戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第十五話

「やっぱ、二人とも強―なぁ」

 

 流れた血のような液体を見て呟く。そしてさっき森で起きたことを思い出した。

 

 

 

「流石、踊君。片腕になっても動きが衰えませんね~」

 

「勝手なこと抜かすな! 十分落ちてるっての! グゥッ!」

 

 着地と同時に横に跳ぶ。するとその地面は抉れ穴が開けられた。威力も弾速も尋常じゃない。これは当たったら洒落にならんな……。だからと言って下がるわけにもいかないし、やるしかない!

 

「オラァァアッ!」

 

「ホイサッ、と」

 

 起き上がるのに合わせ、前に跳び正拳突きを繰り出す。だが、サージェに肘で僅かに機動を変えられ、さらに手にしていた拳銃を俺の顔に向けて発砲した。

 

「そこデスッ!」

 

「当たって、たまるかッ!」

 

 それに体を倒し首を傾けることで何とか躱し、体勢を立て直すついでに、今度は回し蹴りを繰り出す。反らせないことを理解したサージェは腕をクロスさせ防御した。

 

「甘いか!!」

 

「ふふふ。ありがとうございま~す!」

 

「な! しまった!?」

 

 俺の蹴りを利用して後ろに跳んだのか! やられた……。俺は隻腕なので、唯一の武器である鎌も上手く使えない。それに対して、サージェは五体満足で拳銃が二丁。これ以上離されないように攻めようと追撃を掛けたが、踏み込もうとした足場を撃ち抜かれたことで下がるしかなくなった。

 

「もしも貴方に右腕があったなら危なかったデスね~」

 

 本当にその通りだ。いつもであれば相手に隙を与えないインファイトで攻め立ててしまえるが、片腕がないせいで上手く軸に乗せられない。

 

「そう言うんなら、手加減くらいしてくれたっていいんじゃないか?」

 

「いやいや、ご冗談を」

 

 冗談なんか言ったつもりはないんだがな! うおッ!? さっきから間一髪だ。紙すら差し込む隙間がないほどにギリギリのところで躱していく。

 その時、もっと面倒な奴が現われた。

 

「拙者も混ぜて頂こうか!!」

 

 不意に現れた第三者の刃がサージェの背後に振り下ろされた。

 

「ディバンスさんじゃありませんか! これまた懐かしい!!」

 

「久しいな。サージェ」

 

「久々に三人が揃ったてのに、立場は全然違うか。お互い随分変わったな」

 

 サージェの背後を襲ったのはディバンスだった。

 懐かしいな……この三人がこうして集まるのはいったい何年ぶりだ?

 

「何年デスかね~」

 

「ふむ。余計なことは覚えぬ質でな。覚えておらぬ」

 

『もう5000年ぐらいですよー』

 

 その時、俺の中から声が漏れた。AIの声だ。

 

「AIちゃんデスか? お久しぶりデス」

 

『はい! サージェさん、ディバンスさん、お久しぶりです!』

 

「また急にどうしたんだ?」

 

『どうしたとは酷いです!! 皆さんが折角集まってるのに私だけ除け者なんて嫌ですからね!』

 

 除け者って、これでも今は戦いの最中なんだぞ。そんなこと言ってる場合じゃないっての。銃弾と斬撃は迫って来てるし、普通に話せるのが可笑しいんだよ。

 

 少しずつヒートアップしていき、少しずつだが躱しきれなくなってきた。

 

「フッ!!」

 

「チィイッ!!」

 

「そこデス!」

 

 ディバンスが鎌を振りすのを見て躱すのは諦めた。わざと前に出て柄の部分を腹で受け、ディバンスの胸に掌底を叩き込む。その間に後ろでサージェが発砲した。

 

「グゥ……ァアッ!」

 

「ナニ!?」

 

 弾丸を右腕の残った部分を盾に、一気に駆けより顔面を膝で蹴り飛ばす。

 

「後ろががら空きだ!」

 

「グァアア!!」

 

 やはり軽かったか! クソッ!! 不味い……もう左腕も…………。

 

「貴方も油断大敵デスよ!」

 

 空から銃弾の雨が降り注いだ。俺もディバンスも何発かの銃弾に貫かれてしまった。被害率で言えば、当然俺が一番大きいな。だが、

 

「これでバランスが取れた。ちったぁやりやすくなるってな!」

 

 腕が無くなったことで、重心が元の位置に戻り、蹴りに体重が乗せやすくなった。それに元々、俺は蹴りの方が強い。足の強度にエネルギーを回せば、下手に腕が残っているよりはマシだ。……と思ってみるが、まぁ、ただの強がりだな。

 

「守りが落ちてますよ?」

 

「わかっているさ!!」

 

 お前等相手に生半可な攻撃も防御も通用しない。それに時間も無いんだ。だったら、もういっそのこと防御は捨てる!!

 片足が大きく抉られたが止まれない。

 翼に絶唱を使わせる訳にはいかないんだ!!

 

「ハァァァアアアア!!!!!」

 

「何という力デスか!?」

 

「ヌゥ! ……これほどまでの力を。フ、敵ながら天晴れ」

 

 体を襲う痛みに臆することなく、間を詰め続ける。だが一歩遅かった。

 その時、世界が紫色に染まってしまった。

 

「これは!? ……畜生ッ!!」

 

「これまた厄介な」

 

「不味いデスね……」

 

『天羽々斬、絶唱開始を確認! 急いでください!』

 

「「「ああ!!」」」

 

 

 その時、全員の意識が一致した。俺は当然翼を守るため、サージェは雪音クリスを守るため、ディバンスは……理不尽な死を止めるため……か?

 それはどうでもいいか。

 

 足から血のようなものが抜けるのもいとわず、さらに加速させていく。足がもげてしまいそうだが、何時か治ると既に割り切っている。筋の何本かが切れるのを感じるとその片足が動かせなくなった。だが何とか三人の元に付けたから良しとしよう。

 

「翼!! 命を無駄にするんじゃねぇ!!」

 

 俺は残ったごく僅かの体力で声を張り上げた。今の俺には翼を救う術がない! 歌いきる前に止めないと!

 

 だが、そんな思いも裏腹に、俺の声を無視した翼は詠ってしまった。

 

「多少の中和くらいはさせてもらいますよ」

 

「貸し一つだ」

 

 歌いきる直前、追いついたサージェとディバンスが二人に駆け寄り、それぞれの武器を中心でぶつけた。

 

 伸びたのは蒼の柱。中和すると言っても絶唱の力は計り知れない。柱が昇るのと同時にサージェは苦しむクリスを抱えて引き離した。ディバンスは直撃をもらわないように、出来る限り鎌で捌いていたが、力に押し飛ばされ遠くの方まで飛んでいってしまった。

 

 何とか体勢を低くしたことで飛ばされなかった俺は、倒れそうになった翼を体で受け止め救護班に任せた。

 

 

 

「平和ボケしたつもりはなかったんだけどな……見事にやられちまった」

 

『踊は昔と強さは変わってませんよ。ただ、ディバンス達が想定以上に強くなっていたのが、敗北の要因です。それに腕もありませんでしたしね』

 

 それは言えてるが、ここ数十年の間、研究や実証ばかりで戦闘なんかは怠っていたのが、大きく離された原因だ。

 これは本格的に弦十郎さんの弟子入りをすべきだな……。

 

 さて、それよりも明日はどうやって説明したらいいか考えないと。

 聖遺物であることは言える訳がないし、ディバンスやサージェのことも言えない……、俺の立ち位置とその役目、後は奏のことを話せば今はいいか。

 月を見上げ、体を風に委ねる。マジマジと月を見たのは久しぶりだな。後ろに誰かが立ったのを感じた。ずっと盗み見られるのも嫌なので声をかける。

 

「そこにいるんだろ? 木の後ろにいないで、出てきたらどうだ?」

 

「…………」

 

 む、何も言わないが、素直に出てきたみたいだな。

 

 

 

『(あ……せっかく名前を考えたのに伝え忘れちゃったよ~……)』

 

 誰にも知られず、AIは嘆いていたとかいないとか……。


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