戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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くそぅ……書きたいのに圧倒的に時間が足りない……!
しかも胃から腸に掛けての地味な痛みが頻繁になってきてて困る。いやはや人間の体って面倒くさい……。
2話投稿のかわりに1.5倍投稿です。


第12話

『私はあなたをもっと立派な人だと思っていました。なのによりにもよって……!』

 

「ん?」

 

 ブラック☆スターの武器、椿が刀身を介して俺を睨んだ。

 

「……星族ってなんだ?」

 

「おまっ、あの暗殺集団を知らないのか!?」

 

 観客の集団の中で誰かがそう言った。

 

「金さえ積めば殺しだろうとどんなことだろうと平然とやる最低の集団だ。余りにも非道な行為を繰り返したために死神様たちが全滅させたって……」

 

「ブラック☆スターが……その生き残り?」

 

 まだ生身の人間だった頃に打たれた雷のような激しい衝撃が俺の中を駆け抜けた。

 

「……何かの間違いではないか?」

 

 同じ名を名乗る別の星族である可能性もなくはない。だが星族のブラック☆スターが見せる憎らしげな表情はそれが事実であると告げていた。

 信じたくはないが移り変わる時間の中で変化してしまったのだろうか……。

 少なくとも俺の記憶の中にいる星族は安易な殺しを法度とし非道を穿つ者達の集まりだった。

 ……それにブラック☆スターから感じた気配は間違いなく魂に継承されたものだ。外道に堕ちたものに受け継がれ続けるとは思えないのだが……。

 その時思い出した。

 数多の家系が煌めく星に誓いを立て生まれた『星族』の中にどうしようもないクズ家系が所属していまっていたことを。

 

「……一つ聞かせろ。歴代の頭領の中で、白に関する名を持った奴はいたか?」

 

 もしもあの『白()』が元締め『星』に入り込んでしまったのだとしたらありえない話じゃない。

 

――『白()

 

 その家系は善も悪も無差別にあらゆる全てを抜き取り無に帰そうとする狂ったやつらの集まりだった。当時は俺が目を光らせていたため何もさせないようにしていたが、この数百年もの間野放しにしてしまっている。

 奴らが何もしていなかったなどありえるわけがない。

 こそこそ話していた奴に目線を向ける。だがそこまでは知らないようですぐに反らされた。周りを見たが誰も知らないのか返事は返ってこない。

 

「俺が知っている。先代の名は――「ホワイト☆スター」――ブラック☆スター……っ!」

 

「親父の名だ」

 

「……そうか。すまない。悪いことを言わせてしまったな」

 

 だが納得した。全部そういうことらしい。

 あいつらの温情に免じて忠告ですませてやっていたというのに…………!

 

「…………な」

 

 あのバカリバがいるだけでも許しがたいというのに、いったいこの世界はどれだけ子供を穢せば気が済むんだ。

  シニ君もシニ君でバカをしてやがったのもあって、怒りのボルテージは沸点間近だった。それをガキ共が滾らせてくれたせいで俺の堪忍袋ってヤツはもうイカちまってるんだ。……もうこれ以上、溜めてくれると思うなよ……。 

 

「……屑共ガァァアアアアア!!」

 

「ヒィィイイイ!?」

 

 だが今は天に吼えるだけですませておく。ただし、この世界のどこかで命を弄び嘲笑っているだろう白喰の屑に聞かせるように聖遺物補正を極大にさせて。

 

「……ハァ……ハァッ!」

 

 少しは気が落ち着いた。

 本当なら怒りに任せて元凶を叩きのめしてしまいたいところだが、俺にはそれ以上にしなければならないことが他にある。

 

「ブラック☆スター、よく聞け。お前の先祖が築いた真の星族は、そんな外道行為をするために集まったのでは断じてないし、その継いだ魂はこんなことで後れを取るような軟弱なものでもない」

 

 それは、白が蝕む前の本当の星の集いを伝えることだ。闇の中で光を放ち続けたあいつらの勇士を穢させたままでいてたまるものか。

 呆けていたブラック☆スターの首を曲げ俺の目を見させる。

 

「俺の旧友でお前の先祖の初代頭領『流星(シューティング☆スター)』が星族――星闇一族を創始したのは、裏に蔓延る悪鬼羅刹の畜生共から表に住まう者たちの平温を守るためなんだよ」

 

「『っ!?』」

 

 いつの時代でも悪事ってやつは何処かで起きている。星闇一族が創始された当時だって例外ではなく、多くの悪事が横行されていた。

 それをシニ君が許すことは当然ないのだけれど、いくら死神といってもその影響力が届く範囲には限界があった。手を掴みきれず零れ落ちてしまう者たちが少なからずいてしまうのが現状だった。

 それをなんとかするために、立ち上がったのが流星だ。

 お偉いさんどもの訳の分からない理由で害されていく人々の生活を守るために強くなり、殺しなどに快楽を覚え溺れたものを打ち払うべく世界中を走っていた。

 

「ついでに言うとだ。俺はあいつの息子の『新星(ライジング☆スター)』っていう二代目頭領と併せて『表の死神、裏の流新星』なんて呼んでたくらい強かったんだぜ」

 

 神に匹敵しうる人間なんて俺の知り合いの中じゃあの親子くらいのものだ。風鳴のダンナと緒川殿のタッグを上位互換した感じと言えばわかるだろうかね?

 

「そんなの信じられないね! 君の言うことが本当なら死神様が知らないわけがない」

 

 「そーだ、そーだ」という野次も飛んできた。シニ君なら何でも知ってるなんて無茶な考えに囚われていないだろうか……。

 言わないでおくけど、何でも知ってるならしゅわっちがマジでしゅわっちしたり変態になることはなかったんだぜ。ああなる前に止められてただろう。

 それにだ。

 

「そもそも俺が協力して徹底的に隠し通していたからな~。あいつ極度の照れ屋で助けた相手にさえ姿を見せようとはしなかったし、完全無名を貫徹していた。……そのツケがこんなところで廻ってきてたんだよな」

 

 せめて俺が向こうに戻る前にシニ君の前に突きだしておいてやれば、白喰に勝手をされることはなかっただろうと今更になって悔やまれる。

 

「お前が先代らのことを怨むのは仕方が無いことかも……しれないどころじゃないな。むしろ盛大に怨め。俺も怨む。てか後で潰す。でも初代たちは怨まないでやってくれないか? そしてできることなら歪められてしまった流星たちの遺志を継いでやってほしい」

 

「……チッ」

 

 訝しげに見つめるブラック☆スターに笑みを向けると何故か舌打ちされてしまった。

 

「んなもん……、知らねぇよ」

 

「呵々ッ!」

 

 俺の頼みは今からじゃ随分前の話だ。わかるわけがない。それにブラック☆スターの在り方と近代の星族に大きな差があることから星族の学びも一切無かったのだろう。

 だが、

 

「安心しろ。例えお前が知らなくとも、死神が知らなくとも」

 

 だからこそ俺は頼むのだ。

 

「俺が知っている。友の代わりは、俺が務める」

 

 穢れ無き星の再誕を。

 

「死神の息子に、鎌職人の嬢ちゃん。お前らもよく見てろ。てめぇらの先人の力、示してやるよ」

 

 それにふらついてる倅や後ろで見ている嬢ちゃんにも教えておきたいことがあるし、

 

『む。何やら嫌な予感が……』

 

「黙れ、クサリバ―」

 

 なにより俺の目の前でガキを穢してくれたヴァカな屑と簡単に誑かされてヴァカをやっている屑がいる。

 そこらも全部まとめて解決して一石五鳥ってな。

 

「てなわけで、椿、リズ、パティ、ソウル! 俺に力を貸してくれ」

 

「「『……え?』」」

 

 

 

「ま、マジかよ、あいつ……」

 

 目の前に立つ子供の背に魅入り、誰かが声を震わせた。

 だが勘違いする事なかれ。声を出さなかっただけで他の者たちも皆同じように驚きに目を見開いていた。

 居合わせた誰もが驚愕することを目の前の子供(よう)はやっていたのだ。

 

『ま、マジでいけんのか』

 

 背に負った片鎌(ソウル)が刀身の中で冷や汗を流してた。

 

『すごーい! 皆いる~』

 

『お、おう……。なんか返な感じだな」

 

 左手に提げた(パティ)は楽しげに、帯に挟まれている姉の(リズ)は気まずげに内なる世界の感想を述べている。

 

『すごい……! これだけの数を抱えているのに安定してるなんて!』

 

 そして右手で逆手に持った小刀(椿)は扱う子供の器の巨大さに戦慄した。

 

「エクスカリバー、そしてヒーロと言ったか? 仕置きの時間だ」

 

「君がいったい何様のつもりなのか分からないけど、……頭が高いよ?」

 

 ヒーロが颯爽と消えた。ブラック☆スターらを意図も容易く吹き飛ばしたのと同じ手だ。高速で彼の背後に現れており、既に聖剣を翳している。

 

「図に乗るな、青二才が」

 

「な!? ぐべらっ!?」

 

 誰もが当たると思った一振りだったが、ようはその場を動くこともせずただ頭の後ろに回した小刀一本で流してしまった。

 ブラック☆スターらにも対応できなかった力と奢っていたヒーロにとって動揺が隠しきれないその顔に、ようは振り向き加速させた手の甲を張り付けぶっ飛ばす。

 

「残念だったな。確かに威力も速度も俺の上を行くのかもしれないが、それだけでどうにかできるほど俺は容易くない」

 

「ま、まぐれだ!」

 

「――ロードスター」

 

 そう小さく呟くとようは上体を落とし拳銃をしまうと、その手を胸の前に置き二本の指をまっすぐ立てた。

 それは死武専生にはお馴染みの『ブラック☆スター』が取る独特の構えと瓜二つだった。先人らの姿を示すと言ったのだからそのことに何も違和感はない。……当人と、唯一彼の生まれと育ちを知る教師を除いて。 

 

「信じられん!? その構えが星族初代の武術だというのか?!」

 

「ど、どうしたんですか? 同じ一族なんですからおかしなことはないんじゃ……」

 

 傍で見ていたマカが首を傾げるのを受け教師は開いた口を閉じることも忘れて答えた。

 

「あいつを育てたのは俺や死神様なんだ。ブラック☆スターのあの武術はあいつ自身が考え造り出した独自のもので、星族とはなんの関係がない、はずなんだ」

 

「え!?」

 

 停止からの超高速でヒーロが飛びかかる。それも剣を振るのではなく、両手で握り脇で立てる突きの構えでだ。ヒーロの頭の中にはこれが決闘だということを完全に失念していたのだ。

 速さのみで特化されてはさしものようでも対応するのは困難を極める。現にようは何も動くことができず、胸――それも心臓を一突きにされていた。

 見ていた何人かの生徒が悲鳴を上げ恐慌に落ちかけた。

 

「ふっ、それは残像だ」

 

「消えっ……ふぇぶ!?」

 

 だがそんな生徒を置いてけぼりにしてようの体が崩れて大気に溶けていく。そして当たり前のように無傷の姿でヒーロの後ろに出現するやそのドタマを盛大に蹴飛ばした。

 

『し、信じられない!? 私との共鳴なしで絶影を!?』

 

 今、ようが行ったのは絶影という一つの技だ。それはブラック☆スターも使うことのできる技ではあるのだが、椿と魂の共鳴を経てようやくできる大技のはずだった。

 

「異な事を言うな。まさかブラック☆スターは一人でできないのか?」

 

『当たり前です! いくらブラック☆スターでもそんな人間離れした動きができるわけがありません!』

 

 椿は当然のことを言ったはずなのに、ようは文句でも言いたそうな半目で間違ったことを言ったような対応だ。ブラック☆スターをどんな風に見ているんですか、と問おうとした椿だったが、次のようの返しに次の言葉が消え去った。

 

「初代も二代目も普通にやってたぞ? それに俺のは未完成だ。あいつらはただ残像を残すだけではなく、任意で残す部分を選んでいたし残像の残っている時間や残す光の色なんかも自由自在だった」

 

 え、なにその化け物。

 この言葉ほどここにいる全ての人の心境を代弁してくれる言葉はないだろう。例外として二人の凄さに興奮しているやつもいるが。

 

「俺様の先祖すげぇえーー!」

 

「おぅ。俺は今後もいろいろあるから共鳴の力借りるけど、お前は単体でそれくらいできるように目指せよ~」

 

「「「「頼む、止めてくれ!」」」」

 

 居合わせた人々の懇願具合は半端ではなかった。それもそうだ。ブラック☆スターがどれほど手に余る問題児か、というのは想像しがたい話ではないだろうと思う。そんな子がさらに死神様と同等の強さになってしまった、なんてことになると巻き添えを食らう周りとしては堪ったものではない。自身を守るためにも必死になるのは必然だ。

 

「どんな学校生活を送っているのか聞かせて欲しいところだな……」

 

 でもそのことを知らないようは首を傾げるしかなかった。

 

「ありえない……、ありえない、ありえないアリえないありエナイアリエナイ! 僕は聖剣に選ばれた勇者ダ!!」

 

「おいおい、どんだけ余所様の人格破綻させたら気が済むんだよ。あんのクサレバ―……。ふぅ、じゃあ次はキッドと姉妹の模範にでもなるかね」




可哀想なヒーロ君。ヴァカめヴァカめうるさいクサリバーなんかとかかわってしまうから、よう君の八つ当たりに巻き込まれることに……。
まぁ、全部覗きやらなんやらで好き放題しまくり決闘騒ぎなんかを起こしたヒーロ君の自業自得なんですけどね。
でもヒーロ君のために皆でよう君にその事実を知られず終わることを祈って上げましょう。
感想お待ちしておりま~す。

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