戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第九話

 歌が聞こえたと思った時、空からバイクが降ってきた。……て、何でバイクだけ? 歌の主は何処に?

 左右を見ても誰もいない。あれれ?

 

「お姉ちゃん! 上!!」

 

 女の子に促され、空を見上げると昔に見たことがあるようなのスーツを身に纏い、空中で何回転もする少女がいた。その人の靴から何かが飛び出す。

 

「--颯を射る如き刃 麗しきは千の花--」

 ― 千ノ落涙 ―

 

「わひゃっ!?」

 

 飛び出た小刀っぽい何かは、突如分裂して大量になって振ってきたんだけど。慌てて女の子を抱き寄せる。何処かで見たことあるような……

 

 振ってきた刃は全て私達を囲むようにして群がっていたノイズを串刺しにしてくれた。いきなりでびっくりしたけど、ちゃんと外してくれたみたいです。

 

「ハァアッ!!」

 ― 蒼ノ一線 ―

 

 少女は手にする刀を巨大化させると体を大きく反らし振り下ろした。すると青の鮮やかな斬撃が発生し、それは次々とノイズを飲み込んでいく。

 

「そこの少女! その子を連れて早く下がりなさい!」

 

「はい!」

 

 やっぱりこの声って……!

 少女が作ったノイズの穴を通り抜け、女の子を安全な場所に連れて行く。

 

「ここで待ってて。すぐに終わらせて早くお母さんに合わせてあげるから」

 

「うん!」

 

 女の子に背を向け一歩前に出る。そして構える。

 まさか踊君の護身術がこんなところで役立つだなんて思ってもいなかったなよ。

 

 しっかりノイズの位置を見極める。最も厚い所は……ここだ!

 

「ハイッ!

 

 ノイズの足(?)元ギリギリまで踏み込み、左足を軸に一旋! 回し蹴りィッ!

 数メートルを一瞬で縮めるほどの加速から生みだされた一撃は衝撃波を放ち、十体以上のノイズを抉った。

 

「うわぁ~……」

 

 自分でも引けるほどの恐ろしい威力が出ちゃったよ……それなのに体は全然痛くない。むしろ絶好調だ。ふっしぎ~……。

 

「お姉ちゃん、頑張ってー!」

 

 驚いてる場合じゃなかった。女の子の為にも、とっとと終わらせなきゃ!

 

「私も手伝います!」

 

「…………」

 

 私を一瞬ちらりと見たけれど、何も言わずそっぽを向いてしまった。ぁぁ……やっぱり可笑しな子って思われてるんだぁ……。うぅ、思った通り助けてくれた少女は翼さんだった。

 翼さんが中遠と離れた距離のノイズを切ったり刺したりして、近くの敵は私が殴って蹴散らす。即席のコンビにしては中々上手くいってるんじゃないかな? 

 

「おりゃっ!」

 

「ハァッ!!」

 

 襲い来るノイズを千切っては投げ千切っては投げ……なんて真似私には出来ないけど、一体ずつ確実に倒す。

 

 翼さんが最後の一体を葬ったと思った時、一際大きくムキムキなノイズがタンクの後ろから出てきた。そのサイズで今までどうやって隠れてたの!? それに何でムキムキ!?

 ノイズ……見たのは今回で二度目だけど、よくわかんない生物(?)だ……。

 

「確か、立花響だったな」

 

「ふぇいっ!!」

 

 ウソッ! 翼さんが私を知ってくださってる!? カンゲキだ~! 生きてて良かった。

 

「…………? お前は奴の気を引いてくれ。その間に私が斬る」

 

「わかりました! ヒットエンドランって奴ですね!」

 

「それを言うならヒットアンドアウェイだ。それは野球の作戦よ」

 

 あれ? そうでしたっけ? 奏さんに突っ込まれる日が来るなんて、嬉しいけど恥ずかしぃ……。

 

「さっさと行く!」

 

「はいぃ!?」

 

 翼さんに叱咤されてマッチョさんの足元に……うわ、デカッ!? 太ったガ○ダム?

 これって、効くかな? 試しに体を捻って右ストレート! マッチョさんの足を狙ったパンチは簡単に通り、足だけだったけど砕けた。

 

「モロッ!? て、うわわわ! ふにゅっ!?」

 

 見た目が丈夫そうだったので全力でやったから、地面に顔から突っ込んでしまった。あらら・・・・・・今度は地面がヘコンじゃった。頭に乗った砂を振り下ろして空を見上げる。翼さんが既に刀を大きくさせ振りかぶっていた。

 

「え゛っ? 私ごと斬る気ですか?! キャァアア!!」

 

 ギリギリの所で飛び退けられた。巨大化した刀は剣になりノイズを貫いた。もし引け損ねたら大変なことになってただろうな……。

 

「ふへぇ~……」

 

「ふぅー……」

 

 今度こそ終わったとお互いに肩の力を抜いたその時、遠くで影が動いたような……!?

 

「うそっ……危ない!!」

 

 運良く(私から見たら運悪く)遠く離れていて撃破されなかったノイズが、女の子のすぐ傍まで迫っていた。間に合わない!?

 

「……相も変わらず、詰めが甘い」

 

「ギャーッ!!」

 

 声が聞こえるのと同時に黒い風が走り、ノイズは切り裂いた。

 

「お兄……ちゃん?」

 

「貴方は……さっきの」

 

 ノイズの群れから助けてくれた黒マントの人だった。彼はゆっくりとこちらに顔を向ける。

 

「「!?」」

 

 フードから覗いた彼の顔に背筋が凍りつく。見えたのは骨だった。その姿を見て連想される言葉、それは、

 

「死……神……」

 

 翼さんが喉から声を捻り出した。でも、彼の顔をよく見ると頭蓋骨は唯リアルなお面だった。(それでもすごく怖い)

 

 誰も動くことが出来ない。訪れた静寂を打ち破ったのは翼さんだ。武器を構え一歩前に出る。

 

「何者だ!」

 

「…………」

 

 死神は何も答えない。

 

「何が目的だ? 答えろ!」

 

「…………」

 

 翼さんは再び問うけれど、やっぱり死神は返答せず黙ったままだ。翼さんの刀を持つ手に力が入った。まさか戦う気ですか? 一応、女の子を助けてくれた恩人なんだけど……。

 死神も鎌を手に構えた。そっちも!? もう戦うことが決まっていると言うほどに二人の闘気がこっちまで押し寄せてくる。

これは口出ししない方が安全そう。女の子を促し急いで避難する。

 

「……示せ」

 

「そういうことか。ならば、力尽くで、貴様が何者か教えてもらう!!」

 

 そう言って翼さんは瞬時に死神の目の前に迫る。けれど、死神は翼さんが刀を振る前に、鎌の柄で刀の腹を弾いた。

 

「くッ!!」

 

「……ッ!」

 

 そしてそのままの勢いで翼さんを切ろうと刃を振り抜くが、翼さんは驚異の反射を見せ、体を大きく捻り死神ごと飛び越えて躱してみせた。

 翼さんが着地と同時に刀を横に薙ぐと、死神は鎌の中心部で受け止め少し後ろに下がって、鎌を腰で一回転させ切り上げる。だが、翼さんは刀を斜めにすることで、鎌をいなし再び迫る。

 

「ハァッ!」

 

「ッ! ……ハッ!!」

 

 激しい攻防戦が繰り広げられる。刀と鎌は何度もぶつかり合い、火花を散らす。

 

 何十もの打ち合いの末、漸く勝負が動いた。翼さんが死神の鎌を弾き飛ばしたのだ。回転しながら鎌が何処かに飛んでいく。それを好機と、翼さんが猛攻を仕掛け、武器を失った死神は避けるしかなかった。

 

「しぶとい!」

 

 けれど、死神は全ての斬撃を紙一重のところで躱し続ける。業を煮やし翼さんが大きく振りかぶったその時、

 

「グッ!?」

 

 飛んでいったはずの鎌が翼さんの右肩を襲った。

 

 まさかこれを狙ってたの!?

 翼さんが死神の鎌を弾いたのではなかった。死神が鎌を投げたんだ。翼さんを切った鎌は死神の手に戻り、今までの仕返しとばかりに、豪快に鎌を振った。傷は浅いみたいだけれど、利き手ではない左手だけでは受け止められず、翼さんは壁にたたきつけられた。さらに追撃を掛けようと死神が走り出す。

 

「それ以上はやらせんよ」

 

 死神の頭上に人が降ってきて、その鎌を止めた、それも死神の持つ鎌とそっくりな鎌で。

 

「げっ!?」

 

「げっ、てなんだ。げっ、て。迎えに来てやったのに酷い言いようだな」

 

 思わず言ってしまった。でもそれも仕方がない。だって来たのが踊君だったんだもん。

 

「何で踊君がここに!? って、何をやってるの!?」

 

「…………」

 

 何故か死神が構えを解き鎌を下した。

 

「行くのかい?」

 

「……興が削がれた。だが、次は無い」

 

「呵々、次も何もお前に勝てる気はしねぇよ」

 

 何だか、踊君と死神が仲良さげに会話してる。えっと~、どうなってるの?

 

「ではな」

 

「じゃあなー」

 

「待って!」

 

「……?」

 

 叫んだのは女の子だった。去ろうとした死神が動きを止める。

 

「あの……名前を、教えてくれませんか?」

 

「危険だ「……ス」何?」

 

 慌てて翼さんが女の子を止めようとした時、死神が何かを呟いた。

 

「え?」

 

「ディバンス」

 

 ディバンス……略して、デス、ってね……。

 

「へぇ、今はディバンスって名乗ってるのか」

 

「お前はどうなんだ?」

 

「今も、昔も、ずっと変わらず聖踊さ」

 

「そうか。……蒼き防人よ。次に相見えるその日までこの勝負は預ける」

 

 そう言って死神は闇夜に消えてしまった。

 

「行っちゃった」

 

「そうだな。ま、そう遠くない内にまた合うさ。それより、響。その服(?)似合ってはいるが、寒くないのか?」

 

「え? うん。全然寒くないよ? いきなりどうした……の…………あ!」

 

 自分の今の格好を見ると、さっきのスキンスーツのままだった。踊君には絶対見られないように、って思ってたのに……ど、どうしよう!?

 そうだだ!! 確かあのホウホウナラ。

 

「……アタマヲナグレバ」

 

「ひ、響? 何か黒いモノが……」

 

「………ワスレテクレル・カ・ナ?」

 

「ヌオッ!?」

 

 避けちゃ、メッ! ダヨ?

 

「そ、それは流石に……」

 

「ゴメンネ☆」

 

「おい、ひび……フゴォッ!?」

 

 一人の少年がまん丸の月夜の空に舞った。

 

 フフフ、これくらいすれば忘れてくれるはずだよね。それにこれくらいはやらないと、やってられないよネ。


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