戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第14話

「………………」

 

「まだ、だ……」

 

 とっくに渦巻いた暴風で刻まれズタズタエグエグと悲惨だった広場は、人が垂直に寝ても余裕があるほどの大穴を一直線に伸ばしてさらに無惨なことになっちゃっていた。

 そんなやりすぎ光景を生み出した張本人もばつが悪そうに明後日の方向に視線を投げ捨てて見て見ぬ振りをしてらっしゃる。でも、聞き取れたのが奇跡とも言えるほどに微かなその音を耳にして、よう君は現実に向き直った。

 

「ほぅ……!」

 

 そして驚きを覗かせて感嘆の息を吐いた。

 

「まだ、……負けて……ない…………」

 

 だってヒーロ君が立っていたから。

 

 ちゃんと自重して手加減も加えていたとしてもよう君は誰の目から見てもやり過ぎだった。何かよう君のご機嫌を損ねるようなことをしたからこうなっちゃっているんだろうけど、それでも最初の『星族』という一族のことを伝えるためにやっていたことだけでも十分すぎるくらいだったと思う。

 けどよう君はそれですませず、半端じゃないもの――伝説の剣で力や何やらがマシマシになっていたのだとしても意識を刈り取るには十分過ぎる代物をぶち込んでしまった。

 なのに彼は立ち上がっていた。

 

「どうやら俺は見誤っていたようだな」

 

 だから、よう君は素直に賞賛し謝った。そして手に持っていた二丁の銃を小太刀とは逆の位置にまとめて挿すと背の鎌を抜く。

 

「どうやら、出番が来たようだぞ」

 

『チッ、やっとかよ。待ちくたびれて寝ちまうところだったぜ』

 

「呵々、それは上々。英気を養えたことだろう。俺は鎌の扱いに関してだけは雑だからな。折れてくれるなよ」

 

『ちょっ、おい? 今、ものスゲェ嫌な話を聞かされた気がするんだが……うぉっ!?』

 ソウル君の言葉がちょん切れる。その代わりに聞こえてきたのは風を切り裂く音が生温く聞こえてしまうほど鋭利な甲高い金属を擦る音だ。

 そこら中にありながらもないのと同じ空気というものを、手首の回転だけで摩擦させてよう君は鳴らしていた。回された鎌は余りに高速で1枚の円盾にしか見えなくなっていて、中の人がうめき声を上げているような気がしなくもない。

 

「最後の仕上げといこう。俺の鎌職人の技と我流がどこまで役立てるかはわからんが、しっかり学んでいくといい。数百年前の初期版というのも中々に得るものがあるだろうし、鎌の固定概念も崩せることだろう。…………それにこいつの芯も腐っているわけではなさそうだしな。バカリバーなんぞに穢されるのは勿体ない」

 

 最後の呟きは小さくて上手く聞き取れなかったけど、よう君は最後の人マカちゃんに向けて言うと鎌の柄ど真ん中を握り締め石突きを突きつけた。

 

「来ると良い。元職人の先輩としてお前の相手をしてやる」

 

「負けない! 僕は聖剣に選ばれた勇者なんだ!」

 

 ヒーロ君が翼を生やして前に飛んだ。よう君も併せて前に跳ぶ。そして剣と鎌の柄が衝突した。真っ直ぐ流すことも考えずにぶつかり合うことで二つの力がまっすぐ持ち主の方に伝わっていった。ヒーロ君は盛大に体勢を崩していて、一方のよう君も多少姿勢を…………わぉ。

 

「鎌というのは回転力を用いる武器。押し合い圧し合いする武器じゃない」

 

 鎌はよう君の手から離れすぐ後ろで独り廻っていた。そしてよう君自身は何の影響もなく右手を振り下ろした体勢でぶつかり合ったのがウソのよう。……いや、さっきのは私の勘違いだったからウソとかホントとかないんだけど。

 ヒーロ君とぶつかったのは鎌だけだったみたいだ

。鎌を振った風に見えていたけど実際は投げていたようで、今のよう君の体勢はいわゆる野球の投球した直後といったほうが正しいと思う。

 

「こういう使い方もできる」

 

 振った勢いで後ろに突きだしていた手を回転する鎌の中のに差し込むと、回る速度に合わせて腕で絡め取って掴まない。そのまま返し刀で腕を振り上げて距離も大きさもバラバラな幾線の軌跡を空に描いた。

 

『いかんっ!』

 

 ヒーロ君の体が咄嗟に後ろに跳ね飛んだ。ヒーロ君の驚いた顔を見るにエクスカリバーさんが勝手に動かしたんだと思う。でもそれは凄く良い判断だった。

 もし今のが当たっていたら当分腕が動かせなくなっていたかもしれない。よう君のことだから一日安静くらいで治る怪我で済ませるとは思うけど、誰かが真っ赤に染まる光景は見たくない。……灰になるのはもっと見たくないけど。

 

「まだまだ終わらんぞ」

 

 よう君の手に高速回転する柄の先端が掛かる直前で振りかぶった。そして先端が手に納まると投げた。横距離にして4,5m、高さも含めれば15mくらい。さっきとは違う本当の投擲です。ブーメランのように回転して最初は地面すれすれを水平に進みんでいたのが急上昇で一息で襲いかかる。

 それをヒーロ君は斬り上げすぐ下のよう君目掛けて振り落と……す直前で大きく仰け反った。

 

「呵々、よく見つけたな」

 

「くぅっ!?」

 

 恐ろしいことによう君がほぼ真上から鎌を捕まえて大車輪を敢行していたのだ。それをコピー紙1枚くらいのすれっすれの隙間でヒーロ君が避けたのだけど、避けられたにしてはよう君は嬉しそうな反応を見せる。

 そして地面に着地するのかと思ったら器用に刃の先端と柄の末端を地面に当てて一輪のタイヤとなって転り、また上空に飛び上がった。

 

「このぉっ!」

 

 ヒーロ君が切り払いで応じようとするもそれは悪手だ。刃に当たったよう君は回転の勢いでさらに真上に上がってしまう。再び空を制したよう君は自身の回転を止めて鎌だけを両手で8の字に盛大に回しだした。

 これからよう君が始めようとしているのが何か何となく察せてしまった。たぶんいつかテレビ中継もされていたあれだ。

 案の定、よう君は鎌をヒーロ君から大きく外れたところに投げる。

 

「え、こんなところで失敗!?」

 

「……ふふ」

 

 いけない。マカちゃんが目を白黒させて驚くもんだからつい笑ってしまった。マカちゃんの冷たい視線が痛い。

 

「ごめんごめん。いや、あれって失敗にも見え無くないけど、失敗じゃないんだ。ちょーっと鎌が一本だけっていう縛りがあるから変な感じがしちゃうかもだけど、あれはよう君のトンデモ技の始まりだよ」

 

「トンデモ技?」

 

「そそ、ほら始まるよ」

 

 見上げ直すと、無手になったよう君がヒーロ君目掛けて真っ逆さまに落ちていくところだ。

 

「こんなところでミスをするなんてね! やっぱり僕は勇者なんだ!」

 

「相手のミス程度で自身を勇者と呼ぶか。暴論だな。それに……」

 

「負け惜しみを!」

 

「ヨウ君!」

 

 無手のよう君目掛けてヒーロ君が一気に間を詰める。さらに近づく距離に呼応するように直視すると目が痛くなっちゃいそうなほど聖剣が眩く光りだした。

 そして最悪な未来を幻視したのかマカちゃんが声を張り上げた。

 

 たぶん見た目通りの大技の一つなんだろうなとは思う。思いはするけど……、

 

「ミスではないぞ」

 

「それでも無駄に終わっちゃうんだろうなー」

 

「「え?」」

 

 偶然にもよう君の呟きと被ってしまった。あと素っ頓狂な声もついでに被る。マカちゃんのはその奇抜な光景に、ヒーロ君のは自分の受けた衝撃に、っていう違いはあるけど。

 

「うぐぉぁっ!?」

 

「まったく、後ろがガラ空きだな」

 

 ヒーロ君の背中に垂直で叩き付けられた鎌を回収してよう君は口先をとがらせ不満をたらたらと零した。

 

「いやいや、そうなるように誘導したのよう君じゃん」

 

 でも意図してやったくせに文句を垂れるのはどうかと思う。長年付き合ってきた私でも引っかかるようなよう君の誘導にど素人がどうしろというんでしょうね。

 

「ど、どういうこと?」

 

「よう君って結構自由自在に鎌を操れるんだ。鎌をブーメランにしてるって言ったら良いのかな? ちゃんと限度はあるけど限度内なら距離も時間もほとんど好き勝手できちゃうんだよね」

 

 それが顕著に表れていたのは踊君が『死神・ヴァルファ』となる前、『黒武士・ヴァルファ』と呼ばれたあの白黒士者事件の八鎌流だ。鎌を足伝いに大空を謳歌していたのをよく覚えている。

 それに加えて誘導技術、こっちは私との久々の試合でやっちゃってくれた鉛球一個の大番狂わせのやつです。

 初見ってだけでもキツいのにプラス二つ重ねっていう鬼畜っぷり、しかも素人相手とか鬼でもしない所行じゃないかな。文句言うのはヒーロ君だと思います。

 

「よう君がヘンテコなところに投げたのも、素手になって真っ逆さまに落ちたのも、それ以前のよう君を払おうとしてヒーロ君が剣を振っちゃったことも、地面をコロコロしたのだって、全部この一瞬のための布石だった……つまり手のひらで踊らされていたと言うことだよ」

 

 ヒーロ君が地面に墜落し、少しは慣れたところによう君は着地する。

 

「そろそろ諦めたらどうだ? 小手先でやる技術じゃどう足掻こうと叶わないのはもう理解しただろう」

 

「ま、まだだ!」

 

 鎌を地面に突き立てると、よう君はヒーロ君に負けを認めるような風に諭した。今更感がぐんっと上がったのは気のせいじゃなく、まっこと事実。できればもっと速くしてあげて欲しかったくらいだ。

 

「現実から目を背けるな。駆け引きも真面にできない者に勝てるわけがないだろう。小手先は(・・・・)諦めろ」

 

「よう君も思いっきり反らしたくせに何を言ってるんでしょうね」

 

「響ちゃん!? 聖君が睨んでるから静かにしてて!?」

 

 はーい。

 

「まだ……」

 

『ヴァカめ。この男の言う通りだぞ。今のキミでは小手先は通用せん。小手先は(・・・・)な』

 

「?」

 

「呵々、全力の一撃でかかってこい。何の遠慮もない魂の全てを尽くす一撃で。それなら技術なんてものは関係ないだろう?」

 

 よう君は足を肩幅ほどに開くと地面を踏み鳴らし鎌を肩に担ぐ。その瞬間、よう君の存在感が激増した。

 

「後悔しても知らないからな!」

 

 ヒーロ君のも同じくらいに肥大化する。何がどうなっていうるのかすっごく不思議です。だれか教えてください……。

 

「魂の共鳴/機魂の共振」

 

 あぁ、よう君の手にしている鎌が分厚く大きな薄藍の両鎌になったを見たらなんなのかわかった。ついこの間叫んでたあれらしい。

 エクスカリバーも輝きが一層増してうざいくらいになってる。

 

『おいおい。だいぶ乱れてんじゃネェか。マカと初めてやった時より酷ぇ有様だ。てか、キコンってなんだよ。俺がいんの忘れてんじゃネェだろうな』

 

「む? そうか。今はお前がいたのだったな」

 

『おい、コラ。ふざけんな!』

 

「すまない。昔はこんなに武器化できるものが少なくてな。いつも通りやってしまった。……ソウルの口ぶりから察するに魔女狩りはしたことがあるのか?」

 

『あ、ああ。マカとなら何度も……』

 

「それは助かる。俺のこいつは感じてもらった通り未完成だ。完成例を知っておきたかったんだ」

 

 そう言えば未完の大技って言ってたっけ? あれでも十分な性能を発揮してた気がするけど、さらにその上があるんだ……。

 

「行くぞ」

 

『おう。任せときな』

 

「『魂の共鳴!!』」

 

 まだ膨れるものなんだと驚かされた。刃は極限まで薄くなり巨大さも格上になっている。アレには触れちゃ行けないと本能が危険を訴えてくる。

 こっちに来てから頻繁に『魂』がどうのって話を聞くことからたぶん魂に攻撃する何かなんだろう。私が相手するのは非常に危険な部類に入りそうだ。

 

「これが全力!」

 

「今できる最高をもってお相手しよう」

 

 極光とでも言ったら良いのか天にも届きそうなほどの光を携えてヒーロ君はエクスカリバーを掲げる。対するよう君は高密度高純度の鎌を背に回して深く腰を落とした。

 

「うぉぉおおおおおっ!!」

 

 雄叫びと共に極太の一振りが落とされた。合わせるように静かに極薄の一閃が煌めき衝突した。圧倒的質量が押し潰そうとよう君に伸し掛かる。

 でもそれは決して果たせない。

 いくらそれが伝説の武器でもそれは絶対だ。

 

「まだまだ精進が足りていないな」

 

 だってよう君はさらに上位(神様)の武器なのだから。

 極太の光は、極限まで圧縮された濃藍の光に打ち払われた。

 

「そん…………な……僕が負けた……」

 

 打ちひしがれ地面に手を付いた彼の姿はなんとも惨めだった。調子付いていたのがそもそもの始まりっぽそうだけど、それでもよう君に徹底的に潰されるほどのことではないだろう。

 

「ははっ、やっぱり僕はへっぽこなんだ……。伝説の剣を手にしたのにこんなあっさりまけるなんて、完敗するなんて……。職人に向いてないんだ」

 

 ヒーロ君が自棄になり始めてる。急いで止めさせないと面倒なことになりそうな予感……!

 

「何を言っている。最後に見せたお前の目はとても良かったぞ。若者よ」

 

「え?」

 

 でもそれを留めたのは蹴落としたよう君だった。落とした張本人とは思えないくらい朗らかに笑いヒーロ君に向けて賞賛を送る。

 

「俺は正直な話、二度目で終わったと思っていたんだぞ。一度目では狂っていたのも考えて余計にな。だがキミは俺の予想を超えて強い眼差しで俺を睨んだ。そして最後も全力だった。俺が嘘を吐いて半端なことをするかも知れなかったのに俺を信じ疑う素振りもなかった」

 

「……」

 

「お前は十分職人としての素質を持っているさ。技術はてんでダメダメだがそこは時間が解決してくれる。そんな聖剣に頼る必要はない」

 

 ヒーロ君の手から剣を取り上げる。

 

「まったくガキを誑かしよってからに。これは仕置きな」

 

『ちょっと待て、止めっ!? いくら私でもそんな方向には!?』

 

 エクスカリバーの切っ先と柄を掴むと思いっきり曲げ始めた。相当鬱憤が溜まってたんだね。高速で前に後ろにほぼ直角に曲がってる。

 

『ギャーー!』

 

 その叫びを皮切りに剣が静かになった。まさか剣上体相手に意識刈り取れるとは……指すが問うか何というか……。

 

「ちょっと待ちなさいよ!!」

 

「ん? あ、ああ、キムか。どうかしたのか?」

 

 睨むだけで殺せちゃいそうなくらい怖い目をしたキムちゃんが見物人を押し分けて前に出てきた。よう君もちょっと引いてる。

 

「なんでこいつが良い奴風にまとめてんのよ! ふざけないでよね!」

 

「だが事実だ。こいつの目はそんじょそこらの奴とは一線を画いている。時間を掛ければ未来はある」

 

「でも覗き魔よ!」

 

「…………なに?」

 

 ノゾキマ?

 

「だからこいつは更衣室に忍び込んだ覗き魔なのよ!}

 

「…………ほぅ?」

 

 さびたブリキの人形のようなかくかくした動きでよう君が振り返った。その顔に浮かべていたのは満面の笑みで感情は……何処に置いてきたんだろうね、なにももってない凍土と化していた。

 

「詳しく、聞かせてもらえるかな?」

 

「え、とそれ……は……」

 

 視線を右往左往させ挙動不審。手振りも身動きもごちゃごちゃで見事な慌てっぷり。

 

「響、判決は?」

 

「もちろん、ギルティー」

 

 まずは腐った性根をたたき直すところから始めよっか。

 

「『ギィャァーーーーーーーー!?』」




ちなみにその後ヒーロ君が学園に復帰できたのは半年後だそうです
(どうでもいいことだけど)
そしてヒーロ君の強化フラグが地味に立った
(ただし登場させる気は毛頭ない。そしてどれくらい期間がかかるかも言ってなかったりするw)

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