戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第Ⅲ話

「よう君、よう君。今日はIS学園に行かなきゃいけないんだったよね?」

 

 2日おきという振り子のような生活を初めてからしばらく、片手で数えれないこともない回数の世界渡りを規約通りに守ってきた今日この頃の私ですが、ついに破る日が来てしまいました。

 

「ああ。向こうで大事な生徒集会が行われる。響には建前だけの関係ほどでしかないが、だからと言って行かないわけにはいかんだろう。千冬嬢的に」

 

「納得。流石にちー姉の餌食は勘弁です」

 

 あれを受けなくて済むなら、習慣をちょこっと変えることくらい造作もないこと。うん、ほんと造作もない……。

 ……ん? 建前って、よう君はすでに話の内容を知ってるのかな?

 

「響にそんな風に思われる義姉さんか-。ちょっと会ってみた――」

 

「止めて下さい、お願いします」

 

「……え、なんでそんなに懸命なの?」

 

 未来の呟きが聞こえた時点で私は疑問をぶん投げて懇願していた。

 だって、あのちー姉と未来だよ? 軽々とポコスカ叩いてくる人と、プッツンしたらニコニコ満面の笑みで精神削ってくる人なんだよ?!

 そんな二人の迎合とか、地獄以外のなにものでもない!

 

 多分あれだ。会っちゃったら最後、軽々とポコスカ叩いて精神を荒削りしてくれる人とプッツンしたらニコニコ満面の笑みで精神を折ってアイアンクロー咬ましてくれる人が爆誕することに…………アハッ、軽く死ねるね。

 

「未来も未来のままで、絶対未来のままでいてね」

 

「えっと、うん。わかった」

 

(あの、響は頭でも打ったんでしょうか?)

 

(心配することはない。いつも通りだ)

 

(それはそれで心配になるんですが……)

 

 ……………………絶対会わせないようにしよう、せめて卒業するまでは。

 

 

 

「それではこれより、今回のみの特別ルールについて生徒会長から説明があります」

 

 朝礼と1限の大半を丸っと使って行われる集会はもうすぐ行われる学園祭に関する説明や補足なんかが主でした。

 出といて良かったと思う反面、よう君の行ってた私が関係するのは建前だけ、っていう発言を思うとまだ見ぬ生徒会長さんの説明が不安で仕方ありません。関係ないらしいけどどこまで信じられるものかわかんないし。

 

 ……そう言えば、ここの生徒会長って誰なんだろ?

 

 1学期でも行事の度に集会は開かれたけど前に立ってるのは先生ばかりで稀に立つ生徒もどこかの委員会の人か、さっきから壇の脇に立って進行を進めている人くらい。

 

「やぁ、みんなおはよう」

 

「……うぇ?」

 

 あれ、私疲れてるのかな。次元酔いでもわずらっちゃった? つい最近あったお方が壇上に立ってるんですが……

 しかもその人は私の前にいる誰かさんとちっこい誰かさんに向けてウィンク。そして受けた二人の反応はーっと、片方は戦慄したかのように肩を跳ねさせ、もう一人は安全地帯で応援する友達のようにのんびり手を振っている。

 ……うん。どっちの反応にもツッコミを入れたい。でもここは公然の場。だから自重してその人がそうなのか耳をそばだてることにしよう。

 

「さてさて、今年は色々と立て込んじゃっててちゃんとした挨拶はまだだったね。私の名前は更識楯無。君たち生徒の長よ。以後、よろしく」

 

 わーい。勘違いじゃなかったよ! ホントにあの人楯無さんだった。私の目は少しばかりも落ちてなかったみたい。よかった、よかった……じゃない!

 信じられないことにのほほんと『かいちょ~さん』と呼ばれてた人は、何処かの部活のトップどころか、トップの集まりの中のさらにトップだったらしいです。

 私、そんな人とふっつーにお話ししてたんだ……。もうびっくりどころじゃなくて仰天ものです。驚きがくるっと一周しちゃってむしろ落ち着いてしまった。

 

「では、今月の一大イベント学園祭だけど、さっきの説明の通り今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容は……」

 

 閉じた扇子を手にし楯無さんは横にスライドさせる。すると投影ディスプレイが動きに合わせて空中に躍り出た。

 何も映ってない画面だけれど扇子が開かれるにつれて中の絵を浮かび上がらせる。

 

「名付けて、『各部対抗織斑桐生争奪戦』!」

 

 小気味好い破裂音が鳴った時、その全容が明らかになった。映し出されていたのは一兄と気流君のドアップな写真。しかも『各部対抗織斑桐生(こんな字だったっけ)争奪戦』とバカでかく書かれた垂れ幕も落ちてくる始末です。

 

 それルール言わないと思います。

 そう発言しようかと思ったけどできなかった。これ以上ないだろうと思っていたしゅわっちさんよりもバカでかい叫び声がホール全体を揺らすんだもん。耳を抑える方が優先だった。

 ごめんね、一兄。

 

「はいはい、みんな静かに。学園祭では毎年各部活動ごとに催し物を出して投票の結果上位に入った部活に特別助成金が出るものだったんだけど、でも今年はそれだけじゃつまらないでしょう? だから今年は――」

 

 ブウォンと豪快に扇子は風を切り先端を一兄に向けた。

 

「織斑一夏君と桐生龍也君を1位の部活に強制入部させましょう!」

 

 ……さらなる雄叫びが上がったのは言うまでもないことだと思います。

 

 会長最高! とか殺ってやるですぅう! とか秋季大会? あんなもんどうでも良い! とか、色々ヤバい発言が飛び交う暴徒と化しかけた生徒たちだったけど、それも折り込み積みだったのか楯無さんは焦ることなく軽く諫めてしまった。

 

「――説明は以上よ。何か質問はあるかしら?」

 

「あの!」

 

 集会おきまりの質問タイム、滅多に手を挙げる人はいないんだけど、今日は珍しくちょっと離れた場所で手が上がった。

 

「何故、聖君は入ってないのですか? 織斑君と桐生君を入部させるなら同じ男子である彼も同じなのではありませんか?」

 

 およ? ……そう言えばよう君が入ってない。

 でもこのことを最初から知ってたっぽいよう君だったらOHANASHIでもして除外させてたっておかしくない。止めなかったのだって、面白そうとかそんな理由なんじゃないかな……。

 

 そんな風に思ってたんだけど、楯無さんの表情は魚が食いついた竿を見た釣り師のようなニヤリとしたもので、待ってましたと言わんばかりの喜びを漏らす。

 

「ええ。聖踊君は今回のルールに入っていません」

 

「なん……だと!?」

 

 一兄がなんか絶望してるし、他の生徒も1年を中心に残念そうな空気が漂ってる。

 そう言えばだけど、入学当初は恐れられていたよう君は今じゃ結構な人気者になってます。臨海学校で見せた命を賭して生徒を守り抜く踊君の背中に怖い人じゃないとわかってもらえたみたいなのだ。あとその後の幼女化も原因だったりするけど。

 

「た・だ・し!」

 

 鋭い声がホールのどんよりした空気を斬り裂いた。

 

「勘違いしてもらっては困るわ。確かに彼は結果がどうあれどの部活にも所属しない。けれど、彼は結果にかかわらず全ての部活に定期的に参加することが決まっているの。これは本人からも了承済みよ」

 

 踊君の根回しが斜め上だった!?

 そして、楯無さん。これは、なんですね。その前の争奪戦は本人の意志無視ですか、そうですか……。

 

「だからルールには入ってません」

 

「「「「おぉ-!」」」」

 

「他に質問はないかしら?」

 

 歓声が上がる中、さらに楯無さんが問いかけるけど発言は特になし。それ以上に踊君のことで喜んでいる人が多く、あと争奪戦で勝ち抜くぞと意気込んでいる部活動が大量発生中です。

 

 …………これは本番物凄い合戦が繰り広げられそうだ。

 

「ところでよう君はあれで良かったの? 色々やらなきゃいけないことがあるのに、そんな急がしそうなことやっちゃって」

 

 私が手伝ってないのも悪いんだけど、よう君はいろいろと忙しい毎日を送っていたはずだ。なのに余計に時間が喰われそうなことを認めちゃっても良かったのかちょっとよう君の体が心配です。

 私の心配が伝わったのか、私を不思議そうに見ていたよう君は呵々と笑う。

 

「問題ない。そもこの体ではできることは限られているし、参加と行っても差し入れとちょっと活動に関わる程度だ。どこかの部に完全に所属するよりも自由にいられる」

 

「そうなの?」

 

「楯無嬢も俺の裏事情を知っている一人だ。だからこそこういう形にしてもらっているんだぞ。それに俺は矢面に立つわけにはいかないしな」

 

「いやいや、それでも十分立ってると思います」

 

 全部活所属とか学内で物凄く話題沸騰しちゃうよね。

 

「学内は良いんだよ。学外が問題なだけで……」

 

 ……?

 いくら部活動に参加するからってそんな公になる場所に立つことはないと思うんだけどな……。

 え、だってここ女子校だもん。男が出場とかする部活なんて滅多にないです。それに女の子な服にしてれば言わない限り気付かれないでしょ、よう君なら。

 

「呵々、それが普通の一部活動だったらな~」

 

 普通じゃない活動って何ですか、と聞いては見たものの、笑うばかりではぐらかされてしまった。でもはぐらかすよう君は見た目相応の屈託のない笑みだったからこれ以上聞かなくてもいっかな。

 よう君のことだから一兄が本当に悲しいと思うようなことになるはずもないだろうしね。


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