戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第十七話

 隠すべきことは隠して話を始めようか。

 

「まず、俺はあのライブの日、風鳴翼の持つ『天羽々斬』、天羽奏の『ガングニール』、そして敵方に奪われた『ネフシュタンの鎧』、この3つの稼働情報の収集のためにライブ会場に来ました」

 

 それとは別に響を守るってのもあったけれど、言わなくても良いことだ。

 

「そして確認できたら去ろうと離れた位置で眺めていた時、予想外なことが起こりました」

 

「えっと……ノイズの強襲……?」

 

「いや、違う。ノイズの方は出てくる可能性を考慮していたよ。でもそれよりも前に起きたことがあっただろ?」

 

「……地震か。そう言えばお前はその時に」

 

 あの地震は予想していなかった。あれさえなければもう少し穏便に出来ただろうし、ボロもなく動けていた。

 

「はい。そして地震が原因で起きた天井の崩落です。あれでその場にいたあの女の子を助けるために多くのエネルギーを使い果たし、さらに片腕が使えなくなりました」

 

 エネルギー切れで何とか走ることが出来る程しか残っていなかった。

 

「そして時間を使ってしまったため戦場に入るのに遅れ、入った時には既に奏嬢が絶唱を詠い、響は胸に穴を開けて血を流し倒れていました」

 

「ちょっと待て!! 響君の胸に穴なんて無かったぞ」

 

「……。一体のノイズが響を狙っていたのに気付いた俺は残った全てのエネルギーで撃退し、そして奏嬢は詠った」

 

 悪いけどダンナの質問は無視させてもらう。話には順序というのがあるんだ。

 

「櫻井女史。奏者と聖遺物には波長の適合が必要でしたよね」

 

「え、ええ。その通りよ。合わなければ使えないわ。ましてや絶唱なんて以ての外のことよ。死んでも可笑しくはないわ」

 

「……ッ!?」

 

「それでも天羽奏はまだ生きている」

 

「ええ。君はその訳を知っているようね」

 

 櫻井女史の鋭い視線が突き刺さる。科学者としてやはり気になりますよね……。

 

「はい。俺が介入したんです。ほとんど賭けでしたが、奏嬢が絶唱を詠い切る前にガングニールの波長を強制的に変質させ、奏嬢の波長に合わせたんです」

 

「……人の波長が合わないなら、聖遺物の波長を。ってことね。私たちとは真逆の発想だわ」

 

 まあ、その所為で気絶したんですがね。

 

「とは言え、波長を合わせたからといって肉体と精神のどちらもが無事なんてことはありえません。発生した負荷に肉体は耐えられても、精神が耐えられないことはわかっていました」

 

「それじゃあ、今の奏には……」

 

「精神、つまり魂のない器だけなんです。唯の植物状態ではありませんよ」

 

「じゃあ、奏さんは死んでいるのと同じじゃない!!」

 

 響が悲痛な叫びを上げた。室内に暗雲が漂う。

 

 ……魂がないことが=死と言うことじゃない。

 

「話は最後まで聞け。それを回避するための方法が一つある。俺はガングニールにその指示を飛ばしたんだ」

 

「……その、指示とは何だ」

 

「精神を肉体から引き離すこと、です。これは人道から離れた悪しき行為であることは承知しています。ですがそうする他に手がありませんでした」

 

 発動直前に精神を引き出すことに成功したガングニールはデータを一カ所に集め、その部分を飛ばした。

 

「……そして絶唱の発動によって、砕け散る破片と共に飛んできたそのコアをつかみ取り、響の胸の中に埋め込んだんです」

 

「ハイッ!? まさかこれって、踊君が入れたの!? ただの偶然じゃなかったの!?」

 

「すまなかった。でもあの時はそうするしかなかったんだ。さっき言ったようにお前の胸には大きな穴が空いていた。たとえ救護班がすぐに来ていたとしてもあのままでは間に合ってはいなかっただろう」

 

 そう言うと響は言葉に詰まって、静かになった。ダンナが軽く手を挙げ聞いてきた。

 

「だから、響君がガングニールを持っていることを知っていたのだな。君が響君の側にいるのはやはり?」

 

「ええ、恥ずかしながら責任を取るためですよ。仕方がなかったとは言え、響にガングニールを埋め込んだ責任があります。彼女は遅かれ早かれ適合者であるのはわかることですから、そのケアのため、そして奏嬢の魂を無事に返すためです」

 

「無事に?」

 

 元々肉体と精神は切り離してはならない一纏りの構造をしている。しかし無理に引き離してしまった。魂の修復が終われば、自動的に戻ってくれる。だが稀に肉体と精神が完全に結びつかないことがあり、下手をすれば魂が消滅する。

 それを防ぐためには俺も立ち会う必要があった。

 

「それからずっと響の状態をチェックして奏嬢の修復率を確認していたんだ、まさか三年も掛かるとは思ってなかったけどな。それにネフシュタンの鎧がもう日本に戻ってくるとは思わなかった」

 

「チェックって……ぐ、具体的には?」

 

 響が恐る恐る聞いてきた。

 

「? ただガングニールから送られてくるデータをまとめるだけだぞ」

 

「あ、そうなんだ。よかったー」

 

 何を思ったのか今度は安堵した。響の不思議な行動に疑問は感じたが、まあ話を進めたほうが良いか。

 

「残り13%。ガングニールも起動しているので、翼嬢が目を覚ますまでには修復できると思います。本当はこうなる前に翼嬢にも説明して起きたかったですが……」

 

 後悔先に立たず、か。昔の人はよく言ったもんだよ、全く……。

 

 せめて響が無理して笑わなくていられるように、立ち回らないとな。

 

 

*****

 

「ハァ~……」

 

 話が終わった後、私は一人、部屋を出て近くにあったソファーに腰掛けた。

 

 思いもしなかった踊君の話には色々と驚かされた。けれど、踊君は踊君だ。確かに初めは私の中にガングニールが在ったから一緒にいたのかもしれないけど、三年間の間ずっと私を心配して、近くで支えてくれたのは踊君の意志だと思う。

 それに……未来と同じで、踊君の側も私の守りたい大切で暖かい場所だから、踊君が何者かだなんて関係ない。

 

 それよりも心配なのはやっぱり、

 

「翼さんのこと、ですよね?」

 

「あ、緒川さん……。……はい。そうです」

 

 何時からいたのか、緒川さんが私の前に立っていた。緒川さんは手に持っていた何かを私に向けた。それは、まだ暖かい缶コーヒー。

 ゆっくり口を付ける。苦い……。

 

「絶唱について、もう聞きましたか?」

 

 絶唱……確か相手の子が言ってたような気がするけど、詳しくは聞いてなかった。絶唱って何なんだろう?

 

「詳しく教えてくれませんか?」

 

「わかりました」

 

 緒川さんから全てを聞いた。……正直信じたくない。絶唱というのは奏者の負担を度外視した諸刃の剣で、踊君曰く奏者の最後の歌らしい。それを奏さんは私を助けるために歌った。そして翼さんはあの日から今までずっと一人で詠い続けて、自分を責めてきたそうだ。

 

「そんなの酷すぎます……」

 

 なのに私は、翼さんのこと、何にも知らないで一緒に戦いだなんて……、奏さんのかわりになるだなんて……。私……、最低だ。

 

「翼さんのこと、嫌いにならないで下さい。翼さんを世界に独りぼっちになんてしないで下さい」

 

 緒川さんの顔は苦しそうに、辛そうに、歪んでいた。緒川さんも弦十郎さんもここにいる皆、翼さんのことを大切にしてるんだ。

 

「翼さん……泣いてました」

 

 翼さんは強いから戦い続けてきたんじゃないんだ。ずっと、泣きながら、それを押し隠して戦ってきたんだ。

 

「悔しい涙も、覚悟の涙も、誰よりも多く流しながらも、強い剣で在り続けるために。ずっと、ずっと一人で……」

 

 流星群の下で未来が言っていたことがやっとわかった。

 

『どんなに悩んで、考えて、出した答えで一歩前進したとしても響は響のままでいてね。変わってしまうんじゃなく、響のまま成長するなら私も応援する』

 

 あの時はどういうことなのかわからなかったけど、そうだったんだね。

 

『だって響の代わりはどこにもいないんだもの』

 

 私は、私のままで、いていいんだ。奏さんの代わりとしてじゃなくて、私……立花響として翼さんの横に立てば良いんだ。

 

「……私にだって守りたいものがあるんです! 私に守れる物なんて、小さな約束だったり何でもない日常くらいなのかもしれないけど! それでも私は、守りたいものを守れるように、私は私のまま強くなりたい!! だから!」

 

 私は力を入れて勢いを付けて立ち上がり、前を向いた。

 

「弦十郎さん、私に戦い方を教えて下さいッ!!」

 

 そこには弦十郎さんと踊君が立っていた。

 

「だそうですよ?」

 

「フッ。愚問だな。言っただろう受け入れると。響君、付いてこれるな?」

 

「ハイッ!!」




一往、踊君の嘘を織り交ぜた説明回。
まだそんなに原作から離れていない模様ですね。
踊君はこれからどう立ち回ることになるのやら……。

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