信を繋げて祈った。戸惑うクリスちゃんをおいて翼さんにも無線を飛ばす。

 

『お久しぶりです、翼さん。そして初めましてクリスさん。イアです』

 

『む? 聖のところの子か。久し振りの挨拶といきたいが少々立て込んでいてな。後にしてくれないか?』

 

『誰かは知らねぇが邪魔すんじゃねぇ』

 

『酷いです! 折角、良いお知らせを持ってきたのに~。べ~っ、だ』

 

 私、放置ですか……繋げたの私……。

 

『どういう?』

 

『ふ~んだ』

 

「『『……』』」

 

『……わ、わりぃ』

 

 置いてきぼりは寂しいので無言の圧力だけは一緒に掛けよう。鬱憤は無限湧きのノイズで晴らしてやるぅぅうううう!

 

『仕方ないですね。一人暴走しちゃってる子はほっとくとして、落ちてくるのを除けば地上のノイズは全て消滅しました。人の反応もありませんし、いったん何処かに集まるのも手ですよ』

 

『協力感謝する。立花、雪音、一度集まるぞ』

 

『わかった』

 

「あ、はい!」

 

 急いで何処かの屋上に集まった。エイノイズもよく見えるし無限に雪崩れ落ちるノイズも目視できる。

 

『正しくヘドロの滝ですね』

 

 色合いだけなら虹色とか言えるんだけど、全色一様濁ってるから見ていて気分悪い。

 

「んなこたどうでもいいだろ。それより集まったのは良いがこれからどうするんだ? 任せろとか言っておきながら、1体しか倒せてねぇし」

 

「なんとかなる、って言ったけどなんとかするなんて言ってないもん」

 

「テンメェ……」

 

「仕方があるまい。我々の武器は届かないのだ。雪音に頼るしかない」

 

「おいおい、あんたともあろうお方がこんなあたしに頼るのか?」

 

「む? 嫌か?」

 

 これが感慨無量というやつか……。あの翼さんが誰かに頼るところを見られるとは。うんうん。

 

「こないだまでやり合ってたんだぞ。そんなに簡単に人と人がっ!」

 

「できるよ」

 

 顔がにやついたりしないように注意しながら二人を抑えてその手を取る。

 

「誰とだって仲良くなれるよ。へへへ、ずっとどうして私にはアームドギアがないんだろうって、いつまでも半人前はやだなーって思ってたんだけどね、でも今ならそうじゃないってはっきり言える」

 

 無い物ねだりはしないけど、それでもいつかは使えるようになりたいって心の何処かでずっと思ってた。けど違うんだ。私は初めからずっと持ってたんだ。

 

「何もこの手に握ってないから二人と手を握り合える。仲良くなれる。これが私のアームドギア。誰とでも繋ぎ繋がるこの両の手が私の力なんだって」

 

「砕いて壊すも束ねて繋ぐも力、か。ふふ、立花らしいアームドギアだ」

 

「このバカに当てられたか?」

 

「そうだと思う。そしてあなたもきっと」

 

「酷い言われようだな~」

 

 軽口をたたきながらも翼さんとクリスちゃんも手を繋いでくれた。

 

「しゃっ、イチイバルの特性は長距離広域攻撃だ。派手にぶっ放してやる」

 

「頼もしいな。2体まとめていけるか?」

 

「たりめぇだ。ギアの出力を引き上げて放出を抑えりゃ十分だ」

 

「だがチャージ中は丸裸も同然。減ったとはいえ増殖し続ける敵を相手にする状況では危険過ぎる」

 

 私たちがクリスちゃんを守ればいいってことだよね。

 

『つまり響さんが囮で、翼さんが殲滅、クリスさんが消滅するってことですね。ドゥーユーアンダースタンド?』

 

「理解してるから態々要約する必要なんてないよ!! しかも囮って言わないで、せめて盾とかもう少しマシな言い方してよ! あと何故読み聞かせ風に英語を使ったの?!」

 

『『なん……だと!?』

 

 なんですか、その私が英語を理解したのが信じられないとでも言いたげな顔は。これでも私は高校生なんですよ? 流石に中学生レベルの英語は理解出来るわ!

 

「……泣いていいですか」

 

 私の評価っていったい……。

 

「大バカ」

 

 グフッ……。

 

「超ドジ」

 

 グハッ……。

 

『真ヌケ』

 

「うわぁああああん!!」

 

 字が違うくせにぃぃいい。いいもん、またノイズに突っ込んでやるぅぅううう!

 

『……謀らずしも囮役が行ってくれましたね』

 

『……そうだな。では私も私の役目をするとしよう』

 

『……そうかい。……失敗しても後悔すんじゃねぇぞ』

 

「後悔なんてしないよ」

 

 ノイズの絨毯を踏みしめながら聞こえてきた二人の会話に交じった。クリスちゃんは純粋で純真で優しい子だ。拳と拳で語り合えなかったのは残念だったけどそれでもわかる。クリスちゃんならわざと失敗したりなんかしない。それに、

 

「クリスちゃんなら、私たちになら絶対出来る」

 

『どっからその自信が出てくるんだが……。ちゃんと守ってくれよ』

 

『任せろ』

 

「モチロンッ!」

 

 イアちゃんに索敵範囲をクリスちゃんのいる場所まで広げてもらい、地上に蔓延るノイズを殴った。片っ端から殴った。偶に蹴ったり頭突いたりしたけど、面倒だから殴ったことにして。

 数えるのもバカらしくなる程の数のノイズをぶちのめしたから、描写はcut!

 

『無駄に発音が良いですね……』

 

 多少なら英語は出来るっていうアピールだよ!

 どんどん地上に降ってくるノイズの数が減ってきた。それも当然、翼さんが降下中のノイズをまとめて蒼ノ一閃で切り捨てているからだ。

 哀れノイズ。負けるな……じゃなくて負けろノイズ。

 それじゃあ、あとは……流し目でクリスちゃんの様子を確認する。そろそろかな。4つのミサイルの準備は出来てるようだ。

 

「『託したっ!!』」

 

『派手にいくぜぇっ!!』

 --MEGA DETH QUARTET--

 

 

 ……そう言えば炭化したノイズってどうしてるんだろ。地上一面が銀世界ならぬ漆世界になってるんですけど。自衛隊とかその他諸々の公務員の方々、ご苦労様です。

 炭化って事はあれ全部炭なんだよね。それでクリスちゃんは巨大なミサイルとかその他諸々を撃ち込む気なんだよね。

 

 …………………………………………引火したらやばくない?

 

『燃えるかどうかはともかく、粉塵爆発はおきそうですね♪』

 

「クリスちゃん、くれぐれも地上を堕とさないように気を付けてね」

 

『???』

 

 あっるぇ~なんか背中から生えてるミサイルの後ろにミサイルポットらしきものが見えるんだけど気のせいだよね。あれってただの重しだよね、そうだそうに違いない。

 ポットから何かが飛び出す。しかもさらにその中からも小っさいのがぱらぱらと……あれもミサイルですね。はい。

 

 ……急げぇぇぇぇええええええええ!!!!

 

 身を挺して地上に降ってくる火の粉などを振り払う。いくらシンフォギアをまとってるからって熱い。しかも偶にミサイルの残骸があって痛い。ノイズ狩りよりも遙かに神経がすり減った。

 今までで一番頑張ったと思う。落ちてくる火の粉を落ちきる前に全部消火するとか何処の苦行だ、これは。もうこりごりだよ……。

 

「やった、のか……?」

 

「たりめえだ」

 

「ぜぇー、ぜぇー……終わったぁ~」

 

 ふへぇ、スカイタワー下で三人集まって一息吐く。早く部屋に戻ってゆっくりしたい。明日は筋肉痛が確定かな。

 あ、電話だ。元の制服に戻ったところで携帯がなった。お、未来からだ。

 

「もしも~し。終わっ「響ッ!! 学校が……リディアンがノイズに襲われ――ッ!」……え?」

 

 学校が……? 何で? どうして?

 

「どうかしたのか?」

 

「リディアン音楽院が襲われてるって……」

 

 あまりのことに私たちは言葉を失った。




 ……順番が滅茶苦茶なこの聖踊の織り成すシンフォギアの世界。次回から原作と大きく離れていくようです。もう残りもあと僅か、彼が導く物語、最後までお楽しみいただければ幸いです。

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