戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
「まいったな……」
もう一か月以上、経ってしまった。今だに響と翼嬢の二人を同時に集められてない。
ダンナに頼めば、無理やり集めてくれるだろうけど、二人に無理はさせられない。響はここ最近人助けのためと忙しく、翼嬢は歌手活動のために多忙な毎日を送っている。
それに、俺だって教師補佐としての役目がある。生徒の手助けであったり、書類作りだったりと、様々な仕事をこなさなければならないのだ。
「あの、先生」
「ん? 小日向か。どうした?」
「響のことなんですけど……」
未来は言おうかどうか躊躇っているようで、口ごもってしまう。
「その……響に何かありました? 最近、私に何か隠し事をしてるみたいで、何時もこそこそしてて……何だか、響が何処か遠くに行っちゃうんじゃないか、って心配で」
「呵々、大丈夫だ。響は必ず君の元に戻ってくるさ」
絶対、道を敷いてみせる。……とは言え、その道を通って来れるかどうかは、未来に賭かってるんだけどな。
「踊さんは、響が何を隠してるのか知ってるんですか?」
「ああ、知ってるぞ。関係者だからな」
「あの! 教え「でも俺は言えない」……どうしてですか?」
「隠しているのは、響が自分で考えて、悩んで決めたことだから。俺がその邪魔をする訳にはいかないんだ。ただ忘れないで欲しいのは、響が悪いことをしてる訳じゃないってこと。何時か響は話してくれるから。その時まで待ってあげて欲しい」
「……わかりました。でも、絶対に響を守ってくださいよ!」
守れって? 当たり前だ。守るに決まっている。義妹すら守れんで、子供の笑顔が守れるものか。
……でも、どうやってしようかまだ決まってないんだよな。
ずっと悩んだが答えを出す間もなく、時は訪れてしまった。
*****
今日は、未来と『流れ星を一緒に見る』と約束してるんだよね。
ああ~、楽しみだなぁ~。
その時、携帯が鳴った。嫌な予感が……うぅ~……風鳴さんからだ……。
「もしもし」
『大至急来てくれ。ノイズが現われた』
やっぱり……。私、やっぱり呪われてる~。
もう夕方なのに~、間に合わなくなっちゃうよ~。未来に連絡しないと。電話を掛けるとすぐに未来は出てくれた。
「ごめん、未来。ちょっと用事が入っちゃって間に合わないかもしれない」
『……うん。わかったよ。でも待ってるから』
「ありがとう。頑張ってみる」
本部に行くと既に翼さんは出撃してしまっていた。私も話を聞くとすぐにノイズを駆除するために現場に向かう。その時、
「俺も行く」
踊君がそう言った。聖遺物を持ってない踊君が行ったとしても、危険なだけなのにどうしたの?
「小日向にお前と流れ星を見に行く約束をしたって、聞いたんだよ。ずいぶん楽しみにしてたし、響も急ぐんだろ? 戦えなくても人の救助は出来るからそっちは任せろ」
踊~君~……ありがとう~! よ~し、頑張るぞ!! 未来と流れ星を見るんだ!
*****
もう太陽は沈もうとしていた。
「皆さん、行きましょう」
「うぃ。響、ノイズは任せたぞ」
二課の人たちはそれぞれに別れる。私もギアを装着して、ノイズの団体のど真ん中に突っ込む。今日の私はいつもより荒れてるよ!
「テヤァア!!」
拳を突き出し、数十体のノイズをまとめて吹き飛ばす。
「まだまだぁ!!」
勢いを殺さずそのまま一気に裏拳でノイズを殴り、さらに回し蹴り、膝蹴りと繋げる。日が沈むまであと一時間あるかどうか。帰るまでの時間を考えれば、もうほんの僅かな時間しか残されていない。
「翼さんッ!!」
いくらか進んだところでやっと翼さんに追いついた。周りの見ると、いたるところに炭の塊があり大量のノイズが翼さん一人に葬られたみたい。でも、翼さんも疲れているようで少し太刀筋にブレが見える。
遅れた分もあるし私も頑張らないとね!
「そこ!」
「!……ちっ」
「酷い!? 露骨に舌打ちされた!?」
「五月蠅い! 黙って戦え!!」
「はぃ~!」
翼さんが怖い……。大人しく翼さんの指示に従ってノイズを叩くことに専念しよう。ノイズの攻撃を左に避け右腕で地面に叩き付ける。さらに近くにいるノイズを捕まえ肘鉄をお見舞いしいくつかのノイズごと弾き飛ばし、炭に変える。
「ハイッ!!」
--逆羅刹--
翼さんも手にした刀で空のノイズを切り捨て、さらに地面に手を付くと足に取り付けられている折りたたみのブレードを展開し地上にいるノイズをまとめて裂いた。私にもアームドギアだっけ、そんな武器があったらよかったんだけどな。無い物強請りしてたら踊君に怒られそうだし止めよう。
戦闘を開始してからほんの数分でノイズが殲滅された。
「これなら間に合う!!」
「響! 翼! 避けろ!!」
「え?」
上を見上げると光の玉が目前まで迫っていた。翼さんはすぐに反応し躱すことができたけど、私は反応できなかった。
「くそっ!! 伏せろォォッ!!!」
光の玉が爆発した。だが、爆風すら私には届くことはなかく、立ち込める煙が視界を覆い隠す。
「怪我は……ないか?」
「う、うん。ありがと、踊く…………え?」
踊君の声が前から聞こえた。踊君が庇ってくれたんだ。煙は風に流されすぐに晴れた。踊君の姿が見えて礼を言おうと思ったのに、私は言葉を続けられなかった。
だって、踊君の右肘から先が無くなっていたから……。
「大丈夫だ。すぐに下がれ!」
踊君に怒鳴られ急いで後ろに下がる。
「何者だ!」
「……チッ」
翼さんが光の玉が撃たれただろう森に向かって、小刀を投げつけた。それを躱すために隠れていた人が飛んで躱す。それは白い鎧を羽織った少女だった。
「それは、まさか! ネフシュタンの鎧!?」
ね、ネフシュタンの鎧? よくわからないけど、翼さんはあの鎧のことを知ってるみたい。でも、翼さんが取り乱すなんて何でだろう?
「へえ? こいつの出自を知ってんだ?」
「三年前、私の不始末で奪われた物を忘れるものか。何より、私の不始末で奪われた命を忘れるものか!!」
三年前に奪われたって……まさかあの日に奪われたの!? 奪われた命ってやっぱり奏さんのこと、だよね……。
「まだ、あの子は死んでないぞ! 勝手に殺してやるな」
「だがもう!」
翼さんの目が微かに揺れていた。踊君は舌打ちすると何かを呟いた。
「こうなるくらいなら、もっと早く無理にでも話しておくべきだったな……」
「ごちゃごちゃとうるせえなぁ!」
「させん!」
痺れを切らした少女が、肩から生えている鞭のようなものを振るった。けど、すぐに反応した翼さんが刀の側面で打ち払う。
「クッ! ゆっくり話してる暇はないか……」
「ハァァアッ!!」
「ハッ!!」
翼さんが刀を振り下ろすが、少女は簡単に反応し、鞭を張ることで受け止めた。そして勢いのなくなった翼さんの腹を蹴り飛ばしてしまう。
私も戦うべき?
でも、あの子も人だよ。話し合うことが出来るはずなんだ。やっぱり、戦えない。止めないと!
「止めてください、翼さん! 相手は人ですよ。同じ人間なんです! 話せば分かり合えるはずです!!」
「「いくさ場で何を莫迦なことをッ!!!」」
いくさ場でハモった!? って、なんでハモるの!
「貴女とは気が合いそうねッ!!」
「ハッ、だったら仲良くじゃれ合おうかッ!」
再び翼さんと少女が戦い始まってしまった。
「クソ、流石に完全体との差は大きいか」
「ネフシュタンの力だなんて思わないでくれよな! あたしのてっぺんはこんなもんじゃねぇぞ!!」
「グッ!?」
さらに力を上げた少女は翼さんを圧倒し始める。私は二人の戦いに割り込もうと、ずっと隙を待っていた。けどそのせいで、ノイズが近くに来ていることに気付けなかった。
「え!?」
「よっしゃっ!! 」
いつの間にか後ろにいたノイズが、白い糸のようなものを吐き出した。
な、何これネバネバして千切れない! いくらもがいても抜け出せないし、気持ち悪い。
「その子に渇けて、私を忘れないでもらおうかッ!」
「のぼせ上がんな人気者! 誰も彼もが構ってくれるなんて思うんじゃねぇッ!」
「俺も忘れるなよ!」
「ハッ! 片手で何ができる!」
二人の戦いに怪我をしているのに踊君は割り込んだ。鞭を血で濡らしてでも、掴んで引き止めた。
「マ、マジかよ!?」
「呵々、片手でも意外と出来ることは多いんだぞ。隻腕、舐めんなよ!」
「ガァッ!?」
少女が驚いた一瞬の隙を突き、鞭を引き少女に蹴りを決めた。さらに追撃を掛けようと突っ込んだが、そこでノイズが踊君の行く手を遮るように割り込んだ。
「無駄だ」
「何する気だ!?」
「踊君!?」
けど、踊君は動きを止めずノイズに突っ込み、ぶつかって……そして炭に、ならなかった。
そのまますり抜けた!?
「ウソだろ……!?」
「俺を止めるにゃ、実態の無いノイズじゃ無理なんだよ!」
「しまった!?」
「だったら、実態あるもので。ってねぇ?」
「ムッ!?」
踊君の攻撃が当たる前で、ピエロが踊君のパンチを止めた。
「お前は……」
「久しぶりですねぇ~、聖踊君。サージェです」
「懐かしいな。……翼嬢、そっちの少女は任せた。俺はこいつに用がある」
「待て!!」
すぐに踊君はサージェというピエロと場を離れた。その時、私を縛っていた糸が突然切り裂かれて、解放された。
「少し遅れたか?」
「貴様は!」
後ろを見ると、死神……じゃなくてディバンスが立っていた。ディバンスに助けられたんだ。味方、なのかな?
「蒼き防人か。久しいな。む、其方が、雑音を出した者か? 済まぬが雑音は消させてもらった」
え、雑音って何? ここにいた誰もが疑問に思ったけれど、すぐにそれが何なのか理解できた。さっきまでいたノイズが一瞬で塵になってしまったのだ。
確かにnoiseを訳せば雑音だけど、だからって雑音は……。
「何時の間に!?」
「そこの若者よ。踊殿は何処へ向かわれた?」
「へ? あ、あっち、です……」
踊君たちが去った方角を指さすと、そのままそっちに向かって行ってしまった。若者なんて呼ばれ方初めて聞いたよ……。すっごい古風な人(?)みたいだ。
「アアァ! クソッ。さっきから邪魔ばかり!! 取り敢えずぶっ飛べ!」
--NIRVANA GEDON--
鞭が一か所に丸まり、中に光る球体を作り出した。あれは最初の光の玉だ。翼さんはすぐに躱そうとしたけれど、地中から生えていた鞭に足を掴まれ動けなかった。
「クッ!」
逃げるのを諦めた翼さんは刀を横に寝かせ、足のブレードを地面に突き刺すことで光の玉を受け止める。けれど、光の玉の威力は桁違いで天羽々斬はボロボロになり翼さんは膝をついてしまった。
「繰り返すものかと私は誓った……」
刀を固く握りしめ支えにして翼さんは立ち上がった。